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異世界ライフ加護が熊 〜転生したら神の熊がついてきた〜  作者: マーたん


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第36話 王都炎上

わー



第36話 王都炎上 ― 影の軍勢、侵攻開始 ―


 王都レグナリアの空は、夜が来るよりも早く黒く沈み始めていた。

 その黒は自然の闇ではない。風もなく、雲もない。だというのに、空を覆うのは――生きて蠢く影だった。


 最初にそれを知覚したのは、王都西門の監視塔に立つ若い兵士だった。


「……空が、揺れている……?」


 瞬きするたび、視界の端で黒い波が膨らみ、縮み、また形を変える。影が生きているかのように。

 兵士は恐怖より先に「理解できない」という無感情に近い混乱を抱いた。


 だが次の瞬間、その黒が「目」を開いた。


 無数の赤い光点。すべてが兵士を見下ろし、笑うように爛々と燃えあがる。


「――っ、侵攻……影の軍勢だ!!」


 ようやく声が出た時には、空から降り注ぐ影の槍が、監視塔の壁を粉砕していた。


 爆発的な衝撃。塔の半分が砕け、兵士の叫びは炎とともに夜空へ散った。



 王城の最上層、謁見間にいる国王アルヴェルトにも破壊音は届いた。

 振り返ると、窓の向こうの王都の一角が赤々と燃えあがる。


「ついに……来たのだな」


 声は震えていた。王でありながら、戦士ではない己の弱さを、アルヴェルトは噛み締めるしかなかった。


 その横で、第一王女リィナが剣を握りしめる。


「父上、城の防衛を強化しなければ……!

 影王が動いた今、王都は長くもちません!」


「わかっている。だが……」


 アルヴェルトの眉が迷いと恐怖に揺れる。


 その時、重厚な扉が力強く開いた。


「国王陛下! 影の軍勢、城下に突入を開始しました!

 黒騎兵、影獣、影霊の三種が混成で……既に兵の線を破っています!」


 伝令は血まみれだった。息が荒く、全身が震えている。その背後まで黒い影が追って来そうなほどに。


 リィナは剣を引き抜いた。


「私が出ます。父上の護衛はここに残して。私は前線で指揮をとります!」


「リィナ……危険だ!」


「生まれた時から危険でした、影王の呪いを受け継いだ私には。

 だからこそ――ここで逃げたら、意味がありません!」


 王女の瞳には、恐怖よりも燃える決意が宿っていた。


 アルヴェルトは、弱い王である自らが娘を戦場へ送るという残酷さに、胸が裂けるような痛みを感じた。


「……行け。だが、必ず戻ると約束してくれ」


「必ず、です。負けません」


 その一言は、王都を覆う闇の向こうで、唯一の光のようだった。



 王都の通りには既に炎が走っていた。


 民家が燃え、悲鳴が交錯し、兵士たちが影獣に喰われてゆく。

 影獣は狼の形をしているが、中身は空洞で、斬っても斬っても再生する。


「影を切れ! 光を持つ者は前に!」


「おい、後ろからも来るぞ!!」


「ぎゃあああっ!!」


 恐慌状態の叫びが、火と影の中で渦を巻いた。


 その中心へ、リィナは疾走する。

 風の魔法をまとい、影獣の群れをかき分けるように進む。


「退け!! 邪魔をするな!」


 一閃。


 王女の剣から溢れた蒼い光が、影獣の影核――僅かに光を欠いた黒い核石を砕く。

 影獣は悲鳴とも嗤いともつかぬ音を上げ、霧のように消えた。


 兵士たちが歓声をあげる。


「姫様だ! 姫様がいらしたぞ!」


「まだ押し返せる……まだ戦える!!」


 希望の灯火が小さくともともる。


 だが――その火はすぐに、さらなる「闇」に呑まれた。



 王都の中央広場。

 そこに、空の影が凝集し、黒い渦となって降り立つ。


 影は地に触れた瞬間、ゆっくりと“形”を取った。


 漆黒の外套。

 白銀の仮面。

 そして人のものとは思えぬ、深淵の紅眼。


「……影王、ヴァルグラント……」


 兵士たちが生唾をのむ。


 影王はゆっくりと、燃える王都を見渡し、淡々と宣告した。


「――王都レグナリア。

 ここから先は、影界の領土とする」


 その声は冷たく、しかし圧倒的な重さで空気を歪めた。


 リィナは剣を握り直す。


「来たのね。……父を、民を、影に渡さない!」


 影王は静かに視線を落とす。


「王女リィナ。

 おまえは“影の半身”だ。そろそろ気づく頃だろう。

 この世界が、おまえを拒み始めていることに」


「……黙れっ!!」


 リィナが突進するより早く――


 黒い鎖が地面から伸び、彼女の足首を絡め取った。


「く……っ!!」


「おまえの力は、こちら側でこそ完成する。

 抗っても無駄だ。おまえは――影の器だ」


「私は……誰にも……奪われない!!」


 リィナの叫びと同時に、影王の背後からさらに巨大な影獣が現れ、王都中心部を踏み荒らし始めた。


 炎は高く、高く上がり、王都全体が赤と黒に染まる。


 影王の宣告どおり、王都は――崩壊の序章へと落ちていった。

わーあ

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