歌源殿
唄詩歌島編は、これまでの「戦う力」ではなく、
“声”“想い”“心の震え”をテーマにした物語です。
島の呪いの中心――歌源殿が登場します。
声を奪われた者たちの残響。
封印されながらもなお世界へ呪いを放つアガルナ。
そして、巫女ウタリカが抱え続けた痛みと覚悟。
リクとセリアの心の声が、
“声を喰らう怪異”にどう立ち向かうのか。
あなたと共に、この歌の物語をさらに深く紡いでいきます。
歌源殿 ― 封じられた声の主 ―
―唄詩歌島編―
森の奥へ進むほどに、空気はひんやりと湿り、歌声はかすれた呻きへと変質していった。
リクは気づく。島全体が“息苦しさ”を訴えている――まるで喉を塞がれた歌い手のように。
「ウタリカ……島は何を恐れている?」
リクが問いかけると、巫女は歩みを止め、そっと振り返った。
「島の声を奪った存在がいます。
その名は――“アガルナ”。
かつて海の精霊に仕えた“声の守人”でした」
セリアの背筋に冷たいものが走る。
精霊に仕える者が呪いの原因になるなど、普通では考えられない。
「守人なのに……なぜ?」
ウタリカは言葉を選ぶように、小さく息を吸った。
その顔には、巫女としての覚悟と少女としての痛みが同居していた。
「アガルナは、島の歌を“永遠に残す”ために、
すべての歌を自分だけのものにしようとしました。
歌う者たちの声を奪い、海の精霊の声さえ喰らおうとしたのです」
「声を奪う……?」
リクは握った拳を震わせた。
「そんなこと、許されると思ってんのか」
「許されません。だから――封じました」
ウタリカの瞳に、決意の青が宿る。
「歌源殿に、アガルナの“声”を封じたのです」
だが、と彼女は続けた。
「封印は今……崩れかけています。
アガルナは自分の喉を捨て、呪いを海へ放ちました。
島の歌を――世界に溢れるすべての“音”を奪うために」
やがて、森が開けた。
■ 歌源殿
そこには、巨大な海貝を思わせる建造物があった。
外壁は真珠色に輝き、波紋のような紋様が脈動している。
「ここが……歌源殿」
セリアが呟く。
ウタリカは殿の扉へと歩み寄り、両手を添えた。
すると、殿全体が柔らかい音を響かせ、扉がゆっくりと開いていく。
――その瞬間。
低く、濁ったうなり声が殿の内部から響きわたった。
言葉にはならない。ただ飢えと渇望だけを孕んだ声。
「……これが、奪われた声?」
リクが息を詰める。
ウタリカは小さく頷く。
「これはアガルナが喰らった人々の声の残骸です。
封じたはずなのに……もう、殿の底から滲み出してきている」
歌源殿の奥は暗く、黒い霧がひそやかに渦巻いていた。
その中央には、壊れた竪琴のような装置が浮かび、紫の亀裂が走っていた。
「封印が……崩れてる」
セリアの声が震える。
ウタリカは振り返り、二人の目をまっすぐに見た。
「リク、セリア。
あなたたちの“声”――歌でも叫びでもない、心の声が必要です。
封印を修復できるのは、精霊に選ばれたあなたたちだけ」
リクは一歩前へ出る。
胸に手を当て、決意を固める。
「やるよ。島を沈めさせたりしねぇ」
セリアも剣を握りしめて頷く。
「リクの声も、私の声も……使って。
アガルナなんて、もう二度と目覚めないように」
ウタリカは微笑み、二人の手を取った。
「それでは……歌源殿の核へ向かいましょう。
アガルナの“喉”が眠る場所へ。」
殿の奥から、不気味な気配がさらに濃くなる。
ついに――呪いの正体に触れる時が来た。
、島の呪いに初めて“形”が与えられました。
アガルナは単なる敵ではなく、
「歌を永遠に残したい」という歪んだ願望の果てに狂った存在。
彼の物語は、ある意味ではリクにもセリアにも
重なる影を持っています。
歌源殿に漂う“奪われた声”の怨嗟は、
今後のバトルと精神世界の描写に直結します。




