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日曜こんこんラジオ  作者: 青狐


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1/1

第1回:はじめての日曜日

──日曜日の朝、ほんの少しだけ現実からほどける時間。柔らかな鈴の音が、遠くの森から届くように鳴り響く。桜はひとひら、ふたひらと名残を残し、春の空気はまだやさしく頬を撫でている。

「……こほん、聞こえておるかの? ふふ、これが噂の“ラジオ”というやつじゃな。皆の者、おはようじゃ」

「も、もうお姉ちゃん、急に始めないでよぉ……あ、あの、聞いてくださってるみなさん、おはようございますっ……!」

 小さく息を吸う音、衣擦れの気配、少しだけ慣れていないマイクとの距離感。そんな不完全さすら愛おしいまま、番組は始まる。

「改めて名乗ろうかの。わらわは姉の“白狐・つむぎ”じゃ。見ての通り……いや、見えぬか。まあよい、可愛い狐の姉じゃと思ってくれればよい」

「えっと、妹の“琥珀・こはく”です……っ。お姉ちゃんより、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけしっかりしてる、はず……」

「ほう? ではこの前、夜中にこっそり油揚げをつまみ食いしておったのは誰じゃったかの?」

「な、なんでそれ言うの!? ち、違うの! あれはその……味見で……!」

「ふふ、そういうところが可愛いのう」

 くすくすと笑う声が、朝の光のようにやわらかく広がる。

「さて、この番組じゃが……毎週日曜日の朝、この時間にわらわたちが皆とお喋りする場所じゃ。一週間の始まりに、少しでも穏やかな気持ちで過ごせるような時間を届けられたら嬉しいのう」

「うん……っ。学校とか、お仕事とか、人間関係とか……いろいろ大変だと思うけど……ここで、少しだけ深呼吸してから一日を始めてくれたらいいなって……思ってます」

「その通りじゃ。何せ、わらわたちは“癒し担当”じゃからの。耳も尻尾も、ふわふわじゃぞ?」

「え、えへへ……触ってもいいよ、って言えたらいいんだけど……ラジオだから、想像で……ね?」

「想像するがよい。もふもふじゃぞ?」

 少しだけ間を置いて、二人が同時に小さく笑う。その息遣いが、どこか距離の近さを感じさせる。

「さて、第一回ということで、もう少しだけ自己紹介をしておこうかの。わらわは森の奥の社で暮らしておる。人の願いをこっそり聞いたり、時々悪戯をしたり……まあ、気ままに生きておる狐じゃ」

「私は、お姉ちゃんと一緒にお手伝いしてます。まだまだ見習いだけど……お守り作ったり、お掃除したり……あと、お姉ちゃんの暴走を止めたり……」

「暴走とは失礼な。芸術的な自由行動じゃ」

「この前だって、勝手に人間のテレビ持ってきて壊したじゃん……!」

「文明の利器は難しいのう……」

 少しの沈黙のあと、ふっと笑いがこぼれる。

「まあそんなわけで、わらわたちはわりと最近“ラジオ”という文化を知っての。どうせなら自分たちでもやってみよう、となったわけじゃ」

「きっかけは、お姉ちゃんが『人間の心をもっと近くで感じたい』って言い出して……」

「うむ。声というのは不思議じゃ。姿が見えずとも、心が伝わる」

「だから、この番組も……みんなと少しずつ仲良くなれたらいいなって……」

 マイクの向こう側に、静かな期待が広がる。

「そうじゃ、ここで一つ大事な話じゃ。聞いておる皆の者、この番組は“読者参加型”じゃ」

「お便り、待ってます……っ。悩み相談でもいいし、やってほしい企画とか、質問とか……なんでも送ってほしいです」

「恋の悩みでもよいぞ? ふふ、狐はそういう話が好きでのう」

「お姉ちゃん絶対からかうでしょ……!」

「からかわぬ、優しく導くのじゃ。たぶん」

「“たぶん”って言った……」

「まあ、安心するがよい。わらわたちが全力で、優しく、ちょっぴりあざとく応えてやる」

「……あざとくって自分で言っちゃうのずるいよぉ」

「では、試しに一つ。聞いておるそこのお主、今少しだけ気持ちが忙しいのではないか?」

 ふっと、声の温度が落ち着く。

「大丈夫じゃ。今日という一日、ゆっくり始めればよい」

「えっと……よしよし、です……」

 ほんの少し、距離が近くなるような気配。

「また来週も、ここで待っておるからの」

「一緒に、いい日曜日にしようね……」

 そして、軽く空気を戻すように、つむぎが咳払いをひとつ。

「さて、この番組は“稲荷月見堂”の提供でお送りしておる。美味しい油揚げと、不思議なお守り、取り揃えておるぞ」

「あと、春限定の“花見こんこん団子”もおすすめです……っ。桜の香りがして、やさしい味なの……」

「わらわが三本食べたやつじゃな」

「それ私の分だったのに……!」

「うむ、美味であった」

「もう……!」

 笑いが弾ける。

「そろそろお別れの時間じゃな。初回ということで少し緊張もしたが……どうじゃったかの?」

「わ、私はちょっと噛んじゃったけど……でも、楽しかったです……!」

「それが一番じゃ。よい朝の始まりになれば何よりじゃ」

 少しだけ、名残惜しむような間。

「そして、最後に次回予告じゃ」

「え、もう!?」

「うむ。次回はな……“特別ゲスト”が来る予定じゃ」

「……あの人、だよね」

「そうじゃ。普段はあまり表に出てこぬ、わらわたちの“兄”」

「ちょっと怖いけど……でも、すごく優しい人で……」

「見た目はやけに凛々しくての。口調も妙に落ち着いておる。じゃが本人は……」

「すっごく恥ずかしがり屋です……!」

「果たしてちゃんと喋れるのか、わらわは少し心配じゃ」

「でも、きっと来てくれるよね……?」

「ふふ、その辺りも含めて、来週を楽しみにしておるがよい」

 鈴の音が、再び小さく鳴る。

「それでは皆の者、良い日曜日を」

「また来週、日曜日の朝に……っ」

「わらわたちはここで待っておる」

「いってらっしゃい……」

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