過酷な労働は終わり、逢魔が時。
《日時? 夕方 街外れ》
――体が重い……完全に息も上がってる。
瓦礫の撤去作業は、本当に辛いものだった……。
総司
「ぜぇ……ゼェ……はっ――ハァ……マヂムリ……」
オーク
「そろそろ日も沈んできたし、もう終わるか……」
総司
「ぜぇ……ゼェ……そうしてくれると――助かる」
俺は限界だった。息も荒いし、全身が汗でビショビショでもう――。
オーク
「ふぅ……流石に俺も疲れたぜ――全くよ……」
総司
「あぁ……よく俺も耐えたわ……うん」
オーク
「正直、スゲェよお前――ここまで根性あるとはな」
総司
「仕事だからな……ハァ――マヂでしんどい……」
オーク
「で、明日は来るのか? いつでも歓迎するぜ?」
総司
「わ……分かんねぇ――ははっ……震えが止まんねぇ」
オーク
「たっはっハッハッハ――まるで産まれたての子羊だな?」
総司
「あぁ……今にも倒れそうだ――ははっ……」
――バシッッ!!
総司
「あいだっッ――?! ちょっとは優しくして……」
オークに背中を叩かれた衝撃で、体が超ビクついた。
オーク
「何言ってんだ、適度に休ませただろうが!!」
総司
「休んでねぇよ? 水飲んで即仕事だぞ!!」
オーク
「まだまだあんだよ……見てみろ“この瓦礫の山”を」
総司
「あぁ……全然減った気がしねぇや――」
オーク
「そうだ……ここが片付かなきゃ建物も作れねぇ」
総司
「オイオイ……ここって再利用する予定あんの?」
疑問だった。物価も超高い、景気も悪い、まるで現代とそう、変わらないこの世界だ。
まだ復興する余地があるのかと。
オーク
「オイオイ……そりゃあんだろ?」
総司
「こんな荒廃した世界にも、権力者でもいんのか?」
オーク
「まぁ……いんだろ、中心部とかには多少」
総司
「まぁ……そうか。“居ないワケねぇ”よな……」
オーク
「それに、この瓦礫は再利用されるから仕事がある」
総司
「全くよ――やってらんねぇな?」
オーク
「“世の中そんなモンだ”。需要と供給で動いてる」
総司
「へいへい……で、“今日の日当”は?」
オーク
「あ〜うん、本当は5千円だが、6千円出してやる」
総司
「ほほぉ……大分、色つけてくれたなぁ?」
大体、そんなもんだろうとは思っていた。
ただ、これでも色々気遣ってくれているんだと思えば、何にも文句は言えない。
不景気な世の中なのだ、チョットでも稼げるならありがたい話だ。
オーク
「次は5千円だけど、まぁ……気が向いたら来いよ」
総司
「あぁ……そうさせて貰う。悪いな世話掛けて」
オーク
「イイって事よ。誰もやりたがんねぇ仕事なんだ」
総司
「まっ――普通にキツイからな……ほんっ――と」
実際、俺達の他にも数名は撤去作業をしていた。
ただ、あまりにも黙々と仕事をするもんだから、全く会話をしていなかった。
総司
「で、ずっとここで働いてるヤツは居るのか?」
オーク
「ふぅむ……?」
オークは両手を大きく上げ、首を横に振った。
総司
「なんだよ……根性ねぇ奴らばっかなんだな?」
キツイ仕事ってのは、定着率が低いものだ。
別にソコに関しては何も言えない。
ただ……一定数は居てもいいのでは?
そう思うと、少し悲しい。
オーク
「あぁ……でも――“最近はゴブリンが頑張ってる”」
総司
「ゴブリン……あぁ、“あの猫耳お姉さん狙ってるヤツの事”か?」
オーク
「いや、そこら辺は知らねぇよ別に……」
総司
「なんだ、話聞いてねぇんだ?」
オーク
「聞くかよんな事……仕事優先なんだからよ?」
総司
「まぁ……忙しいしな? 実際」
オーク
「ただ……なんか、沢山働かなきゃなんねぇってよ」
総司
「ふふっ――“カッケーじゃんアイツ”……」
オーク
「おぉそうだ!! “お前よりずっと働かくしな”?」
――ズキッ……!!
心臓が痛くなるお言葉だった。
総司
「お……俺が――“ゴブリンに”……“負ける”……?」
オーク
「おうよ、仕事は丁寧だし、仕事は早いしよ?」
――グサグサッ!!
総司
「へぇ……やるねぇ? ほ〜〜ん? 凄いじゃん」
オーク
「お前も頑張れよ? “指輪つけてんだからよ”……」
総司
「バッ――おめぇ……初日でしょうがぁ……?」
オーク
「アイツ、初日でもテキパキ仕事してたぜ……?」
チーーーーン……。
完全にオーバーキルだった。
オーバーキルおぢさんだった――。
総司
「ふ――ふぅ……まぁ、とりあえず日当くれ!!」
俺はバツが悪くなり、日当を催促する。
早くこの場から離れたかった……。
オーク
「おう? そんじゃ――また頼むな?」
――パサッ……。
総司
「ふぅ……“ボロボロな金”だなオイ……」
オーク
「シワクチャだろうが、ボロボロだろうが――」
オーク
「“汗水垂らして稼いだ金だ”。感謝して受け取れ」
……ぐしゃっッ――ギュッ……。
総司
「あぁ……そうだな。あんがとう」
総司
「確かに受け取ったぜ――“命の金”」
オーク
「なんだ――まだ握力残ってんじゃねぇか?」
オーク
「残業してくか? 投光器つけてよ?」
総司
「いえっッ!! 結構です!! そんじゃ!!」
オーク
「ったくよ――まだまだやれそうじゃねぇの?」
総司
「まっ――余力を残して帰宅するってコトで!!」
オーク
「どうでも良いけど、金落とすなよ?」
総司
「えっ……?」
オーク
「えっ……? じゃねぇよ――プルプルじゃねぇか」
総司
「お……おう!! んじゃ――お疲れした!!」
いくら虚勢を張っても、体は素直だった。
ほんっと――膝が震えて、立ってるのもやっとだ。
オーク
「また来い、仕事は山程あるからな」
総司
「おうよ――そん時はバリバリ働いてやるさ」
オーク
「楽しみに待ってるぜ」
総司
「あぁ……そんじゃこれで失礼する」
オーク
「気ぃ付けて帰れ……“治安悪いからな”」
総司
「ちょっとぉ……怖い事言うのやめて!!」
オーク
「嘘じゃねぇよ、治安悪りぃんだからよ」
総司
「……つってて、ハァ――そんじゃあな」
オーク
「オイオイ……送ってってやろうか? 街まで?」
総司
「……いらねぇよ――んなもん、彼氏かよオメェは」
オーク
「ははっ――コッチからゴメンだ」
総司
「ふふっ……ハハハッ!! だよな? そんじゃ」
オーク
「あぁ……じゃあな」
こうして、始めての異世界労働編は幕を閉じた。
めちゃくちゃ体は痛いが、何となく……心は満たされていた。
久々に思いっ切り、体を動かしたと思う。
お陰で体がプルプルしてならないが、悪い気はしなかった。
総司
「それはそうと――ルイは元気にやってるだろうか」
一人で森に行くと言って、俺とは別々になった。
少しだけ心配だった。
総司
「まぁ……大丈夫か――」
――スッ……キラッ――。
総司
「しっかし……“禍々しい色”してんなコイツは……」
夕暮れに照らされた、左手の薬指にはめられたリング。
ただでさえ血の様な色をして禍々しいのに、それが更に怪しく光って見えて、何だか寒気がした。
総司
「うぅ……寒っッ――? ハァ……“大丈夫かな”」
ルイがとかではない――俺自身の事だ。
総司
「どうなったらこんな……禍々しくなるんだ――」
正直、ゾッとするレベルで怪しく光輝く真紅のリング。
いつ見ても変わらず……禍々しく感じていた。
《日時? 逢魔が時 街外れの神社》
――俺は歩き疲れて、小休憩を挟んでいた。
総司
「ふぅ……なんだよこの神社は――」
目の前には立派な鳥居があり、如何にもな長い階段があった。
階段の頂上にはきっと、立派な神社があるのだろう。
総司
「……ここだけ――“妙に綺麗だな”」
鳥居の前で佇む俺は、異様に綺麗な神社に違和感を覚えていた。
総司
「鳥居も立派で……階段もヒビ割れ一つない……」
何だか、ココだけは大切に扱われている気がして、単純に感心していた。
総司
「“逢魔が時”――か……ハハッ――な〜んて……?」
――ザッ……ぴとっ――。
……ゾワぁ――サァ……。
総司
「うそ……? え"っ――?」
血の気が一瞬で引いて行くのが分かった。
何者かに――背後を取られ……張り着かれていた。
ルイ
「――すぅ……スゥ……ふふっ――“汗の匂い”……」
総司
「なっ――何だよ……ルイかよ――マヂビビった」
一瞬で緊張が解けた。
本当に――化け物とでも対峙したのかと……。
ルイ
「はぁ……“ちゃんと頑張ったんだね”?」
総司
「お……おん――対して稼げてねぇけど……うん」
ルイ
「ふふっ……大丈夫――ちゃんと稼いできたから」
――ぎゅっッ!!
総司
「そ……それは何よりだ……ははっ――はっ……?」
ルイは思いっ切り……俺の背中に抱き着いた。
何だか――心臓が締め付けられた気がして、どこか息苦しい。
ルイ
「ふふっ……? さ――“表向いて”?」
……ファサッ――。
総司
「お……おう?」
背中の拘束は解かれ、そのまま俺は後ろへ振り向いた。
――ギラッ……。
ルイ
「うっふふっ……“綺麗でしょ”――“コレ”」
総司
「――ゔっッ……?! なっ――“何コレ”……?」
ルイは手を伸ばし、俺の目の前で見せつける様に……。
ドス黒い色をした……小さなアンプル容器を見せた。
まるで……血の様にも見えた。
ルイ
「あぁ……コレ? ふふっ――“お礼に貰ったの”」
――ギラッ……。
総司
「んなっ――“何の”……?」
ルイ
「んっ……? “今日の報酬の”」
総司
「……あ――あの? “闇ルート”……の?」
ルイ
「うん、そう」
総司
「そっ――そっか? ははっ――? で……」
ルイ
「ん……?」
総司
「――それは――“何”?」
ルイ
「あぁ……コレ? “媚薬の”――“試薬”?」
何となく――そんな気がした。
オジサンの勘は……大体当たるのだ。
総司
「……つまり、“その原料を”――“森で”……?」
ルイ
「うん……今日はね? “沢山捕獲出来たの”」
……ゾゾゾッッ――。
総司
「へ……へぇ〜〜? そ――そうなんだ?」
ルイ
「うん……そしたら帰り際、くれたの」
総司
「……お――おう? 良かったね?」
ルイ
「うん、お金も貰えたし……“コレもだしね”?」
――ギラッ……ギラギラッッ……。
ルイは嬉しそうに……小さなアンプル容器を指で揺らし、遊んでいた。
同時に夜に切り替わって――。
ルイ
「さっ――買い物して帰りましょ?」
総司
「お……おう? は――腹減ったしな?」
ルイ
「うん……今日はお肉買って帰ろっか?」
総司
「お〜〜ん――疲れたしな? ガッツリ食べよう」
ルイ
「ふふっ……“夜はこれから”だもの――ね?」
総司
「……えっ? “マヂ”――?」
ルイ
「うん、マヂ」
言わずもがなだった。
この後、俺とルイは――。
総司
「……“優しくしてね”?」
ルイ
「うふふっ――“それはどうかな”〜〜?」
――ぎゅっッ……。
ルイ
「ほら、行こ? 固まってないで!!」
総司
「はっ――はひっッ!!」
ルイ
「あぁ……良い風――“気持ちイイ”……ね?」
総司
「お……おん? ふっ――ふぅ……帰ろう――」
ルイ
「うん♪」
こうして――俺はルイに手を引かれながら……。
今日も――“狂喜の狂気の夜を迎える”……。
何がとは言わない。
“ナニか”が今日も起きる。
ただ――それだけだった。




