表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/129

114.砕け散る群島と砂漠の同胞――愚者の自滅と帝国の紐帯

# 海洋帝国日本史 第十二章:黄金の狂騒と解き放たれる世界


## 第四話:砕け散る群島と砂漠の同胞――愚者の自滅と帝国の紐帯(1967年〜1970年)


### 1.時代遅れの強欲――オランダの執着(1967年)


1967年。

イギリスがインドを手放して『英連邦』を創り、ドイツやスペインがアフリカの植民地を次々と独立させて巨大な経済ブロックへと再編していく中。

ヨーロッパの小国でありながら、アジアに広大な植民地を抱え込んでいた**オランダ**だけは、世界の潮流(ネオ・コロニアリズムへの移行)を全く理解しようとしていなかった。


彼らが支配していたのは、数万の島々からなる東南アジアの巨大な宝物庫、**『オランダ領東インド(インドネシア)』**である。

ゴム、スズ、そして無尽蔵の石油と天然ガス。この「香辛料の群島」がもたらす莫大な富は、大戦で疲弊したアムステルダムの経済を支える絶対的な生命線であった。


「……イギリスやスペインの連中は腰抜けだ。我々オランダは、先祖代々四百年かけて築き上げたこの群島を、原住民どもに一寸たりとも渡すつもりはない!」


ジャカルタ(バタヴィア)のオランダ総督府は、現地で高まりつつあったスカルノら民族主義者による独立運動に対し、徹底的な『武力弾圧』という最悪の選択を下した。

オランダ本国から次々と重武装の鎮圧部隊が送り込まれ、独立を叫ぶ若者たちは容赦なく銃殺され、村々は焼き払われた。


しかし、武力で押さえつければ押さえつけるほど、民衆の怒りのマグマは地下深くで圧縮され、そして、その「怒り」の匂いを嗅ぎつけた世界最大の『革命の輸出業者』を呼び寄せることになったのである。


### 2.赤い業火と介入――燃え上がる群島(1970年)


1970年。

オランダの過酷な弾圧に対し、ついに**ソビエト連邦(MTO)**が、極秘裏かつ大規模な軍事介入に踏み切った。


「……オランダの資本家どもが、自ら墓穴を掘っているぞ。今こそ、東南アジアの心臓部に赤い楔を打ち込む時だ」


モスクワから、第三国(親ソビエトの独立国)を経由して、無数の『カラシニコフ(AK-47)』、RPG(対戦車擲弾)、そして多額の工作資金が、ジャングルの奥深くへと密輸された。

ソビエトの狙いは、インドネシアをまるごと共産化し、すぐ北に位置する大日本帝国の巨大防衛網(EATO)の喉元に、新たな赤い短剣を突きつけることであった。


「武器を取れ! オランダの豚どもを海へ叩き出せ!!」

ソビエトの支援を受けた独立ゲリラたちは、かつての竹槍から近代兵器へと持ち替え、群島の至る所で一斉蜂起した。

ジャワ島、スマトラ島、カリマンタン島……。熱帯の密林は、オランダ軍の装甲車が燃える黒煙と、ゲリラたちの怒号に包まれた。泥沼のゲリラ戦は瞬く間にオランダ軍の処理能力を超え、インドネシア全土が、文字通り「制御不能の巨大な火の海」と化したのである。


### 3.帝国の冷徹な視線――切り捨てられる愚者


インドネシアが業火に包まれる中、そのすぐ真北に位置する**大日本帝国**の将軍府は、この事態を極めて冷徹な視線で見下ろしていた。


「……オランダの馬鹿どもめ。時代が読めない強欲のせいで、我々の絶対国防圏の南限に、ソビエトの火の粉を撒き散らしおって」


東京の首脳陣が最も恐れたのは、インドネシアの共産革命が、EATOの加盟国であるフィリピンやインドシナ三国へ飛び火(ドミノ現象)することであった。


帝国は即座に行動を起こした。

巨大な航空母艦とイージスシステム搭載艦の始祖になる最新鋭のミサイル巡洋艦群からなる『帝国連合艦隊』が、南シナ海からインド洋にかけてのシーレーン(海上交通路)に展開。

さらに、フィリピンやインドシナの国境沿いに、完全武装の帝国陸軍・空挺師団を配置し、「一歩でも北へ火の粉が飛んでくれば、即座にすべてを灰にする」という圧倒的な威圧を行った。


この帝国の艦隊出動を見て、ジャカルタでゲリラに包囲され悲鳴を上げていたオランダの総督は、狂喜して東京へ救援を求めた。

『……おお、大日本帝国よ! 同じ資本主義陣営として、どうか我がオランダ軍を助けてくれ! ゲリラを共に空爆してほしい!』


しかし、東京から返ってきたのは、氷のように冷たく、そして残酷な最後通牒であった。


『――勘違いするな。我が帝国艦隊は、帝国のシーレーンを守るためにそこにいるのであって、貴国を助けるためではない』

帝国の外務大臣は、オランダの特使を前にして吐き捨てるように言った。

『……時代遅れの植民地支配など、さっさと手放せ。自らの強欲で火をつけたのだ、自らの血で消火することだな』


大日本帝国は、オランダという「愚者」を見殺しにした。

彼らを助けて泥沼の反共戦争に引きずり込まれるよりも、オランダの支配が崩壊するのを静観し、焼け野原になった後で、新たな指導者たちを経済力で絡め捕る方が、理系国家として遥かに「合理的」であったからだ。


### 4.砕け散る群島――悲劇の結末(1970年代初頭)


帝国の見放しと、ソビエトの猛烈な武器援助により、オランダの植民地支配は完全に崩壊した。生き残ったオランダの軍人と官僚たちは、尻尾を巻いてヨーロッパへと逃げ帰っていった。


だが、オランダという『共通の敵』が消滅した瞬間。

インドネシアの独立運動家たちを、最も悲惨な運命が待ち受けていた。


「……おい、俺たちのスマトラの石油の利益を、なぜジャワの連中に吸い上げられなければならないんだ!」

「我々はイスラムの厳格な教えに従う! 共産主義(ソビエト派)の無神論者どもと一緒に国など創れるか!」


もともと、インドネシアは何百もの異なる民族、言語、宗教(イスラム教、ヒンドゥー教、キリスト教など)が混在する、極めて複雑なモザイク国家であった。それを力で一つにまとめていたのが、皮肉にも「オランダの圧政」であったのだ。


ソビエトがばら撒いた無数の武器は、今度は「民族同士、イデオロギー同士の殺し合い」へと向けられた。

統一国家『インドネシア共和国』を創るというスカルノらの夢は、凄惨な内戦によって完全に打ち砕かれた。


数年にわたる血みどろの同士討ちの末、広大な群島は、誰にも統一されることなく、バラバラの小国へと**『砕け散って』**しまったのである。


厳格なイスラム法を掲げる**『アチェ共和国』**。

資源を独占しようとする**『スマトラ連邦』**。

人口の多さを背景にする**『ジャワ共和国』**。

熱帯雨林の奥深くで独立を宣言した**『カリマンタン国』**と**『スラウェシ共和国』**。

そして独自の文化を守る**『スンダ国』**。


「……愚かな。自ら宝の島を六つに叩き割るとはな」

大日本帝国は、バラバラに弱体化し、互いに憎み合う六つの小国に対し、圧倒的な資本力で個別に経済援助(という名の経済支配)を持ちかけた。

オランダの強欲とソビエトの謀略は、結果的に、インドネシアという巨大な統一国家の誕生を永遠に葬り去り、最も悲惨な形で「分割統治」の完成を招いたのである。


### 5.砂漠の同胞――アラブ特別県の奇跡


世界中が独立の嵐と内戦の炎に包まれ、かつての植民地が次々と血の海に沈んでいく中。

地球上でただ一箇所、植民地(あるいは非白人地域)でありながら、暴動はおろか、独立を求める声すらただの一度も上がらなかった『奇跡の場所』が存在した。


中東のペルシャ湾岸に位置する、大日本帝国の直轄領――**『帝国領 アラブ特別県』**である。


「……アブドラ県知事。本日の原油の積み出し量は、過去最高を記録しました。帝国の経済成長に、我々の油が大きく貢献しています」

「うむ。素晴らしいことだ。東京の将軍府にも、良い報告ができる」


冷房の効いたドバイの近代的な高層ビルの執務室。

かつて砂漠で日本の技術者と共に最初の油田を掘り当てた青年・アブドラは、今や帝国の高級官僚(県知事)として、アラブの伝統的な衣装カンドゥーラの上に、帝国の勲章を誇らしげに佩用していた。


「……知事。サウジアラビア(英国領サウジと米国領サウジが1960年に合体した国)や米領パレスチナや米領ヨルダン(同2地域は米国領のまま。米ソ最前線の地域は米国から離れた際に責められるのを嫌った。)、カタールの連中が、我々にも『日本からの独立』を扇動するビラを撒いていますが」

秘書の言葉に、アブドラは鼻で笑った。


「独立? なぜ、わざわざ貧しく不安定な小国になる必要がある? 我々は、世界最強の『大日本帝国』の一部(内地)なのだぞ」


大日本帝国がアラブ特別県で行った統治は、イギリスやオランダのそれとは根本的に次元が異なっていた。

帝国は、この地から湧き出る莫大なオイルマネーを本国へ吸い上げるだけでなく、その富を惜しみなく現地に再投資した。巨大な淡水化プラント、最新鋭の病院、冷房完備の学校、そして新幹線に匹敵する高速鉄道網。

かつての不毛な砂漠と漁村は、わずか20年の間に、東京や大阪と遜色のない「超近代的な未来都市」へと変貌を遂げていたのである。


そして何より、帝国はアラブ人たちに**『絶対的な平等と、帝国臣民としての誇り』**を与えた。

アラブの子供たちは、日本の子供と同じカリキュラムで数学や物理を学び、柔道や剣道で汗を流した。優秀な者は東京の『帝国理工院』や『国防大学』への進学を許可され、帝国のエリートとして政府や軍の中枢へと組み込まれていった。


「我々は、搾取される植民地の奴隷ではない。無敵の帝国を構成し、世界経済の心臓エネルギーを動かしている、誇り高き『帝国の同胞』だ」


アフリカやアジアが血みどろの独立戦争を繰り広げているニュースを、アラブの青年たちは、カフェで日本の最新のカラーテレビを見ながら、どこか遠い世界の出来事のように冷ややかに眺めていた。

そこには、大国への憎悪など微塵もない。あるのは、自らが「世界で最も豊かで進んだ国」の一部であるという、絶対的な自己肯定感だけであった。


### 6.エピローグ――コントラストの果てに


1970年。

砕け散ったインドネシアのジャングルには、まだ硝煙の匂いと、民族同士の殺し合いの血の匂いが立ち込めていた。


オランダが武力と強欲で押さえつけようとした結果は、すべてを失う「自滅」であった。

イギリスやドイツが計算ずくで手放した結果は、したたかな「経済圏の維持」であった。

そして、大日本帝国が富と誇りを共有し、完全に「内地化」した結果は、永遠に揺るがない「絶対的な紐帯(同胞)」であった。


世界を吹き荒れた1960年代の『独立の嵐』は、かつての宗主国たちが、被支配者たちをどう扱ってきたかという「歴史の通信簿」を、最も残酷な形で突きつけたのである。


しかし、この独立の嵐の凄惨な「真の地獄」は、アジアではなく、ヨーロッパの足元――地中海の向こう側で、いよいよその狂気の蓋を開けようとしていた。


時代錯誤のプライドを捨てきれず、大国としての幻想にすがりついた「ローマの末裔」たち。

次回、イタリアの無惨な崩壊と、血塗られたバルカンの独立戦争が、ヨーロッパ全土を震え上がらせる。


(第十二章 第四話 完)


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ