第3.5話 初めての実戦試験
夕暮れ…。
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第4話 初めての実戦試験 ― 分かり合える者 ―
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朝靄の中、学院の訓練場には冷たい緊張が漂っていた。
王都の鐘が六度鳴ると同時に、全ての生徒が集合を命じられる。
今日から――初めての実戦試験が始まる。
「異能者としての“適性”を確認する」
教官の声は硬く響いた。灰色の外套を翻し、厳しい眼光で生徒たちを見渡す。
「相手を倒すことではなく、己の加護を制御し、仲間と連携する力を見せてもらう」
ユウは列の後方で静かに拳を握った。
熊の加護は力強いが、制御が難しい。
過去の訓練では、魔法陣を破壊し、他の生徒を驚かせたこともある。
“化け物”という囁きは、今も背中にまとわりついていた。
試験はペア戦形式。
生徒同士でペアを組み、模擬戦闘の課題に挑む。
だが、ユウの周囲には誰も近づこうとしなかった。
「誰か、ユウ=ハシバと組む者は?」
教官の問いかけに、沈黙が落ちる。
風が砂を巻き上げる音だけが響く。
――またか。
ユウは小さく息を吐いた。
誰も自分と組みたがらない。それは村でも、学院でも同じだった。
その時、一人の声が上がる。
「俺が組む」
列の前方から歩み出たのは、銀髪の少年だった。
鋭い瞳を持ちながらも、不思議と穏やかな笑みを浮かべている。
「レオン=クラウス。風の加護持ちだ。よろしくな」
ユウは一瞬ためらったが、差し出された手を握り返した。
「……ユウ。熊の加護だ」
「知ってるよ。噂になってるからな。でも、俺は人の噂より、自分の目を信じる」
その言葉に、胸の奥の何かが小さく震えた。
試験が始まる。
課題は「魔獣の討伐」。森を模した訓練場の中で、魔力で再現された魔獣を相手に連携戦を行う。
木々の間を霧が流れ、足元には湿った土の匂い。
「ユウ、右から行く!」
レオンの声が風に乗ると同時に、魔獣の影が現れた。
巨大な狼型の魔獣。目は赤く光り、鋭い爪が土を抉る。
ユウの背中の紋章が光る。
熊の加護が応えるように、力が全身を駆け抜けた。
「おおおッ!」
地面を蹴ると、体が自然に前へ出る。
魔獣の爪を片腕で受け止め、反動で押し返す。
その瞬間、レオンが風の刃を放つ。
「《ウィンド・スラッシュ》!」
空気が裂け、魔獣の肩口を切り裂いた。
ユウが拳を構える。
熊の加護が纏うのは、力だけでなく“大地の感覚”。
魔獣の動き、風の揺らぎ、足元のわずかな震え――すべてが見える。
「今だ!」
渾身の一撃が魔獣の胸を貫き、巨体が崩れ落ちた。
沈黙。
次の瞬間、周囲から歓声が上がる。
「……やるじゃないか、化け物」
誰かが呟き、しかしその声には皮肉ではなく驚きと敬意が混じっていた。
レオンが笑う。
「化け物って言われても気にすんな。人より少し強いだけだろ」
ユウは初めて、自然に笑みを返した。
「ありがとう。お前、変わってるな」
「風は自由が好きだからな。噂より、真実を見たいんだ」
試験は終了し、結果発表。
二人は上位評価を受け、教官が言った。
「制御と連携、共に優秀。特に熊の加護の安定度は見事だった」
宿舎に戻る帰り道、夕暮れの光が王都の尖塔を赤く染めていた。
レオンが隣で歩きながら言う。
「お前の加護、すげぇな。俺の風と組めば、もっと強くなれるかもしれない」
「……いや、俺はただ、生きていける力が欲しいだけだ」
「それでいいさ。強さってのは守るためにあるんだろ?」
その言葉に、ユウは静かに頷いた。
村では得られなかった理解。
学院ではじめて、“分かり合える者”に出会えた気がした。
夜、部屋の窓から外を見ると、風が森を渡っていく。
熊の加護が再び光り、まるで静かに笑っているようだった。
初めての実戦試験でユウは、初めて自分の力を「恐れられずに認められる」経験をした。
レオンとの出会いは、彼の心に新しい希望を灯す。
そしてこの先、学院での陰謀や他の加護持ちとの戦いを通じて、二人の絆は試されていく――。




