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92.熱砂の洗礼とアンカラの落日――老将の罠と三日月の決断

# 海洋帝国日本史 第九章:赤きヒグマの台頭と新枢軸の崩壊


## 第十話:熱砂の洗礼とアンカラの落日――老将の罠と三日月の決断(1943年6月)


### 1.無敗の驕り――帝国陸軍、アラビア上陸(1943年6月中旬)


1943年6月中旬。

大フランス帝国が地中海の果てで完全に消滅し、ヨーロッパの地図がドイツとスペインによって塗り替えられていたその頃。


中東・アラビア半島の南岸(イエメンやオマーン周辺)の港湾に、フランスの混乱と米国の非常事態を契機としてここぞとばかりに大日本帝国海軍の巨大な輸送船団が次々と錨を下ろしていた。

そこから熱砂の大地へと軍靴を踏み下ろしたのは、インド方面から転進してきた**『大日本帝国陸軍・中東遠征軍』**の精鋭、およそ20万の大軍であった。


「……見渡す限り、ただの砂と岩の塊だな。こんな不毛な土地に、ヤンキーどもは引きこもっているのか」

上陸した帝国陸軍の将校たちは、灼熱の太陽を見上げながら、極めて楽観的な、あるいは傲慢な笑みを浮かべていた。


彼らには「驕り」があった。

満州で国民党軍を粉砕し、フィリピンで米軍を殲滅し(帝国の圧倒的な勝ちでつまらないので描写してないけど)、ハワイでアメリカ軍を降伏させた。大日本帝国は今や、アジアと太平洋において完全に「無敗の軍隊」であったからだ。


「敵は、ヨーロッパの同盟国フランスを失い、本国アメリカからも見捨てられて完全に孤立したアメリカ中東軍だ。弾薬も尽きかけているに違いない」

遠征軍の司令官は、軍刀を抜いて北の砂漠を指し示した。

「一気に砂漠を北上し、アメリカ軍の息の根を止める! ヤンキーどもに、帝国陸軍の白兵突撃の恐ろしさを教えてやれ!」


20万の半数の10万の帝国陸軍は、十分な砂漠戦の訓練や兵站(水と燃料の補給線)の構築を軽視したまま、勢い任せにアラビア半島の奥深くへと進軍を開始した。(10万は橋頭堡維持と設営に残った。)


しかし。彼らは全く理解していなかった。

砂漠という地形が、ジャングルや島国とは全く異なる「機動力と火力の絶対的な殺戮空間」であるということを。

そして、彼らを待ち構えている敵将が、極東の将軍たちよりも遥かに狡猾で、底知れぬ執念を持った**『歴戦の老将』**であることを。


### 2.熱砂の洗礼――マッカーサーの罠


アラビア半島の巨大な砂丘地帯。

帝国陸軍の先鋒部隊(歩兵と軽戦車を中心とする数万)が、土煙を上げて進軍していたその時。


「……敵影なし。ヤンキーどもは我々に怯えて逃げたか?」

斥候部隊が報告した直後。

何もないはずの砂漠の地平線の彼方から、突如として地鳴りのような轟音が響き渡った。


ズドゴォォォォォォン!!!

見渡す限りの砂の尾根の裏側から、アメリカ軍の155ミリ榴弾砲の猛烈な集中砲火が、寸分の狂いもなく帝国陸軍の行軍縦隊のど真ん中に降り注いだ。


「な、なんだ!? どこから撃ってきている!?」

砂煙と爆炎が上がり、帝国兵の肉片とトラックの残骸が灼熱の空へ吹き飛ぶ。


「……罠だ。ジャップの歩兵部隊が、我が軍の『キルゾーン(射撃地域)』に完全に足を踏み入れたぞ」

遥か後方の司令部テント。

コーンパイプをくわえ、サングラスの奥で冷酷な目を光らせていたのは、アメリカ中東・アフリカ軍の最高司令官、**ダグラス・マッカーサー大将**であった。


彼は、本国に見捨てられ孤立したという絶望的な状況下にあっても、決して冷静さを失っていなかった。

「ジャップは島国根性で、歩兵の突撃と精神論を過信している。……だが、ここは遮蔽物のない巨大なビリヤード台(砂漠)だ。機動力と火力の差が、そのまま死者数の差になる」


マッカーサーは、貴重な戦車や重砲を最前線には配置せず、わざと後退して帝国陸軍を「補給線が伸び切る砂漠の奥地」へと誘い込んでいたのである。


「砲撃やめ。……機甲師団、前進。ジャップの柔い腹を食い破れ」

マッカーサーの号令と共に、砂丘の陰に隠されていた数百両の**M4シャーマン戦車**の群れが、一斉にエンジンを唸らせて姿を現した。


### 3.叩き潰される無敗の軍隊


「て、敵の戦車部隊だ! その数、数百!」

パニックに陥る帝国陸軍の歩兵たちの前に、アメリカ軍の装甲部隊が、砂漠特有の「横一列の巨大な陣形ライン」を組んで押し寄せてくる。


「対戦車砲を前に出せ! 歩兵はタコツボ(個人壕)を掘って肉薄攻撃だ!」

帝国兵たちは勇敢であった。彼らは訓練通りに爆雷を抱え、熱砂の上に身を伏せてアメリカ軍の戦車に特攻を仕掛けようとした。


しかし、アメリカ軍はジャングルでの戦いのように「戦車を単独で突出させる」ような愚行は犯さなかった。

シャーマン戦車の背後からは、大量のM3ハーフトラック(半装軌車)に乗ったアメリカの機械化歩兵がピタリと追従し、戦車に近づこうとする帝国兵を、ブローニング重機関銃の猛烈な弾幕で次々とハチの巣にしていった。


ダダダダダダッ!!

「うわぁぁっ!!」

「駄目だ! 敵の弾幕が厚すぎて近づけない! 味方の戦車はどうした!?」


帝国陸軍が誇る『九七式中戦車チハ』や『二式中戦車』が援護に駆けつけたが、ヨーロッパでドイツの猛獣たちと渡り合うために装甲と火力を強化され続けてきたアメリカのシャーマン戦車の前には、まるで大人と子供の喧嘩であった。


カーン! カーン!

帝国の戦車砲弾がシャーマンの分厚い前面装甲で弾き返され、逆にシャーマンの75ミリ砲が一撃で帝国の戦車を炎のスクラップに変えていく。


「……これが、近代的な砂漠の機動戦だ。精神論だけで戦争に勝てると思うな、ジャップ」

マッカーサーは、冷酷に戦果を拡大し続けた。


わずか数日の戦闘。

中東に意気揚々と上陸した大日本帝国陸軍・中東遠征軍の先鋒部隊は、老将マッカーサーの老獪な『縦深防御からの機甲反撃』の前に、数万の死傷者を出すという**「こてんぱんの惨敗(圧倒的屈辱の洗礼)」**を味わわされた。


彼らは這々の体で海岸線の橋頭堡まで逃げ帰り、太平洋での無敗の驕りを、アラビアの熱砂と共に完全に粉々に打ち砕かれたのである。

大日本帝国はここで初めて、アメリカ合衆国という国家が持つ「真の陸軍力(戦術と火力)」の恐ろしさを、骨の髄まで思い知ることとなった。


### 4.見捨てられた防波堤――アンカラ陥落(1943年6月28日)


しかし、マッカーサーがアラビア半島で大日本帝国陸軍に「血の授業」を施していたその裏で。

アメリカ軍の全リソースが帝国陸軍の迎撃に振り向けられた結果、中東の北の防波堤は、ついに完全にその機能を停止しようとしていた。


「……ヤンキーどもからの弾薬の輸送が、完全にストップしたぞ」

トルコの首都・アンカラの防衛線。

泥と血にまみれたトルコ兵たちは、空になったアメリカ製の弾薬箱を見つめ、絶望的な溜息を吐き出した。


シワスでの大金星以降も、トルコ陸軍はソビエト赤軍の果てしない波状攻撃に対し、何ヶ月にもわたって超人的な粘りを見せていた。

しかし、アメリカ中東軍がマッカーサーの指揮下で「自らの生存(対日戦)」にかかりきりになった今、トルコへ送られるはずのレンドリースは完全に途絶してしまったのである。


「弾がなければ、戦車は止められない。……我々は、限界だ」


1943年6月下旬。

ソビエト連邦の放つ最後の大攻勢(カチューシャ・ロケットの絨毯爆撃と、数千両の戦車突撃)が、ついにトルコ軍の最終防衛線を粉砕した。


「ウラー!! 資本主義の防波堤を食い破れ!」

赤軍の戦車部隊が、土煙を上げて首都アンカラの市街地へと雪崩れ込む。


1943年6月28日。

かつてオスマン帝国の誇りを受け継ぎ、地中海と黒海の要衝を守り抜いてきたトルコ共和国の首都**『アンカラ』**が、ついにソビエト軍の軍門に降り、陥落した。


### 5.三日月の決断――イスタンブール無血開城と野望


「……アンカラが落ちました。もはや、我が軍に組織的な抵抗能力は残されていません」


アンカラ陥落の報を受けたトルコ政府の首脳陣は、黒海とマルマラ海に挟まれた歴史的古都・**イスタンブール**の地下司令部で、最後の決断を迫られていた。


「……徹底抗戦だ! イスタンブールの街を要塞化し、最後の一兵になろうとも、この街をアカの連中の血で染め上げてやる!」

一部の強硬派の将軍たちが「焦土作戦」を叫んだ。美しいモスクや宮殿をすべて爆破し、瓦礫の山でゲリラ戦を展開しようというのだ。


しかし、トルコ大統領(あるいは現実主義的な政府高官)は、静かに、しかし断固として首を横に振った。


「……やめろ。そんなことをして何になる? 我々の誇りのために、数百万のトルコ国民を無駄死にさせ、この歴史ある美しい古都を灰にするというのか」

大統領は、作戦地図から目を離し、窓の外に見えるボスポラス海峡の青い海を見つめた。


「アメリカは我々を見捨てた。イタリアは逃げた。……もはや、枢軸という枠組みの中で我々が血を流す義理は、一ミリも存在しない」


彼の瞳の奥には、単なる敗北への諦めではない、極めて冷徹で、強かな「国家生存の野望」が燃え上がっていた。


「……我々は、ソビエト連邦に降伏する。イスタンブールは無防備都市として明け渡し、無傷で引き渡す」


「な、なんだと!? アカの奴隷になれというのですか!!」

激高する将軍たちを、大統領は冷ややかな目で制した。


「奴隷ではない。……『生存競争』だ。ソビエトという巨大な帝国は、力ずくで我々を飲み込んだが、この広大な中東と地中海を彼らだけで統治し切れるはずがない。彼らには必ず『現地の強力な管理者』が必要になる」


大統領は、テーブルの上のトルコ国旗(三日月と星)を指差した。

「……我々トルコは、ソビエトの傘下に入る。そして、我々の持つ官僚機構、軍の残存組織、地政学的な知識を総動員して、ソビエトという巨大なシステムの内側に食い込むのだ。……目指すは、ソビエト陣営における『絶対的なナンバー2』の座」


それは、ただの降伏ではない。

臥薪嘗胆がしんしょうたん」。自らの国を一度ソビエトに売り渡してでも、その内側から権力を簒奪し、いずれはソビエトの威光を背景にして『中東全域の支配』を成し遂げるという、極めてオスマン帝国的な、恐るべきマキャヴェリズム(権謀術数)であった。


「……生き残れ。生き残って、我々トルコが、いずれ中東の真の覇者となるのだ」


1943年6月末。

トルコ共和国政府は、ソビエト連邦に対して公式に無条件降伏を宣言。

世界で最も美しい古都の一つであるイスタンブールは、一発の銃弾も撃たれることなく、無傷のままソビエト赤軍の手に渡った。


トルコは負けた。しかし彼らは、自国を焦土にすることなく、その強靭な国家の精神を「ソビエトという赤い皮」の下に隠し持ち、未来の覇権を狙う不気味な心臓として生き延びたのである。


### 6.エピローグ――終わらぬ狂乱の1943年


1943年6月が終わろうとしている。


大フランス帝国は崩壊し、ルクレールは狂気の中で生け捕りにされた。

アメリカ合衆国はルーズベルトを失い、南米の赤化という致命傷を負って引きこもった。

イタリアとスペインは、同盟国を裏切って自国の安全(勝ち逃げ)を確保した。


そして、トルコの陥落(あるいは内部への寄生)により、ユーラシア大陸の東ヨーロッパから中東に至る広大な領域が、完全に「ソビエト連邦」という巨大な赤い悪魔の支配下(あるいは影響下)に入った。


世界の勢力図は、1939年の開戦当時からは想像もつかないほど、無惨に、そして複雑に叩き割られてしまった。


しかし、戦争は終わらない。

アイルランド上空では、アメリカ軍とイギリス軍の「意地の殺し合い」が今なお続いている。

中東では、マッカーサーのアメリカ軍と、復讐に燃える大日本帝国陸軍が、血みどろの激突の第二幕を準備している。

そして中国大陸では、四つの勢力が黄土を血で染め上げる内戦の炎が燃え上がっている。


「新枢軸」の崩壊は、平和をもたらさなかった。

それはただ、ソビエトという真の恐怖と、生き残った覇権国家(大日本帝国、ドイツ、アメリカ)による、さらなる冷酷で巨大な『冷戦と熱戦の入り交じる新時代』への、絶望的な幕開けに過ぎなかったのである。


(第九章 第十話 完)

(第九章 赤きヒグマの台頭と新枢軸の崩壊 完)



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