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55.巨竜の目覚めと黄土の蠢き――帝国反撃・大陸の動向

# 海洋帝国日本史 第六章:太平洋の業火と狂乱の連鎖

## 第五話:巨竜の目覚めと黄土の蠢き――帝国反撃・大陸の動向(1941年12月6日)


### 1.呉軍港、抜錨――怒れる巨竜たち(1200時)


1941年12月6日、正午。

帝都・東京が炎に包まれ、南洋が攻撃を受けてから数時間後。

瀬戸内海の要衝、**くれ軍港**。


早朝の米軍潜水艦によるテロ攻撃を未然に防ぎ、無傷で生き残った帝国海軍の主力艦隊が、ついにその巨大な錨を上げた。

港内は、張り詰めた殺気と、地鳴りのような重低音に支配されていた。それは、数十隻の巨大艦艇が一斉にボイラーに火を入れ、タービンを回し始めた咆哮であった。


「……横須賀の無念、そして帝都の土を汚された屈辱。我々が晴らさずして誰が晴らすか」

旗艦である超弩級戦艦**『大和』**の艦橋。

連合艦隊司令長官・**山本五十六大将**は、双眼鏡を握りしめる手に血管を浮き上がらせながら、静かに、しかし激しい憤怒を込めて命じた。


「全艦、出撃(抜錨)!」


呉から出撃するのは、平時において2個艦隊分の戦力を有する、世界最強の打撃群である。

主力となるのは、空母**『加賀』**、北方の守護神の名を冠した**『蝦夷えぞ』**、そして最新鋭の装甲空母**『翔鶴』『大鳳』**の計4隻。

これを護衛するのは、旗艦『大和』に加え、その姉妹艦とも言える新鋭戦艦**『安芸あき』**。さらに、30ノットの高速を誇る改装戦艦**『金剛』『榛名』**を中心とする戦艦群。


「見送れ! 我らが守護神の出撃だ!」

「アメリカを叩き潰してください!」

呉の丘の上には、朝の騒乱で避難していた市民や工廠の作業員たちが、涙を流しながら日章旗を振っていた。


巨大な戦艦『大和』が、その46センチ主砲を天に向け、威風堂々と瀬戸内海を滑り出す。

それに続く空母群と、無数の巡洋艦、駆逐艦。

海面を埋め尽くす鋼鉄の長城は、豊予海峡を抜け、太平洋の荒波へと躍り出た。


さらに、この艦隊には強力な増援が合流しようとしていた。

硫黄島沖で警戒任務に当たっていたため、奇跡的に横須賀の惨劇を免れた**空母『瑞鶴』**と、御召艦としての改装を終えていた**戦艦『比叡』**の横須賀所属艦隊である。


「瑞鶴より入電。『我、敵機動部隊ヲ側面ヨリ捕捉シ、殲滅スル準備完了セリ』」

『大和』の通信士が叫ぶ。

「よろしい。瑞鶴と合流後、針路を東へ。……虎玖に向かうであろう米艦隊の背後を突き、奴らの逃げ道を完全に断つ」


山本長官の眼光が、海図上の米機動部隊(房総沖から南下している主力)を射抜いた。(空軍偵察機が発見。)眠れる巨竜は目覚めた。その吐息は、太平洋を焼き尽くす灼熱の炎となろうとしていた。


### 2.南の鉄槌――臨時第二連合艦隊、出撃(1400時)


時を同じくして。

帝国の広大な版図の南端、豪州オーストラリア方面に位置する二大軍港、**南鷹なんよう**と**櫻港さくらみなと**。

(※南鷹はシドニー近郊、櫻港はオークランドに建設された、帝国の南半球における最大級の海軍拠点である)


ここからも、呉の主力艦隊に呼応する形で、もう一つの巨大な刃が放たれた。

**「臨時第二連合艦隊」**である。


「北(呉)の主力だけでは、広大な中央太平洋を網羅できん。我々が『金床かなとこ』となり、米艦隊を受け止める」

南鷹基地を出港したのは、南半球の防衛を担う空母**『桜雅おうが』『関鳳かんほう』『和泉いずみ』『翠海すいかい』**の4隻。

そして、その周囲を固めるのは、横須賀で沈んだ『陸奥』の姉妹艦であり連合艦隊の象徴であった**戦艦『長門』**、紀伊型戦艦のネームシップ**『紀伊』**、そして南洋の資源で建造された新鋭戦艦**『星空ほしぞら』『金浜きんはま』**を中心とする、堂々たる戦艦群であった。


「オーストラリア(内地)に指一本触れさせるな! 虎玖で戦う友軍を救うぞ!」

南の海から北上を開始したこの大艦隊は、虎玖島を包囲して身動きが取れなくなっているアメリカ軍の攻略部隊(輸送船団と旧式戦艦群)を、南方から挟み撃ちにする態勢を整えつつあった。


北からは呉の第一艦隊。南からは豪州の第二艦隊。

合計空母9隻、戦艦10隻以上という、人類史上空前絶後の大艦隊が、太平洋の中央へ向かって、巨大な「死の包囲網」を形成しつつあったのである。


### 3.黄土の蠢き――大陸の火事場泥棒(国民党軍の攻勢)


太平洋で巨竜たちが動き出した頃。

ユーラシア大陸の東部、満州国の国境線でも、不気味な地殻変動が起きていた。


「今だ! 日本軍の主力は太平洋に向かった! 満州は空っぽだ!」

中国・重慶。

国民党の指導者・**蒋介石**は、アメリカからの緊急電報(日本への奇襲成功)を受け取り、狂喜していた。

彼は、日本との密約(広州政府への支援停止と引き換えの不可侵)を一方的に破棄し、温存していた精鋭部隊を満州国境へと大挙して移動させた。


「失われた東北(満州)を取り戻す! 全軍、突撃!」

数十万の国民党軍が、熱河省および万里の長城付近の国境線を越え、満州国への侵攻を開始した。彼らは、アメリカ製のトラックと大砲で武装し、日本軍の主力が不在の隙を突いて一気に新京(満州国首都)を目指そうとした。


しかし、そこで彼らを待っていたのは、予想外の「鉄の壁」であった。


「……愚かな。海軍が出ていったからといって、陸軍(関東軍)が眠っていると思ったか」

満州国の国境要塞。

帝国陸軍・関東軍の司令官は、押し寄せる国民党軍の人波を冷ややかに見下ろした。

海軍が太平洋へ戦力を集中させる一方で、陸軍は大陸での防衛に特化し、要塞線の強化と、新型の重戦車・自走砲の配備を完了させていたのである。


ドォォォォォン!!

国境の要塞砲が火を噴き、国民党軍の先鋒を粉砕する。

「一歩も入れるな。だが、深追いはするな。……あくまで『防波堤』に徹し、奴らの死体で山を築け」


日本軍は、かつてのような泥沼への深入り(大陸打通作戦など)は一切行わず、ただ国境線において、機械的に、そして冷徹に、侵入者を破砕し続けた。

蒋介石の野望は、満州の厚い装甲の前に、ただ血を流すだけの徒労に終わろうとしていた。


### 4.沈黙の北極熊――ソビエトの不気味な背中


そして、最も不気味だったのが、北の巨人の動きであった。


極東ロシア王国シベリア

女王アナスタシア・ロマノヴァの統治するこの国は、南の満州国と共に、ソビエト連邦に対する帝国の防波堤である。

日米開戦の報を受け、極東ロシア軍と駐留する日本軍は、即座に「第一種臨戦態勢」を発令した。


「スターリンが動くぞ。奴なら必ず、この混乱に乗じてシベリア鉄道を南下し、我々の王国を食い荒らしに来るはずだ」

前線の兵士たちは、極寒の塹壕の中で、地平線の彼方から現れるであろうソビエト赤軍のT-34戦車の大群を、恐怖と共に待ち構えていた。


しかし。

一日が過ぎ、二日が過ぎても。

北の地平線には、一人のソビエト兵の姿も現れなかった。


「……どういうことだ? 偵察機からの報告は?」

「はッ! ソビエト軍の主力は、国境付近から『後退』しています! 彼らはシベリア鉄道を使って、西へ……中央アジア方面へ部隊を移動させています!」


モスクワのクレムリン。

スターリンは、パイプを燻らせながら、世界地図を睨んでいた。

「日本とアメリカが殺し合いを始めたか。……結構なことだ」

側近が尋ねる。

「同志スターリン。今こそ極東へ攻め込む好機では?」


「馬鹿者! 罠だ」

スターリンは一喝した。

「日本の関東軍は無傷だ。しかも、北欧ではフィンランドどもが要塞を築いている。今、我々が極東で動けば、日本は海軍の一部を割いてウラジオストクを焼き払うだろう。……今はまだ、その時ではない」


スターリンの目は、極東ではなく、もっと「実利のある場所」――**中央アジア(英領インドへの圧力)**と、そして**中東(イラン・トルコ方面)**に向けられていた。

「日本とアメリカには、太平洋で共倒れになるまで殺し合わせろ。我々は、その隙にユーラシアの腹(資源地帯)を確保し、力を蓄えるのだ」


ソビエトの「沈黙」と「後退」。

それは、平和の証ではなく、嵐の前の不気味な静けさであり、極東ロシア軍の将兵にとっては、目に見える敵よりも遥かに恐ろしい「底知れぬ恐怖」として映った。


### 5.エピローグ――決戦の海域へ


1941年12月12日、深夜。

呉から出撃した山本五十六率いる第一連合艦隊と、南から北上する第二連合艦隊は、無線封止を保ったまま、広大な太平洋を東へと突き進んでいた。


彼らの目指す場所は一つ。

アメリカ軍の攻略部隊が釘付けになっている虎玖島の東方海上、**中央太平洋諸島海域**。


そこには、横須賀と帝都を焼き払い、意気揚々と南下してくるハルゼー提督率いる米機動部隊(空母6隻・戦艦6隻)と、虎玖攻略を支援するために展開している米主力艦隊が集結しつつあった。


「……見えたか、瑞鶴」

『大和』の艦橋で、山本長官が呟く。

水平線の彼方、硫黄島方面から合流してきた空母『瑞鶴』と戦艦『比叡』の姿が、月明かりの中に浮かび上がった。

「これで役者は揃った」


東からは、驕れるアメリカの鷲。

西と南からは、復讐に燃える帝国の巨竜。

両者の距離は、刻一刻と縮まりつつある。


次の夜明け。

空は航空機で埋め尽くされ、海は巨砲の轟音で震えるだろう。

太平洋戦争の天王山、**「日米中央太平洋海戦(トラック沖海戦)」**の幕が、今まさに切って落とされようとしていた。


(第六章 第五話 完)


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