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77.太平洋の天王山――ハワイ沖海空戦

# 海洋帝国日本史 第八章:泥濘と狂乱の1942――崩れゆく世界と新たな火種


## 第七話(前編):太平洋の天王山――ハワイ沖海空戦(1942年9月上旬)


### 1.決戦の海へ――八対六の巨大陣形(1942年9月10日)


1942年9月10日。

太平洋の中央、常夏の楽園であったはずのハワイ諸島周辺海域は、人類史上最大にして最悪の「鋼鉄の修羅場」と化そうとしていた。


西からハワイへと迫るのは、先の開戦劈頭の大出血から完全に立ち直り、新たな牙を剥き出しにした**大日本帝国・連合艦隊**。

新鋭の装甲空母『大鳳』『白鷺』『黒鷺』、修復を終えた『赤城』『瑞鶴』、そして『翔鶴』『翠海』『和泉』を中心とする、計**八隻の正規空母群**。さらにその後方には、大和型三番艦『駿河』を旗艦とする巨大な水上打撃部隊が、海面を黒く染め上げるような威容で進陣していた。


対する東、ハワイ・真珠湾から出撃したのは、アメリカ合衆国の存亡を懸けて再建された**アメリカ太平洋艦隊**である。

大西洋から強引に引き抜かれた『レンジャー』、突貫工事で就役を大きく前倒しした新鋭エセックス級4隻『エセックス』『ヨークタウン』『イントレピッド』『ホーネット』、歴戦の『ワスプ』『レキシントン』『サラトガ』。計**8隻の空母**が、星条旗をはためかせて迎撃の陣を敷いていた。


「……空母の数では八対八。こちらは装甲空母で、あちらは戦時量産型であるとはいえ、油断はできん」

連合艦隊の旗艦『駿河』の艦橋で、司令長官は双眼鏡から目を離さずに呟いた。

「敵の背後には、要塞化されたハワイ・オアフ島の陸上基地がある。そこから発進するアメリカ陸軍航空軍の爆撃機(B-17等)を含めれば、空の戦力は互角、いやそれ以上かもしれん」


ハワイ沖海戦。

それは、史実におけるミッドウェー海戦の規模を遥かに凌駕する、数百機の航空機と数十隻の巨艦が入り乱れる、大洋の覇権を懸けた絶対的な天王山であった。


### 2.狂乱の夜戦命令――大統領の強迫観念(9月11日深夜)


両艦隊の距離が数百海里にまで縮まった、9月11日の深夜。

アメリカ太平洋艦隊の旗艦において、司令長官はワシントンから届いた暗号電報を握りしめ、怒りと絶望に顔を歪ませていた。


「……大統領からの直接命令だ。『夜陰に乗じて距離を詰め、ジャップの艦隊に夜戦を挑め。夜明けを待たずに敵空母を沈めよ』だと!?」


十一月の中間選挙を控え、西海岸砲撃のパニックで完全に理性を失っていたルーズベルト大統領は、軍事的な合理性を完全に無視した強迫観念に囚われていた。

「航空機による遠距離戦では、ジャップの優秀なパイロットに隙を突かれる! ならば夜のうちに戦艦と巡洋艦を突撃させ、乱戦に持ち込んで一気に片を付けろ!」という、素人同然の無茶苦茶な命令である。


「大統領は狂っている! 相手の艦隊には、あの化け物(大和型)がいるのだぞ! 夜戦を挑めば、我が軍の薄い装甲の巡洋艦など一溜りもない!」

しかし、最高司令官の絶対命令に背くことはできず、アメリカ艦隊は空母の護衛を薄くしてまで、水上部隊を夜の闇の中へ猛進させざるを得なかった。


これが、アメリカ太平洋艦隊にとって致命的な「陣形の乱れ」を引き起こした。

帝国海軍の優秀な夜間偵察機と電探レーダーは、無謀にも突っ込んでくるアメリカの水上部隊を暗闇の中で完全に捕捉していたのである。


「ヤンキーども、血迷ったか。……ならば、夜明け前に少し血を抜いてやれ」

帝国海軍の水雷戦隊が、闇夜に紛れて酸素魚雷の扇状発射を敢行。

ドガァァァァン!!

夜の海に巨大な火柱が上がり、突撃してきたアメリカの重巡洋艦が数隻、為す術もなく海の底へと引きずり込まれた。夜戦の目論見は完全に失敗し、アメリカ艦隊は無用な損害と混乱を抱えたまま、運命の「夜明け」を迎えることとなった。


### 3.大空の死闘開幕――ハワイからの猛禽(9月12日早朝)


1942年9月12日、午前5時30分。

太平洋に美しい朝日が昇ると同時に、両軍の空母の飛行甲板から、エンジンの爆音が嵐のように轟き始めた。


「第一次攻撃隊、発艦! 目標、ヤンキーの空母群!」

帝国海軍の八隻の空母から、零式艦上戦闘機、九九式艦爆、九七式艦攻の圧倒的な大編隊(計三百機超)が、空を黒く染め上げて東へと飛び立った。


しかし、アメリカ軍もまた、最後の一線を守るために「なりふり構わぬ」大攻勢を仕掛けてきた。

「全機、死んでもジャップの空母に爆弾を叩き込め! ハワイの陸軍航空隊もすでに向かっている!」


アメリカの八隻の空母から飛び立ったF4Fワイルドキャット、SBDドーントレス、TBFアベンジャーの大群。(熟練パイロットの損失により新人多め)

さらに、ハワイのヒッカム基地などから発進した**アメリカ陸軍航空軍のB-17四発重爆撃機**の巨大な編隊が、雲を突き抜けて帝国艦隊の頭上へと殺到したのである。


「敵機直上! 数え切れません! 陸軍の大型爆撃機も混じっています!」

「対空砲火、撃ち方始め! 直掩の零戦、上空へ急げ!」


空を埋め尽くすほどの対空砲火の弾幕が打ち上げられ、ハワイ沖の青空は、瞬く間に黒い硝煙と曳光弾の網の目に覆われた。


### 4.流血の代償――沈みゆく帝国の空母(9月12日午前)


この日のアメリカ軍パイロットたちの戦意は、異常であった。

彼らは「ここで負ければ、アメリカ本土がジャップの軍靴に踏みにじられる」という恐怖と使命感に駆られ、狂気じみた特攻まがいの突撃を繰り返した。


ダダダダダッ! ズドドドドッ!

被弾して火だるまになったドーントレス急降下爆撃機が、空中で自爆する直前まで操縦桿を押し込み、帝国海軍の空母に向かって垂直にダイブしてくる。


「回避間に合いません! 敵機、突っ込んできます!」


ドガァァァァァァン!!!


凄まじい爆発が、修復を終えたばかりの正規空母**『赤城』**の飛行甲板を無惨に引き裂いた。

装填中の魚雷と爆弾に次々と誘爆し、赤城の巨大な艦体は、瞬く間に制御不能の炎の塊と化した。

「……赤城、被弾! 致命傷です!」


さらに、ハワイから飛来したB-17の高高度水平爆撃と、海面スレスレを這い寄るアベンジャー雷撃機の「十字砲火」が、帝国艦隊の陣形を容赦なく食い破る。


「右舷より魚雷三本! 躱せません!」

ズゴォォォォォォン!!

水柱が上がり、空母**『翠海すいかい』**と**『和泉いずみ』**の喫水線下を無慈悲に抉り取った。海水が滝のように流れ込み、二隻の空母は急速に傾斜を始める。


そして、帝国海軍が絶対の自信を持っていた新鋭の装甲空母**『大鳳たいほう』**にも、後がないアメリカ軍の狂気の牙が突き立てられた。

大鳳の分厚い装甲飛行甲板は、500ポンド爆弾の直撃を何度か弾き返した。しかし、アメリカ軍の雷撃機部隊が、自らの命を犠牲にしながら至近距離で魚雷を投下。


ガァァァァン!! ドォォン!!

大鳳の艦首と艦尾に立て続けに魚雷が命中し、航空燃料タンクが破損。艦内に充満した気化ガスに引火し、大鳳の強固な装甲の「内側」で、破滅的な大爆発が引き起こされてしまった。


「……大鳳、沈みます! 総員退艦!」


午前中のわずか数時間の戦闘で、帝国海軍は『大鳳』『赤城』『翠海』『和泉』という、四隻もの貴重な航空母艦を喪失するという、血の凍るような莫大な代償を支払うこととなったのである。


### 5.星条旗の落日――アメリカ空母の完全消滅(9月12日午後)


しかし、アメリカ軍が狂気特攻で帝国海軍に流血を強いていたその裏で。

帝国海軍の放った三百機超の攻撃隊もまた、アメリカ太平洋艦隊の頭上へ、冷酷無比な「死の鉄槌」を振り下ろしていた。


「……味方の空母が燃えているそうだ。……ヤンキーども、絶対に生かして帰さんぞ」

帝国海軍の熟練パイロットたちは、眼下で炎上する母艦の姿を想像し涙を流しながらも、極めて冷徹に、そして正確にアメリカ空母の急所を狙い定めた。


ヒュルルルルルル……!

九九式艦爆の編隊が、太陽を背にして急降下を開始。

彼らを阻もうとするアメリカの防空網は、夜戦命令の混乱で護衛艦の陣形が乱れていたため、極めて脆弱であった。


ズガァァァァァァン!!!

一番槍の徹甲爆弾が、就役したばかりの新鋭空母**『エセックス』**の木製飛行甲板を紙のように貫通し、格納庫の中で炸裂した。

巨大な火柱が上がり、アメリカの巨大な工業力の結晶は、わずか一撃で再起不能のスクラップと化した。


「エセックスがやられた! 対空砲火、もっと厚く張れ!」

アメリカ艦隊の悲鳴を嘲笑うかのように、雷撃機の九七式艦攻が海面スレスレから接近し、無数の酸素魚雷を放つ。

ドゴォォォォン!! ドォォン!!

改良型酸素魚雷は就役したばかりで、練度が浅く、回避行動が間に合わなかった『イントレピッド』『ホーネット』の横っ腹をぶっ放した。


ドゴォォォォン!!

反対側からも大鳳に載っていた帝国最新鋭艦攻である『流星』の試作機12機が魚雷を放つ。

**『ヨークタウン』**、そして大西洋から遥々回航されてきた**『レンジャー』**の横腹に魚雷が突き刺さり、あっさり艦体が真っ二つにへし折れて轟沈。


さらに、歴戦の空母****『レキシントン』**も、凄まじい急降下爆撃の雨を浴び、上部構造物をハチの巣にされて炎上、沈没した。


「……駄目だ。我が軍の空母が、次々と沈んでいく……!」

アメリカ太平洋艦隊の司令官は、煙で黒く染まった空を見上げ、絶望のどん底に突き落とされた。


最後に残された巨大空母**『サラトガ』**も、複数の爆弾、魚雷を受け、艦体を大きく傾斜させて大破。奇跡的に沈没こそ免れたものの、もはや航空機の発着艦は不可能な状態(大破)に陥った。歴戦の『ワスプ』すらも甲板に大きなダメージを受け、1本の魚雷を食らうという非常事態であった。


午後3時。

ハワイ沖の海面には、燃え盛る残骸と、真っ黒な重油の海がどこまでも広がっていた。


帝国海軍は四隻の空母を失うという痛恨の極みを味わった。

しかし、アメリカ太平洋艦隊が支払った代償は、それを遥かに上回る「完全な破滅」であった。

『エセックス』『ヨークタウン』『レンジャー』『ホーネット』『イントレピッド』『レキシントン』が轟沈。『サラトガ』が中破。『ワスプ』が小破。


アメリカがハワイ防衛のためにかき集めた**「すべての航空母艦」**が、この一日の海空戦によってほぼ、ほぼ完全に消滅したのである。


「……空母を多く失った。これ以上の戦闘継続は不可能だ。ハワイの陸上部隊を見捨てることになるが……全艦隊、西海岸へ向けて撤退せよ」

太平洋艦隊の司令長官は、血を吐くような思いで敗走の命令を下した。


大空の死闘は、帝国の辛勝(アメリカの軍事的な完全敗北)によって幕を閉じた。

(正確には航空母艦2隻は復活するがそれでも時間がかかるし、エセックス級については突貫工事で4隻作り上げたため次の就役には半年以上を要するとされていた。)

制海権と制空権を完全に失ったハワイ・オアフ島は、太平洋という巨大な海の中で、完全に孤立無援の絶海へと切り離されたのである。


そして、炎上する空母の残骸を乗り越え。

沖合で待機していた大日本帝国の無数の輸送船団から、地獄の海兵隊員たちを乗せた上陸用舟艇が、ハワイの白い砂浜へ向けて一斉に解き放たれた。


「太平洋の覇権は決した! これより、ハワイ諸島を大日本帝国の領土とする!!」


(第七話(前編)完)



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