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異世界ライフ加護が熊 〜転生したら神の熊がついてきた〜  作者: マーたん


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幕間:影炎の街へ

リク



幕間:影炎の街へ ― リクとセリア、決断の疾走 ―


 王都レグナリアが炎に呑まれたという報せは、まだ夜も浅い頃、北方の旅宿にいたリクとセリアのもとに届いた。


 伝令兵は泥と血にまみれ、息も絶え絶えで馬から転げ落ちるようにして言った。


「た、助けを……。影王が……王都が……姫様が……!」


 言葉にならない絶叫。

 宿の空気が、瞬時に凍った。


「――リィナが?」


 リクは椅子を倒して立ち上がった。胸の奥が灼かれるように熱い。

 旅の目的も休息も、すべてが一瞬で吹き飛ぶ。


 セリアも同時に立つ。

 彼女の白髪が強い魔力の気流で揺れ、瞳は戦場のように鋭さを帯びる。


「リク。行くよね?」


「あたりまえだ。行かない理由がない」


「じゃあ――急ぐよ。王都まで三刻。全力で飛ばす」


 二人の決断はあまりに早く、力強かった。

 伝令兵は震える声で続ける。


「影王が……王都中央に……。姫様は前線で……く、食い止めています……!」


 その言葉を聞いた瞬間、リクは自分の胸が何か鋭いもので刺されたように感じた。


(リィナ……おまえがそんな場所に立つ必要なんて……)


 だが後悔も怒りも今は意味がない。

 必要なのは、一秒でも早く辿り着くことだけだ。



 宿を出た瞬間、セリアが両手を組む。

 魔紋が淡く地面に広がり、二頭の白銀の幻獣が形成される。


「〈霊騎・双角のヴァルナ〉――行くよ!」


 リクはその背に飛び乗り、セリアももう一頭に跨る。


「リク、大丈夫?」


「平気じゃない。だから急ぐ」


「……うん」


 セリアは頷き、魔力を解き放つ。


 二頭の幻獣は地を蹴った瞬間、空気を裂くように光へと変じた。

 世界が後ろへ飛んでいく。

 遠くの地平線が歪んで見えるほどの速度。


 それほどの速さで走っても、リクの胸の焦りは消えない。


(待ってろ、リィナ……。今行くから……!)



 三刻後。


 王都の光景は――地獄だった。


 城壁は黒い影に蝕まれ、街路は炎で裂け、悲鳴と咆哮が混ざり合っている。

 影獣が建物の屋根を跳び回り、影霊が空に漂い、人を呑み込んでいく。


 リクは幻獣の背から跳躍し、燃え盛る通りに着地した。


「く……こんな……!!」


 街の空気は炎ではなく、絶望で赤黒く染まっている。

 影王の圧力が街全体を押し潰しているのがわかる。


 セリアも肩で息をしながら周囲を見渡す。


「王都が……影界に“侵食”されてる……。このままじゃ全部飲まれる!」


「リィナはどこだ」


 リクの声は焦りを押し殺していた。

 セリアは両手を開き、感応魔術で王都の魔力を探る。


 だが――すぐに顔色が変わる。


「……リク。

 リィナ、影王の真下にいる」


「なんだと!?」


「しかも……捕らえられてる! 影の鎖……たぶん、影王の魔核に直接繋がれてる……!」


 リクの身体から熱が一気に噴き出す。


「影王……ッ!! 待ってろリィナ、今すぐ助ける!」


「リク、待って! あなた一人じゃ――」


 だがセリアの警告が終わるより早く、リクは燃える通りを走り出していた。


 その背中は焦りというより――怒りと祈り、そして決意で燃えていた。


(間に合え……! 間に合えッ……!!)


 影に呑まれゆく王都の中心へ。


 影王の黒い宣告が響くその場所へ。


 リクの叫びは、炎よりも熱く、街を駆け抜けていった。

クリ

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