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94.世界の分割線――東京条約とロンドン条約

# 海洋帝国日本史 第十章:第二次世界大戦の終結と赤き新世界


## 第二話:世界の分割線――東京条約とロンドン条約(1943年7月)


### 1.極東の絶対者――『東京条約』の締結(1943年7月17日)


1943年7月。

南米の赤化という「心臓への刃」を突きつけられたアメリカ合衆国のハリー・S・トルーマン大統領は、プライドを完全に捨て去り、中立国スイスを通じて大日本帝国をはじめとする旧枢軸・連合国へ「全面的な講和」を打診した。


「……ヤンキーが膝を屈したか。ならば、太平洋とアジアの新たな秩序パックス・ジャポニカを、法的に確定させようではないか」


1943年7月17日。

大日本帝国の帝都・東京。

雪の降る季節に明石元二郎が息を引き取ったこの街は、今や夏の眩しい日差しを浴び、名実共に「アジア太平洋の絶対的な支配者」として、アメリカの講和使節団を霞が関の将軍府へと迎え入れていた。


日米間で結ばれた**『東京条約』**。

その内容は、勝者による圧倒的な秩序であった。


第一に、帝国はアメリカの顔を立てる(恩を売る)形で、開戦劈頭に占領していた『アラスカ準州』をアメリカへ返還した。

「……北米大陸に我々の領土を維持すれば、ヤンキーのルサンチマン(怨恨)を無駄に煽るだけだ。彼らには、南の赤い悪魔(南米赤軍)の防波堤になってもらわねばならないからな」


第二に、アメリカが不法に占拠していた植民地の「解放」である。

アメリカのくびきから解き放たれた**『フィリピン』**と**『ハワイ諸島(ハワイ王国)』**の完全独立が承認された。

さらに、アメリカの強圧的な軍事占領下に置かれていた**『カナダ』**も、帝国の強力な後ろ盾を得てアメリカからの独立を回復(再独立)。


これにより、大日本帝国は、北は千島から南は東南アジア、そして東はハワイに至るまで、自国の血を一切流すことなく防衛できる「巨大で完璧な絶対国防圏と経済ブロック」を、法的に完成させたのである。


### 2.ハイエナたちの饗宴――『ロンドン条約』と欧州の再編(1943年7月28日)


東京での調印からわずか十日後の、1943年7月28日。

舞台はヨーロッパに移り、イギリスの首都ロンドンにおいて、欧州・アフリカ・中東という巨大な大陸の運命を決定づける**『ロンドン条約』**が締結された。


この会議場は、まさに「勝者による死体の切り売り」であった。


最も悲惨な運命を辿ったのは、狂人ルクレールと共に自滅した**フランス**である。

ドイツは因縁の領土『アルザス=ロレーヌ』を完全に割譲させ、さらに広大な『フランス領西アフリカ』をドイツの植民地として呑み込んだ。

アジアに持っていた『仏領インドシナ』もフランスから剥奪され、大日本帝国の主導によって三国に分割・独立させられることが決定。


さらに、フランスの再軍備には「致命的な制限」が加えられた。

陸軍は国内の治安維持部隊レベルに解体され、海軍は大西洋への出口であるブレスト軍港の放棄を強制された。

「……フランス海軍は、マルセイユにのみ駐留を許す。イギリスに歯向かえないよう大西洋からは締め出し、地中海でイタリアを牽制するための『当て馬』としてのみ生かしておく」

イギリスとスペインの冷酷な思惑により、フランスは完全に牙を抜かれた三流国へと転落したのである。


一方、裏切りによって生き残った「ハイエナ」たちは、巨大な果実を貪っていた。

**スペイン**は、アルジェリア、モロッコ、マラケシュ、西サハラといった北アフリカの広大な旧フランス領を強奪。さらにイベリア半島全域の支配を確定させるべく、ポルトガルとアンドラを併合し、旧ポルトガル領アフリカをも手中に収めた。


**イタリア**は、地中海とバルカンの権益を確固たるものにした。リビアに加え、ドサクサに紛れてチュニジアを強奪。さらにスロベニア、クロアチア、ボスニア、セルビア、モンテネグロ、コソボ、北アルバニア、マルタ島を獲得し、念願の「新ローマ帝国」の版図を(裏切りによって)完成させた。


**イギリス**は、東アフリカ、南アフリカ、そして旧フランス領のマダガスカル周辺を確固たる自国の植民地として維持した。

(なお、アフリカ大陸において、かつてアメリカの庇護下にあった『エチオピア』だけは、「絶対にイタリアの軍門には下らない」という強烈な意地を貫き、大英帝国の黙認もあって、唯一の独立国家としての地位を守り抜いた。)


### 3.アイルランドの喝采――解放者たる大英帝国


ロンドン条約の中で、最も劇的で、皮肉に満ちた光景が繰り広げられたのは、イギリスの隣の緑の島、**アイルランド**であった。


「……ヤンキーどもが、逃げていくぞ!」

アイルランドの港から、星条旗を掲げた輸送船団が、逃げるように西へと出港していく。

トルーマンの撤退命令により、アイルランドを不法占拠していたアメリカ軍は、膨大な「戦後賠償金」をアイルランド政府に支払うことを約束させられた上で、この島から完全に叩き出されたのである。


そして、星条旗と入れ替わるように、アイルランドの首都ダブリンに進駐してきたのは。

ユニオンジャックを掲げ、紫電・エクスカリバーの編隊を上空に飛ばす**『イギリス軍』**であった。


かつてアイルランドを何百年も支配し、血みどろの独立戦争を戦った宿敵であるはずのイギリス兵。

しかし、粗暴なアメリカ軍の軍政と空爆の恐怖に怯え続けていたアイルランドの民衆は、整然と行進してくるイギリス軍に対し、まるで真の解放者を迎えるかのような『万雷の拍手喝采』を送った。


「ようこそ、大英帝国! アメリカの豚どもを追い払ってくれてありがとう!」

ロンドン条約により、アイルランドは「完全な再独立」を保証された。イギリスは、かつての植民地をアメリカから救い出した「紳士的な保護者」としての面目を完全に保ち、西ヨーロッパにおける絶対的な安全保障を回復したのである。


### 4.中東のパズルと帝国の老獪なる罠


ロンドン条約において、最も複雑怪奇なパズルが組み上げられたのは、赤い悪魔(ソビエト連邦)の巨大な影が覆い被さる**中東地域**であった。


まず、イタリアが占領していたエジプトはイギリスに返還され(のちに独立を約束)、イギリスはさらにサウジアラビア南部、イエメン、オマーン、ソコトラ島、カタールといったアラビア半島沿岸部の支配を固めた。


一方、ソビエト連邦はこのロンドン会議には一切参加していなかった。しかし、背後での大日本帝国との密約により、旧トルコ領であった**シリア、イラク、クウェート、キプロス**は、「事実上のソビエト領(あるいは強固な衛星国)」として黙認されることとなった。


そして、大日本帝国。

彼らはアラビア半島での陸戦において、マッカーサーに手痛い敗北を喫した。しかし、戦後処理において彼らが手に入れたのは、のちの**『アラブ首長国連邦(ドバイ、アブダビ等)』**となる、ペルシャ湾の極めて重要な沿岸地域であった。


「……陸軍の猪武者どもは砂漠で無様に負けたが、我々海軍と海運企業の『裏の外交』が、この果実をもぎ取ったのだ」

イギリスが中東から撤退・再編する際、帝国海軍と日本の民間海運企業(日本郵船など)が、イギリスの輸送網を全面的に裏から支援した。その「借りの返済」として、イギリスから極秘裏に譲渡されたのが、この砂漠の宝石であった。


だが、帝国のインテリジェンスが仕掛けた最も恐るべき罠は、**アメリカ合衆国の取り扱い**に隠されていた。


「……トルーマンは、世界中からアメリカ軍を撤退させようとしている。だが、彼らを完全に北米に引きこもらせてはならない。ヤンキーには、我々の代わりにソビエトの相手(泥かぶり)をしてもらわねば」


ロンドン条約において、大日本帝国とイギリスは、アメリカの「大国としてのメンツ」を保たせるという甘い言葉で、強引にある条件を押し付けた。


『パレスチナ、レバノン、ヨルダン、そしてサウジアラビア北部。これらの地域は、アメリカ合衆国の正当な【海外領土】として、戦後も維持することを認める』


それは一見、敗戦国アメリカに対する譲歩に見えた。

しかし、その真の狙いは全く別のものであった。


「……これで、アメリカ軍は中東(東地中海)に軍隊を残さざるを得なくなる。そして彼らの目の前には、イタリア軍のバルカン要塞と、ソビエト・トルコ連合軍の巨大な戦車部隊が立ち塞がることになる」


大日本帝国は、アメリカを中東という「対ソビエトの最前線の防波堤」に強制的に縛り付けたのである。

南米で赤軍と対峙し、中東でも赤軍と睨み合う。アメリカは本土に引きこもることを許されず、大日本帝国が安全な極東で繁栄を謳歌するその裏で、ソビエト連邦との終わりのない『冷戦の盾』として徹底的に利用される運命を背負わされたのである。


### 5.エピローグ――血塗られた地図の完成


1943年7月末。

『東京条約』と『ロンドン条約』という二つの巨大な紙切れによって、数千万の命をすり潰した第二次世界大戦の「軍事的な戦線」は、完全にその線引きを終えた。


イタリアとスペインは領土を肥え太らせ。

フランスはズタズタに切り裂かれ。

イギリスは威厳を取り戻し。

大日本帝国は、一切の火の粉を被らない完璧な安全地帯と経済ブロックを構築した。


しかし。

各国の外交官たちがロンドンの高級ホテルでシャンパングラスを傾けているその瞬間も。

アメリカ大陸の南半分では、彼らの引いた境界線など全く意に介さない「巨大な赤い波」が、熱帯のジャングルを飲み込みながら、アメリカ合衆国の喉元へと容赦なく北上を続けていた。


「条約など、ただの紙切れだ。……真の戦争(階級闘争)は、これから始まるのだ」

モスクワのクレムリンで、スターリンが冷酷な笑みを浮かべる。


戦後処理が終わった直後の8月。

世界の目は、ヨーロッパから再び西半球へ、そして黄土の大地へと引き戻される。

アメリカ合衆国の絶対防衛線「グアテマラ」に迫る南米赤軍と、ソビエトに見捨てられた蔣介石の最期。

世界は、息をつく暇もなく、赤と青の『冷戦の狂気』へと突き落とされていく。


(第十章 第二話 完)


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