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132.世界を覆う黒煙――大陸の死角と傭兵たちの咆哮

# 海洋帝国日本史 第十四章:電脳の夜明けと静かなる侵食


## 第四話:世界を覆う黒煙――大陸の死角と傭兵たちの咆哮(1996年2月)


### 1.忘れられた戦線――マプート陥落と南アフリカの牙


1996年2月中旬。

世界の主要メディアは、連日連夜「トルコ軍のクウェート侵攻」と「ギリシャ空軍の壊滅」のニュースをトップで報じ続け、五大列強の首脳たちも中東の火消しに完全に忙殺されていた。


しかし、その巨大なニュースの影に隠れ、国際社会からほとんど報道されることもなく、一方的で無慈悲な蹂躙を受けている国があった。

アフリカ大陸南東部、スペイン同盟(イスパニダード連合)に属する**モザンビーク**である。


「……前線の防衛線が完全に崩壊しました! 南アフリカ軍の機甲部隊が、首都マプートへ突入してきます!」


アパルトヘイト政策によって国際社会から孤立し、長年砂漠の奥深くで「独自の牙」を研ぎ澄ませていた異端の軍事国家・**南アフリカ共和国**。彼らが放った白人将校率いる精鋭部隊の侵攻速度は、凄まじかった。

対するモザンビークには、宗主国であるスペイン軍の駐屯部隊がわずか『1000人程度』しか存在しておらず、現地の同盟国軍も近代戦を戦い抜く重装備を持ち合わせていなかった。


結果として、モザンビークの防衛線は紙屑のように破られ、侵攻開始からあっという間に首都マプートが陥落したのである。


「……おのれ、南アフリカの白人至上主義者どもめ! トルコの騒ぎに乗じて火事場泥棒を働きおって!」

マドリードの王宮で、スペイン国王と軍上層部は激しく机を叩いた。

しかし、現実問題として、遠く離れたモザンビークを今すぐ奪還するための大軍を送り込む余裕は、現在のスペインにはなかった。


「……痛恨の極みだが、モザンビークは一時的に諦めるしかない。だが、アフリカの権益をこれ以上奴らに食い荒らさせるわけにはいかないぞ!」

スペイン政府は、苦渋の決断を下した。彼らは、南アフリカ軍の次なる標的を予測し、西アフリカの防衛を完全に固める『大規模な部隊再配置』を電撃的に発動させたのである。


### 2.イベリアの反撃準備――アンゴラ防衛線


スペインがモザンビークを見捨ててでも絶対に死守しようとした地。それは、アフリカ大陸南西部に位置する資源大国、**アンゴラ**であった。


アンゴラは、スペイン同盟にとってアフリカにおける最大の「宝物庫」である。莫大な石油とダイヤモンドを産出し、首都ルアンダには多数のスペイン企業が進出しており、強固な陸軍の駐屯基地も存在していた。


「……南アフリカ軍は、すでに臣従させている属国**ナミビア**を経由して、北のアンゴラへと侵攻ルートを形成しつつある。ここで奴らを食い止め、イベリアの誇りにかけて叩き潰す!」


スペイン軍は、同盟国であるドイツ第三帝国が権益を持つ西アフリカの航空ルートを大至急で借用し、スペイン空軍の精鋭戦闘機部隊と輸送機部隊を、アンゴラへと次々に送り込んだ。

アンゴラの国境地帯では、最新鋭の対戦車陣地が構築され、南アフリカ軍の北上を迎え撃つ絶対防衛線が整えられつつあった。


さらに、大西洋の青い海原では、地中海から出撃した『スペイン無敵艦隊』の空母打撃群が、アフリカ大陸を南下していた。

まもなく、大西洋南部の海上で、スペイン海軍と南アフリカ海軍による、近代アフリカ史上最大規模の艦隊決戦の火蓋が切られようとしていたのである。


### 3.限定された火種――南米と南アジアの局地戦


アフリカと中東が全面戦争の業火に包まれる中、他の地域でも火の手は上がっていたが、それらは「奇跡的」にある程度の規模に抑え込まれていた。


**南米大陸**においては、ブラジルとアルゼンチンという二大巨頭の軍事衝突が発生していたものの、それはあくまで国境付近での『偶発的戦闘(限定的な砲撃戦)』のレベルに留まっていた。

「……ここで我々が全面戦争を行えば、アメリカ(NAFTA)に介入の口実を与えるだけだ!」

南米社会主義連合(SASU)の加盟国たち(チリやペルーなど)が、両国の間に必死に割って入り、血みどろの仲介外交を展開することで、辛うじて大陸規模の内戦への発展を食い止めていたのである。


また、**南アジア**におけるインドとパキスタンの紛争も、核保有国同士の全面戦争という最悪の事態は回避されていた。

戦場はカシミール地方などの「領有権争い地域」に局限されており、凄まじい経済成長と人口ボーナスを背景に国力を爆発させている**インド軍**が、通常戦力においてパキスタン軍を圧倒し、優勢に戦いを進めていたのである。


### 4.聖地の死闘――チベットの誇りと裏の戦士たち


しかし、極東の辺境、標高4000メートルの「世界の屋根」においては、決して引くことの許されない、苛烈で血生臭い死闘が繰り広げられていた。


南華共和国から国号を改めた**中華民国(大統領:鄧小平)**による、**チベット侵攻**である。


「……我々は、ソビエト崩壊によってようやく『本当の独立』を手に入れたのだ! これ以上、漢民族の奴隷になるのは絶対に御免だ!」

チベットの僧侶や市民たちは、自らの民族の誇りと信仰、そして生存そのものを懸けて、押し寄せる中華民国の人民解放軍に対して、文字通り「決死の抵抗」を行っていた。


中華民国軍の将官たちは、チベットの貧弱な武装を嘲笑い、「数日でラサ(首都)を制圧できる」と高を括っていた。

しかし、雪山の岩陰から飛び出してきたチベット軍の反撃を受けた瞬間、彼らは信じられない光景を目の当たりにした。


「……ば、馬鹿な! なぜ遊牧民どもが、最新鋭の対戦車ミサイルを持っているのだ!? ぎゃああっ!」

チベット軍が放ったミサイルが、中華民国軍の主力戦車の装甲を易々と貫き、砲塔を吹き飛ばす。

さらに、上空から支援にやってきた攻撃ヘリは、山肌に偽装された携行型地対空ミサイル(スティンガー等)によって次々と撃ち落とされていった。


彼らは「丸腰」ではなかったのである。


「……いくら鄧小平のタヌキ親父が目ざといとはいえ、我々を出し抜けると思うなよ」

東京の将軍府の奥深く。

大日本帝国の最強情報機関である**『帝国統合参謀本部・情報総局』**および**『将軍府秘密情報部』**は、中華民国の不気味な膨張を極めて危険視し、中国周辺での情報収集と『裏工作』を猛烈に活発化させていた。


チベット軍が手にしていた最新兵器群は、すべて大日本帝国政府が「出処不明の裏ルート」を使って、密かにチベットへと供与したものであった。


さらに、チベットの山岳地帯において、人民解放軍の歩兵部隊を次々と血の海に沈めている「異常な戦闘力を持った謎の部隊」が存在した。

「……撃て! 中華の豚どもをヒマラヤの肥やしにしてやれ!」


彼らはチベットの正規軍ではない。

大日本帝国の巨大財閥が非公式に運営する私兵部隊**『坂本財閥・民間軍事会社(PMC)』**の熟練の日本人オペレーターたちと、そして大英帝国から秘密裏に雇い入れられた、世界最強の白兵戦能力を誇る**『グルカ傭兵団(ネパール山岳兵)』**であった。


日英の政府が「非公式(金と傭兵)」という形で現地へと送り込んだこの恐るべき裏の戦士たちは、チベット軍の指揮系統の中核に入り込み、中華民国軍の進撃ルートに完璧なキルゾーン(殺戮地帯)を構築。大中華の復活を夢見る鄧小平の軍隊に、チベットの雪山で「大量の血を流させる」という大損害を与え続けていたのである。


### 5.竜の怒りと、香港への野望


「……おのれ、イギリスと日本め! チベットの野蛮人どもに、裏で最新兵器と傭兵を回しおって!」


広州の大統領府で、報告を受けた鄧小平は、激怒のあまり机上の茶器を床に叩きつけた。

大国たちは中東に夢中でこちらには介入できないと踏んでいたが、彼らは「表向きは無視」を装いながら、裏ではチベットという代理戦場で中華民国の体力を徹底的に削りにかかっていたのである。


特に、鄧小平の怒りは、自国のすぐ足元で「資本の力」を武器に傲慢に振る舞う**イギリス(ロンドン政府)**へと強く向けられた。


「……イギリスの連中は、香港の金融資本を通じて我々の内政に干渉し、我々を都合の良い『巨大な工場』として扱おうとしている。もはや、我慢の限界だ」

鄧小平の目は、チベットの山岳地帯から、煌びやかな夜景を誇る東洋の真珠、**英領香港**へと冷酷に向けられた。


中華民国軍の内部では、チベット戦線の泥沼化に対する不満を外へ逸らすため、そして大英帝国に対する報復として、「香港武力制圧」の極秘の作戦立案が開始された。

しかし、香港の中心街セントラルでシャンパンを傾け、中華民国の経済成長でボロ儲けをしているイギリスや各国の巨大資本家たちは、自分たちのすぐ首元に、飢えた野竜の牙が音もなく突きつけられていることに、まだ全く気づいていなかったのである。


### 6.熱砂の激突――リヤド陥落と絶対防衛線(1996年2月下旬)


そして、再び世界の中心、中東の灼熱の砂漠へ。


クウェートを瞬殺したトルコ連邦軍は、休むことなくサウジアラビアへの進軍を続けていた。

「……サウジの王族どもは、黄金のベッドで眠りすぎた。奴らの軍隊など、張り子の虎に過ぎない」


トルコ軍は、陸軍の重装甲師団と、空軍の近接航空支援(CAS)を完全に同期させた、見事な『陸空共同作戦エア・ランド・バトル』を展開した。


しかし、サウジアラビア陸軍も、ただ黙って蹂躙されたわけではなかった。

「……聖地メッカとメディナを、狂犬どもに渡してなるものか!」

アメリカから購入していたM1戦車や対戦車ミサイルを駆使し、サウジ軍は砂漠の至る所で果敢な遅滞戦闘を行った。彼らの必死の抵抗は、トルコ軍の進撃速度をわずかながら鈍らせ、多くのトルコ兵を熱砂の道連れにした。サウジアラビア空軍も米国製イーグルで徹底抗戦していた。(当時の軍事専門家たちは「サウジ軍は予想以上に健闘した」と評価している)。


だが、圧倒的な兵力差と、トルコ空軍の執拗な爆撃の前に、サウジ軍の防衛線は徐々に削り取られていった。

そして2月下旬。ついにサウジアラビアの首都・**リヤド**が、トルコ軍のキャタピラの下に完全に陥落したのである。


「……首都は落ちたが、我々は絶対に降伏しない!」

サウジ王室と政府首脳部は、リヤド陥落の直前に紅海沿岸の巨大都市**ジッダ**へと脱出。そこを『臨時首都』と定め、アメリカ軍の直接支援を待ちながら、徹底抗戦を続けることを宣言した。


一方、クウェートからペルシャ湾沿いに南下してきたトルコ軍の別動隊は、小国**カタール**の国境へと肉薄していた。

しかし、ここでトルコ軍は、これまでの「紙屑のような防衛線」とは次元の異なる、分厚く冷徹な『鋼鉄の壁』に直面することになる。


カタールの国境地帯には、現地のカタール軍に加えて、大英帝国が中東防衛のために駐屯させていた**『イギリス陸軍の精鋭装甲旅団』**が、チャレンジャー2主力戦車をズラリと並べ、完全な『絶対防衛線』を構築して待ち構えていたのである。


さらに、ペルシャ湾の海路と空路を通じて、**英領モルディブ**や**英領シンガポール**に駐屯していた大英帝国のグルカ兵連隊や海兵隊が、カタール救援のために全速力で急行していた。


そしてそのすぐ背後(アラブ特別県)には、大日本帝国の最強の海兵隊と空軍が、指をトリガーにかけたまま、いつでも火を噴く準備を完了させている。


1996年2月末。

トルコの狂犬の牙は、サウジの首都を噛み砕きながらも、ついに『列強の絶対防衛線(イギリス・日本)』の硬い装甲に直接ぶち当たろうとしていた。

熱砂の中東は、いよいよ列強の正規軍同士が直接激突する、破滅的な大戦争のカウントダウンへと突入したのである。


(第十四章 第四話 完)


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