第8話 封印王の影
この覚醒をきっかけに“熊の神そのもの”との邂逅へつなげられます。
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第8話 封印王の影 ― 王都炎上 ―
―異世界ライフ加護が熊 〜転生したら神の熊がついてきた〜―
王都ラグナリア。
白銀の尖塔と金の屋根が連なる大都。陽の光に輝く街を、ひとりの青年が見上げていた。
かつて村を追放された「熊の加護持ち」――リク。
森の獣と共鳴し、己の力に怯えながらも生き延びた青年が、いま“化け物学院”の生徒として王都の中心に立っている。
学院はその名の通り、異形や異端の加護を持つ者たちの教育機関だった。
リクは最下層出身で、貴族や王族の子弟に囲まれ、常に蔑まれていた。
だが、彼の熊の加護が持つ“異質な力”を、学院長ルドラスだけは見抜いていた。
「――リク。お前の加護は神話級だ。使い方次第では王族すら凌駕する」
「……そんな力、欲しくないです」
「だが、いずれ呼ばれるぞ。加護の源は、王の血筋と深く結ばれている」
その言葉が現実となったのは、学院に「王都召喚命令」が届いた翌日のことだった。
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◆王族の儀
大聖堂に掲げられた聖旗が、陽炎のように揺れていた。
王族が代々受け継ぐ「太陽神の加護」の継承儀式。
王都全域の魔力が一点に集まり、空が白く輝く。
リクは、学院代表として儀式の護衛に参加していた。
共に立つのは、かつて初めて心を通わせた友――半魔の少年シエル。
彼もまた、異端の「影狼の加護」を持つ者だった。
「なあリク、もしもの時は――逃げろ」
「何を言ってる。護衛任務だろ?」
「……あんたの加護、ただの熊じゃない。俺には“神の匂い”がする」
その瞬間、聖堂の奥で光が弾けた。
祝福の光――のはずだった。
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◆封印王の目覚め
光の中心から、声が響く。
それは祝詞ではなく、呻き。
古の王――封印王アズ=ラグナの魂が、王族の血を媒介に再び現れたのだ。
「この血が……我を封じた……」
聖堂が割れ、黄金の炎が噴き上がる。
炎ではない。それは神気。
神を殺そうとした“王の呪い”だった。
王族たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。
炎が街へと広がり、人々を飲み込む。
加護を持つ者たちの力も、次々と狂い始めた。
リクは思わず叫んだ。
「止めろ! これ以上、誰も――!」
だがその叫びに応えるように、胸の奥から低い声が響く。
――リク。目覚める時だ。
それは熊の声だった。
森で彼を包んだあの温かい気配。しかし今は、天地を揺らす神の声。
「まさか……お前が……神熊〈シンユウ〉か……?」
光がリクの体を貫く。熊の紋章が腕に浮かび上がり、金色の瞳が開いた。
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◆神熊の真名覚醒
「名を呼べ。お前がそれを選ぶなら、我はお前の咆哮となろう」
リクは血を吐きながらも、声を絞り出した。
「……ウルス=ディア……!」
瞬間、聖堂を覆う炎が一斉に吸い込まれるように消えた。
黒煙の中から現れたのは、半透明の巨大な熊。
その金の毛並みは空気を揺らし、瞳には森と月を映していた。
「――神熊顕現」
リクが一歩踏み出すたび、大地が鳴った。
熊の咆哮が響き、王族たちの加護がことごとく掻き消されていく。
“加護殺し”――それが神熊の力。
封印王の魂は苦しみ、叫びを上げた。
「貴様……その力は……神を殺すもの……!」
リクの意識は遠のきながらも、炎の中でただ一つの願いを抱いた。
――誰も失わせない。
神熊の咆哮が夜空を貫き、光の壁が王都を覆った。
すべての炎が消えたあと、リクの姿は瓦礫の中に倒れていた。
その腕には、黒い熊の痣が広がっていた。
まるで神の呪いのように。
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◆終章 ― 「神を殺す者」
夜明け。
王都の街は焼け落ち、リクは拘束されていた。
王族は震えながら彼を指さす。
「神を殺したのは、あの男だ――」
リクは何も言わなかった。
ただ、森の風が吹いた気がした。
遠くで、熊の声が微かに響く。
――まだ終わっていない。
そしてリクは、連行される馬車の中で、静かに目を閉じた。
その瞳の奥には、確かに“神熊”の金色の光が残っていた。
王都炎上編、いかがでしたでしょうか?
“加護殺し”の能力が明らかになり、リクはついに神熊の真名を呼び覚ましました。
だがそれは同時に、“神に最も近い存在”としての孤独の始まりでもあります。




