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58.死闘の果てに――四十六糎の咆哮と波間の武士道

# 海洋帝国日本史 第六章:太平洋の業火と狂乱の連鎖


## 第八話:死闘の果てに――四十六糎の咆哮と波間の武士道(開戦六日目・夜)


### 1.漆黒のとばり――1900時、中央太平洋


1941年12月12 日、午後7時。

太陽は完全に水平線の底へと沈み、中央太平洋は月明かりすらない漆黒の闇に包まれていた。


昼間の凄惨な航空決戦により、互いの機動部隊は空母を喪失・中破し、空の戦いは強制的に幕を下ろした。

アメリカ海軍・第16および第17任務部隊の残存艦艇は、南洋での作戦継続を諦め、東方への撤退を試みていた。


彼らの殿しんがりを務め、太平洋の暗闇に巨大な鋼鉄の壁として立ち塞がったのは、アメリカ海軍が誇る最新鋭の戦艦群であった。

昼間の雷撃で損耗したとはいえ、依然として**『ワシントン』『サウスダコタ』『マサチューセッツ』『ノースカロライナ』**、そして新たに合流していた同型艦**『インディアナ』**。『ウエストバージニア』は駆逐艦に引っ張られる形で生き残った空母と共に早々にハワイに向けて撤退していた。

16インチ(40.6センチ)砲を搭載した、計5隻の無傷に近い新鋭巨艦が、単縦陣を組んで海原を圧していたのである。


「ジャップの空母はもう航空機を飛ばせない。夜になれば、我々の『SGレーダー』の独壇場だ」

アメリカ戦艦部隊の指揮官、ウィリス・リー少将は、旗艦ワシントンの艦橋で闇を睨み据えた。

「連中の水上艦隊が追撃してくるなら、レーダー射撃で暗闇から一方的にアウトレンジして海の底へ沈めてやる。夜の間に空母部隊を逃がせば、朝にはミッドウェーから直掩機が来る。」


一方、彼らを追撃する帝国海軍・第一連合艦隊。

戦艦『大和』『安芸』『金剛』『比叡』『榛名』の5隻。数は同じだが、後者3隻は第一次大戦の設計を引きずる旧式の巡洋戦艦である。

ちなみに豪州からの『臨時第二連合艦隊(長門ほか)』は、この海域にはいなかった。彼らは虎玖の窮地を救い、さらにハワイとミッドウェーを牽制するため、完全に別働隊として南側から北へ針路を取っていた上に距離が離れていた。


結果として、第一連合艦隊は、純粋な戦艦による艦隊戦力において「アメリカの優位」という状況を余儀なくされていた。


### 2.忍び寄る白刃――水雷戦隊とレーダーの激突


午後7時30分。

静寂を破ったのは、大砲の轟音ではなく、「音なき死の槍」であった。


「敵艦隊、レーダーニ探知! 距離一万五千!」

帝国海軍もまた、アメリカの専売特許と思われていた(帝国政府はレーダー技術を秘匿していたため、米国政府は知らなかった)電波探信儀レーダーを実用化し、各艦に搭載していた。

闇夜に紛れてアメリカ艦隊の懐にまで侵入していた、軽巡洋艦『神通』『川内』などを旗艦とする**『水雷戦隊』**が、レーダーの指示に従って一斉に牙を剥いた。


「全門、放てェッ!」

シュルルルルル……!


無数の駆逐艦から、航跡(白い泡)を全く残さない**『九三式酸素魚雷』**が海へ飛び込んだ。

アメリカ軍のレーダーが接近する日本の駆逐艦の影を捉え、副砲が火を噴き始めた時には、すでに遅かった。


ドガァァァン!! ズゴォォォォン!!

アメリカ艦隊の輪形陣の外周を固めていた巡洋艦と駆逐艦の艦底で、次々と大爆発が起きた。巡洋艦『アトランタ』の艦首が吹き飛び、護衛の壁に穴が開く。


その混乱の絶頂の中。

パァァァァァァッ!

日本側の巡洋艦と戦艦群から、数千万カンデラの強烈な光を放つ巨大な探照灯サーチライトが一斉に照射され、漆黒の海に星条旗を掲げた5隻のアメリカ新鋭戦艦たちの姿が、白日のように浮かび上がった。


「目標、敵戦艦群! ……撃てェェェッ!!」


### 3.巨獣たちの殴り合い――金剛・比叡・安芸の最期


ズドォォォォォォォォン!!!


ついに、日米の戦艦群による大口径砲の撃ち合いが始まった。

先陣を切って突撃したのは、帝国海軍が誇る快速戦艦、**『金剛』『比叡』『榛名』**の第十一戦隊であった。


彼らは探照灯を照射しながら、レーダー射撃とのハイブリッドでアメリカ戦艦群に35.6センチ主砲の雨を降らせた。

金剛の放った徹甲弾が、戦艦『マサチューセッツ』の上部構造物を粉砕し、火災を発生させる。


「ジャップの旧式戦艦め、我々の新鋭艦5隻の火力を甘く見るな! レーダー照準、斉射!」

アメリカの戦艦群の反撃は、5隻の火力が集中したことで、極めて凄惨な結果をもたらした。


ドガァァァァァン!!

『ワシントン』と『インディアナ』から放たれた16インチ徹甲弾の嵐が、『比叡』の第三砲塔と機関部を正確に貫通した。

「機関室大破! 操舵不能!」

炎に包まれた『比叡』は艦隊の列から外れ、その場で大きく旋回を始める。


「比叡がやられた! 撃て、撃ち返せ!」

姉妹艦の危機に、『金剛』が自らを盾にするように『サウスダコタ』との至近距離でのドッグファイトに突入した。しかし、最新鋭の重装甲を誇るサウスダコタと、それを援護するマサチューセッツの砲火の前に、ついに力尽きた。

艦橋が吹き飛び、無数の火柱を上げた『金剛』は、大爆発と共に真っ二つに折れ、暗い海へと沈んでいった。


「金剛、比叡、落伍! 続いて、長門型三番艦『安芸』が突入します!」

「だが、敵の数が多すぎる! 安芸も危ない!」


日本の誇る新鋭戦艦**『安芸あき』**が、猛烈な砲撃を浴びせながら『ワシントン』へと肉薄する。しかし、アメリカ戦艦5隻という「物量と装甲の壁」はあまりにも分厚かった。

安芸の放った41センチ砲弾がワシントンの装甲を大きく抉り大破に追い込むも、引き換えにインディアナの3発の16インチ徹甲弾を艦体に受けた安芸は、艦橋を撃ち抜かれ、弾薬庫に誘爆した結果、大火災を起こして急速に沈没していったのである。


「……ジャップの戦艦は、これで三隻が沈んだ。我々の圧勝だ!」

『ワシントン』の艦橋で、リー少将は煤だらけの顔に冷酷な笑みを浮かべた。


しかし。

彼らが沈めたのは、あくまで「前衛」に過ぎなかった。

真の絶望バケモノは、その後方で、暗闇に紛れて静かに砲身の仰角を合わせていたのである。


### 4.四十六糎の咆哮と、壊れたレーダー


午後8時45分。

旗艦『大和』の艦橋。

前衛の金剛、比叡、安芸が自らの身を削り、巨大な松明たいまつとなってアメリカ戦艦群の位置と距離を完全に炙り出してくれた。


山本五十六長官は、燃え盛る姉妹たちの炎を見つめながら、静かに、そして絶対の殺意を込めて手を振り下ろした。

「……撃て」


ズドゴォォォォォォォォォォォォォン!!!!!


太平洋の空が、一瞬にして真昼のように白く閃光した。

『大和』の46センチ(18.1インチ)三連装主砲、計九門が一斉に火を噴いたのである。


しかし、その直後。大和の艦橋に思わぬトラブルが襲った。

パァァァン! という破裂音と共に、艦橋上部に設置されていた最新鋭の射撃統制レーダーの真空管が、大和自身の46センチ砲が放つ「常識外れの巨大な衝撃波(爆風)」に耐えきれず、一瞬にして吹き飛び、ショートしてしまったのである。


電探レーダー、故障! 画面が消失しました!」

電測長が真っ青になって叫んだ。

闇夜の海戦において、レーダーの喪失は「盲目」を意味する。ましてや相手は、レーダー射撃を完璧にこなすアメリカの最新鋭戦艦5隻である。


だが、大和の砲術長は、微塵も慌てることなくニヤリと笑った。

「機械の目が壊れたなら、人間の目で撃つまでだ。……測距儀、光学照準に切り替え! 帝国海軍が血反吐を吐いて訓練してきた『夜鬼の目』を、ヤンキーどもに見せてやれ!」


大和の艦橋頂部にそびえる、世界最大の「15メートル光学測距儀」。

熟練の測距手たちは、星明かりと燃える敵艦の炎だけを頼りに、レンズ越しに敵の距離と方角をコンマ一ミリの狂いもなく弾き出した。


「照準よし。……斉射テーッ!」


大和の第二撃が、闇を切り裂いて飛翔した。

目標は、安芸が沈んで油断していた戦艦『インディアナ』。

重量1.46トンという、人類が造り出した最大最強の飛翔体「九一式徹甲弾」が、インディアナの分厚い舷側装甲に命中した。


貫通などという生易しいものではない。文字通り「艦を粉砕する」一撃であった。

16インチ砲の直撃に耐えるはずの最新鋭のバイタルパートが、まるでブリキのおもちゃのようにひしゃげ、ひき裂かれる。徹甲弾は大破していた艦の奥深くまで侵入して炸裂し、インディアナの第二主砲塔を「根元から海へ吹き飛ばした」。


「な……なんだ!? いまの一撃はなんだ!!」

ワシントンの艦橋で、リー少将は信じられない光景に絶叫した。

「インディアナの弾火薬庫が吹っ飛んだぞ! 16インチ砲であんな破壊力が出るはずがない! ジャップのあの巨大な戦艦は……一体何を積んでいるんだ!?」


ドガァァァン!!

さらに数分後、光学照準で百発百中の命中精度を叩き出す大和の次発装填が、抗戦するインディアナの艦底を抉り、完全に真っ二つにへし折った。新鋭戦艦が、わずか二回の斉射で海の底へと消えたのである。


### 5.榛名の奇跡と、死の十字砲火


「くそっ! あの化け物(大和)に集中砲火を浴びせろ! レーダー照準!」

『ノースカロライナ』『ワシントン』『マサチューセッツ』『サウスダコタ』が、恐怖に駆られて大和に向けて一斉に主砲を撃ち返した。

数発が大和の甲板と上部構造物に命中したが、世界最強の装甲を誇る大和のバイタルパートは、これを小石のようにカーン!と弾き返した。


そのアメリカ戦艦の必死の抵抗の裏で、暗闇の中から静かに牙を剥いた老兵がいた。

金剛型の生き残り、戦艦**『榛名はるな』**である。


「姉様たちの仇……! 私が討つ!」

満身創痍の榛名は、炎上する味方の残骸の影に隠れて、アメリカ艦隊の死角へと回り込んでいた。

そして、距離一万メートルという至近距離から、『サウスダコタ』の艦橋付近に向けて35.6センチ砲の斉射を放った。


ガァァァァン!!

それは、戦史に残る「奇跡のクリーンヒット」であった。

榛名の放った徹甲弾がサウスダコタの上部構造物を貫通し、艦隊の命綱である**『SGレーダーの発振器』および射撃統制所**を完全に粉砕したのである。


「レーダー喪失! 電源車断! 艦橋が燃えています!」

サウスダコタは、暗闇の中で完全に「盲目」となった。

そこへ、光学照準で神がかり的な射撃を続ける『大和』の46センチ砲が、容赦なく襲い掛かる。


ズガァァン! ドォォォン!!

大和の巨弾が『マサチューセッツ』の艦橋を吹き飛ばし、完全に沈黙させる。さらに、日本の水雷戦隊が放った「第二波の酸素魚雷」が、暗黒の海から次々と致命の牙を突き立てた。


レーダーを失い、大和の理不尽な火力を浴びたアメリカの新鋭戦艦群は、もはや無敵の要塞ではなく、ただの巨大な鉄の的と化した。

激しい袋叩きの末、『サウスダコタ』は艦体をハチの巣にされて転覆。『ワシントン』も大和の砲撃で致命的な大火災を起こし、魚雷を受けて大爆発と共に海底へと沈んでいった。


### 6.決死の盾――星条旗の駆逐艦たち


午後11時。

もはや、アメリカの戦艦で動けるのは**『ノースカロライナ』**ただ1隻となっていた。

周囲の海は、沈みゆく戦艦から流出した重油と炎で赤々と燃え上がり、日本艦隊の探照灯が、血走った眼のように残る獲物を探して海面を舐め回していた。


「……ここまでか。我々の負けだ」

ノースカロライナの艦長は、迫り来る大和の巨大なシルエットと、無数の水雷戦隊の影を見て、静かに目を閉じた。


しかし、その時。

彼らの前に、小さな、しかし狂気のような勇敢さを持った数隻の船が躍り出た。

アメリカ海軍の**フレッチャー級駆逐艦**の生き残りたちである。


「ノースカロライナを逃がせ!! 戦艦をこれ以上失えば、アメリカの海軍は終わるぞ!」

駆逐隊の司令官が無線で絶叫した。


彼らは、煙幕スモークを猛烈な勢いで張りながら、巨大な『大和』に向けて全速力で突撃を開始した。絶対に生きて帰ることのできない、星条旗を掲げた水兵たちによる決死の「特攻」であった。


「撃て! ジャップの目を潰せ!」

小さな5インチ砲が大和の艦橋に向けてヤケクソのように乱れ撃たれ、自らを盾にしてノースカロライナの逃げ道を塞ごうとする。


「……なんという勇気だ」

大和の艦橋で、山本長官は思わず唸った。

「全砲門、あの小船どもを黙らせろ」


ズドォォン! ガァァァン!!

大和の副砲が火を噴き、アメリカの駆逐艦たちは文字通り粉々に吹き飛び、海に散っていった。

しかし、彼らが命と引き換えに稼いだ「数分間」と「濃厚な煙幕」が、ノースカロライナを東へと逃がすことに成功したのである。


「……敵戦艦ノースカロライナ、煙幕に紛れて完全に見失いました」

「深追いは無用だ。……我々の勝ちだ」

山本長官は、静かに軍刀を置いた。


### 7.エピローグ――波間の武士道アンチテーゼ


1941年12月13日、午前0時30分。

太平洋に、重く冷たい静寂が戻った。


海面には、金剛、比叡、安芸といった帝国の誇り高き老兵たちと、インディアナ、ワシントン、サウスダコタ、マサチューセッツといったアメリカの新鋭巨艦たちの残骸が入り乱れ、太平洋は文字通りの「巨大な鋼鉄の墓標」と化していた。


燃え盛る重油の海には、沈没したアメリカ戦艦や駆逐艦から投げ出された無数のアメリカ兵たちが、恐怖に震えながら浮遊物にすがりついていた。

彼らの目に、サーチライトを点灯させてゆっくりと接近してくる日本の駆逐艦の影が映った。


「……終わりだ。ジャップに撃ち殺されるぞ」

アメリカ兵たちは、絶望して目を閉じた。数日前、彼らの味方の爆撃機が、日本の首都と民間人を無差別に焼き払ったのだ。その報復として、海に浮かぶ無抵抗の敗者を機銃掃射で皆殺しにするのは、戦争において当然の帰結であると思われた。


しかし。

日本の駆逐艦から投げ降ろされたのは、銃弾ではなく、**「救命浮輪」**と**「ロープ」**であった。


「おーい! 掴まれ! 引き上げるぞ!」

甲板から、日本の水兵たちが大声で叫びながら、重油まみれのアメリカ兵たちを次々と甲板へと引き上げていく。

毛布が配られ、温かい白湯が振る舞われた。


「……なぜだ? なぜ俺たちを助ける?」

ガタガタと震えるアメリカの将校が、流暢な英語を話す日本の士官に尋ねた。


「我々はテロリストではない。大日本帝国海軍の軍人だ」

士官は、静かに、しかし毅然とした態度で答えた。

「武器を持たない無抵抗の海兵シーマンを見捨てることは、我が帝国の『武士道』に反する。貴国が帝都の市民に対して何をしたかは知っている。だが……我々は、貴様らと同じ獣には墜ちない」


その言葉は、アメリカ兵たちの胸に、砲弾よりも重く、深く突き刺さった。

横須賀と東京へのテロリズム的な無差別空爆で国際法を完全に無視したアメリカ。それに対し、地獄の死闘の果てに「武士道」をもって敗者を救い上げた帝国海軍。


太平洋戦争の天王山、トラック沖海戦(日米中央太平洋海戦)は、帝国海軍の圧倒的な戦術的勝利と、彼らの高い精神性(誇り)を見せつける形で幕を閉じた。

しかし、この極東の戦火は、もはや太平洋だけの問題では済まされなくなっていた。アメリカ軍の敗北というニュースは、瞬時に世界を駆け巡り、ヨーロッパで息を潜めていた「狂気」の導火線に、決定的な火をつけることになるのである。


(第六章 第八話 完)


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― 新着の感想 ―
面白かった。榛名のセリフは乗組員たちではなく、なんか艦これか?って思いました笑 結構前に軍縮会議ら辺の所でアメリカは古い体質だ。(戦艦主義)って言ってたのに戦う時には日本と変わらないくらい空母あるし…
『海の武士道』でしたか。
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