唄う島の門
島が唄う
波渡る風の音が響き渡る
唄う島の門 ― 精霊の巫女との出会い ―
潮風が運ぶ歌声は、もはや風のざわめきではなかった。
リクとセリアが島の奥へ足を踏み入れるたび、“声”はより鮮明に、より近くに響き、胸の奥を震わせた。
――これは歌じゃない。祈りだ。
リクはそう直感した。
白砂の道を進むと、鬱蒼とした巨木の森が姿を現す。
そして森の入り口に、海の貝殻と青い石で組まれた不思議な“門”がそびえていた。
人間の手では作れない滑らかな曲線――まるで大海そのものが形を与えたような美しさだった。
「ここが……唄う島の門?」
セリアが小さく息を呑む。
門の向こうから、確かに誰かの歌声が聞こえる。
リクは門に近づき、そっと触れた。
その瞬間――青白い光が波のように門全体に走り、二人は咄嗟に目を閉じる。
“来訪者よ。海の律へと歩み寄る者よ。”
響いた声は、幼い少女のものとも、大人の女性のものともつかない。
しかし確かな温もりと、圧倒的な神聖さを帯びていた。
光が収まると、門の向こうに一人の少女が立っていた。
■ 精霊の巫女
少女は海色の髪を風になびかせ、裸足で白砂に立っていた。
瞳は深い群青。海底の静けさと、嵐の前の緊張を併せ持つ不思議な光。
彼女の周囲を、淡い光の粒が漂っている。
まるで彼女そのものが“歌”を生んでいるかのように。
「……お前、は……?」
リクは声を失いながら問いかけた。
少女はゆっくりと微笑む。
「私はウタリカ。唄詩歌島の精霊の巫女です」
「あなたたちを待っていました――海が、あなたたちを呼んだのです」
「海が……呼んだ?」
セリアが眉を寄せる。
ウタリカは静かに頷いた。
「島を覆う呪いを解くために必要な“声”が、二人の中にあります。
だから、海の精霊たちは道を開いたのです」
リクとセリアは一瞬、互いに視線を交わした。
そんな大層な力が自分たちにあるとは思えない。
だが……この島で起こっている異常、そして門の光を思えば、否定もできなかった。
ウタリカは手を差し伸べる。
「どうか――島を救ってください。
歌が奪われれば、島は沈み、海は憤怒に染まります」
どこか遠くで、波が荒れる音がした。
まるで島そのものが悲鳴を上げているかのようだった。
リクはそっとウタリカの手を握った。
セリアも続いて手を添える。
ウタリカは安堵の表情を浮かべ、扉の奥を示す。
「それでは、唄詩歌島の心臓――**歌源殿**へご案内します。
呪いの正体が、そこにあります」
歌うような声に導かれ、三人は森の奥へと進んでいく。
島が抱える“呪い”が、いよいよ姿を現そうとしていた――。
目覚めれば
坂下の奥には
なんとさら…




