幕間:影炎の街へ
リク
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幕間:影炎の街へ ― リクとセリア、決断の疾走 ―
王都レグナリアが炎に呑まれたという報せは、まだ夜も浅い頃、北方の旅宿にいたリクとセリアのもとに届いた。
伝令兵は泥と血にまみれ、息も絶え絶えで馬から転げ落ちるようにして言った。
「た、助けを……。影王が……王都が……姫様が……!」
言葉にならない絶叫。
宿の空気が、瞬時に凍った。
「――リィナが?」
リクは椅子を倒して立ち上がった。胸の奥が灼かれるように熱い。
旅の目的も休息も、すべてが一瞬で吹き飛ぶ。
セリアも同時に立つ。
彼女の白髪が強い魔力の気流で揺れ、瞳は戦場のように鋭さを帯びる。
「リク。行くよね?」
「あたりまえだ。行かない理由がない」
「じゃあ――急ぐよ。王都まで三刻。全力で飛ばす」
二人の決断はあまりに早く、力強かった。
伝令兵は震える声で続ける。
「影王が……王都中央に……。姫様は前線で……く、食い止めています……!」
その言葉を聞いた瞬間、リクは自分の胸が何か鋭いもので刺されたように感じた。
(リィナ……おまえがそんな場所に立つ必要なんて……)
だが後悔も怒りも今は意味がない。
必要なのは、一秒でも早く辿り着くことだけだ。
◆
宿を出た瞬間、セリアが両手を組む。
魔紋が淡く地面に広がり、二頭の白銀の幻獣が形成される。
「〈霊騎・双角のヴァルナ〉――行くよ!」
リクはその背に飛び乗り、セリアももう一頭に跨る。
「リク、大丈夫?」
「平気じゃない。だから急ぐ」
「……うん」
セリアは頷き、魔力を解き放つ。
二頭の幻獣は地を蹴った瞬間、空気を裂くように光へと変じた。
世界が後ろへ飛んでいく。
遠くの地平線が歪んで見えるほどの速度。
それほどの速さで走っても、リクの胸の焦りは消えない。
(待ってろ、リィナ……。今行くから……!)
◆
三刻後。
王都の光景は――地獄だった。
城壁は黒い影に蝕まれ、街路は炎で裂け、悲鳴と咆哮が混ざり合っている。
影獣が建物の屋根を跳び回り、影霊が空に漂い、人を呑み込んでいく。
リクは幻獣の背から跳躍し、燃え盛る通りに着地した。
「く……こんな……!!」
街の空気は炎ではなく、絶望で赤黒く染まっている。
影王の圧力が街全体を押し潰しているのがわかる。
セリアも肩で息をしながら周囲を見渡す。
「王都が……影界に“侵食”されてる……。このままじゃ全部飲まれる!」
「リィナはどこだ」
リクの声は焦りを押し殺していた。
セリアは両手を開き、感応魔術で王都の魔力を探る。
だが――すぐに顔色が変わる。
「……リク。
リィナ、影王の真下にいる」
「なんだと!?」
「しかも……捕らえられてる! 影の鎖……たぶん、影王の魔核に直接繋がれてる……!」
リクの身体から熱が一気に噴き出す。
「影王……ッ!! 待ってろリィナ、今すぐ助ける!」
「リク、待って! あなた一人じゃ――」
だがセリアの警告が終わるより早く、リクは燃える通りを走り出していた。
その背中は焦りというより――怒りと祈り、そして決意で燃えていた。
(間に合え……! 間に合えッ……!!)
影に呑まれゆく王都の中心へ。
影王の黒い宣告が響くその場所へ。
リクの叫びは、炎よりも熱く、街を駆け抜けていった。
クリ




