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異世界ライフ加護が熊 〜転生したら神の熊がついてきた〜  作者: マーたん


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海を渡る歌

幕が開く

海を渡る歌 ― 唄詩歌島、出現 ―


潮風が王都の高台まで吹き抜けたその日、リクは違和感で目を覚ました。


胸の奥を揺らすような、低く、長い……歌。


いや、“声”と言った方が近い。

言語ではなく、意味が直接頭に響いてくる不思議な波動。


「また聞こえる……。昨日よりはっきりしてる」


寝台から起き上がると、セリアが窓辺で同じ方向を凝視していた。


「海の方角だよ。リク、あれ……呼んでる」


彼女の髪が風に揺れ、その瞳は微かに金色に光っている。

風の精霊としての感覚が、遠くの“異界の波”を拾っているのだ。


リクはうなずき、胸に手を当てた。

そこには赤い紋章──“神熊”レッドベアーの加護が静かに脈打っている。


すると、熊の声が微かに響いた。


『海の奥……古い歌だ。封じられた神の匂いがするぞ、リク』


「封じられた……神?」


熊の声は続く。


『これは呼びかけだ。ただし、歓迎ではない。

 “鍵を持つ者”を試すための歌だ』


鍵──それは、リクの中に宿る“神の欠片”。

影王の核と共鳴したあの力だ。


セリアは外を指さした。


「見て。海の向こう、光ってる」


水平線の上に、淡い青白い帯がゆらゆらと揺れていた。

蜃気楼かと思ったが、風の精霊であるセリアが首を横に振る。


「あれは……境界。

 この世界と、消えた島をつなぐ扉が、開き始めてる」



その日の午後。

王城の謁見室は異様な緊迫感に包まれていた。


老王エルヴァンが玉座で目を細め、海図の前に立つリクとセリアへ告げる。


「海軍より報告が届いた。

 昨夜、沖合に“島の影”が現れた。だが近づこうとした船が、歌の波に弾かれたという」


「歌で……船が?」


唄詩歌島うたしかじまだ。」

王の表情は険しい。


「百年前に消えたはずの島だが、神を歌で縛っていた古代部族が住んでいたとされる。

 もし島が復活するなら──世界の均衡が崩れかねん」


セリアが問いかけた。


「だから私たちに?」


「そうだ」

王は頷く。


「リク──お前は“神熊”の加護を持つ者。

 セリア、お前は風の精霊の魂そのもの。


 神と精霊の力を併せ持つ者だけが、その島に入れると記録されている。」


静まる謁見室。

リクの中で赤い力が低く唸った。


『行くぞ、リク。あの歌……俺を呼んでいる』



翌朝。


リクとセリアは王都港の出航台に立っていた。

新造船《アマネ号》の甲板では乗組員たちが緊張の面持ちで準備をしている。


「本当に行くの?」

村から駆けつけたマヤが心配そうに見上げる。


リクは笑って頷いた。


「ああ。行かなきゃならない。あの島が目覚めた理由を確かめるために」


セリアは風をまとってマヤの頭を撫でる。


「大丈夫。すぐ帰るよ。……必ずね」


マヤはぎゅっと拳を握った。


「約束だよ!」



出航の合図が鳴り、アマネ号は白い波を蹴りながら海へ出た。


水平線の彼方。

薄青い“歌の膜”が、まるで生き物のようにうねり、近づく者を試すように揺れている。


セリアが耳元で囁いた。


「リク……あれが唄詩歌島の入口だよ」


リクは深く息を吸った。


海を渡る歌は、今も響いている。


 ――来たれ、鍵を持つ者。

   赤き獣と風の娘よ。

   失われた神を呼び戻せ。


リクは前を見据えた。


「よし……行くぞ、セリア」


彼らの船は、青い壁へと突き進む。


新章の第一の幕が、静かに、しかし確実に開かれた。

唄詩歌島へ…

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