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異世界ライフ加護が熊 〜転生したら神の熊がついてきた〜  作者: マーたん


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歌の海域

――アァァア……ウゥゥ……

歌の海域 ― 島を覆う呪い


アマネ号が海域へ踏み込むと、空気が急に“重く”なった。

湿気でも風でもない、耳の奥を押しつけるような圧力——歌の波動だ。


「リク、気をつけて。風が……乱れてる」


セリアの声は震えていた。

彼女ほどの精霊でも乱されるほど、歌の力は強まっている。


――アァァア……ウゥゥ……


濁った声が波の間から響いてくる。

最初は潮騒のようだったが、次第に“人のうめき”のように聞こえてくる。


乗組員たちは耳を塞ぎ、船は不安定に揺れ始めた。


「船長、帆が効かない! 風が逆向きに!」


「舵も取れません!」


船長が叫ぶ。


「リク殿! これは……海が“拒んで”います!」


リクは舷側へ駆け寄り、海を覗き込んだ。

波の色が不自然だ。青ではなく、濁った黒。

その下で光のように何かが蠢いている。


セリアが蒼ざめた顔で言った。


「……人の魂だ。」


「魂!?」


「うん……正確には、“歌に囚われた残響”。

 島が消えた日に、海に沈んだ人たちの……泣き声」


海全体が嗚咽しているような気配がした。


そこへ、リクの胸の加護が燃えるように熱くなった。


『リク、立て……来るぞ』


レッドベアーの声だ。

海の底の黒い影が膨れ上がり、巨大な腕の形を成していく。


セリアが叫んだ。


潮鬼シオオニ! この海域の守護者だった精霊が……呪いに飲まれてる!」


潮鬼は海を割るほどの咆哮を上げ、船をつかもうと腕を伸ばす。


船長が青ざめる。


「だ、だめだ……! 避けられん! このままじゃ沈む!」


リクは深く息を吸い、セリアの手を掴んだ。


「行くぞ、セリア」


「うん!」


2人の加護が共鳴し、甲板を風と赤の光が包む。


「スパーキング・レッドベアー!!」


リクの周囲に赤い霊圧が立ちのぼり、巨大熊の幻影が海へと降りていく。

一方、セリアは風を凝縮し、蒼い槍を生み出す。


風霊穿ふうれいせん!」


その瞬間、潮鬼の腕と激突。

轟音が響き、海が割れ、波が天へ噴き上がる。


だが——


潮鬼は消えない。

むしろ、痛みにより更なる“悲鳴”をあげた。


――アアアアァァ……タスケテ……


セリアの目から涙が流れる。


「リク……これ、苦しんでる。倒す敵じゃない……救わなきゃ」


リクは潮鬼の顔らしき影を見る。

涙のように波が落ち、黒い霧がこぼれ出していた。


「だったら——」


リクは胸の赤い紋章へ手を当てた。


「加護よ……俺に力だけじゃなく、“心”を貸してくれ」


熊の声が静かに応えた。


『任せろ。お前が望むなら、俺も力を抑えよう』


リクは潮鬼の腕に飛び乗った。

セリアの風が彼に軽さと速度を与える。


「潮鬼……お前、島を守りたかったんだよな。

 沈む島から、誰かを助けたかったんだよな……!」


影は揺れ、波が吹き上がる。


リクは赤い光を掌に集め——


「“鎮めの抱擁エンブレイス”!」


光が潮鬼の胸へ染み渡り、黒い霧を浄化していく。


セリアが風の歌を唱えた。


「眠って……痛みも、悲しみも……海の風に溶けて……」


潮鬼はゆっくりと形を崩し、波のように静かに海へ還っていった。


海域の色が元の青に戻る。


船長が呆然と呟いた。


「……海が、静まった」


だがセリアは震えていた。


「リク……潮鬼が最後に残した言葉、聞こえた?」


「え?」


風が死に際の“声”を拾っていた。


――島ニ、神ガ……封ジラレ……オコロ……


「神が……怒ってる?」


セリアは海の向こうを睨む。


青い結界の先。

唄詩歌島が、姿をゆっくりと現し始めていた。


リクは拳を握った。


「島へ向かうぞ。

 怒ってる神が何を求めてるのか……確かめるために」


アマネ号は帆を張り直し、島へ向けて再び進む。


その海域にはまだ沈んだ歌声が残り続けていた。

まるで——これから起こる“祈りと災厄”を前触れするように…。

――島ニ、神ガ……封ジラレ……オコロ……

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