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60.ミッドウェー炎上と白旗――沈黙の防波堤

# 海洋帝国日本史 第六章:太平洋の業火と狂乱の連鎖


## 第十話:ミッドウェー炎上と白旗――沈黙の防波堤(1941年12月15日〜17日)


### 1.追撃の白波――12月15日、絶対防衛線の突破


1941年(昭和16年)12月15日。

中央太平洋における日米艦隊の凄惨な夜戦、そして虎玖トラック島での血塗られた撤退戦から数日が経過していた。


「……逃げるヤンキーの背中を、このまま見送るつもりはない。ハワイの喉元に、帝国の絶対的なくさびを打ち込む」

太平洋を東へと進む巨大な輪形陣の中心。空母**『桜雅おうが』**の艦橋で、**臨時第二連合艦隊**の司令長官は、冷徹な眼差しで海図を睨みつけていた。


彼ら第二連合艦隊(空母4隻、戦艦4隻を中心とする大部隊)は、夜戦には参加せず、無傷のまま虎玖救援のために北上していた。そして米軍の撤退を確認するや否や、休むことなくそのまま東進し、アメリカの太平洋における最重要前哨基地――**ミッドウェー環礁**へとその矛先を向けたのである。


ミッドウェー島は、ハワイ・真珠湾からわずか2100キロ。ここを帝国軍に奪われれば、アメリカはハワイを直接爆撃される恐怖に晒されることになる。

「虎玖で我が軍が流した血の代償だ。この島を奪い、アメリカの太平洋における出っ鼻を完全にへし折る!」


午前6時。

日の出と共に、ミッドウェー島のレーダーが、西の水平線から接近する「絶望的な数の大編隊」を捉えた。

臨時第二連合艦隊の空母『桜雅』『関鳳』『和泉』『翠海』から発進した、第一波攻撃隊・約150機である。


「敵機来襲! ジャップの空母部隊だ! 数百機がこちらへ向かってくるぞ!」

ミッドウェー島の米陸軍守備隊および航空基地に、けたたましいサイレンが鳴り響いた。


### 2.第二次航空決戦――ミッドウェー上空の死闘


「全機、ただちに離陸しろ! 迎撃だ! 空で奴らを叩き落とせ!」

ミッドウェー基地の滑走路から、砂煙を上げてアメリカ陸軍航空軍のP-40戦闘機、F2Aバッファロー、そして残存していたB-17爆撃機群が、次々と緊急発進スクランブルを行った。


彼らは、数日前に虎玖や横須賀を空爆し、勝利の美酒に酔いしれていた部隊の生き残り、あるいはその留守を預かっていた者たちである。しかし今、彼らが直面しているのは「奇襲」ではなく、制空権を完全に掌握しようとする帝国海軍との「正面衝突」であった。


高度5000メートルの上空。

「迎撃機、上がってきます! P-40多数!」

「蹴散らせ。爆撃機を島へ通すんだ!」


帝国海軍の『紫電改』と改良型『零戦』の編隊が、太陽を背にして急降下し、上昇しきれていないアメリカ軍の戦闘機群に猛然と襲い掛かった。


ダダダダダッ! バババババッ!

数日前の空戦の再現(第二次ゲーム)である。しかし、今回はアメリカ軍に『サッチ・ウィーブ』を指揮するような熟練の海軍パイロット(エース)は不在であった。陸軍主体の荒削りなパイロットたちは、空冷式エンジンの異常な旋回性能を誇る帝国の戦闘機に、為す術もなく背後を取られていった。


「うわぁぁっ! 後ろにべったり張り付かれている! 振り切れない!」

防弾ガラスが砕け散り、P-40が次々と火だるまになってミッドウェーの青い海へと墜落していく。B-17爆撃機も、護衛を失った状態で帝国軍機の20ミリ機銃の集中砲火を浴び、空中分解を起こした。


空の死闘は、わずか一時間で決着がついた。米陸軍航空隊は健闘し、20機を超える帝国海軍航空隊を戦闘機や爆撃機を落としたが、ミッドウェーに配備されていたアメリカ軍の航空戦力は、帝国の圧倒的な技量と機体性能の前に完全に沈黙し、島の制空権は帝国海軍の手に完全に落ちたのである。


### 3.鋼鉄の雨――戦艦部隊による容赦なき砲爆撃


午前9時。

上空の安全が完全に確保されたミッドウェー島周辺海域に、巨大な鋼鉄の山が四つ、ゆっくりと姿を現した。

臨時第二連合艦隊が誇る戦艦群、**『長門』『紀伊』『星空』『金浜』**である。


虎玖島では、アメリカ軍の戦艦が「見えない要塞砲」の餌食となった。しかし、このミッドウェーにおいて、帝国軍は完璧な制空権と制海権の下、一切の奇襲を恐れることなく、悠然と「砲撃陣形」を構築した。


「目標、ミッドウェー島・米軍飛行場および陸上陣地。……各艦、砲門を開け」

旗艦『長門』の艦橋から、静かな、しかし無慈悲な命令が下された。


テーッ!!」


ズドゴォォォォォォォォォォン!!!


四隻の戦艦から、計三十門以上の41センチ(16インチ)主砲が一斉に火を噴いた。

発射の衝撃波で海面が大きく波立ち、巨大な砲弾の雨が、美しいサンゴ礁の島へと降り注ぐ。


ヒュルルルルルル……ドガァァァァァァン!!!


島が、丸ごと宙に浮いたかのような錯覚に陥るほどの大爆発。

41センチ徹甲弾と三式弾(対空・対地焼夷弾)が、滑走路のコンクリートを粉々に砕き、米軍の弾薬庫を直撃して巨大なキノコ雲を発生させた。


「伏せろォォッ! 塹壕から出るな!」

「鼓膜が破れる! 神様、助けてくれ!」

米陸軍の守備隊員たちは、塹壕の泥に顔を押し付けながら、絶叫した。

虎玖島で帝国海兵隊が耐え抜いた「艦砲射撃の恐怖」を、今度は彼らが味わう番であった。しかし、ミッドウェーは虎玖のような巨大な山や複雑な地下要塞を持たない、平坦な環礁である。

戦艦の巨砲は、島の隠れ場所という隠れ場所を、文字通り「更地」へと変えていった。


砲撃は、実に三時間にも及んだ。

ミッドウェー島の地表は、砲弾のクレーターで月面のようにボコボコになり、至る所から黒煙と炎が噴き上がっていた。


### 4.空と海からの強襲――決死の上陸戦


午後1時。

艦砲射撃の煙がまだ晴れぬ中、帝国軍の「真の刃」が島へと差し向けられた。


「降下用意! ……降下ゴー!!」

上空を飛来した輸送機の大編隊から、無数の純白の落下傘パラシュートが、ミッドウェーの黒い空へと放たれた。

帝国が極秘裏に育成していた最精鋭部隊、**『帝国空軍特殊空挺団』**の強襲降下である。


「空から来るぞ! 撃て! パラシュートを狙え!」

生き残っていたアメリカ兵が、対空機銃を必死に撃ち上げる。数名の空挺隊員が空中で被弾し、血の尾を引いて落下していく。しかし、彼らは着地するや否や、素早くパラシュートを切り離し、機関短銃を構えてアメリカ軍のトーチカの背後へと回り込んだ。


同時に、海岸線には海からの強襲部隊が殺到していた。

豪州オーストラリアの駐屯基地から緊急出撃してきた、実戦経験豊富な**『帝国海軍海兵隊(豪州駐屯部隊)』**を乗せた上陸用舟艇が、白い砂浜に次々と道板を下ろしたのである。


「進めェェッ! 島を制圧しろ!」

「ウラァァァッ!」


タタタタタタタッ!

海岸線で、生き残ったアメリカ陸軍守備隊との凄惨な近接戦闘(CQB)が始まった。

土嚢の積まれた機銃座から、ブローニング機関銃が火を噴く。帝国海兵隊員が数名吹き飛ばされるが、後続の兵士が火炎放射器を構え、トーチカの銃眼から灼熱の炎を吹き込んだ。


「ギャアアァァァッ!」

燃え盛る米兵が陣地から飛び出してくる。

砂浜は血に染まり、サンゴ礁の白い砂が手榴弾の爆発で黒く焦げていく。空挺団が内陸の通信施設と弾薬庫を制圧し、海兵隊が海岸線から網を狭めていく。


「司令官! 防衛線が突破されました! ジャップの海兵隊が滑走路の南側に迫っています!」

地下の司令部で、米陸軍の守備隊司令官は、泥と汗にまみれながら受話器を握りしめていた。

「ハワイはどうした! 真珠湾からの援軍はまだ来ないのか!?」


### 5.見捨てられた守備隊――12月16日


12月16日、夜。

戦闘は夜通し続けられ、ミッドウェー島は完全に帝国軍の包囲下に置かれていた。


米軍守備隊の状況は、絶望の一語に尽きた。

弾薬は底を突き、飲料水は破壊されたタンクから泥水となって流出。多くの負傷兵が、野戦病院と化した防空壕の中で、モルヒネもなしに痛みに呻いている。


「司令官……ハワイの太平洋艦隊司令部から、暗号電が届きました」

通信将校が、震える声で解読紙を差し出した。

そこに記されていたのは、守備隊の将兵の心を完全にへし折る、冷酷な通達であった。


『太平洋艦隊主力ハ、現在真珠湾ノ防衛ニ専念中ナリ。ミッドウェー島ヘノ援軍・補給ノ派遣ハ不可能。貴官ラノ勇猛ナル敢闘ヲ祈ル』


「……なんだと?」

司令官は、解読紙を握りつぶした。

「我々を見捨てるというのか! ここが落ちれば、次はハワイが燃えるのだぞ! なぜ艦隊を出さない!」


しかし、ハワイの太平洋艦隊司令部もまた、極度のパニックと混乱の中にあった。

横須賀と虎玖での完全な勝利から一転、無敵を誇った機動部隊と新鋭戦艦群の喪失。

ハワイの首脳陣は、「帝国艦隊が、そのままハワイへ直接攻撃を仕掛けてくる」という恐怖に完全に支配されており、ミッドウェーに割く戦力など一隻も残されていなかったのである。


政治家の狂乱によって始まった戦争は、前線の兵士たちに「見捨てられる」という最も残酷な結末を突きつけていた。


外からは、帝国海兵隊による降伏勧告の拡声器の声が、日本語と英語で繰り返し響いていた。

『……抵抗は無意味である。武器を捨てて降伏せよ。我々は、国際法に基づき、諸君の命と捕虜としての権利を保証する』


「司令官……もう、弾がありません」

泥だらけの若い兵士が、空のライフルを抱えたまま、司令官を見つめて静かに泣いていた。


「……通信士」

司令官は、軍帽を深く被り直し、重く、かすれた声で言った。

「ジャップの司令部へ無電を打て。……『これ以上の流血は無用と判断す。我が部隊は、貴軍の軍門に降る』とな」


### 6.降伏と白旗――12月17日未明


1941年12月17日、午前5時。

夜明けの冷たい風が、硝煙の匂いをミッドウェーの海へと運んでいく中。

破壊され尽くした司令部のバンカーから、一枚の「白い布(白旗)」を掲げたアメリカ陸軍の将校たちが、ゆっくりと姿を現した。


彼らを囲むように、銃剣を構えた帝国海兵隊と空挺団の兵士たちが、無言で整列している。


アメリカの守備隊司令官は、帝国軍の指揮官(第二連合艦隊の陸戦隊長)の前へ進み出ると、ゆっくりと腰の拳銃を外し、その銃口を自分に向けて差し出した。降伏の儀式である。


「……私の部下たちは、よく戦った。どうか、負傷兵の治療を頼む」

「承知した。貴官らの勇気ある抗戦に、敬意を表する」


帝国軍の指揮官は、その拳銃を受け取ると、静かに敬礼を返した。

虎玖島でアメリカ軍が拒否し、泥沼の全滅戦を選んだのとは対照的に、ミッドウェーの守備隊は「無意味な全滅」を避け、兵士の命を救うための降伏を受け入れたのである。


こうして、開戦からわずか十日間で、アメリカは太平洋における最重要拠点を完全に喪失した。

ミッドウェー島には日章旗が翻り、ここを前線基地(不沈空母)とした帝国軍の巨大な防波堤が、ハワイの目と鼻の先に完成したのである。


太平洋の第一幕は、ここに終わった。

ルーズベルトの狂気が引き起こした「真珠湾(横須賀)のテロリズム」は、帝国海軍の凄まじい怒りと反撃を呼び起こし、結果としてアメリカの太平洋における軍事的プレゼンスを完全に粉砕するという、致命的な大破局をアメリカ自身にもたらした。


しかし。

太平洋で日米が死闘を繰り広げ、このミッドウェーが陥落するよりも『十日ほど前』のこと。

横須賀が炎に包まれたあの運命の日。


アメリカの敗北という事実がまだ確定していなかったその瞬間に、地球の裏側では、ある男の「狂気」が、完全に制御不能の臨界点に達しようとしていた。


**1941年12月7日(世界標準時)――「Memorial Day(世界大戦開始の日)」。**

極東の業火は、大西洋を飛び越え、ヨーロッパという巨大な火薬庫に引火する。


新ナポレオンの進軍。

そして、血塗られたユーラシア大陸の地獄絵図が、今、その幕を開けようとしていた。


(第六章 完)


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