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異世界ライフ加護が熊 〜転生したら神の熊がついてきた〜  作者: マーたん


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影王・本体出現 ― 森最後の守護者、沈黙破り ―

まだだった…

影王・本体出現 ― 森最後の守護者、沈黙破り ―


 風が止んだ。


 さきほどまで枝葉を震わせていた影森の風はぴたりと止み、森全体が“呼吸を忘れた”かのように静まり返っていた。

 無職の元勇者――いや、今や世界で唯一の冒険者♾️ランクである男、リクトは足を止め、背筋を刺す悪寒に喉を鳴らす。


「……来る。気配が違う。雑兵の影獣なんかじゃねえ……」


 隣で、熊の加護を与え続けてくれている“神熊”クマナは、珍しく言葉を発しなかった。

 その巨大な黒い目は、森の中心――暗黒の瘴気が渦巻く一点だけを凝視している。


 そして。

 そこに――亀裂が生じた。


 空間そのものが破れたような、乾いた音。


 黒い深淵の穴がゆっくりと開き、その奥から、異様な“何か”が外界へと滲み出てくる。


 森の木々が悲鳴を上げるように軋み倒れ、地面の根が逃げるように震えた。


「……やっと、見つけた」


 声がした。


 空気を腐らせるような低い声。

 言葉そのものに毒があるかのように、リクトの喉がひゅっと締まる。


 黒の闇から、影が、這いずるように外へ出る。


 輪郭が存在しない。

 人の形をしているようで、していない。

 影の集合体――いや、世界そのものが“闇”を形にしたような――。


 これが。


 これこそが。


影王シャドウロード ― その本体


「……森を焼き、獣を喰い、精霊を堕とし……よくもまあ、ここまで近付けたものだ、人間」


 その“声”は空間全体から響き、森のどこにいても聞こえるかのようだった。


 リクトは拳を握り締める。


 勇者時代に聞いた悪夢の名。

 どの国の王もその名を口にするのを嫌がった、滅びの黒。


 勇者として旅をしていた頃、何百回も対峙寸前まで行き、結局敗走するしかなかった恐怖の存在。


「……やっと、逃げずに会いに来たな」


「逃げた? 人間よ、誤解するな。私は一度たりとも……おまえに興味はなかった」


 ズキッ――と胸が痛んだ。

 リクトが勇者を“辞めた理由”が、胸に蘇る。


 世界を救う力がなかったこと。

 仲間を守り切れなかったこと。

 誰よりも努力したのに、影王の瘴気の前に崩れ落ちた過去。


「だが――今は違う」


 影王が一歩、森へ足を踏み出す。

 そのたび、地面が溶けるように黒く染まっていく。


「神の熊の加護。

 精霊森の最深部を守る“鍵”。

 そしておまえの中に眠る、王族の血――」


 リクトの心臓が跳ねる。


「……ッ!? てめぇ……何を知っている!」


「おまえこそ知らぬのか。

 “王の血”は腐っても、力は消えぬ。

 森が、おまえを選んだのは必然だ」


 影王の指がリクトに向けられると、森の奥の木々がざわりと揺れた。


 まるで――呼応するように。



◆ 森最後の守護者、目覚める


 地面が震えた。

 地鳴りが森全土に響き、倒木が舞い上がる。


 次の瞬間。

 森の奥――千年樹と言われる巨木が裂け、そこから“光”が溢れた。


 黄金の葉を纏い、根を背負い、森そのものを象徴するような、巨大な影が姿を現す。


 獣のような身体。

 木の皮のような甲殻。

 精霊の紋章が額に浮かんでいる。


 ――森の守護者グレイス・ワーデン


 伝承の中だけで語られた、森の意志そのもの。


「……まじかよ。伝説級のやつじゃねえか」


 守護者はゆっくりとリクトの方を向いた。

 巨大な瞳が、まるで“試す”ように彼を見つめる。


「うぉおおおおおっ!? リクト、アレ、敵なのか味方なのか言ってくれッ!」

 神熊クマナが珍しく取り乱している。


「……分からん。

 でも、俺を敵として見てるわけじゃない……気がする」


 守護者は、影王に鋭い視線を向けると、森中に響く雄叫びを上げた。


 地面が震え、木々が一斉にざわめき出す。


 森そのものが戦いの意思を示した。


「……守るためか。

 こいつは“森の最後の意地”を見せようとしている」


 影王は嘲笑するように肩をすくめた。


「守れるものか。森などとっくに死んでいる」


「いや――まだ死んでねぇよ」


 リクトは一歩、前へ出た。


 両足が震える。

 影王の本体の存在圧だけで、勇者時代の恐怖が蘇る。


 だが。


 あの日の自分とは違う。


 背中には、神熊の加護。

 森の力が呼応している。

 そしてなにより――


「俺はもう、逃げねぇ。

 あんたを倒すまで、絶対にだ!」


「……無職でここまで粘る者は初めてだ。

 良い、“王の血”よ。見せてみろ」


 影王の周囲に、黒い刃が何百も浮かび上がる。


 守護者が咆哮し、大地が盾となって隆起する。


 リクトは剣を引き抜き、魔力を限界まで燃やした。


「行くぞ……最終決戦の前哨戦だ!!」



◆ 影王 VS 守護者 & リクト ― 森空間崩壊バトル


 戦いは、一言で言えば“世界の破壊”だった。


 黒い瘴気の斬撃が森を引き裂き、守護者の大地の盾が粉砕される。


 守護者の巨体が影王の腕を掴んで地面へ叩きつけるが、影王は霧状に崩れ、次の瞬間には背後へ移動していた。


 リクトは剣に熊の加護を纏わせ、全身を風に乗せる。


「《白熊衝破ベア・ラッシュ》!!」


 熊の咆哮とともに、光の爪が十字に舞う。


 影王は片手でそれを弾き返す。


「悪くはない、無職よ。

 だが――決定打がない」


「なら出すまでだろうがッ!」


 その瞬間。

 守護者の背から光が迸り、森中の魔力が渦のようにリクトへ集まっていく。


「リクト……これは……“森が託した力”だ!」


「……そうか。

 ありがとう、森。

 最後まで守りたかったんだな」


 光が剣へ集まり、刀身が翡翠色に染まる。


 影王の目がわずかに細められた。


「……それが、“王の血”の力か」


 リクトは深く息を吸う。


「王だの血だのはどうでもいい。

 ここで倒す――ただそれだけだ!」



◆ 森の最後の一撃 ― リクト覚醒


「うおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 森の魔力、守護者の加護、熊の祝福。

 三つの加護が一つになり、剣が“森の心臓”のように脈打つ。


「《森王剣グリーン・キングスブレード》!!」


 振り抜いた瞬間――世界が緑光で満たされた。


 影王の身体を直撃し、闇が大きく裂ける。


 影王は初めて――後退した。


「……面白い。

 ついにここまで……ここまで“成長”したか」


 瘴気が回復し、影王は姿を立て直す。


「誉めてやろう。

 だが――この森はここで終わる。

 次は……王都だ」


 影王は黒い穴を開いて後退する。

 その視線だけが、リクトを貫いた。


「来るがいい。

 無職の勇者よ――おまえだけが、私の唯一の“敵”だ」


 影王が消えると同時に、森の空間は完全に崩壊を始めた。


 守護者がリクトへ視線を向け――小さく頷いた。


 その身体が崩れ、光となって散る。


「……最後まで、守ったんだな」


 リクトは拳を握りしめた。


 森の最後の守護者はもういない。


 だが――その意志は確かに、彼の中に残った。

◆ 次回予告(最終話1つ前)


影王本体は王都へ侵攻開始。

森は崩壊し、守護者は消滅。


リクトは“王の血”と“∞ランクの力”を受け入れ、

最後の決戦へ向かう。

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