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78.オアフの泥沼――外洋要塞と血塗られた楽園

# 海洋帝国日本史 第八章:泥濘と狂乱の1942――崩れゆく世界と新たな火種


## 第七話(後編):オアフの泥沼――外洋要塞と血塗られた楽園(1942年9月中旬)


### 1.鋼鉄のスコール――真珠湾パールハーバーへの鉄槌


1942年9月13日。

アメリカ太平洋艦隊の全空母八隻を海の底へと葬り去り、四隻の味方空母を失うという凄惨な海空戦から一夜が明けた。


制海権と制空権を完全に掌握した大日本帝国・連合艦隊は、ついにアメリカ合衆国の太平洋における心臓部――ハワイ諸島・オアフ島へとその巨大な砲門を向けた。


「……空母の連中は、立派にヤンキーの主力艦隊を片付けてくれた。大鳳や赤城の無念を晴らすためにも、次は我々水上部隊が、あの島を徹底的に叩き潰す番だ」


連合艦隊旗艦、大和型戦艦一番艦**『大和』**の艦橋。

司令長官の号令と共に、駿河の誇る46センチ(18.1インチ)三連装主砲塔が、オアフ島のオアフ島南岸、真珠湾パールハーバーおよびホノルル市街地周辺の軍事施設へとゆっくりと旋回した。

随伴する戦艦『長門』『信濃』『駿河』などの巨砲も、一斉に仰角を上げる。


「目標、オアフ島沿岸要塞群および飛行場。……全砲門、テーッ!!」


ズドゴォォォォォォォォォォン!!!!!


太平洋の空気を根底から震わせる、数十門の大口径艦砲による一斉射撃。

放たれた重量一トンを超える徹甲弾と三式弾(対空・対地焼夷弾)が、美しいエメラルドグリーンの海と白い砂浜を越え、アメリカ軍の陣地に次々と着弾した。


ドガァァァァァァン!!

ワイキキ・ビーチの背後にそびえる死火山、ダイヤモンド・ヘッドの中腹に構築されていたアメリカ軍の砲兵陣地が、46センチ砲弾の直撃を受けて山肌ごと吹き飛んだ。

ヒッカム飛行場の滑走路は巨大なクレーターだらけになり、真珠湾の港湾施設は燃え盛る火柱と黒煙に包まれる。


「砲撃が止まない! ジャップの戦艦が、島を丸ごと沈める気だぞ!」

地下防空壕の中で、アメリカ陸軍の守備隊員たちは、鼓膜を突き破るような爆音と絶え間ない地響きに頭を抱え、絶叫した。

かつての南国の楽園は、一瞬にして弾片と爆炎が吹き荒れる「鋼鉄のスコール」の地獄へと変貌したのである。


### 2.死の波打ち際――帝国海兵隊の強襲上陸


数時間にも及ぶ猛烈な艦砲射撃の煙が、海風に流され始めた午前10時。

沖合に停泊していた無数の帝国陸海軍の輸送船団から、地獄の蓋が開かれた。


「進め! 太平洋の覇権を、我が軍靴で踏み固めるのだ!」

上陸用舟艇(大発動艇など)にびっしりと乗り込んだ、数万の**『帝国海兵隊』**と陸軍の精鋭部隊。

彼らは、波を蹴立ててオアフ島の海岸線(ワイキキから真珠湾周辺のビーチ)へと猛然と殺到した。


ガシャァッ!

舟艇の道板が白い砂浜に下ろされ、カーキ色の軍服を着た帝国兵たちが、銃剣を煌めかせながら一斉に雪崩れ込む。


しかし。

彼らを待ち受けていたのは、艦砲射撃で全滅したはずの「無人の浜辺」ではなかった。


「……ジャップが上陸してきたぞ。水際で一歩も通すな! ハワイを失えば、次は西海岸だ!」

海岸線に張り巡らされた分厚いコンクリート製のトーチカ(掩体壕)。

艦砲射撃の嵐を分厚い岩盤の下で耐え抜いていたアメリカ陸軍の守備隊が、銃眼の奥から重機関銃の銃身を不気味に突き出した。


タタタタタタタタッ!!!

ブローニングM2重機関銃の猛烈な十字砲火が、上陸直後の帝国海兵隊員たちを容赦なく薙ぎ倒した。


「うわぁぁっ!」

「機関銃座だ! 前方のトーチカを潰せ!」


美しいハワイの白い砂は、瞬く間に帝国兵の血で赤く染まった。

アメリカ軍は、ハワイが帝国海軍の標的になることを開戦当初から完璧に予測し、数ヶ月にわたってオアフ島の海岸線を「要塞化」していた。幾重にも張り巡らされた鉄条網、水中の上陸阻害工作物、そして死角のないキルゾーン。


「進めません! 敵の防御が固すぎます!」

「怯むな! 煙幕を張れ! 手榴弾と火炎放射器でトーチカの息の根を止めろ!」


帝国海兵隊は、甚大な出血を強いられながらも、死体の山を乗り越えてジリジリと前進した。

火炎放射器の灼熱の炎がトーチカの銃眼から吹き込まれ、中でアメリカ兵が焼け焦げる悲鳴が響き渡る。肉弾戦と白兵戦が、ヤシの木が立ち並ぶビーチリゾートで凄惨に繰り広げられた。


### 3.外地と内地――二つの国家観の衝突


このハワイ攻防戦において、アメリカ軍の抵抗が異常なほど頑強であった理由は、単なる軍事的な要塞化だけではない。

そこには、アメリカという国家が抱く「絶対的な恐怖」が存在していた。


ホノルルの地下司令部。

「……司令官、太平洋艦隊は撤退し、我々は完全に見捨てられました。この島に未来はありません。降伏の許可を……」

疲労困憊の参謀が震える声で進言したが、アメリカ軍の司令官は血走った目で首を横に振った。


「馬鹿を言うな! ここは、我がアメリカ合衆国にとって『最後の外洋要塞』なのだぞ!」


アメリカ人にとって、ハワイは自国の本土メインランドを守るための、太平洋に突き出た巨大な防波堤(緩衝地帯)であった。先住民であるハワイ人のことなどどうでもいい。彼らにとってこの島は、あくまで遠く離れた**『外地(植民地)』**に過ぎなかった。

「しかし、ここ(外地)を落とされれば、ジャップの砲身は直接サンフランシスコやロサンゼルスに向けられる! ……我々は本土の家族を守るために、最後の一兵になるまで、この島をジャップの血で染め上げねばならないのだ!」


本土を守るための「捨て石」としての絶対的な恐怖と使命感。それが、アメリカ陸軍を死狂いさせていた。


対する大日本帝国。

彼らのハワイ攻略は、単なる「敵の基地の破壊」ではなかった。


「……よく聞け、海兵隊の諸君」

上陸前の輸送船の中で、帝国の将校は部下たちにこう訓示していた。

「アメリカにとってハワイは単なる軍事基地(外地)かもしれん。だが、我が大日本帝国は違う。手に入れた領土はすべて『内地』と同等に見なし、天皇陛下の赤子として等しく愛し、統合していく。……それが『八紘一宇(世界を一つの家とする)』という我が国の理想だ」


大日本帝国の「同化政策」の是非はともかく、彼らはハワイを自らの「新たな領土(内側の世界)」として完全に組み込むという、極めて強固な政治的・国家的意志を持って上陸してきていた。

「かつてアメリカに国を奪われたハワイの民を解放し、大東亜の新たな一員として迎えるのだ! ここはすでに、我が国の土である!」


「外地(壁)」として死守しようとするアメリカと、「内地(領土)」として完全に併合しようとする日本。

二つの全く異なる巨大な国家観が、このオアフ島という狭い火山島の上で、極限の暴力となって真っ向から激突したのである。


### 4.釘付けの軍靴――膠着する血の楽園


9月15日。

上陸から数日が経過し、帝国海兵隊は莫大な犠牲を払いながらも、オアフ島の南岸(ホノルル市街地の一部と、真珠湾の港湾施設)をなんとか占領することに成功した。


「……パールハーバーの星条旗を引きずり降ろしました! 我が軍の橋頭堡きょうとうほは確保されました!」


しかし、勝利の歓喜はすぐに冷酷な現実にかき消された。

ホノルルを制圧したものの、そこから内陸(島の北側や山岳地帯)へと進もうとする帝国軍の前に、さらに絶望的な防衛線が立ちはだかっていたからだ。


「……山から撃ってきます! アメリカ軍の重砲が、コオラウ山脈の尾根に陣取っています!」

オアフ島特有の切り立った火山岩の山脈。アメリカ軍は、ホノルルを奪われることを見越し、島の山岳地帯の洞窟や斜面に、無数のトーチカと大砲を隠し持っていたのである。


ドガァァァァン!!

山からの正確な砲撃が、上陸したばかりの帝国軍の補給物資と戦車を吹き飛ばす。

ジャングルと険しい山肌に潜むアメリカ兵は、ゲリラ戦を展開し、帝国軍の進軍を完全にストップさせた。


「駄目です! 海軍の艦砲射撃も、山の裏側や洞窟の中までは届きません! 歩兵が山を登って、一つずつシラミ潰しにするしか……!」


それは、ヨーロッパの仏独国境でフランス軍がハマった「マジノ線の泥沼」と全く同じ地獄であった。

帝国軍は海岸線に強力な橋頭堡を築いたものの、アメリカ軍の強固な山岳防衛の前に完全に「釘付け」にされてしまったのである。


「ヤンキーの奴ら、本土からの補給が絶たれているというのに、なぜあれほど弾薬があるのだ!?」

帝国軍の指揮官が苛立ちを隠せずにいると、偵察機からの報告がもたらされた。


「……司令官! オアフ島の北側から、星条旗を掲げた無数の高速輸送船団が、夜陰に乗じて物資を降ろしています!」


アメリカは、ハワイを完全に見捨てたわけではなかった。

西海岸から、俊足の駆逐艦や武装輸送船を使った決死の強行輸送作戦――のちに**『ハワイ・エクスプレス』**と呼ばれる血みどろの補給線が、帝国の潜水艦網をかいくぐって、オアフ島の北岸に絶え間なく弾薬と食糧を運び込み続けていたのである。


### 5.エピローグ――狂乱の秋へ


1942年9月下旬。

大日本帝国は、太平洋の天王山たる海空戦に勝利し、ハワイの真珠湾を占領するという歴史的偉業を成し遂げた。

しかし、オアフ島の半分は依然としてアメリカ軍の強固な支配下にあり、美しい熱帯の楽園は、互いの血と泥にまみれた果てしない「消耗戦(泥沼)」の舞台へと変貌してしまった。


アメリカは、本土防衛の最終防波堤を死守するため、無尽蔵の工業力を「ハワイ・エクスプレス」に乗せて注ぎ込み続ける。

帝国軍もまた、この島を完全に「自国の領土(内地)」とするため、本土から次々と海兵隊の増援を送り込む。


太平洋の戦局が、このオアフ島という極小の点で「完全な膠着」へと陥ったその頃。

地球の裏側、ヨーロッパでは、ついに「新ナポレオン」の夢が完全に息の根を止められようとしていた。


ドイツ機甲師団の進撃、アイルランドにおけるアメリカ空軍の猛威、そして大西洋で米艦隊を血祭りに上げるドイツ海軍の巨大戦艦たち。

ハワイの泥沼から目を転じれば、1942年の秋のヨーロッパは、国家の崩壊と裏切りが交錯する、文字通りの「狂乱の嵐」の中にあった。


世界大戦のシーソーは、絶望的な摩擦音を立てながら、次なる血の10月へと傾き始めていたのである。


(第七話(後編)完)


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