俺は嘘をついたことがない!とおっしゃられてましたので
「テイリー!お前との婚約を破棄する!」
学園の広間でウサール王子がそう叫ぶ。彼の隣には、クラスメイトのファニャーニさんが立っている。
周りの生徒がざわめきで揺れる中、隣のファニャーニさんは驚いたそぶりすら見せない。むしろ、どこか嬉しそうに、私を見下しているかのようにすら見える。
これはつまり、そういうことなんだろうな、と私は思った。
「婚約破棄ですか……何か正当な理由があるのでしょうか?」
「お前がファニャーニをいじめたところを、俺が見たのだ!人をないがしろにする奴など、婚約者として不適極まりない!よって婚約破棄する!」
ウサール王子は、まるで演説するかのごとく、もはや私ではなく周りの生徒に向かってそう言った。彼の演説に、ファニャーニさんはコクコクと頷く。二人で考えた台本なのだろう。彼女の頷く姿が、子供を見守る母親のように見えなくもない。――発表会、うまくいって良かったわね。
「ファニャーニさんをいじめていた?身に覚えが全く無いのですけれど。何か証拠でもあるのでしょうか?」
「証拠?俺が証言しているのだ。それが証拠に決まっているだろう!?俺は嘘をついたことが無いのだから!」
「――嘘をついたことがない、ですか。……そういえば、以前、俺はこの世の誰よりも強いと、王国騎士団団長など腕一本で倒せると、そう言われていましたよね?」
「――確かに言ったが。急に何の話だ?」
私の唐突な発言に、眉をひそめるウサール王子。
言質はとった。私は若干膝を曲げ、王子に対して体を半身に構える。
「では、参ります」
そう言うや否や、ウサール王子との間を一瞬で詰める。
王子の驚き顔。それめがけて、右腕を前に。風を切る拳。ギリギリ反応され、後ろにのけぞられる。だが、そのせいで重心が後ろに。一歩詰める。逃がさない。ガードなんて間に合わさせない。左の拳を、顎に鋭くめり込ませる。
ドスッ!
顎を横からえぐる拳。揺れ、崩れ落ちる王子。地面にへなへなと座り、彼の頭が膝元に来る。すかさず追撃。右膝を、全体重をかけ頭にめり込ませる。足に伝わる衝撃。地面との激しい衝突音。床に倒れた彼の鼻からは、血がだらりと垂れていた。
周りの生徒から悲鳴の声が上がる。近くで直視していたファニャーニさんは、両手で口を覆い、その青ざめた顔には、汗がタラリとつたっていた。
「――やっぱり、嘘、つかれてましたね」
私は床でのびている王子に向かって、そうつぶやいた。
******
今回の件は、双方痛み分けということで決着がついた。
もちろんしっかりと調査は行われ、私がいじめを行っていないことは明らかになったのだが、一部やり過ぎだという声もあがり、王家は正式な謝罪と謝礼金、私は殴ってごめんなさいと一言謝るという流れで体裁を整えることになった。あんなに爽快な気分を一言の謝罪で味わえたのだ。特に不満はなかった。
その後、あの一件は「ウサール王子半殺し事件」として学園内で語り継がれているという。日常生活に特段変化はなかったが、相手の顔近くに手を動かすと、たまに、息を飲む音が聞こえる気がする。
――気のせいよね?
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