異端の共闘
…。
異端の共闘 ― 闇の森再現試験 ―
影王封印核との対面から数日後。
学院の空気は張り詰めていた。
王族魔導院《アルセリア学院》は、明日行われる“最重要試験”の準備に追われている。
――闇の森再現試験。
魔力障壁を利用して、かつて世界を覆った“闇の森”を再構成するという、
実戦さながらの巨大試験場。
そこで、魔獣討伐、陣形構築、救助、敵判断――
あらゆるスキルが試される。
なのに、だ。
俺とセリアは試験前日、呼び出されていた。
担当教官の部屋に入った途端、
教官・バルドの眉間が深く寄った。
「……リク・モトシバ、おまえだ。問題は」
「は?」
「先日の封印核の騒動……原因の七割は、お前の“加護の暴走”と報告されている」
「いや待て、俺は――!」
隣のセリアがすかさず前に出た。
「違います! 暴走じゃありません!
リクはむしろ“封印核が起動したのを抑えた”側です!」
バルドはため息をついた。
「分かっている。だが、お前の熊加護は“規格外”だ。
上層部は、お前を試験から外すべきか討議している」
試験から……外す?
ここまで努力してきて、今さら?
俺が怒りで口を開こうとした瞬間――
セリアが俺の手を握り、静かに言った。
「……一緒に受けるよ。
だって、あなたを1人にしたら本当に暴走するでしょ?」
「誰が暴走だよ……」
「ほら、そういうとこ」
その笑みに、胸の中がすっと軽くなった。
バルドが咳払いをして告げる。
「そこでだ。今回の試験は、ペアでの参加と決まった」
「ペア?」
「そうだ。
リク・モトシバ、セリア・ウィンドレイ。
お前たち二人で組め。」
空気が止まった。
セリアが目をぱちくりさせる。
「わ、私たちが……?」
「文句があるなら影王に言ってこい。
今回の試験は“加護の相性”を測る実験も兼ねている。
お前ら二人の相性は……異端だ。だが完璧でもある」
相性?
俺とセリアの?
セリアは少し赤くなり、そっぽを向いた。
「……そ、そんなの、気にしなくていいのよ。
試験よ、試験」
教官室を出たあと、
学院の廊下に夜風が流れる。
俺が口を開いた。
「……なあ、セリア。ほんとに大丈夫なのか?
俺の加護、危なすぎるだろ」
セリアは笑って、俺の胸を軽く指でつついた。
「大丈夫。
だってリクは、暴走したこと……一度もないもの」
「いや、あの熊影とか――」
「暴走じゃなくて“守ろうとした”だけ。
私は知ってるよ」
風が彼女の髪を揺らす。
その横顔は不思議なほど温かい光を帯びていた。
――守ろうとしただけ。
その言葉に、胸が熱くなる。
でも、その穏やかな時間は長く続かなかった。
◆◇◆
翌日。
学院中央訓練場に集まった数百人の生徒がざわめく中、
巨大な闇のゲートが形成されていた。
黒い木々。霧に包まれた大地。
そして遥か奥から響く魔獣の咆哮。
まさに――地獄。
リクとセリアの前に、バルド教官が立つ。
「お前ら、聞いておけ。
再現試験とはいえ、死者が出てもおかしくない。
だがペアで動けば生存率は跳ね上がる」
セリアが軽やかに構える。
「さて、リク。行きましょうか」
俺は深呼吸して、拳を握った。
――影王の封印核が俺を“神殺し”と呼んだ真意を知るためにも。
――神熊の本当の力を知るためにも。
闇の森へ踏み込むしかない。
セリアが小さく呟いた。
「……一緒に、帰ってこようね」
俺はうなずき、手を前に差し出した。
「もちろんだ」
セリアは少し照れた顔で、その手を握り返す。
その瞬間――
風と熊の加護が同時に脈動した。
空気が震え、魔力が渦を巻く。
周囲の生徒たちがざわついた。
「な、なんだ……!?」
「あれが問題児ペアか……」
バルドが驚愕で目を見開く。
「……本当に“相性”が合ってやがる……!」
そして。
二人の影が重なった瞬間、
闇の森のゲートが開いた。
黒い風が吹き荒れ、森の奥から何かが咆哮する。
闇の森――再現試験が、始まった。
…
…。




