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120.僕らのユーラシア卒業旅行

# 海洋帝国日本史 第十二章:黄金の狂騒と解き放たれる世界


## 閑話:僕らのユーラシア卒業旅行――激辛と青春のトライアングル(1979年)


### 1.出発の朝――いつもの4人で、海を越えて


1979年、春。

大日本帝国が誇る超大企業への就職や、大学院への進学を間近に控えた3月。帝都・東京の羽田空港国際線ターミナルに、いかにも現代っ子らしい賑やかな大学生4人組の姿があった。


「おっはよー! ちょ、大樹だいき、荷物デカすぎっしょ! 何泊する気!?」

派手なパーマヘアに流行のミニスカートを合わせたギャルの**莉奈りな**が、インスタントカメラを片手に笑い声を上げる。


「おう! 旅先で筋トレする用のダンベルが入ってんだよ! 飯も死ぬほど食うしな!」

日焼けした肌とガタイの良さが目立つ、体育会系男子の**大樹だいき**が、巨大なボストンバッグを軽々と肩に担いで白い歯を見せた。


「もう、二人とも朝から元気ね。……けんくん、チケットの確認は大丈夫?」

おっとりとした口調で微笑むのは、清楚なワンピースに身を包んだ**しずく**。実家が都内の地主という「隠れお嬢様」だが、決して気取ることなく、いつも3人の世話を焼いている。


「ああ、航空券もホテルのバウチャーも完璧だ。……それより、僕の胃腸のコンディションはすでに『臨戦態勢』に入っているよ」

分厚い黒縁メガネを押し上げながら、ニヤリと笑う頭脳派男子の**けん**。彼はゼミでトップの成績を誇る秀才だが、その実態は、三度の飯より唐辛子を愛する**『異常な辛い物ジャンキー』**であった。


「はいはい、健の激辛ツアーに付き合ってあげるんだから、道案内は任せたわよ!」

莉奈の掛け声とともに、4人は帝国航空(JAL)の近距離ジェット機に乗り込んだ。

目指すは、大日本帝国のすぐ隣に位置する三つの同盟国。4泊5日のユーラシア大陸・卒業大旅行の幕開けである。


### 2.大韓民国――ネオンと激辛の鉄の結束(1日目〜2日目)


フライトからわずか数時間。4人が最初に降り立ったのは、EATO(極東条約機構)の中核にして、大日本帝国と最も強固な「日韓同盟」を結ぶ兄弟国、**大韓民国**の首都・ソウル(漢城)であった。


「うわーっ! すっごい都会! 東京と全然変わんないじゃん!」

夜の明洞ミョンドンの街に繰り出した莉奈は、見渡す限りに広がる色鮮やかなネオンサインと、行き交う若者たちの熱気に目を丸くした。


「そりゃそうさ。今の韓国は、帝国メーカーの巨大な製造工場が地方経済まで完全に支えているからね。それに加えて、韓国独自の企業も凄まじい勢いで成長しているんだ」

健がガイドブックを開きながら解説する。

彼の言う通り、街角には韓国の誇る独自ブランド**『LG電機』**や**『サムスン電子』**の巨大な看板が輝き、大通りにはトヨタグループの技術支援を受けて大躍進を遂げた**『現代ヒョンデ自動車』**の最新セダンがひっきりなしに走っていた。また、若者たちが集まる大型デパートは、日韓合弁の**『ロッテ』**が手掛けている。


「帝国統治時代に敷かれた鉄道やインフラがそのまま活かされてるし、韓国の伝統文化と帝国の資本が見事に融合してるんだ。……さあ、歴史の勉強はこの辺にして、腹ごしらえだ!」


健の案内で4人が向かったのは、韓国の伝統的な王宮**『景福宮キョンボックン』**を見学した後、路地裏にある地元民向けのディープな食堂であった。


「おばちゃん! ナッチポックン(手長ダコの激辛炒め)と、激辛チャンポンを4つ!」

真っ赤に煮えたぎる鍋がテーブルに運ばれてきた瞬間、大樹と莉奈は悲鳴を上げた。

「ちょ、赤すぎっしょ!? マグマ!?」

「ひええ……匂いだけで目が痛いぞ……」


しかし、健は眼鏡を曇らせ、滝のような汗を流しながら、恍惚とした表情で真っ赤なスープを飲み干していく。

「……最高だ。本場の唐辛子の突き抜けるような辛さと、海鮮の旨味。帝国の辛党たちがこぞって韓国旅行に来る理由がよく分かる……!」

「健くん、お水……」

雫が上品にハンカチで口元を拭いながら(彼女は意外にも辛い物に強かった)、氷水を健に差し出す。


翌日は、韓国の若者たちと片言の英語と日本語で交流しながら、焼肉サムギョプサルを大樹が5人前平らげ、莉奈は最新の韓国コスメを買い漁った。韓国市民も帝国からの旅行者には極めて友好的であり、日韓の「鉄の結束」は、政治だけでなく一般市民のレベルでも完全に定着していたのである。


### 3.北中華連邦――目覚める巨竜と万里の長城(3日目)


3日目の朝。4人はソウルから飛行機に乗り、黄海を越えて**北中華連邦**の首都・北京へと降り立った。


「……すげえ。なんか、韓国とはまた違う『スケールのデカさ』があるな」

大樹が、天安門広場から続く巨大な**『紫禁城(故宮)』**を見上げて圧倒される。


1970年代後半の北中華連邦。建国の父である魏煌ぎこうはすでにこの世を去っていたが、彼が敷いた「親日・近代化」のレールの上で、北中華は韓国に迫る勢いで凄まじい経済発展を遂げていた。

高層ビルが次々と建設される中にも、数千年の歴史を誇る中華の誇りが街の随所に息づいている。4人は巨大な『中華博物館』で悠久の歴史に触れ、中国人の「自分たちこそが中華の正統である」という強烈な自負を感じ取った。


「さて、次は万里の長城だ。……ただ、今回は『満中国境』の近くまで行くから、少し緊張感があるかもしれないぞ」

健の言葉に、3人は少し顔を引き締めた。


北京から北へ向かい、彼らがたどり着いた長城の城壁。

その向こう側に広がるのは、大日本帝国の巨大な傀儡国家・**満州国**の大地であった。

「満州って、今回は行かないんだっけ?」と莉奈が聞く。

「ああ。満州は石油と小麦で潤っている産業国家だけど、最近は貧富の差が激しくて、少し治安が悪化しているんだ。それに、巨大な工場と農場ばかりで、卒業旅行の観光には向かないからね」

城壁の上から、4人は遠く霞む満州の地平線を眺めながら、ユーラシア大陸の複雑な地政学の風を肌で感じた。


そして夜。

「北京に来たら、やっぱり北京ダックでしょ!」とはしゃぐ莉奈と大樹をよそに、健はまたしても「裏メニュー」を注文していた。

「すみません、本場四川の『超絶激辛・麻婆豆腐』を!」

運ばれてきたのは、山椒(花椒)が山のように盛られ、油が真っ赤に煮え立つ地獄の麻婆豆腐である。


「……ゲホッ! からッ! というか、いたッ!」

大樹が一口食べてむせ返る中、健は一人、汗でワイシャツを透けさせながら、白飯と一緒に猛然と麻婆豆腐をかき込んでいた。

「……素晴らしい。韓国の唐辛子とは違う、この『マー』の痺れる辛さ。北中華の経済成長のエネルギーは、このスパイスから来ているに違いない……!」

「健、あんた明日お腹壊してもしらないからね!」

呆れる莉奈と、優しくお茶を注ぐ雫。北京の夜も、賑やかな笑い声とともに更けていった。


### 4.極東ロシア王国――北の防波堤と哀愁の王宮(4日目〜5日目)


4日目。旅の最終目的地。

北中華から国際列車で国境を越え、彼らがやってきたのは、大日本帝国の北の絶対防波堤・**極東ロシア王国**の首都、**ウラジオストク**であった。


「……うわっ、寒い! っていうか、街の空気が全然違う!」

駅に降り立った莉奈が、慌ててコートの襟を立てる。


韓国や北中華の「熱気と喧騒」とは打って変わり、極東ロシアは、冷たく澄んだ空気と、重厚で静謐な空気に包まれていた。

この国は、林業と鉱業、そして何よりも「対ソビエト防衛」を担う巨大な軍事国家である。街を歩く人々もどこか大柄で屈強であり、港には極東ロシア海軍(大日本帝国海軍の旧式艦を供与されたもの)の灰色の軍艦がズラリと並んでいた。


「なんか、ちょっとピリッとするね」と大樹が言うと、雫が静かに頷いた。

「でも、建物はとても美しいわ。ヨーロッパに来たみたい」


彼らは、小高い丘の上に建つ白亜の**『ウラジオストク王宮』**と、その一角にある**『アナスタシア記念館』**を見学した。

「……ロマノフ王朝の生き残り、アナスタシア皇女がこの国を建国したんだ。彼らは、ソビエト(モスクワ)に奪われた真のロシアの誇りを、この極東の地で守り続けているのさ」

健の解説を聞きながら、4人は帝政ロシア時代の豪奢なドレスや、悲劇の歴史を伝える展示物に見入った。


夜の食事は、温かいロシア料理である。

「ボルシチ、すっごく美味しい! 体が温まる〜」

莉奈と雫が、サワークリームの溶けた赤いスープに舌鼓を打つ。大樹は揚げたてのピロシキを何個も平らげた。

「……健くん。ロシア料理には、激辛はないみたいね?」

雫がクスリと笑うと、健は少し悔しそうにしながらも、テーブルにあったロシア製の強烈なマスタードを大量にソーセージに塗りたくり、またしてもむせていた。


### 5.ウラジオストクの夜景――ズッ友の誓い


5日目の夜。帰国の前夜。

4人は、ウラジオストクの南に突き出た岬の展望台に登っていた。


眼下に広がるのは、金角湾(ウラジオストク湾)の美しい夜景。

停泊する船の灯りと、ヨーロッパ風の街並みが放つオレンジ色の光が、凍てつくような海面にキラキラと反射している。


「……明日で、帰国かあ」

莉奈が、手すりに寄りかかりながら、少しだけ寂しそうに呟いた。

「あっという間だったな。韓国の活気も、北中華のスケールも、極東ロシアの寒さも、全部最高だった!」

大樹が大きく背伸びをする。


健は眼鏡を拭きながら、夜景を見つめた。

「……ユーラシア大陸は、本当に多様だ。帝国がこれだけ豊かでいられるのも、こうした同盟国たちがそれぞれの誇りを持って、盾となり、市場となってくれているからこそなんだな」


「健くんは、最後まで真面目ね」

雫がふふっと笑い、自分のカバンから、道中で買っておいた少し高級なロシア産のチョコレートを取り出し、3人に配った。

「……4月から、みんなバラバラの道に進むのね。大樹くんはメーカーの営業、健くんは大学院、莉奈ちゃんはアパレル、私は銀行」


その言葉に、少しだけしんみりとした空気が流れた。

4年間、バカなことばかりして笑い合った日々。それがもうすぐ、終わろうとしている。


「……何言ってんの!」

莉奈が、パンッと両頬を叩いて、最高の笑顔を作った。

「社会人になっても、私たち4人の関係は変わんないっしょ! 辛い仕事があったら、また健に激辛料理の店に連れてってもらえばいいし!」

「おう! 愚痴なら俺がいくらでも聞いてやるよ!」

「ふふっ。そうね、月に一度は必ず集まりましょう」

「ああ。……僕の胃腸が持つ限りはね」


凍てつくウラジオストクの夜風の中。

4人は、展望台の中心に集まり、莉奈が構えたインスタントカメラに向かって、ギュッと肩を組み合った。


「これからも、一生ズッ友だからね!! はい、チーズ!」


フラッシュの眩い光が、若者たちの笑顔と、金角湾の美しい夜景を切り取った。

国家の威信や冷戦の重圧など、どこ吹く風。

大日本帝国という平和の傘の下で、若者たちはただ純粋に友情を確かめ合い、希望に満ちた明日(1980年代)へと、その一歩を踏み出していくのである。


(閑話 完)


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