第31話 轟雷顕現
NFOという電脳ゲームの界隈において、ツェイトと言うハイゼクターのプレイヤーは有名だ。
何時もコンビを組んでいる同じハイゼクターのプレイヤーであるプロムナードと一緒に、様々なイベントに参加しては良くも悪くも可笑しくも、多くのプレイヤー達にインパクトを与えていた。
プレイヤー達の前に姿を現した時のそんな所業もさる事ながら、プレイヤー達専用の掲示板等でツェイトを話題に挙げる時、必ずツェイトの戦闘力がその中に挙げられる。
あらゆる魔法や遠距離攻撃を大幅に軽減し、デバフ類の状態異常を跳ね除け、絡め手の一切が無効化されるという。魔法や射撃、特殊能力を主とするプレイヤー達にとっての恐るべき天敵。
更に恐れられているのは、それらの能力を持ちつつ全NFOプレイヤー内でもトップクラスに部類されるステータスと、ダメージを負った瞬間から即座に体力が大幅に再生する回復力。
それらが合わさる事で、難攻不落な人型の移動要塞が誕生した。例え遠く離れた相手であろうと、絨毯爆撃の如き攻撃の中を突き破りながら迫るその姿は多くのプレイヤー達の戦意を削るには十分だった。
かくの如きステータスへ至った経緯は、ツェイトがNFOを始めるにあたって自身のアバターに求めたものが“可能な限り装備や道具に頼らずに単独行動に秀でたアバター”であった事が発端となっている。
そう言った条件を前提にいくつか候補を見繕い、熟考の末行き着いた結論が、格闘職の昆虫人というアバターだった。
アイテムやポイント類を消費する事無く自然に回復できる量が他よりも高く、身体能力……特に身のこなしという側面での優秀さを持つ昆虫人。パッシブスキルで身体能力や自身の治癒力が自動で強化され、極めれば武器を持つよりも素手の方が強くなる可能性を秘めた技能を持つ格闘職。
そうして身体能力上昇に特化した職業、種族、更に各イベントで入手した恩恵等NFOのシステムで獲得できるステータス上昇系を全て“重複せずに加算”させて最大限に発揮できるように組み合わせ、究極的には装備をせずとも全てのフィールドを渡り歩く事が出来る強靭なステータスになるように少しずつ積み上げて構築していった。
アイテムや装備に頼らず、身体強化と言う一点のみを極め尽くしたかのように調整されたアバター、それがこのツェイトである。
そして今、その仮想世界で練り上げられた力が、この世界で初めて全力で以て振るわれる。
戦闘態へと変貌を遂げたツェイトの足元から煙が立ち上り、赤熱化がはじまる。そして徐々にその肉体から生じる熱に耐え切れずに融解しはじめた。
この状態のツェイトの肉体は今、体内で生み出される膨大な電圧の影響で超高温を発し続けている。それこそその場にいるだけで周辺の環境が燃え、並の岩石や金属であろうと溶かしてしまう。
天空より見下ろす四脚半人型の異形を、赤く染まり四白眼となった凶暴な眼差しで見上げていたのもほんの僅か、ツェイトが動き出した。
膝を曲げ跳躍の態勢に入った途端――地上から、雷が空へ向かって放たれた。
同時に、ツェイトは地上からいなくなり、先ほどまで立っていた赤く熱された大地がマグマの噴火の如く火柱を立てながら激しく弾け飛ぶ。
一拍遅れて異形が地上へ向けて体を構えて光線を放つ、が。
光線が着弾するよりも前に、異形は自身の体に影がかかっている事を認識した。
対地攻撃を放った態勢のまま首だけ上を見上げて影の原因を見上げる。
異形の真上、そこには身体を捻りながら大きく腕を振りかぶり、今まさにその握り拳を振り下ろさんとしていたツェイトがいた。
血の様に赤い攻撃色に染まった眼光を強く光らせ、その内側から浮き出た虹彩の様な器官が、異形へ向けて殺意を込めて見下ろしている。
今のツェイトは翅を広げていない。一度の跳躍で異形がいるこの高高度へ到達したのだ。
ツェイトの拳が振り下される。応戦する暇すら与えられなかった異形の左肩へ直撃した瞬間、空が悲鳴を上げた。
地上より立ち昇っていた煙が、空に浮かぶ雲が繰り出された拳の風圧に耐え切れずに掻き消され、大気が震えたのだ。
異形は肩が半分になるまで体積を潰され、その衝撃で地上へ向けて弾丸の様に叩き落とされる。
地上へ落ちていく異形に更なる追撃をするべくツェイトも追いかける。
背面の外殻が開き、勢いよく巨大な翅が広げられ一度だけ大きく羽ばたけば――雷が地上へ向けて落とされる。
雷――ツェイトは空一面を侵すほどの稲妻を放ちながら蹴りの態勢を取った。中空を文字通り高速で落下する異形へ雷の速度で瞬く間に追い付いて、その胴体目がけてツェイトの蹴りが鋭く突き刺さる。
異形の胴体が横へくの字にへし折れる。更にその異形を蹴りで巻き込んだまま、ツェイトは速度を落とさずそのまま垂直に地上目がけて急降下した。
落雷の様にふたつの巨体が大地に落ちた時、地上が熱と衝撃で爆ぜた。
局地的な大地震を発生させた威力は膨大な熱が内包され、それによって地盤ごと大地が爆砕し、地表は極大の火柱が砕けた岩石と土煙を取り巻きにして高く昇って行った。
驚天動地とはかくの如きか。その地には確かに山があった。だが、先の現象によって嵐にさらされた砂山の様に根こそぎ破壊されてしまったのだ。
空が怯え、大地が暴力で蹂躙し尽くされた後に残ったその地には、隕石が落ちたかの様な直径数kmにも及ぶ巨大なクレーターが生まれ、その周囲を焼野原が広がる破壊の荒野と化す。
赤熱化を通り越し、発火現象を引き起こして至る所が赤々と燃え上がるすり鉢状のクレーター中心地で、空へ目がけて赤色の閃光が伸びると土が爆ぜて、何かが飛び出した。
現れたのは四脚半人型の異形、の変わり果てた姿だった。
顔は前部分の外殻が吹き飛んで中の体組織が露出し、内部に収まっていた楕円形の水晶体も潰れて青黒い液体が流れだしていた。下半身は先の蹴りの影響か、腰部から下は千切れ落ちてしまいごっそりと無くなっている。
左肩も同様に付け根から欠損しており、残っている右腕部も無事では無く関節があらぬ方向にへし折れ、肩部もひしゃげており正常に機能するようには見えなかった。今の異形は上半身に辛うじて残っている右腕と頭部だけしかない体を背面の水晶体の機能で浮かせている、そんなボロボロの状態だった。
しかし、その欠損個所は既に再生が始まっている。このまま放っておけば、異形はじきに元の姿を取り戻す事だろう。
そう、放っておければの話だ。
空へ逃れた異形を追いかけて、空へ伸びる雷の様にツェイトが飛び上がる。
全身の稲妻はそのままに、右腕には一際目を焼くように光が迸る白色の稲妻を放ちながら貫手に構えて、異形目がけて突撃する。
異形が残った右肩の外殻を展開しはじめる。歪に拉げてしまっている為、その動きはとてもぎこちない。
事ここに至って損傷していても撃たなければやられると、己を確実に打ち倒せると判断したが故の足掻きに出たのか。
肩部の外殻が開くよりもツェイトの貫手の方が早かった。雷の踏み込みから繰り出されたそれは異形の胸部に叩き込まれ、今度は外骨格を破壊してその肉体を突き破った。
背面の水晶体をも貫いた事により飛行時に発していた青白い光が急激に弱まり、遂には消えてしまう。
肉体を貫かれた影響か、異形の身体が激しく痙攣を起こし、潰れた頭部や全身の損傷個所から青黒い体液が吹き出した。もう、戦闘が続行できるような状態ではない。
だが、今のツェイトは容赦をしなかった。完全に相手が死に絶えるまで手を緩める事をしない。
背面から翅を展開。羽ばたかせて宙に浮くと、激しく震える異形の頭部を左手で握り潰し、それを支えにして体内を貫いていた右腕を勢いよく引き出した。その手には、何かが掴み取られてる。
鼓動の様に光を明滅させている肉の塊だ。血管の様に大小さまざまな管が伸びて異形の体内へと繋がっており、光が管を流れるように走りながら体内へ送り込まれている。それが異形の心臓であると推察する事は容易であった。
ツェイトはそれを、ためらいも無く思い切り握り潰した。青黒い体液が飛び散り、ツェイトの体に付着する。全身が高熱を発していた事で、肉体に付いた異形の体液が煙となって蒸発する。
そしてそのまま勢いよくそれを引き千切った。肉体と繋がっていた管が肉を引き千切る生々しい音と共に切り離されていく。
心臓を引き抜かれた途端、異形の体から力が抜けていくのがツェイトにも分かった。
途中、心臓を引き抜かれながらも残った腕で異形はツェイトを押しのけようとしていたのだが、完全に破壊されるとその腕は完全に力が抜けて人形の様にぶらりと垂れ下がった。
同時に、肉体の再生も止まる。生命活動が停止した事によって細胞の活動が止められたのだろうか。
ツェイトはしばらくそのまま異形の様子を観察し、一向に動く気配が無い事を何度も確認して、ようやく異形が完全に沈黙した事を確認した。
異形の死骸を掴んだまま、ツェイトは空中で翅を収納して自然落下の態勢に入る。
足元に広がる焦土の大地へ轟音を立てながら着地すると、近くへ異形の亡骸を乱雑に放り捨てた。
上半身だけの異形の死骸は人形の様に何の抵抗も無く投げ出され、その身を地に打ち付けられる。
横たわる死骸に近づき、残った肩へ足を上げて思い切り踏み抜いた。硬質物の破砕音と、生物の血肉が潰れる生々しい音を鳴らして異形の肩がめり込む地面と共に完全に潰され、胴体から千切れた。
それでも異形に反応は無い、当然だ、既に死んでいるのだから。しかしツェイトはその死すら疑う様に、この異形が再度動き出した時に自身が手を焼かないように、戦闘能力を奪いながらその生死の再確認を行ったのだ。
いっそ粉微塵になるまで破壊し尽くすべきかとも考えたが、これ以上は無意味だと判断し、ツェイトはその手を止めた。
どうやら本当に死んでいる様だ。
それが分かると、ツェイトの全身の外骨格の隙間から大量の蒸気が噴出し、肉体に新たな変化が現れる。
角が再び軋み出し、全身の外骨格に罅が入る。異形と戦った時の様に内側からせり出す様な活性を示していたそれとは違い、まるで細胞が劣化していくような衰萎を思わせる現象だった。
そして次第に全身の外殻がボロボロと老廃物の様に崩れ落ちはじめた。剥がれ落ちたものと入れ替わるように、内側から新たな外骨格が構成されていく。ツェイトが変化する前の外骨格だ。
ゆっくりと角が元の位置へと戻り、肉体が戦闘前の状態になると再び露出した口部を外骨格が口元を再度覆い、いつの間にか消えていた眼部に再び眼光が灯る。戦闘時の苛烈な赤ではなく、静かな青白い光りだ。黒い虹彩の様な器官も無くなり、これで完全に元の姿へと変化が完了する。
元の状態に戻ったツェイトは異形の死骸から視線を外すと、自分の両手をまじまじと見つめ、そして周囲一帯の見回した。
自身の視力や距離感覚からして数キロ以上はくだらないだろう。本来は辺り一面緑と山の豊かな景色だった其処は深く窪み、未だ冷める事のない熱に侵された黒々とした死の大地と化していた。
「……街から離れて正解だった」
しみじみと、無意識に己へ言い聞かせるように溢した言葉は、咄嗟にミステルの街から異形を追い出して戦う場所を移した選択が正しかった事の再確認だった。
決して自分を誉めているわけではない。むしろ、もし何かを見誤って街で行使した場合の可能性が頭を過ってゾッとしているくらいだった。
NFOの世界での感覚では無く、この世界に来て、現実的に自身の能力がどれ程の影響を及ぼすのか常々考えていた。
ツェイトの肉体、カブトムシ型ハイゼクターの真価は身体強化だ。電撃能力も確かに強力だが、最終的にそれは身体強化の一環、付属的な要素でしかない。
あの世界、NFOでは物理法則も働いているのか四肢を振るい、能力を行使すればその際の衝撃波や効果が周囲の地形や相手に影響を及ぼしていた。
そして極めつけはこの戦闘態。元々高かった身体能力が通常よりも数段上昇し、常時超高温と高電圧を身に纏いながらの全力戦闘はまさしく天災そのものと化す。
ゲームの世界でも大概その威力は本人も理解していたからこそ、此方で使った際の影響について考えるとより場所を選ぶ必要性が高くなった。
近くにセイラムがいたら、間違いなく巻き込まれていただろう。
加えて、ツェイトはこの世界で戦闘態になって分かった事があった。
それは、変化した際の自身の精神状態の変化だ。
戦闘態になった時、ツェイトは異形を徹底的に、二度と立ち上がらぬように打ち砕いてやろうと言う破壊衝動にも似た感情が膨れ上がり、襤褸雑巾のような状態にした事に対しても一切心に動揺や嫌悪の感情が湧いてこなかった。むしろ跡形も無く破壊し尽くせと言う気持ちすらあったのだから、凄まじい闘争心だった。元に戻り、精神が落ち着いた事で先程までの自身の苛烈な思考がより実感できてしまう。
(流石に、少し疲れたか)
ツェイトはこの体になってから初めて疲労感を感じている。大したものではない、精々が軽い運動やストレッチからくるような微々たる疲れだ。とはいえ、今まで疲れ知らずだっただけに、この体で僅かでも疲れを感じた事に戸惑いを感じたのも確かだった。
元々戦闘態は通常時よりも消耗が激しい為、長期戦にはあまり向かない形態だ。微々たる程度とは言え、肉体を消耗させた事でこの肉体が必ずしも無尽蔵の体力を有しているわけではない事を再度確認したツェイトは、使いどころを見誤らないようにしようと改めて心がける事にする。
謎の異形を無事打ち倒したツェイトは、件の異形の死骸に目を向けて顰める様に眼光を鋭く細めた。
この異形が何者で、何が目的で攻撃してきたのか。あれほどの破壊力を有する生物がこの世界に存在する事にツェイトは危機感を覚えた。
一体限りならば良いのだが、果たしてそうなのかと己の楽観的思考にツェイトは敢えて疑問を差し挟む。
「……シチブに話しておくか」
ふと思い浮かんだのは、ミステルの街にいる同じプレイヤーの植物系種族の女プレイヤー。その彼女が今身を寄せている集団であり、彼女の雇い主であるプレイヤーの存在だった。
どうやら自分達よりも前にこの世界に来て、そこで作られたプレイヤー同士のコミュニティーのまとめ役を担っている様なので、何か知っているのかもしれないとあたりをつける。もし知らなくても、これだけ危険な存在がいるのならば情報は共有させておいた方が良いだろう。
そう思い立ったツェイトは異形の死骸を掴み上げ、背面の外殻を展開して翅を開き、その場を後にしてミステルの街へ飛び去っていく。
駆ける空の向こうの地平線では、太陽が顔を覗かせる寸前のほのかな明るみが見え始めていた。
「よもや、あれを倒すとはな……」
甲虫の巨人と兵士の戦いを一部始終見届けたジェネマは、全てが終わり一時的に静かになった戦闘跡を偵察員から送られてくる視界を眺めながら、受けた衝撃に呆けた声を漏らした。
予想外の展開だった。
兵士が放った反物質とやらの攻撃で欠片も残さず吹っ飛んだのかと思いきや、ボロボロになりながらも耐え抜き、すぐに再生した後は姿形を変え、圧倒的な力でねじ伏せてしまった。
兵士が弱かった? いいやそんな筈はない。あの破壊力は大戦争期前の文明を滅ぼせる威力だった。
ならば何故か? 決まっている。兵士が戦ったあの甲虫の巨人の戦闘力が異常なのだ。
あの、恐らくは戦闘力を一時的に強化する形態なのだろう姿になった途端、戦闘力が別次元の領域になっていた。
兵士は巨人の光速の機動を補足出来ず、成す術も無く粉砕された。巨人の動きと相まって、秒殺と言っていい結果だった。
そんな輩が標的の娘の側にいる、極めて危険な存在だ。ジェネマは巨人に対する警戒度合いを上げねばならなかった。
(……サバタリーの新しい肉体として拵えた“アレ”の元も同類であったか)
ジェネマは巨人の強さに、本部で眠りについている者を思い返す。
今、自分達の本部内の培養槽で覚醒を待つジェネマと同じ指揮官級であるサバタリーの肉体は、甲虫の巨人と同族と思しき者の細胞を培養して作ったものだが、その大元の戦闘力も恐るべきものだった。あれ一人のおかげで自分達は一度壊滅の憂き目にあいかけたのだ。性能は自分達で体験済みなので保証付きだろう。
覚醒したら情報収集も兼ねて巨人にぶつけてみたい所である。
(全く、どいつもこいつも、大人しく材料になってくれれば楽なのだがね。世の中そう上手くいかぬものだな)
ジェネマは自分達に降りかかった惨憺たる過去に愚痴を溢すが、すぐに意識を切り替えた。
今まで俯かせていた皮で出来た不気味な鳥の様な仮面をつけた顔を上ると、眼部のレンズが拠点内の灯りを照り返して怪しく光る。
(だが、これは好機だ。様子見に徹していた事が功を奏したな)
仮に兵士が野放しになっていれば、無秩序に破壊を振りまく厄災となっていた可能性は過去の所業により想像に難くない。
兵士の戦闘能力はある程度記録する事が出来たし、巨人の戦闘力を再認識する機会にも恵まれた。思いもよらぬ事態にジェネマは動揺したが、しかし考えようによっては暴れる兵士の無力化を甲虫の巨人が肩代わりしてくれたのだ。ありがたい事である。
それに、上手くいけば本来よりも格段に手間が省けて旨味が手に入るかもしれない。
「私はこれから現場の調査に向かう、お前達には引き続き此処の管理を任せる」
ジェネマは椅子から腰を上げると配下の者達に指示を出し、返ってくる配下達の返事を聞きながら手を前へかざした。
すると、ジェネマの前に暗色に光るおどろおどろしい大きな円陣が浮かび上がった。常人では読み取れない不可解な文字列が並んで形を成す円陣の正体はジェネマの魔法だ。ジェネマの体を覆い隠すほどの大きな円陣の中央から、先の見えない暗い穴が広がり始める。
「どれ、宝探しと洒落こもうではないか」
宝が出るか、ガラクタが出るかは調べてみてのお楽しみ。
既に現地で観測させていた偵察員の生き残り達には現場の調査を始めるよう指示を与えている。アルヴウィズが動き出す前に作業を終わらせなばなるまい。
しわがれた不快な声を発するジェネマのそれは平坦な様でいて、喜色が見え隠れしていた。さながら荒野に転がる死肉を貪ろうとする鳥獣の様に。
「……後で“兵士”が娘に接触した事を博士に報告せねばな」
円陣をくぐる最中に、もう一つ重要な事を再度念頭に入れる。
本来はあり得ない筈なのだ。兵士が誰かに接触するなどと言う行為に及ぶのは。
過去にあれは、無差別に知的生命体を殺し尽くす殺戮の化身であったと造物主から聞いている。
それが、造物主が求めている昆虫人の娘に対してあの兵士は攻撃しなかったと、ミステルの街へ放った工作員達が確認しているのだ。
それが意味するものは。その真実を知るのは、ジェネマ達の造物主しかいない。
そしてその真実の一歩先を知る為に、ジェネマは円陣を潜ってその場から消えた。
この作品をご覧になられた方々はもしかしたらお察しの事かと思いますが、ウルトラ脳筋ビルドで生まれたハイパーフィジカルクリーチャーが主人公のアバターです。
他にも同格プレイヤーはいますが、その界隈だけ世界観がちょっとおかしい事になっとります。
そんなカブトムシどもがいても良いんだぜ? と思っていただけましたら、評価や感想をいただけると嬉しいです。