第35.8657話 暴走核と風の抱擁
第3.5話へようこそ。
ターミナル開通から続いていた“赤点滅の謎”が、ついに核心へ踏み込みます。
今回描かれるのは——
暴走した魔力核との対峙、
そしてリクとセリアの“魂を重ねる”ほどの共闘。
赤点滅という小さな異変が、
村全体を巻き込む大事件へ変わり、
その裏でリク自身の“内なる危機”も静かに進行しています。
風と熊。
人と神。
魂と魂。
二人の絆が最も強く、そして最も切実に試される章です。
どうぞ息つく暇もない物語をお楽しみください。
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第3.5話 暴走核と風の抱擁 ― 赤点滅の正体 ―
赤い影がターミナルへ飛び込み、村人たちが悲鳴をあげながら逃げ惑う中——
リクは獣のような反射でその前へ飛び出した。
赤点滅の影は、まるで小動物の姿をしている。
だが、その動きはあまりにも速く、明確な殺意を帯びていた。
キィィィ——ン!
耳を裂くような金属音。
影の軌道が突然跳ね上がり、監視塔の根元にめり込んだ。
リクは拳を構える。
「ちょこまかした動きしやがって……だが、お前の狙いは分かってる!」
ターミナルの魔力核。
影の動きは、一直線にそこへ向かっていた。
セリアが風をまといながら叫ぶ。
「リク! あれは“生命体”じゃない!
あれは……ターミナルに侵入した“魔力暴走核”!」
「核……だと?」
「あんなの、ここで暴れたら村が消える!!」
その言葉が終わるのと同時に、赤い影がリクの足元をすり抜けた。
地面が抉れ、炎が噴き上がる。
「ちっ……!」
リクは地面を蹴り、影の進行方向を先回りして拳を叩き込もうとした。
だが――
赤点滅の速さが、それを上回った。
目に見えない。
だが気配だけは、かろうじて追える。
セリアが風を渦にして影を包もうとするが、核はその中を平然とすり抜けていく。
「セリア、風が効いてない!」
「あれ……この世界の物理に完全には属してない……。
普通の攻撃じゃ止められない!」
次の瞬間、影がターミナル中央に跳び乗った。
石盤が真紅に染まり、魔力が暴走する。
ゴウン……ゴウン……ゴウン……!
セリアが蒼白になる。
「だめ……触られたらターミナルが爆ぜる!」
リクは獣化し、紅熊の力を解放した。
「だったら……俺が止めるしかないだろ!!」
地面が揺れ、拳が赤点滅へ叩き込まれる。
衝撃音が村じゅうに響き渡った。
ガァァァン!
核は弾き飛ぶが、まるで痛みを感じていないかのように再び起き上がる。
点滅が速くなる。
……トン……トトン……トトトン……
その鼓動が、不気味なほどリクの胸に響く。
「……おい、なんだこの鼓動……俺と、同じ……?」
セリアが目を見開いた。
「それよ、リク!
あれ……あなたの“魔力の欠片”から生まれてる!」
「俺の……?」
「暴走核は、本来“人の魂の破片”に反応して形を持つの。
だから——」
セリアはリクの肩に風の手を置き、真剣な瞳で見つめた。
「あなたが抱きしめて、鎮めなきゃいけないの」
「は!?」
「戦っても同質だから壊せない!
でも……風の精霊である私が“媒介”になれば……
あなたの魂を核に触れさせて、鎮められる!」
リクは息を呑む。
「お前……そんなことしたら、お前の身が危ねぇだろ!」
「危ないわ……でも、この村とあなたを守れるなら——」
セリアは微笑んだ。その顔はどこか凛として、美しかった。
「リク、私を信じて」
赤点滅が急上昇し、空へ跳んだ。
村が、ターミナルが、すべてが赤い光に包まれる。
リクはセリアの手を掴む。
「離れんなよッ!」
「うん!」
二人の身体が風の結界に包まれながら赤影へ突っ込んだ。
——そして、リクはセリアを抱きしめたまま、赤い核を自分の胸に押し当てた。
熱い。
灼ける。
魂が焼けるような痛み。
「ぐっ……おおぉぉおお!!」
「リク、大丈夫! 私が風で支えるから……!」
セリアの風がリクの魂を包む。
二人の温度が一つに重なり、赤点滅は少しずつ脈を弱めていく。
……トン……ト……ト……
その光が、静かにリクの胸へ吸い込まれた。
リクの身体から赤い煙がふっと立ち上る。
「……収まった……」
セリアが安堵の声を漏らし、リクはその場に崩れ落ちそうになる。
セリアはすかさず彼を抱き留めた。
「リク……ありがとう。あなたじゃなきゃ、できなかった」
リクは浅く息を吸い、かすかに笑った。
「お前が……いてくれるからだよ」
風の娘が頬を赤らめ、そっとリクの額に手を置いた。
そのとき、ターミナルの方角から低い地鳴りが響く。
ゴ……ゴゴゴ……!
亀裂がさらに広がり、黒い影がゆっくりと立ち上がる。
セリアが蒼白になる。
「嘘……まだいた……!?
リク、これは……“核”じゃない……」
黒い巨影。
その眼は、赤よりも深い、闇の色をしていた。
「――影王。」
セリアが震える声で呟いた。
「本体が……来た……!」
いかがでしたでしょうか、第3.5話。
“暴走核”との衝突は、
単なるアクションではなく、
・リクの魂の一部が核化していたこと
・セリアの風が“媒介”として機能する理由
・二人の魂が交わることでしか収束できない危険性
といった、これまで提示されていた伏線が一気に繋がる回となりました。
そして最後に姿を現した
「影王」
これは、今後の物語の“最大の脅威”となる存在です。
次話では、
・影王の目的
・赤点滅事件の本当の意味
・リクとセリアの“新たな力”
・ターミナル防衛戦 第二幕
これらが動き出します。
ご期待ください




