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84.寝返る小国とエメラルドの空の死闘――次世代の翼と王女の凱歌

# 海洋帝国日本史 第九章:赤きヒグマの台頭と新枢軸の崩壊


## 第二話:寝返る小国とエメラルドの空の死闘――次世代の翼と王女の凱歌(1943年2月前半)


### 1.無血の屈服――ブルガリアの傘下入り(1943年2月上旬)


1943年2月上旬。

ルーマニア王国の首都ブカレストが陥落し、政府がドイツへと亡命したという衝撃のニュースは、バルカン半島の小国たちを恐慌状態へと叩き込んだ。


「……ルーマニアの巨大な防波堤が、わずか数週間で決壊しただと!?」

次にソビエト赤軍の「赤い雪崩」の標的となる位置にあった**ブルガリア王国**の首都ソフィアでは、政府首脳が震え上がっていた。


この危機に対し、泥沼のパレスチナ戦線から引き返し、急遽中東・バルカンの防衛線を構築しようとしていたイタリアとトルコの両政府は、ブルガリアに対して必死の特使を派遣していた。

「今すぐ枢軸陣営(対共産防衛線)に加われ! 我々と共に防衛線を構築し、ソビエトの南下を食い止めるのだ!」


しかし、イタリアのムッソリーニとトルコ政府の必死の懇願に対し、ブルガリア政府の出した答えは、極めて冷酷で、ある意味で極めて合理的な「絶望の選択」であった。


「……お断りする。貴国らのような負け犬の同盟に加わって、我が美しい国土を火の海にする気は毛頭ない」

ブルガリアは、イタリアとトルコからの要請を完全に拒絶。

そして、国境に大軍を集結させていたソビエト連邦に対し、一発の銃弾も撃つことなく、無条件での『通過許可と保護(事実上の衛星国化)』を受け入れたのである。


「ブルガリアが寝返ったぞ! 赤軍に国境を明け渡しやがった!」

トルコ政府の悲鳴を嘲笑うかのように、ソビエト赤軍の数千両の戦車部隊は、無血開城されたブルガリア領内を悠々とパレードのように通過し、南へ、南へとひたすらに軍靴を進めた。


彼らの目標はただ一つ。オスマン帝国の古都であり、黒海と地中海を繋ぐ絶対的な要衝――**『イスタンブール』**である。


「……イスタンブールまであと150キロだ! 塹壕を掘れ! ここを抜かれれば、トルコは完全に死ぬぞ!」

トルコ軍の残存部隊は、イスタンブールの北西150キロ(エディルネからチャタルジャ付近)の平原に、雪と凍土を掘り返して決死の防衛線を構築した。

頼みの綱のアメリカ軍は支援に来ず、背後にはイタリア軍が震えているだけ。トルコは、国家の存亡を懸けた最後にして最大の「防衛戦」を、ただ独りで迎え撃つこととなったのである。


### 2.王女の凱歌――オアフ島・マウイ島陥落(1943年2月12日)


バルカン半島が赤い恐怖に飲み込まれていた頃、地球の裏側の太平洋・ハワイ諸島では、長きにわたる泥沼の死闘が、劇的な「内部崩壊」によってついに終符を打とうとしていた。


『ハワイの愛する民よ。そして、山に籠もるアメリカの兵士たちよ。無益な血を流すのはもうやめなさい。大日本帝国は、我々ハワイ王国の復興を約束してくれました』


ホノルル臨時政府のトップに推戴された『ハワイ王女』による、昼夜を問わぬラジオ放送と宣伝工作。

それは、コオラウ山脈のジャングルや洞窟に立て籠もるアメリカ軍守備隊の心を、真綿で首を絞めるように蝕んでいた。


「……俺たちは、アメリカ本土を守る英雄じゃなかったのか?」

「違う。この島の先住民たちは、俺たちを『国泥棒の白人』と憎んでいるんだ。俺たちは、誰にも望まれていない戦いをしているんだ……!」


決死の補給線であった「ハワイ・エクスプレス」も、帝国海軍の厳重な海上封鎖と執拗な潜水艦攻撃により、すでにその大半が海の底へと沈められていた。

弾薬は尽き、食糧は腐り、マラリアが蔓延する。そして何より、彼らが信じていた「大義名分(正義)」が、王女の帰還とハワイ民衆の独立機運(大規模な反米デモとサボタージュ)によって完全に粉砕されてしまったのである。


「……もう、限界だ。兵士たちに継戦能力はない。これ以上は、ただの無意味な餓死だ」

1943年2月12日。

オアフ島北部の地下陣地に籠もっていたアメリカ陸軍守備隊の司令官は、ついに白旗を掲げる決断を下した。


山を降りてきた数万のアメリカ兵たちは、ボロボロの軍服を引きずり、完全にうつろな目をして帝国軍に武器を武装解除された。彼らの背後では、ホノルルの総督府に、大日本帝国の日章旗と、かつてのハワイ王国の美しい国旗が、太平洋の風に並んで誇り高く翻っていた。


同日、オアフ島に続いて抵抗を続けていた隣の**『マウイ島』**のアメリカ軍守備隊も、連鎖的に降伏。

大日本帝国は、ついに太平洋の絶対的要衝であるオアフ島とマウイ島の完全制圧を成し遂げた。


「……残るは、ハワイビッグアイランドのみだ」

帝国軍の矛先は、アメリカ軍が最後に立て籠もる巨大な火山島へと向けられた。太平洋の覇権を懸けた戦いは、いよいよ最終局面へと突入したのである。


### 3.エメラルドの空の死闘――技術の陳腐化(1943年2月中旬)


そして、ヨーロッパの西の果て。

1月からヨーロッパ全土を覆っていた記録的な大雪が止み、再び澄み切った冬の青空が広がった2月中旬。


アイルランドを占領し、長らく嵐によって足止めを食らっていたアメリカ陸軍航空軍は、鬱憤を晴らすかのように、イギリス本島(リバプールや工業地帯)へ向けた「大規模な反転攻勢(戦略爆撃)」を再開した。


「ヤンキーの巨大な編隊が来るぞ! アイリッシュ海を越えてくる!」

イギリス本土のレーダー網が、数百機のB-17重爆撃機と、それを護衛する戦闘機の大群を捉えた。


「全機スクランブル! 大英帝国の空を渡すな!」

イギリス空軍(RAF)の飛行場から、迎撃機が次々と飛び立つ。


しかし、この日の空の戦いは、これまでの航空戦とは全く異質の「凄惨な光景」を生み出していた。


ダダダダダッ! ズガァァァン!

空中戦が始まって数分。アイリッシュ海の上空から、炎を引いて次々と墜落していく機体の群れ。

それは、開戦からわずか一年で「完全に時代遅れ」となってしまった、米英双方の旧式戦闘機たちであった。


アメリカ軍のP-40ウォーホークや初期型のP-38ライトニング。

そして、イギリス軍をこれまで支えてきたスピットファイアMk.Iやハリケーンといった初期のレシプロ戦闘機。

これら1940年〜41年当時の主力機たちは、新たに戦場に投入された「新型機」たちの圧倒的な速度と上昇力、そして火力の前では、文字通り「空を飛ぶ的」でしかなかったのである。


「……駄目だ! 俺たちの機体じゃ、奴らに追いつけない! 旋回能力も上昇力も違いすぎる!」

アメリカのP-40パイロットが悲鳴を上げながら、真っ二つにされてアイリッシュ海に散っていく。


航空機の進化の速度が、人間の命を容赦なく「陳腐化」させる。

時代の進化という残酷な淘汰が、エメラルドの空を舞台に繰り広げられていた。


### 4.最強のキメラ――紫電・エクスカリバーの咆哮


この苛烈な技術革新の渦中において、アメリカ軍もただ旧式機を飛ばしていたわけではなかった。

「ジャップやジョンブルどもめ! アメリカの本当の工業力と技術を見せてやる!」

アメリカ軍は、この大攻勢に合わせて、強力な2000馬力級エンジンを積んだ新鋭戦闘機『P-47サンダーボルト』や、ロールス・ロイスのエンジンを独自改良して搭載した『P-51ムスタング』の初期型など、極めて強力な次世代機を惜しみなく投入してきていた。


アメリカの新型機は、確かに強力であった。分厚い装甲と重武装、そして急降下速度の速さで、イギリス軍の旧式機を次々と血祭りに上げていく。

「見たか! これがアメリカの最新鋭だ! イギリスの空は我々のものだ!」


しかし。

彼らが勝利を確信しかけたその時。

太陽を背にして、雲海の上から信じられない速度で「一撃離脱」を仕掛けてきた、異形のシルエットを持つ戦闘機群が存在した。


キュイィィィィィン!!

凄まじいエンジン音と共に、アメリカの新鋭機『P-47』の背後に、まるで瞬間移動したかのようにピタリと張り付く影。


「な、なんだあの機体は!? スピットファイアじゃない! 速度が異常だ!」

アメリカのパイロットが振り返った瞬間。


ドロロロロロロロロォォォォン!!!


両翼に搭載された大口径の20ミリ機関砲が、桁違いの破壊力でP-47の分厚い装甲を粉々に粉砕した。


それこそが、パックス・ジャポニカの誇る「三国同盟」の天才たちが、国家の垣根を越えて生み出した究極のキメラ戦闘機。

大日本帝国海軍の局地戦闘機『紫電改』の優れた空力特性と、イギリスの『スピットファイア(あるいはホーカー・テンペスト)』の優美な楕円翼デザインを融合。

さらに、心臓部にはドイツから亡命・派遣されたBMWやダイムラー・ベンツの天才技術者たちが設計し、日系メーカー(欧州三菱や欧州トヨタ)の驚異的な品質管理カイゼンで大量生産された、**『超高出力2500馬力級・液冷(あるいは空冷星型)エンジン』**を搭載した化け物。


**日英独・共同開発次世代主力戦闘機『紫電改2・エクスカリバー(仮称)』**であった。


「……すげえ。ドイツ人の変態的なエンジン設計と、イギリス人の美しい機体デザイン。それを日本人の職人芸でミリ単位の微修正を重ねて量産した結果が、これか」

『エクスカリバー』の操縦桿を握るイギリス空軍のエース・パイロットは、そのあまりの高性能ぶりに歓喜の震えを覚えていた。


アメリカのP-51ムスタングが旋回戦に持ち込もうとしても、『エクスカリバー』は日本の「自動空戦フラップ」の技術によって、信じられないほどの小回りを利かせて瞬時に背後を取る。

P-47が急降下で逃げようとしても、ドイツの空力技術と超高出力エンジンが、それを遥かに凌駕する速度で追いつき、日本の20ミリ機銃が確実に息の根を止めた。


「化け物だ! 撃ち落とせない! 我々の新型機が、赤子のようにひねられるぞ!」

アメリカのパイロットたちは、圧倒的な『技術の差』を前に、完全なるパニックに陥った。


### 5.エピローグ――折られたアメリカの翼


アイリッシュ海上空の航空戦は、アメリカ陸軍航空軍の「記録的な大惨敗」によって幕を閉じた。


護衛の新鋭戦闘機を次々と叩き落とされたB-17重爆撃機の編隊は、イギリス本土に辿り着く前に『エクスカリバー』の群れに包囲され、ハチの巣にされて次々とアイリッシュ海の冷たい波間へと消えていった。


「……爆撃機部隊の損耗率が、50%を超えました。出撃した新型戦闘機の半数以上が未帰還です」

アイルランドの基地で報告を受けたアメリカ軍の司令官は、膝から崩れ落ちた。


「……我々アメリカの工業力と最新技術が、たかが島国(イギリスと日本)の寄せ集めの戦闘機に、完全に負けたというのか……!」


この日、アメリカ合衆国は一つの残酷な真実を突きつけられた。

莫大な資金と無尽蔵の資源を持ち、単独で強力な兵器を大量生産するアメリカの「力技(ゴリ押し)」。

それに対し、大日本帝国の潤沢な資本力と精密な生産技術をハブとし、ドイツの基礎研究とイギリスのデザインセンスが完璧に融合した『日英独の技術の結晶』。


この二つの間には、もはや物量では決して埋めることのできない「圧倒的な技術的・質的格差」が生まれ始めていたのである。


エメラルドの空の死闘は、アメリカが航空優勢を完全に失う決定的な転換点となった。

そして、この「技術の敗北」の報告は、ワシントンで病床に伏せるルーズベルト大統領の命を、さらに削り取っていくことになる。


ヨーロッパと太平洋。

二つの戦線でアメリカの牙が完全に折られた1943年の2月。

しかし、これで安堵するには早すぎた。ユーラシア大陸の東では、いよいよ世界最強の「真の敵」が、静かに、そして確実にその巨大な本性を現し始めていたからである。


(第九章 第二話 完)


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