138.イベリアの意地と、熱砂の制裁
# 海洋帝国日本史 第十四章:電脳の夜明けと静かなる侵食
## 第十話:イベリアの意地と、熱砂の制裁(1996年3月)
### 1.安堵の死角――燃え上がる南部アフリカ(3月中旬)
1996年3月中旬。
トルコ連邦共和国の無条件降伏により、中東におけるペルシャ湾の安全と「世界の血液」である石油資源の供給ルートは完全に守られた。国際社会は、世界同時多発紛争が最悪のシナリオ(第三次世界大戦)を回避したことに胸を撫で下ろし、メディアは「平和の帰還」を大々的に報じていた。
しかし、列強の視線が中東から離れ、世界が一見平和を取り戻したように見えたその巨大な死角――**アフリカ大陸南部**においては、いよいよ血で血を洗う本格的な殺し合いが始まろうとしていた。
スペイン同盟(イスパニダード連合)からモザンビークを瞬く間に奪い取った**南アフリカ共和国軍**は、その勢いのまま、西の大西洋岸に位置する資源大国**アンゴラ**へと、属国ナミビアを経由して怒涛の侵攻を開始したのである。
「……大国どもは中東の火消しで疲れ果てている。今こそ、アフリカの南半分を我々白人の絶対的支配下に置くのだ!」
アパルトヘイトの業火をくすぶらせる南アフリカの野心に対し、かつて「太陽の沈まぬ国」と呼ばれた**スペイン王国**が、同盟の盟主としての強烈な意地と誇りを見せつける時が来た。
### 2.血塗られた防衛線――アンゴラの死闘
「……一歩も引くな! ここを抜かれれば、イベリアの誇りは完全に地に堕ちるぞ!」
アンゴラ南部の国境地帯。
陸軍と空軍の戦力において圧倒的に劣勢であったスペイン同盟軍は、南アフリカの重装甲部隊を前に、文字通りの『決死の防衛戦』を強いられていた。
空では、南アフリカ空軍が秘密裏にアメリカから導入していた強力な可変翼戦闘機**『F-14(トムキャット)』**と、スペイン空軍が独自開発したイスパーニョ製戦闘攻撃機**『IP-88 グラスノーダ』**が激突。
長射程フェニックスミサイルを放つF-14に対し、スペイン空軍はIP-88の高い運動性能とパイロットの捨て身のドッグファイトで応戦。多数の犠牲を出しながらも、辛うじて初戦の制空権を死守(辛勝)した。
しかし、地上戦の被害は凄惨を極めた。
最前線に立たされたアンゴラ陸軍は、南アフリカ軍の猛砲撃を受けて甚大な人的被害(大出血)を出して崩れかけた。
だが、その崩壊寸前の戦線を支えたのは、旧宗主国である**ポルトガル陸軍**と、急派された**スペイン陸軍**の精鋭たちであった。彼らは塹壕に泥まみれになりながら対戦車ミサイルを撃ち続け、数千の死傷者を出しながらも、ついに南アフリカ軍の進撃を国境線で完全に食い止めたのである。
### 3.イージスなき死闘――ギニア湾南部の艦隊決戦
陸と空が血を流して時間を稼いでいる間。
大西洋の怒涛を切り裂き、マドリードの至宝である**『スペイン無敵艦隊』**の主力がいよいよ戦場海域(ギニア湾南部〜南東大西洋)へと到着した。
迎え撃つのは、アフリカ最強を自負する南アフリカ海軍の大艦隊。
この海戦は、大日本帝国の「天照システム」やアメリカの「イージスシステム」といった、数十の目標を同時に無力化する『魔法の盾』が一切存在しない、純粋なミサイルと艦砲、そして航空機が入り乱れる**『古典的かつ凄惨な純粋艦隊決戦』**となった。
「……敵艦隊捕捉! プリンシペ・デ・アストゥリアスより攻撃隊発艦! 同時に、戦艦フェリペ2世、全ミサイルセル、ファイア!」
スペイン艦隊の中核を成すのは、軽空母**『プリンシペ・デ・アストゥリアス』**、そして、大艦巨砲主義の船体を近代化改修し、全身をミサイルの発射管(VLS)の塊へと改造した恐るべき巨大ミサイルキャリア、**『フェリペ2世級戦艦』**であった。
戦艦フェリペ2世の甲板から、数百発の対艦ミサイルが火柱を上げて大西洋の空へ打ち上がる。
南アフリカ艦隊も猛烈な対空砲火とミサイルで反撃。フェリペ2世級戦艦が備え付けていた強靭な対空砲火(CIWSと個艦防空ミサイル)が火を噴き、敵のミサイルを次々と叩き落とす。しかし、魔法の盾を持たない艦隊防空の限界はすぐに訪れた。
「……第3駆逐隊、被弾! 沈みます!!」
空母と戦艦を守るために盾となったスペイン海軍の**駆逐艦3隻**が、南アフリカのミサイルをその身に受けて大爆発を起こし、大西洋の冷たい海へと沈んでいった。
だが、その尊い犠牲(血の代償)は、決定的な勝利の一撃を生み出した。
駆逐艦が時間を稼いでいる間に、プリンシペ・デ・アストゥリアスから飛び立った艦載機群と、フェリペ2世から放たれた第二波のミサイル飽和攻撃が、南アフリカ艦隊の防空網を完全に飽和・突破。
凄まじい爆発音とともに、南アフリカのフリゲート艦や潜水艦が次々と海の藻屑となり、南アフリカ海軍は文字通り**『完全壊滅』**を喫したのである。
### 4.反転攻勢――国境を越える報復の翼
海軍を完全にすり潰され、アンゴラ国境でも陸軍が釘付けにされた南アフリカ共和国は、ここに至ってついに侵攻の限界を悟った。
「……これ以上の進軍は不可能だ。部隊を引け!」
しかし、スペインは彼らが無傷で逃げ帰ることを決して許さなかった。
「……同盟の血を流させた代償は、貴様らの本国で払ってもらうぞ」
アンゴラを防衛し切ったスペイン空軍のIP-88が、今度は牙を剥く番であった。彼らはアンゴラ国境を飛び越え、南アフリカの領内(軍事施設や補給線)に対する猛烈な**『越境爆撃』**を開始。
さらにスペイン軍は、緒戦で奪われていた東海岸のモザンビークを奪還すべく、休む間もなく次の巨大な軍事作戦を立案し始めたのである。
### 5.圧倒的暴力の再来――モザンビーク奪還作戦(3月下旬)
1996年3月下旬。
南アフリカは、モザンビークで徹底抗戦の構えを見せていた。しかし彼らは、自らが「絶対に怒らせてはいけない本物の化け物たち」の尾を踏んでいたことに、まだ気づいていなかった。
モザンビークの東の海から、幾重にも重なる巨大な艦影が現れた。
スペイン艦隊だけではない。
大英帝国のインド洋拠点であるマダガスカル島から展開してきた**イギリス陸軍・海兵隊**。
そして、かつてのフランス領土であり、現在は大日本帝国の絶対的な南氷洋拠点となっている**『ケルゲレン諸島』**から怒涛の勢いで急行してきた、**大日本帝国海兵隊**の強襲揚陸艦隊である。
さらに北からは、スペインの要請に応じた**ケニア軍**と**タンザニア軍**が陸路で進軍を開始していた。
「……トルコが片付いたと思ったら、今度はアフリカの南端で火遊びか。列強の秩序を乱すならず者には、容赦はいらん」
日本、イギリス、スペイン、ケニア、タンザニアによる**『モザンビーク奪還・多国籍連合軍』**の作戦が発動された。
空の戦いは、もはや「戦争」と呼ぶことすらおこがましい『一方的な狩り』であった。
南アフリカ空軍がモザンビーク防衛のためにかき集めてきたのは、アメリカから裏ルートで供与されていたお古の**F-5**や**F-6E**、そしてソビエト崩壊のドサクサで手に入れたものの整備不良でガタガタの**MiG-27**といった旧式機ばかりであった。(精鋭のF-14はアンゴラ戦線で消耗し切っていた)。
それに対し、空を覆うのは、日英西が誇る最新鋭の**第4世代汎用戦闘機(紫電、トーネード、グラスノーダ等)**である。
「……敵機捕捉。相手にならん、さっさと落として地上部隊を支援するぞ」
圧倒的なレーダー性能とミサイルの射程距離の差の前に、南アフリカの旧式機は文字通り「何も見えないまま」次々と火ダルマとなって墜落していった。MiG-27に至っては、レーダーロックをかけられただけでパニックを起こして墜落する始末であった。
### 6.エピローグ――井の中の蛙の絶望
制空権を完全に喪失した南アフリカ軍の地上部隊の頭上に、帝国、イギリス、スペインの容赦のない対地爆撃の雨が降り注ぐ。
さらに海岸線からは、帝国海兵隊のホバークラフト(LCAC)とイギリス海兵隊が怒涛の勢いで上陸し、残存する南アフリカ軍を戦車と装甲車で文字通り「挽肉」にしていった。
「……ば、馬鹿な。我々はアフリカ最強の軍隊だったはずだ! なぜ手も足も出ないのだ!」
南アフリカの白人将校たちは、燃え盛るモザンビークの熱帯雨林の中で絶望のどん底に突き落とされた。
彼らは、トルコ連邦共和国という強大な軍事国家ですら、列強の「本気の暴力」の前にはわずか数週間で灰燼に帰したという事実の重みを、全く理解していなかったのである。
南アフリカ軍は、数日間でその戦力の過半数を喪失し、散り散りになって自国領内へと敗走していった。
モザンビークは連合軍によって完全に奪還され、ここに、アフリカ大陸の覇権を狙ったアパルトヘイト国家の野望は、列強の圧倒的かつ冷酷な「軍事力の格差」という現実の前に、完膚なきまでにへし折られたのであった。
(第十四章 第十話 完)
(第十四章:電脳の夜明けと静かなる侵食 完)
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