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紺碧の大甲虫  作者: そよ風ミキサー
第二章 【虫の国の砂塵と花火】
21/65

第13話 後編 打ち上げられた炎の華

5月中に投稿しますと抜かしておきながらこの体たらく。

誠に申し訳ございませんでした。


文字数は約14000文字です。

 串刺しにしたまま空に掲げていたハリマオの体が灰となって崩れ落ちた事を確認したツェイトは、セイラムの安全を確認する。ハリマオの殺気に圧されて砂地に跪いてはいるが、特に怪我を負った様子も無い。

 

 敵の指揮官は倒した。だが、まだ終わってはいない。同格の存在がまだヒグルマと戦っているのだ。

 ヒグルマの手を貸したいところだが、ツェイトにはやる事があった。


 遥か空の彼方へ放り投げていたダンが、間近に迫っているのをツェイトは見る。

 あらん限りの力で目一杯投げた所為か、大分上空まで飛ばされていた様だ。此方がハリマオと戦っている間、ずっと空の上を昇っては落ちていたのだから、飛ばされていた高さも投げた本人が言うのもなんだが、想像がつかない。


 ……まさか大気圏まで飛ばされたわけじゃないだろうな?

 そんな馬鹿らしい考えを隅に置き、ツェイトはダンを受け止める態勢に入ろうとした。

 

 しかしそこで、思考の片隅に追いやっていた思わぬ存在が、再びツェイトに立ちはだかった。


「グヴォァアアアアアーーッ!」


 突然聞こえた奇声の元へツェイトが振り返ると、先程4分割にした巨大な肉塊の異形が動き始めているのに気付いた。

 4つに切り飛ばされた異形の体は、それぞれが大量の触手を伸ばして絡み合う事で肉体の再構築を試み、更に落ちてくるダン目がけてそれ以上の数の触手を目にも留まらぬ速度で伸ばしていた。


 ダンを捕まえる心算だと悟ったツェイトは、そうはさせまいと駆け出そうとした。しかし。


(……まずい!?)


 しかしその時、砂の中を奔る〝何か”に気付いて、慌てて方向を変えてセイラムのもとへ駆けた。

 風すら追い越してツェイトはセイラムの元へ瞬く間に辿り着くと、突然の事に目を丸くしているセイラムを背に庇いながら砂地へ向かって手刀で薙ぎ払う。

 薙ぎ払われたツェイトの手刀は本人の膂力が相まって、風圧だけでツェイトの眼前の砂地を大きく吹き飛ばす。


 吹き飛ばされていく砂の中に、岩砂とは違う物が紛れ込んでいた。

 それは、赤黒い触手達だった。切断された触手は吹き飛ばされて砂地に叩きつけられると血をまき散らしながらトカゲのしっぽの様にのたうち回り、大本の触手は切断面をのぞかせながら肉塊の異形の体内へと戻っていった。


「ギィィーーッ!! ガキハシクジッタカ。ダガ……」


 ツェイトの妨害によってセイラムを捕まえ損ねた肉塊の異形は、剥き出しの歯を噛み締めながら悔恨の念を零すが、捕まえたもう一つの獲物を見て狂喜の貌が顕わになる。


 ツェイトはセイラムを触手から防ぐことに成功した。しかし、その代わりに肉塊の異形はダンを素早く触手で絡め取り、すぐ傍まで手繰り寄せていた。


 操られていた筈のダンは、先程から動く気配がない。向こう側も操る余裕が今は無いのだろうか。

 ダンの体は中空を飛ばされている間に大体再生した様で、手足は元に戻っていた。

 その様を、肉塊の異形は憎悪とも愉悦とも言えそうな声色で語りかけた。


「ヨウヤク俺ノ手元ニ来ヤガッタナ。コノ、糞野郎ガッ……!」


 肉塊の異形が、絡み付けていた触手の圧力を強めた。

 ダンの体が、ミシミシと軋む音がツェイトの距離からでもはっきりと聞こえてきた。

 だが、あの程度ならばまだ問題はないだろうと思う。今はまだ。

 

 ダンを助けたい。しかし、動けばセイラムに再び襲い掛かってくるのではないか? という不安が過ぎる。

 触手の速度は思ったよりも早いが、ツェイトが踏み込む速度に比べれば大きく劣る。しかし、絶対はない。4分割しても復活してきたあの生命力だ、今度こそヤケクソで何をしてくるのか分からない。

 あの時仕留めたと思っていた肉塊の異形に注意を払わなかったと、己の甘さが招いたとツェイトは己の失態に歯噛みした。


 触手で締め付けられたダンの体から軋む音は未だ止まない。此処で「止めろ」だとか「ダンを離せ」などと言ったとしても意味がないと分かっているツェイトは、今この状況をどうやって打開するべきか、黙したまま知恵を回す事しか現状は出来なかった。

 そんなツェイトの様を見た肉塊の異形は気を良くしたのか、口元をニヤつかせて喜色ばんだ声で嘲笑った。


「良イ様ダナカブト野郎。テメエ自体ガドンナニ強クテモ、周リノ奴ラガ足手マトイジャコノ通リヨナア?」


 ツェイトはその言葉に答えない。構えたまま、肉塊の異形と対峙している。

 反応のないツェイトに、肉塊の異形は面白くなさそうに舌打ちをした。


「……スカシヤガッテ、マア良イ。オイカブト野郎、取引ダ」


「取引?」

 

 突然持ち掛けられた話にツェイトは訝しんで耳を傾ける。


「ソウダ。コノアリジゴク野郎ヲ俺ニクレルッテンナラ、俺ハモウ何モシネエ」


 論外だ。だが、気になる事がある。


「そいつをどうするつもりだ」


「……ブッ殺スニ決マッテンダロウガ!!」


 肉塊の異形が、他者が見てもわかるほどの怒りの形相を顔に浮かび上がらせ、怨嗟の声をまき散らしながら触手で締め上げたダンを掲げた。


「コイツハ〝俺達”ヲズタズタニシヤガッタ! ダカラ、コイツモ〝俺達”ト同ジ目ニ合ワセテヤラナキャ、死ニキレネエンダヨオォーッ!!」


 それは、命を奪われた者の怒りと怨念に、どす黒い憎悪が彩られた声だ。

 肉塊の異形の心にあるものは、既にダンへの復讐心しか無かった。



 叫ぶ肉塊の異形を前にして、突如ツェイトは徐に構えを解いた。その様子に肉塊の異形も、ツェイトの後ろにいるセイラムも訝しむ。


「……ナンダ? ナンノツモリダ? エェ?」



 必要が無くなったのだ。

 もうこれ以上、ツェイトが肉塊の異形と戦う必要が無くなったのだ。

 

 それを悟ったツェイトとセイラムの背後で、強烈な光が迸った。

 強い光に視界を焼かれそうになりながら、肉塊の異形は光の元を見た。

 そこにいたのは、竜人と戦闘を繰り広げていたヒグルマだった。光の源は、彼が構えている虫の形をした異形の大砲。その砲口から発せられたものだ。

 彼が今まで構えていた大砲のシャナオウの砲口を上空へ向け、何かを発射する態勢に入っていた。

 ヒグルマと相対していた竜人はそれを阻止しようと攻撃を仕掛けるが、動きを見切ったヒグルマの機動力に振り回されて妨害が出来ないでいる。手遅れだ。




 そして引き金が引かれ、その光が空へ向かって放たれる。


 光が尾を引きながら凄まじい勢いで天へ昇り、光が見えなくなりそうな所まで飛んで行ったその時だった。

 

 光が弾け飛び、ワムズ全域に及ぶほどの輝く光が降り注いだ。


 その光に、首都ディスティナの大門前にいる人々だけにとどまらず、国内全ての人々が思わず空を見上げるほどの光景だった。


 光が弾けたその後の上空には、もう一つの太陽と言わんばかりの輝く光球が、七色に輝く光輪を放ちながら大地に光を照らしているのだ。


「グオッ!? ナ、ナンダコリャ!? イッタイナン…………デモナイ?」

 

 しかし、光を浴びた肉塊の異形は最初こそ光に驚いて狼狽える挙動こそしたが、一向に効果の現れない事に気付き、今度は顔面に血管を浮き上がらせて怒りを露わにした。


「フ、フザケヤガッテェェ! ソンナニ殺サセテエナラオ望ミ通リ両方ブッ殺シテヤラアッ!!」


 激昂した肉塊の異形は、人質にしている昆虫人の娘と怨敵であるアリジゴクの男を殺すべく触手に力を入れた。


 もうどうなろうと知った事ではない。

 こんな惨めな体にされて、挙句の果てに虚仮にされる始末。

 自分達を無理やり蘇らせた奴らも、自分達を殺した男も、自分達を邪魔する奴らは皆殺しにしてくれる。

 その憤怒の手始めとして拘束していた獲物に手にかけようとする。だが。


 手応えがない。

 そもそもの話、巻き付けていた触手の感覚が全く感じられない事に気が付いた。


 「ア、アギェ!?」


 認識と共に走る痛み。

 痛みの元はアリジゴクの男を拘束している触手だ。


 アリジゴクの男を拘束していた触手は、跡形もなく血飛沫となって消し飛んでいた。

 それの意味するところの答えは、縛めから解き放たれ、身を横たえているアリジゴクの男にあった。



 砲術系特殊職業〝花火師”

 それは、銃火器を取り扱う職業の中において火薬の扱いを特殊な方向に特化させた職業の事だ。

 火薬の錬成によって作られた花火玉を空に打ち上げ、大空に炎で作られた美しい大輪の花々を咲かせるのだ。


 だが、それらは見てくれだけではない。

 彼らの見せる花火の数々は、広範囲にわたって敵と味方に様々な効果を与える事が出来るのだ。

 花火の光が届く範囲ならば、全てが彼らの力の及ぶ領域になり得る。

 

 そして今回放たれた特殊打上げ花火『来光』

 その光の届くありとあらゆる呪いや毒と言ったゲームで言う所の〝状態異常”や”付加効果〝を、効果の強弱関係なく全てが問答無用でリセットさせられる花火師の上位技能の一つである。


 ヒグルマの放ったその光は、ダンの体へと間違いなく浴びせられていた。


「ダン、俺が分かるか?」

 

「…………あぁ」


 ツェイトの問いかけに、ダンが答えた。

 狂気を帯びたものでは無く、何者かが操られたものでもない。

 NFOプレイヤーのダン本来の意思で以て発せられたものだった。


 ダンから帰って来た返事には、様々な重みが乗せられていた。


「言いたい事があるのかもしれないが、今は」


「……分かってるよ」


 砂地に手を置き、ゆらりとアリジゴク型のハイゼクターが立ち上がる。その息は、まだ荒い。

 全身に負っていた傷は、ハイゼクターの治癒力によって再生を進めているが、先の戦闘の影響で完治にはまだ遠かった。

 現に今のダンの吹き飛んだ四肢は、骨と筋肉の再構築の所で再生速度が落ち始めており、手足としての機能をようやっと果たせるかと言った状態である。人間の視点で言えば、十分重症の範囲内だ。とてもではないが、まだ超振動ができる状態には見えなかった。


 肉塊の異形はそれを察したのか、僅かに口元に歪な笑みを浮かべた。

 もう肉塊の異形の頭の中には先ほどの昆虫人の娘の事は存在しないものとされていた。代わりにその心の隙間を埋めたのは、ダンへの恨みだった。


「イ、イクラテメエデモ、ソンナ襤褸雑巾ミテエナ体ジャマトモニ戦エネエダロウ。ジワジワトブッ潰シテヤルゼ」


 ちぎられた触手は既に再生を完了させ、更に全身から先端を硬質物の槍で形成した触手を多数伸ばしていつでも攻撃できるように構える肉塊の異形。

 体力の消耗は相手の方が遥かに上、それが、肉塊の異形にまだ勝機はあると判断させていた。


 しかし、そうとは限らない。

 肉塊の異形は、ハイゼクターと言う種族を理解していなかった。


 それを肉塊の異形が思い知るのは、もうすぐそこに。


 そしてダンの体に異変が起きる。

 突然、その岩の様な外骨格で覆われた全身が軋む音を立てて一回り膨らんだかと思うと、その全身に亀裂が入ったのだ。

 

 回復に体が追い付かず、とうとう自滅し始めたのだと嘲笑おうとした肉塊の異形だったが、しかしその異様に肉塊の異形が目を見開いた。

 


 肉塊の異形は見たのだ。ダンの顔の外骨格の一部が崩れた隙間から垣間見た〝全く見た事のない身体”を。



 元来、アリジゴクと言う名前はある昆虫の幼虫の頃の名称なのだ。そしてダンは、アリジゴク型の異形だ。

 そこから導き出された恐るべき結論に、肉塊の異形が凍り付くような寒気を覚えた。


 否、これは紛う事無き恐怖。生物が持ち得る生存本能が警鐘を掻き鳴らしている証左であった。


 

「グゥダバレヤ゛アアアァァァッ!!」


 悲鳴交じりの叫びを上げて、肉塊の異形が全身の触手を槍に変えてダンへ向けて突き刺しにかかった。 

 大気が裂ける音を上げる程の勢いで迫る触手の槍だ。しかし、相手は避ける素振りが無い。

 


 結果、触手は全て命中し、ダンの肉体を全て貫いた。

 


 だが、触手から伝わる手応えと、肉眼で確認できる相手の状況を見て肉塊の異形は絶望に顔を歪めた。



「ア、アア、ガァァァ………」



 口から洩れた声は、決して獲物を仕留めた狩人が上げる喜びの声ではない。希望を零れ落とした者が漏らす絶望の声だ。


 貫いたのは、ダンの外骨格〝だけ”だった。

 しかも、その外骨格の中身はがらんどうだ。〝背中から何かが飛び出したような跡”を付け足して。


 中身の無くなった外骨格は次第に砂と化し、触手の間をすり抜けながら砂地へするりと流れ落ちる。 



 そして、肉塊の異形の背後に感じる何者かの気配。

 距離は既に無く、密着状態だった。

 逃げ場はない。反抗を許す隙もない。

 触れた個所から感じる何者かの気配が否でもそう感じさせてくれる。


 肉塊の異形の5mにもなるその巨体が震え出した。

 此処に至って、肉塊の異形は生への執着を覚え、死への恐怖に幼子の様に泣きじゃくりたくなる程に絶望した。


 ――再びまたあの死の世界へ戻らなければならないのか。あの、暗くて何も感じられない、あんな――。


 人為的に生み出された命でも、知性を与えられたのならば生へしがみ付こうとするのは必然であったのかもしれない。



「シ……死ニィ――」



 そこで肉塊の異形の言葉は掻き消えた。その異形本人の存在ごと。

 およそ、怒りと憎しみに猛っていた者の言葉とは思えない今際の断末魔となった。


 そこには、砂地だけが残されていた。肉塊の異形が存在していたという痕跡は、血液の一滴も残らなかった。


 その代りに、両肩から羽衣の様な器官をたなびかせている人型の異形が、砂煙を逆巻かせながら顔を俯かせて立ち尽くしていた。


 天に昇った第2の太陽も、いつの間にかその姿を消している。





「何だこれは、どういう事だ!?」


 ヒグルマと戦闘を繰り広げていたミグミネットは、視界の向こうで起きていた一部始終にとうとう驚愕の声を上げた。

 

 サバタリーが死に、続いて此方側で用意した擬虫石の実験体も最後はいとも容易く消し飛ばされた事は、ミグミネットの予定を大きく狂わせた。


(くそ、失態だ! 退き時を、奴らの力を甘く見過ぎていたというのか!)


 用意していた兵を全て失い、実験体を回収不能にされ、挙句の果てには自分と同じ指揮官コマンダー級を失ってしまった。


 愚かしいまでの大失態だ。ただの性能実験のつもりが、とんでもない事態を引き起こしてしまった。


「よう、一人になっちまったな」 


 それと同時に、こちらへ向かって火球が数発飛んできた。


 ミグミネットはそれを飛び退く事で回避し、声をかけられた方へ竜人姿のまま忌々しげに睨みつけた。


 そこには、黒い手ぬぐいを頭に巻いた職人風の昆虫人の男――ヒグルマがいた。

 天に向かって巨大な光を放ってからは、大砲の形をした昆虫の砲口を此方に向けて構えては攻撃を仕掛けていた。 


 手ぬぐいから覗く鋭い眼は、軽い口調とは全く異なっている。


「お仲間は皆ご覧の通りだ。そろそろ観念したらどうだ?」


「――私を生かして捕まえる心算か?」


「ああ、テメエには色々と訊かなきゃならねえ事が山ほどあるからな」


「……舐めるなよ、この程度――」


 ミグミネットが言い切る前に、光が四つ瞬いた。

 するとミグミネットは何故か体が砂地へ倒れこんでしまった。


 何が起きた? それを確認するのは簡単だった。

 何故なら、ミグミネットの両脚と両腕が根元から煙を上げて焼き切れていたのだから。

 影によってかさ増しされた手足がではない、ミグミネットの本体の四肢を吹き飛ばしたのだ。

 影で作られたプロテクターは、容易くその守りを貫かれていた。


 ミグミネットは燃えるような痛みに悶え、仰向けに倒れた姿勢から顔を上げてヒグルマを睨む。

 

 対するヒグルマは構えた大砲の砲口から煙が僅かに上がっている。先ほどの攻撃は、この男の仕業なのだろう。


 ミグミネットの目では、先の光の軌道が見えなかった。

 まさしく光の様な速度で四肢を焼き貫いたのだ。

 

 今まで膠着状態を作っていたと思っていたが、あの大砲が使えるようになってからそれがあっという間に流れが変わってしまった。


 ヒグルマは大砲を構えたまま油断なくミグミネットを見据える。

 隙あらば今度は残りの部位を撃ち抜く。そんな意味を言外に態度で匂わせていた。

 

 間を置かず、ヒグルマが大砲の引き金を引いた。

 砲口から吐き出されたのは、ソフトボールサイズの液体の弾丸だった。

 そこから射出された液体がミグミネットに着弾すると、水風船が破裂したかのように全身に液体が飛び散り、ミグミネットの体が徐々に凍り付き始めたのだ。


「こ……これは!?」

 

 凍結から逃れようと影を出して暴れようとするが、暴れれば暴れるほど余計凍り付くのが早まっていく。まるで、蜘蛛の巣に掛かった獲物の様である。


 すなわちこれは、ミグミネットを生捕りにするための物であった。

 だが、ミグミネットそれには抵抗する所か声を上げる事すら出来なかった。最初に凍り付いてからほんの一瞬で凍結が全身へと行き渡り、影で構成されたプロテクターごと小柄の仮面と軍服姿の全身が芯まで凍り付いてしまったのだ。


 そしてミグミネットは、四肢をもがれた歪な氷のオブジェとなって砂地に転がる事となる。

 




 ヒグルマは凍り付いた相手へ近づき、つま先で軽く小突きながら状態を確認する。

 周囲の水分ごと凍った体は岩石の様に硬く、日差しがさしている今の状態でも全く溶け出す様子も見受けられない。まさしく生き物が凍り付けばこうなるであろうという良いお手本の体を成していた。


 この様な形でヒグルマが下手人を捉えたのは、先程の兵士達の様に突然身体が溶け出して証拠隠滅でもされないかと言う事を懸念しての措置だった。

 凍り付かせた相手は確実に指揮官に相当する人物で、何らかの有益な情報を持っている可能性が高い。ならば此奴にも同様の仕組みが施されているはずだ。

 どういう仕組みで体が溶け出すのかは分からないが、とりあえず肉体丸ごと完全凍結させてしまえばそれも起きないのではと睨んでの選択だった。


 凍り付いた対象をヒグルマはじっと相手の様子を伺う。完全に凍結したとはいえ、それで完全に安心するのを早計と判断したからか。

 すぐに放てるのが凍結弾頭だったので撃ち込んでみたものの、嫌な予感がする。


 己の直感に従い、ヒグルマは念の為により強力な拘束が可能な砲撃を放とうとした、その時だった。


 ヒグルマがシャナオウに弾頭変更の指示を出そうとした最中に、凍り付いていた相手の体が赤い光を放ち出したのだ。


 まずい、とヒグルマが思うのもつかの間に、凍り付いていた相手を中心に爆発が起きた。

 轟音と共に爆発がさく裂して、周りを吹き飛ばして砂が大きく巻き上げられた。その場にいたヒグルマも爆発の範囲内だ。


 しかし、至近距離にいたヒグルマは顔を守る様に片手を翳すだけで、爆風をものともしない。一見すると普通の昆虫人と同じように見えても、その体はただの爆発程度ではビクともしない。


 爆煙と砂煙が消えたその場に対象の姿は跡形もなく、爆発による焦げ付いた砂だけが残っていた。、


「……あの糞餓鬼!」


 爆発の際に氷のカスが腕に飛び散ったため、それを拭いながらヒグルマは毒づいた。


 ヒグルマはその優れた視力で見たのだ。爆発する際、爆心地である敵の体が内側から弾け飛ぶその瞬間を。

 その最期の悪あがきのおかげで、敵の体は肉片一つ見当たらない。

 最後の最後で足元を掬われた事が悔しくなり、ヒグルマは強く歯噛みをした。

 

「取り逃がしちまった。すまねえ……」


 俯き、悔やみながら口にしたヒグルマのそれに答えたのは、一人の虫の異形だった。


「――……お前が気に病む事は無え」


 異形の口から出た力のない声は、ダンと全く同じ声をしていた。

 異形の背丈はヒグルマと同じくらいだ。その肉体は、針金で引き絞られたかの様な筋肉の表面に、沿う様な形で黄緑色の外骨格が覆われている。

 額から触角が一直線に2本伸び、その下にある鋭い複眼状の眼は確かな意思を携えて黒く艶を帯びている。

 そしてその異形の最大の特徴は、背中側の棘下筋部分の外骨格から飛び出したシルクの様に滑らかな翅状の器官が、さながら仁王が纏う羽衣の様に異形の肉体周辺を風に任せて漂っている事だ。

 

 その異形はカゲロウ型ハイゼクター。

 それは、アリジゴク型ハイゼクターのダンのもう一つの姿であった。


 ハイゼクター達が保有する様々な特性の中に『ダブルボディ』と呼ばれている物がある。


 それは、昆虫で言う所の蛹と成虫の二つの肉体を〝脱皮”と言う現象で以て切り替え、使い分ける事が出来るのだ。ダンは、その特性を持つプレイヤーなのだ。

 そして脱皮を行う際、体内の細胞が急激な発達と変態を促される事によって、脱皮前の傷ついた肉体が一気に完治するという副次効果を持つ。これによって、脱皮の出来るプレイヤー達は大きなダメージを負ってもタイミングを見計らって脱皮する事で、全く別の生命へ生まれ変わるが如く肉体を変化させ、完全な状態で復帰する事が出来るのだ。ダンが脱皮しても五体満足で立っていられるのには、そういった仕組みがあったのだ。


 ヒグルマが辺りをざっと見渡すと、既に仮面の兵士達の姿は何処にも見当たらなくなっていた。不利と判断して、自害して溶けてしまった様だ。

 敵の姿が跡形も残らない為、まるで今までの事が白昼夢の様であったかと錯覚してしまいそうになるが、しかし視界に広がる砂地の光景が現実であると教えてくれる。


 そして、今自分の立つ砂地の何処かに、操られたダンの魔手によってばらばらにされたワムズの兵士達の亡骸がまだ埋まっているのだ。


 全てが万事解決したなどとは口に出来ない状況だ。今後、どう動くべきなのかという問題が残る。


(糞ったれが。何処のどいつか知らねえが、余計な事をしやがって)

 

 ヒグルマは頭に巻いた手ぬぐいを目深にして毒づいた。


 よりによって、ダンに憑りついて人殺しを行ったのだ。

 時間をかけて、ようやっとディスティナでの信頼を得て生活基盤を得る事が出来たと言うのに、これでは全てが台無しだ。

 自分達が住んでいる長屋の近所の皆は、そしてこのディスティナに住む者達は、この事件の後からダンへの見る目が変わるだろう。


 そもそも国は、ダンへの処置をどうするのだろうか。

 ヒグルマ達は、ワムズ国内のとある権力者に良くして貰っているが、今回の件でダンがしでかした事とダンの力の危険性などが問われる可能性がある。


 元々ヒグルマ達二人の現状は、危うい環境の上で成り立っている。

 常人からすれば並外れた身体能力を持ち、――未だこの世界の住人に見せてはいないが、その気になれば都市一つを焼き払える砲撃を操るヒグルマ。

 そして、全身から放つ超振動でありとあらゆるものを粉砕する事が出来るダン。


 いずれもこの世界の一個人が持つにはあまりにも強力すぎる力を備えている。国の政府関連の者達は、ヒグルマ達の力を多少なりとも知っている。

 その力を見せただけで、大いに驚愕と警戒の色を見せたのだ。これでもし、全力で力を振るえばどのような反応が返って来るのかなど想像に難くない。


 過ぎた力は他者からすれば異端であり、わが身に降りかかる恐怖と捉えられかねないのだ。


 今後の展望に憂鬱な思いを馳せていたヒグルマは、自分達とは違う、もう一人のプレイヤー――ツェイトの方を見た。

 

 操られていたとは言え、ダンの超振動をまともに受けた四肢の具合を確認している最中に、彼の同行者である昆虫人の少女、セイラムが心配そうに話しかけているのが見えた。


(ツェイトから訊いてみるしかねえか)


 どうも先程爆散した仮面の指揮官の発言からするに、セイラムを狙っている節が見える事から、ツェイト達も何か情報を掴んでいる可能性がある。

 おそらく、後で国の機関から何らかの問い質しを受ける事になるだろうが。


(……今後の身の振り方を考えなきゃいけねえな)


 これから待ち構えているであろう事態への対処を想像して、ヒグルマは手ぬぐいで目元を隠し、天を仰いだ。





 かくして、ワムズの首都ディスティナ周辺で行われた事件は一応の解決を見せた。少なくない被害者を生み出して。


 だが、この事件が真の決着を見るにはまだやるべき事が残されている。この騒動の中心となって殺戮を繰り広げていたダンの処遇だ。


 謎の勢力との争いが終わりひと段落した所で、大門近辺の封鎖を行いながら事の成り行きを見ていた侍姿の麗人ミキリが、兵達と共に機を見計らって駆け寄って来た。

 駆け寄ると同時に兵士達がダンの拘束に乗り出そうとするが、当の本人が戦いの最中に脱皮した事で姿かたちが変わっていた事と、先ほどの惨劇を見ているためか、迂闊に近付こうとせずに躊躇していた。


 しかし、ダンが顔を俯かせたまま、自ずと兵達の前に歩み寄って両腕を前に突き出した。

 兵達はその様子に互いの顔を見合わせて判断に迷っていたが、それを見かねたミキリが兵達の指揮官に拘束の旨を指示させてた。

 兵士達が取り出したのは犯罪者を捕縛するためのとり縄だ。しかも只の縄ではなく、縛り上げた相手の身体能力を弱らせる魔法的効果を付与された一種のマジックアイテムである。それがダンに効くかどうかと問われれば、怪しくはあるが。

 それによって兵士達は捕縄術を駆使してダンを巧みに縛り上げていく。その際押し倒されるなどもされていたが、その間ダンは一切の抵抗をしなかった。

 

 その様子にヒグルマは、そしてその場に立ち会っていたツェイトは声をかける事が出来なかった。ただ、兵士達に城下町にある警察機関へ連れていかれるダンの後姿を見る事しか出来なかった。 


 その場に残ったミキリにヒグルマは真剣な顔で訊ねた。


「……あいつはどうなる」


「人が死に過ぎた。それに人目に付き過ぎている。これでは……」


 ミキリは返事に言いよどんだが、それだけでヒグルマはダンの処置がどのようなものになるのか察しがついてしまった。


 人の生き死にが身近に存在する世界ではあるが、それでも人を殺める事に対する罪は重い。

 国々によって法の仕組みは変わっているが、この昆虫人が築いたワムズにおいて恣意的な理由による殺人は極刑――死罪に値する。

 操られていたという過失があり、被害者であるという要素があれども、今回の事件でダンが殺めた被害者数は、看過出来るものではない。それに大勢の人々が行きかう往来で暴れたため、その姿を見られ過ぎていた。

 それらを顧みるに、国の沙汰は期待する事は出来ない。 


 だが、そうだからと言ってダンをみすみす見捨てるような事をする程ヒグルマは浅い付き合いではないし、非情ではなかった。

 ヒグルマは何とかしてダンの潔白を証明したい。その為に操っていた本人を生捕りにしようとしたというのに、目の前で自爆して木端微塵になり手掛かりが無くなってしまったのだ。それが悔やまれてならなかった。


「証人として話せる事は全部話す。……頼む」


「無論だ。私も遠目ではあるが、事の経緯はある程度理解している。出来るだけダンの罪が軽くなる様に取り成してみよう」


「俺も出よう」


 二人の会話にツェイトが割り込んで来た。セイラムを引き連れた巨体の大きな足が、砂地を踏みしめる音が聞こえる。

  

 「俺もダンやあの兵士達と戦っている。証人として数えられるなら俺も含めてくれないか」 

 

 どちらにせよ、事件の当事者として役所関係の施設に説明の為に呼び出される可能性があったのだが、ツェイトは自分からダンの身の潔白を伝えるつもりでいた。


「……それに、俺はあの兵士達を以前にも見た事がある」


 更にこの事件は、ツェイトとセイラムにとっては無関係ではないのだ。

 いずれはどこかで明らかにされる事ならば、此処で彼らの事を伝えるのは良い機会であったのかもしれない。ツェイトはそう判断してヒグルマ達に打ち明ける事にしたのだ。


 その言葉に目を見開いたミキリとは対照的に、ヒグルマは確信したかのようにやっぱりなと呟きを零した。

 ツェイトはヒグルマの態度に疑問を持った。


「気付いていたのか?」


「まぁ、な」


 ヒグルマは小さな仮面の指揮官の言葉を思い出しながら言葉を濁した。

 もしツェイトの連れのセイラム個人を狙っての犯行も兼ねているというのなら、この事は迂闊にお上の耳に入れるわけには行かないと直感したのだ。

 その様子にツェイトも何かを察したのかそれ以上の追及をする事はしなかった。


「しかし、それなら話は早いな。後日になって済まないが、証言の場を設けるから其処で話をしてくれないだろうか」


 ツェイトとヒグルマが会話をしている最中、腕を組みながら難しい顔をして何事か考え事をしていたミキリがそう提案すれると、ツェイトはその話を受ける事にした。

 流石にすぐにと言う訳にはいかないらしい。役所と言う性質上、色々と事前の段取りが必要なのだろう。良くも悪くも。



 


 ヒグルマたちと別れたツェイトとセイラムは、本来行う予定だったクエスター試験の活動だったが、期限まで十分余裕があるという事で一旦切り上げ、極力人通りの少ない道を歩いて行った。目指す場所はここ数日野宿をしていた川岸近くの大きめの木だ。

 座り慣れた場所にツェイトがずしっと腰を下ろせば、セイラムもその近くに座り込んで深く息をついていた。


「大丈夫か?」

 

 鉄仮面の男もとい、ハリマオの殺気にあてられたり、肉塊の異形に囚われたりと怖い思いをさせてしまった。

 肉塊の異形にと捕まった際は助けられると確信出来ていたが、気を配るのがおざなりだったように思える。


「私は別に大丈夫だ。……何もやってないしな」


 言葉の裏に、足を引っ張ってしまったという自責の念が感じられた。

 しかし、それが普通なのだろうとツェイトは思う。いくら身体能力が高かろうと、ある程度戦闘の心得があろうと、セイラムは山村で育った娘に過ぎない。早々こんな戦いの最中を上手く立ち回れる等と思うつもりはツェイトには無かった。


 ツェイトはセイラムの体をざっと見て怪我がない事に安堵する。 

 セイラムが肉塊の異形に捕まりそうになった時は、流石に肝を冷やした。

 あそこでもし肉塊の異形がセイラムを拘束していたらと思うとぞっとするが、無事阻止する事が出来たため良しとする事にした。


 だが、〝そう”と決めつけられない事もある。

 

 ツェイトはあの戦いの際、肉塊の異形がダンに手を伸ばしている最中にセイラムの安全を優先し、その代わりにダンを見捨てたのだ。同じプレイヤーであり、交友関係もあったダンを。

 結果的にはダンは助かったが、あそこでもし何かの巡り合わせが悪ければ、ダンは二度と戻らなかったかもしれない。その可能性があの刹那の瞬間に思いついたというのに、ツェイトはセイラムを助ける事を優先したのだ。

 どちらも見捨てていい存在ではないというのに。ツェイトは、この事実が重く肩にのしかかった。


 ツェイトは己の蒼い外骨格に覆われた巨大な手を見た。正確には、ダンと戦った際に砕けた箇所をだ。

 あの時ツェイトの手は指ごと吹き飛ばされていた。〝ツェイトの体”でなければ今頃決して無くならない傷として残っていただろう。ツェイト自身の生命力のおかげで既に傷は完治しているが、噴き出した血の跡がかさぶたの様にこびり付いている。あの時感じた痛みは今でも鮮明に憶えている。

 周りの状況に順応する事に集中して何処か忘れがちになっていたが、ツェイトは自分達がNFOに酷似した世界へと来てしまった事を改めて実感した。

 ゲームの世界に似ているからと、命の重さを軽視てしまったような気がしたツェイトは顔を俯かせ、その次には空を仰いだ。


 〝お前”も、この世界の何処かでこんな事をしているのだろうか。


 この空の下のどこかにいるはずの親友を想う。

 雲一つない青空がいつの間にか赤らみ、夕暮れが顔を出し始めていた。





 ワムズの首都ディスティナから離れた山林の奥に、それは姿を現した。


 土の下から力なく現れたのは、大の大人の拳ほどの小さな生物。

 芋虫のような形状をしたその生物の体は、剥き出しの血管が全身に浮き出た赤黒い肉の塊に骨の様な節足が生え、頭部と思しき部位には濁り切った目玉が一つ備わっている。


 その生物の正体は、ディスティナの大門付近で暴れていた肉塊の異形の残りカスだ。

 ダンに消し飛ばされたかと思われた肉塊の異形は、歪めれたれた命とは言え、その生命が本来持ちうる生存本能が最期の最期で働き、とっさの判断で体の極一部を切り離していたのだ。

 そして本体から離れた肉塊の欠片は、砂地を潜り、森を越え、この山林へと逃げおおせたのだ。

 しかし、体力の消耗が激しいのだろう。異形の残りカスは弱弱しくその場で体を脈動させるだけで、動く気配がなかった。

 

「こいつは驚いたな。まさか此処まで生命力があるとは」


 その残りカスへ声をかける者がいる。

 それは、ディスティナの大門付近でツェイト達と戦い、ヒグルマの前で自爆して消えたかと思われた小柄な鉄仮面の指揮官、ミグミネットであった。


 竜の頭を模した鉄仮面を身に着けた軍服姿の小さな人影の外観は、何処にも汚れや傷が見当たらない。


 “この”ミグミネットは、最初からツェイト達と戦っていない。そもそも大門まで足を運んですらいないのだ。

 

 ミグミネットが異形の残りカスを掴み上げ、まじまじと見つめる。

 子供の様な掌のから少しはみ出る程度のそれは、掴みあげられても抵抗する事無く、手の中でその身を委ねていた。

 肉塊から浮き出た眼球が、ちらりとミグミネットを見た。小さい生物ながらも、その目には恐怖とも、諦観とも取れる感情があった。


「安心しなよ、お前を始末するつもりは無い。このまま博士の元まで連れて行く」


 そして、自嘲気味な笑みが漏れた。

 思い浮かべるのは、先の戦いで燃え尽きた同僚の姿か。


「……丁度一人、欠員が出てしまったしな。再検査次第では、お前が指揮官級に調整されるなんて事も……あるかもしれないな。全く、とんだ性能実験だ」


 ミグミネットの足元から光る円陣が浮かび上がり、ミグミネットの体を包み込む。


 そして、ミグミネットの姿は山の中から掻き消えた。その手に肉塊の異形の残りカスを持って。


 山にはもう誰かがいた形跡は無くなった。

 其処に誰かがいたなんて言う事を知る者はいない。





 クエスターの試験が行われている最中に起きたこのたびの騒動。試験の中止が危ぶまれるのではないかと思われたが、騒動の翌日、組合の方から試験の続行が通達された。

 如何なる事態になろうとも、与えられた依頼に対して最善を尽くす事を求めるという姿勢をクエスター組合が持つが故に、このたび起こった騒ぎも〝想定されるべき事態”として見なされていたのだろう。

 

 しかし、その事件の最中山へ課題の獲物を獲りに行った受験者の中には、試験終了の最終日を過ぎても戻って来ない者が数名いた。

 後日捜索隊が出されたが、足取りが掴めなかったという。

 ただ、首都近辺の森林のある一部で巨大な生物が通ったと思しき跡が見つかったため、大門での騒動で確認された肉塊の異形と同一物と見做し、行方知れずの受験者達の末路が大凡確定された。

 それらに対し、組合が何かをする事は無い。当初の契約通り、自己責任と言う形で各被害者達の中で完結していくのだ。

 これについて文句を言う者はいなかった。クエスターとは、そういうものだという認識がなされているのだろう。



 そして事件の翌日、事態が急変した。

 場所は此度の事件の容疑者であるダンが収容されている収容所。



 ――――ダンが、無残な死体で発見されたのだ。

ディスティナ編は次話辺りで終わりにする予定です。

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