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57.鋼鉄の殺戮――防空の城と沈みゆく巨艦

# 海洋帝国日本史 第六章:太平洋の業火と狂乱の連鎖


## 第七話:鋼鉄の殺戮――防空の城と沈みゆく巨艦(開戦六日目・午後)


### 1.南の死角と、迫り来る白き鷲


1941年(昭和16年)12月12日、午後2時45分。

中央太平洋の赤道直下。上空6000メートルで戦闘機同士が血みどろの死闘を繰り広げているその眼下の海域で、日米の主力艦隊は、互いの攻撃隊を迎え撃つための対空戦闘態勢を完了させていた。


海戦のセオリーにおいて、「先に敵を発見し、先制攻撃をかけた側が勝つ」とされている。

しかし、この日の戦場には、アメリカ海軍が全く予想だにしていなかった「巨大な死角」が存在していた。


「……敵の偵察機は、我々を発見できずに北上していったぞ」

戦場の南側海域。豪州・南鷹と羊州・櫻港から出撃した、**臨時第二連合艦隊**(戦艦『長門』、空母『桜雅』ほか)の艦橋で、司令官が静かに息を吐いた。

彼らは、第一連合艦隊(呉主力)が囮となってアメリカ軍の目を完全に北へ引きつけている隙を突き、完全な無線封止とスコールに紛れて進撃していた。この時点で、第二連合艦隊はアメリカ軍に一機も発見されておらず、結果として敵の攻撃隊から完全に「無視」されるという、戦術的な大成功を収めていたのである。


一方、アメリカ軍の攻撃隊(SBDドーントレス爆撃機、TBFアベンジャー雷撃機の計約150機)が殺到したのは、山本五十六率いる**第一連合艦隊**の直上であった。


「敵機接近! 方位〇九〇、距離四万! 雲の切れ間より急降下してきます!」

旗艦『大和』の巨大な電探レーダー室から、緊迫した報告が上がる。


高度4000メートル。雲を突き抜けて急降下態勢に入るアメリカ軍の急降下爆撃機群。

「見えたぞ! ジャップの主力空母だ! デカい戦艦もいる!」

米軍の編隊長は、眼下に広がる完璧な輪形陣を組んだ帝国艦隊を見下ろし、勝利を確信してダイブブレーキを開いた。


しかし、彼らは知らなかった。

自分たちが飛び込もうとしている空域が、帝国海軍の最新鋭テクノロジーによって構築された「絶対的な死の領域キルゾーン」であることを。


### 2.帝国のイージス――レーダー連動自動弾幕


「対空戦闘……撃てェェッ!!」


第一連合艦隊の各艦の指揮官が号令を下した瞬間、太平洋の海面が「光」で埋め尽くされた。


ズドドドドドドォォォォォン!!!


戦艦『大和』『安芸』、高速戦艦『金剛』『榛名』、そして無数の巡洋艦と防空駆逐艦から、一斉に高角砲(対空砲)が火を噴いた。

それは、アメリカ軍のパイロットたちがこれまで経験したことのない、異常な弾幕であった。


「な、なんだこの正確さは!? 弾が……俺たちの機体の『目の前』で爆発しているぞ!?」


通常、対空砲火というものは、時限信管(セットした時間で爆発する)を用いて敵機の高度を「予想」して撃ち上げるものである。しかし、帝国艦隊が放った砲弾には、極秘裏に開発・実用化されていた**「近接信管(VT信管)」**が組み込まれていた。

電波を発信し、敵機が一定距離に近づいた瞬間に自動で炸裂する悪魔の信管。さらにそれは、各艦に搭載された射撃統制レーダーと連動し、コンピューター(機械式計算機)によって未来位置を完璧に予測した「自動弾幕」として空を覆い尽くしていたのである。


ドガァァァン!!

「右翼が吹き飛んだ! ベイルアウト(脱出)……!」

米軍の急降下爆撃機が、投弾位置に到達する遥か手前で、見えない壁に激突したかのように次々と空中で四散していく。

海面スレスレを這うように接近してきたTBFアベンジャー雷撃機も、待ち構えていた駆逐艦の近接信管弾幕と、戦艦の副砲による凄まじい水柱の壁に阻まれ、魚雷を落とす前に次々と海面へ激突し、爆発の炎を上げた。


「くそっ! 突っ込め! どんな犠牲を払っても、あの空母の甲板に爆弾を叩き込むんだ!」

米軍のパイロットたちは、編隊の半数以上が空中でスクラップにされるという壊滅的な打撃を受けながらも、狂気のような執念で弾幕の隙間を縫い、投弾軌道へと入っていった。


### 3.巨艦の落日――空母『加賀』『蝦夷』の最期


だが、いかに無敵の防空システムといえども、決死の覚悟で突入してくる数百機の航空機を「ゼロ」にすることは不可能であった。

弾幕を掻い潜った数機のドーントレスが、急降下の風切り音と共に、巨大な飛行甲板へと1000ポンド爆弾を解き放った。


狙われたのは、艦隊の中心にいた旧式空母**『加賀』**、そして**『蝦夷えぞ』**であった。


ドゴォォォォォン!!

『加賀』の飛行甲板の中央に、1000ポンド爆弾が直撃した。

木張りの甲板は飴細工のように容易く貫通され、爆弾は格納庫のど真ん中で炸裂した。


最悪なことに、加賀の格納庫内には、第二次攻撃隊として出撃を待っていた航空機群が、燃料と航空魚雷を満載した状態で隙間なく並べられていた。

「火災発生! 弾薬庫に火が回るぞ! 注水急げ!」


しかし、ダメコン(ダメージコントロール)班の悲鳴を掻き消すように、絶望的な誘爆の連鎖が始まった。

ズガァァァァァァァン!!!


格納庫内の魚雷と航空燃料が一斉に爆発し、『加賀』の巨大な艦体は、内側から吹き上がる紅蓮の炎と黒煙によって完全に包み込まれた。飛行甲板がめくれ上がり、巨大なエレベーターが吹き飛ばされて海面へ落下する。

姉妹艦である『蝦夷』もまた、同時に3発の直撃弾を受け、全く同じように格納庫の誘爆によって致命的な致命傷を負い、その巨体を大きく傾斜させていた。


「……ここまでか」

炎に包まれた『加賀』の艦橋。

すでに退艦命令を出し、若き乗組員たちを海へ逃がしたあとの無人の艦橋で、**加賀艦長**は一人、静かに羅針盤を撫でていた。


「長官、申し訳ありません。この老兵は、ここで太平洋の底へ沈みます。……後のことは、新しい時代を担う若者たちに託します」

艦長は、軍帽を深く被り直し、燃え盛る艦の最後尾に向かって、直立不動で美しい敬礼を捧げた。

数分後、再び起こった大爆発と共に、かつての第一航空艦隊の誇りであった『加賀』は、その艦長を道連れにして、太平洋の深い青の中へと姿を消していった。


一方、同じく狙われた最新鋭の空母**『瑞鶴』**にも、数発の爆弾が命中していた。

「瑞鶴、被弾! 甲板大破!」

しかし、瑞鶴から立ち上る煙は少なく、誘爆の気配は全くなかった。なぜなら、瑞鶴の航空機はすでに全機が出撃(あるいは上空直掩)しており、格納庫は完全に「空っぽ」であったからだ。可燃物がない空母は、爆弾数発では決して沈まない。瑞鶴は中破の損害を受けながらも、見事に海上に浮かび続けていた。


さらに、新鋭の**装甲空母『翔鶴』『大鳳』**に至っては、急降下爆撃の直撃弾をその分厚い「鋼鉄の飛行甲板」でカーン!と弾き返し、全くの無傷で航行を続けていた。戦艦『大和』や『安芸』の重装甲も、爆弾や魚雷を寄せ付けなかった。


アメリカ軍の攻撃隊は、帝国海軍に『加賀』『蝦夷』の喪失という痛手を与えたものの、その代償として攻撃隊の8割以上が撃墜されるという「完全なる壊滅」を迎え、散り散りになって逃げ去っていったのである。


### 4.復讐の雨――アメリカ艦隊上空、1515時


第一連合艦隊が炎と弾幕の死闘を繰り広げていたのと、ほぼ同じ時刻。

東の海域では、ハルゼー提督率いるアメリカ軍・第16および第17任務部隊の上空に、帝国海軍の『彗星』爆撃機と『天山』雷撃機の大編隊が到達していた。


「敵空母発見! エンタープライズ型、ヨークタウン型!……全機、突撃トトト!」


「対空戦闘! ジャップの爆撃機を追い払え!」

アメリカ艦隊からも、一斉に対空砲火が打ち上げられた。

しかし、彼らの放つ高角砲の弾幕は、圧倒的な物量(弾数)こそあれど、帝国海軍の「近接信管(VT信管)」のような悪魔的な精度は持っていなかった。昔ながらの時限信管で撃ち上げられる砲弾の壁を、帝国軍の熟練パイロットたちは、まるで嵐の中を飛ぶツバメのように軽やかに回避していく。


「弾幕が薄い! そのまま突っ込め!」

急降下爆撃機『彗星』の編隊が、太陽を背にして、真っ逆さまにアメリカの空母群へとダイブを開始した。


ヒュルルルルルル……!!

空気を引き裂くような絶叫が、アメリカの空母の飛行甲板に降り注ぐ。


ズガァァァァァン!! ドォォォン!!


投下された250キロ、および500キロ徹甲爆弾は、アメリカの空母の「装甲のない木張りの甲板」を紙のように貫通し、格納庫で次々と炸裂した。

アメリカの空母もまた、出撃準備中、あるいは着艦を待つ航空機と燃料で格納庫が満杯状態であった。


『ヨークタウン』の飛行甲板が吹き飛び、『ホーネット』の側面から巨大な火柱が噴き出す。

帝国海軍のパイロットたちは、味方の弾幕被害がアメリカ軍ほど深刻でなかった(損耗率3割程度)こともあり、極めて正確な爆撃と雷撃を反復して行った。

その光景は、横須賀でやられた「鋼鉄の虐殺」に対する、冷酷で完璧な倍返しの復讐であった。


### 5.ビッグ・Eの落日――エンタープライズの最期


「消火急げ! 誘爆を防ぐんだ!」

アメリカ艦隊の旗艦、**空母『エンタープライズ』**。

「ビッグ・E」の愛称で親しまれたこの武勲艦も、帝国軍の執拗な攻撃の前に、ついにその運命の時を迎えようとしていた。


右舷から肉薄してきた『天山』雷撃機が投下した航空魚雷が、立て続けに3本、エンタープライズの喫水線下を抉り取った。

ドガァァァン!!

「機関室浸水! 電源喪失! 艦が左に傾きます!」


さらに上空から、最後の一撃となる『彗星』の徹甲爆弾が、艦橋のすぐ横の甲板を突き破った。

格納庫内で保管されていた航空魚雷の弾頭が、熱に引火して大爆発を起こす。エンタープライズの巨体は、一瞬にして制御不能の紅蓮の炎に飲み込まれた。


「……ハルゼー提督! この艦はもう助かりません! 駆逐艦へ移乗を!」

血まみれの参謀が、煙にむせびながら叫んだ。

しかし、エンタープライズの**艦長**は、燃え盛る艦橋の舵輪を強く握りしめ、首を横に振った。


「提督をお連れしろ。私は……この偉大なる『ビッグ・E』と共に残る」

艦長の顔は煤で汚れ、その目には深い絶望と、しかし軍人としての確固たる誇りが宿っていた。


「艦長! しかし……!」

「行け! これは命令だ! ……ジャップめ。我々は負けん。たとえこの艦が沈もうとも、アメリカ合衆国の魂は決して沈まんぞ!」


提督たちが駆逐艦へと移乗を終えた数分後。

エンタープライズは艦首からゆっくりと太平洋の暗い海へと滑り落ち、最後の大爆発と共に、その巨体を永遠の海底へと沈めていった。艦橋に立ち続けた艦長の最期の敬礼の姿は、生き残ったアメリカ水兵たちの目に深く、悲壮な記憶として焼き付くこととなった。


この数十分の航空攻撃により、アメリカ軍の空母6隻のうち、『エンタープライズ』を含む**3隻が轟沈**。残る2隻も甲板を破壊されて発着艦不能の**中破**となり、アメリカの機動航空戦力は事実上、この海域から完全に消滅したのである。


### 6.酸素の槍――沈みゆく戦艦たち


だが、帝国海軍の猛攻は、空母だけでは終わらなかった。


「空母は沈めた! 次は、あの生意気な新鋭戦艦を沈めろ!」

海面スレスレを飛ぶ『天山』雷撃機の編隊が、空母の護衛についていたアメリカ海軍の最新鋭の高速戦艦(サウスダコタ級やアイオワ級の先駆けとなる艦)へと標的を変えた。


アメリカの戦艦は、猛烈な回避運動(ジグザグ航行)を行いながら対空砲火を打ち上げたが、帝国軍の雷撃機パイロットたちの技量は変態的であった。

彼らは戦艦の進行方向を完全に予測し、複数の機体から「扇状」に魚雷を投下する『挟み撃ち』の陣形をとった。


「回避不能! 右舷に魚雷接近!」

ドォォォォン!! ドゴォォォン!!


命中したのは、ただの魚雷ではない。帝国海軍が極秘裏に開発を極めた、航跡(泡)を全く引かず、通常の魚雷の数倍の破壊力を誇る悪魔の兵器――**「九三式酸素魚雷ロング・ランス」**の航空機搭載型であった。


最新鋭の装甲を誇るアメリカ戦艦のバルジ(防雷隔壁)すら、この酸素魚雷の異常な炸薬量の前には無力だった。

戦艦メリーランドは、艦底の竜骨キールをへし折られ、瞬く間に転覆して**轟沈**。

もうウエストバージニアも、艦首付近に被雷して大穴が開き、前部主砲塔が使用不能となり速度が大幅に低下する**中破**の損害を受けた。


この「戦艦群への雷撃による大損耗」。

これこそが、この数時間後に訪れる、文字通りの地獄(夜戦)において、アメリカ軍を絶望の淵へと叩き落とす決定的な『致命傷の布石』となったのである。


### 7.エピローグ――日没、そして鋼鉄の狂宴へ


午後5時30分。

中央太平洋の空を真っ赤に染めながら、太陽がゆっくりと水平線の彼方へ沈んでいく。


日米双方の攻撃隊が去ったあとの海面には、沈没した巨艦の残骸と、真っ黒な重油、そして数え切れないほどの水兵たちの遺体が漂っていた。

この半日の「航空決戦」の代償は、あまりにも大きかった。


帝国海軍は、誇り高き老兵である空母『加賀』『蝦夷』を喪失した。

しかし、アメリカ海軍はそれ以上に致命的な、空母3隻沈没、2隻中破という機動戦力の「完全壊滅」を余儀なくされた。さらに、夜の盾となるべき新鋭戦艦群にも大きな穴が開いてしまった。


「……日が暮れるぞ」

旗艦『大和』の艦橋で、山本長官は夕陽に照らされた海面を見つめながら、静かに軍刀の柄を握りしめた。


航空機ハヤブサの時間は終わった。これより、海を制するのは『大砲』と『魚雷』だ」

山本長官の背後には、無傷の『大和』『安芸』『金剛』『榛名』『比叡』といった戦艦群と、夜戦において世界最強を誇る水雷戦隊(巡洋艦と駆逐艦群)が、闇に溶け込むように不気味なシルエットを浮かび上がらせていた。


そして、彼らはまだ気づいていない。

戦場の南側から、一機も攻撃機を出すことなく、完全に無傷のまま忍び寄る「臨時第二連合艦隊(戦艦長門ほか)」が、アメリカ艦隊の退路を完全に塞ぐ位置にまで到達していることを。


「突撃せよ。一隻残らず、アメリカの戦艦を海底へ沈めろ」


太陽が完全に沈み、太平洋が漆黒の闇に包まれた瞬間。

探照灯サーチライトと星明かりだけを頼りに、数百隻の鋼鉄の巨獣たちが至近距離で殺し合う、狂気と血の「夜戦(水上打撃戦)」の幕が、静かに、そして暴力的に開こうとしていた。


(第六章 第七話 完)


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