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異世界ライフ加護が熊 〜転生したら神の熊がついてきた〜  作者: マーたん


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33/51

**第32話 作ろうトモ村ターミナル

リクトモ村に新しい風が吹きます。

 長い戦いを越え、ついにリクとセリア、そしてゴブリン族をはじめとした仲間たちが「つながり」を形にする瞬間がやってきました。


 今回は、村の未来を開くターミナルの開通式、そして三者の同盟を象徴する“盃”の儀式を中心に描きました。

 同盟ってただの協力じゃないんですよね。

 文化・種族・歴史の違いを越えて「互いに背を預ける」という覚悟。

 リクたちがそれを選んだ日でもあります。


 式典の喧騒の裏で、そっと寄り添うリクとセリアの距離感――

 物語は戦いの章を越え、少しずつ“日常の幸せ”と“新しい時代”を描く方向へと進み始めました。


 ターミナル開通式は、まさにその始まりです。

**第32話


作ろうトモ村ターミナル ― 村をつなぐ、新しい風 ―**




 リクトモ村に吹く風が、どこか変わったように感じられた。


 朝日が山の端からのぞく頃、リクは村の広場に立っていた。まだ誰もいない。だが今日、この場所は“大きな分岐点”になる。

 ――村を、外の世界と結ぶ。

 その第一歩となる計画が、いよいよ動き出すのだ。


「……“トモ村ターミナル”、か」


 リクは出来かけの図面を見下ろした。木製の転送装置、貨物置き場、旅人の宿泊所、ゴブリン族と獣人族の共同運営所。

 隣の国へ通じる道を整えることで、村はただの山間の集落ではなく、“交流の拠点”へと生まれ変わる。


「ふふ、相変わらず、壮大なことを考えますね」


 背後から、風に乗るように声がした。

 リクが振り返ると、セリアが立っていた。髪を風に揺らし、相変わらずどこか幻想的で――だが、今は“村の住民”としての温かさも宿している。


「おはよう、セリア。今日も手伝ってくれるのか」


「もちろん。あなたと作る村ですもの。放っておけるわけがないでしょう?」


 少し頬を染めたセリアの言葉に、リクは照れをごまかすように咳払いをした。


 


■ 村人会議 ― 新時代のはじまり


 やがて村人たちが集まり、小さな会議が始まった。

 リクは村長選候補として前に立ち、図面を広げる。


「ここに“ターミナル”を作れば、物資の流れが安定します。ゴブリン族との同盟で護衛も確保できる。

 それに――」


「うちの作った干し肉、もっと売れるかもだな!」


「うちの娘も商売を学びたいって言っとる!」


「村が栄えたら、道も明るうなる!」


 村人たちは目を輝かせた。


 以前なら考えられなかった光景だ。

 争いや孤立から逃れ、村は“未来”を語れるほどに変わってきている。


「リク……あなた、本当に変わりましたね」


 少し離れたところで、セリアが優しくつぶやいた。


「昔のあなたなら、自分一人で世界を背負い込んでいた。

 でも今は――みんなと一緒に未来を作ろうとしている」


「……仲間がいるからな。セリア、君も」


 その言葉に、セリアはそっとまぶたを伏せた。風が舞い、ふたりの距離が自然と近づく。


 


■ ゴブリン代表の来訪


 突然、会議の場にバタバタとした足音が響いた。


「リク! 来たぞ!」


 赤茶の肌に大きな牙をもつゴブリン族の代表・グラントが、誇らしげに胸を張って現れた。

 背後には、荷物を運ぶゴブリンたちがずらり。


「これが、我々が約束した建材だ! 石材も木材も、全部持ってきた!」


「すごい……本当にこんなに……」


 村人たちから感嘆の声が上がる。


「ふふん、我らゴブリン族を甘く見るなよ。

 リク、お前は俺たちの“戦友”だからな!」


 豪快な笑いとともにグラントはリクの肩を叩いた。


「ありがとう。お前らがいてくれると心強いよ」


「当然だ! ――ところでセリア、お前らの“風魔法”で乾燥作業を手伝ってくれるか?」


「ええ、任せてください」


 セリアが軽く指を振ると、空気が一斉に流れ、木材がみるみる乾いていく。


「おおおお!! 風の娘、すげぇ!!」


「惚れ直したぜ!」


「惚れられても困りますけど!?」


 村人たちの笑いが広がり、空気は一瞬で明るくなった。


 


■ ターミナル建設開始


 その後、作業が本格的に始まった。


 杭を打つ音、木材を運ぶ声、魔法による補強。

 セリアは風、リクは炎で金属部品を加工し、ゴブリン族は重労働を引き受けた。


「リク、そっちの角度少し違います!」


「あ、まじか。悪い!」


「まったく……昔のあなたなら炎で全部吹き飛ばしてましたよ?」


「やめろ。それは黒歴史だ」


 セリアはくすっと笑って、風で木枠を支える。


 ――こんな日が来るとは思わなかった。

 リクは胸の奥で静かに思う。


 戦って、奪って、守って、喪って。

 その果てに辿り着いたのが、この“穏やかな未来”だった。


「……セリア」


「はい?」


「いつか、このターミナルを完成させたら……村をもっと大きくしたい。

 旅人が来て、商人が集まって、みんなの笑顔が増えるような村に」


「ええ。あなたならできます。いえ……」


 風がふわりと流れ、セリアの髪が揺れた。


「――あなたと“わたし”なら、きっと」


 その言葉にリクの胸が温かくなる。


 


■ 夜 ― 村を見下ろす丘にて


 作業を終え、村が夕日に染まる頃。

 リクとセリアは丘に立ち、建設途中のターミナルを眺めていた。


「……本当に形になってきたな」


「ええ。ここから始まるんです。

 あなたの“村長としての物語”が」


「村長って……なんか照れるな」


「ふふ……でも、似合いますよ?」


 セリアは懐かしむように微笑んだ。


「強さだけじゃない、優しさと責任を持つあなたを……ずっと見てきましたから」


「セリア……」


 リクが言葉を探していると、セリアがそっと彼の袖をつまんだ。


「……あの、リク。

 ターミナルが完成したら、わたし――あなたの“正式な隣”にいてもいいですか?」


 それは村長補佐か、村の護り手か。

 それとも――もっと近い存在か。


 リクは小さく息を吸い、彼女の手をやさしく握った。


「当たり前だ。……ずっと隣にいてくれ」


 セリアの頬が赤く染まり、風が優しく2人を包んだ。


 こうして、

 トモ村ターミナル計画は大きく動きはじめる。


 新しい世界への扉が、いま開かれようとしていた――。


ターミナル開通式 ― 風と赤の新時代 ―




 朝靄の向こうから光が差し込み、トモ村ターミナルの木造アーチが黄金色に輝いた。


 ついに、この日が来た。


 村人、ゴブリン族、獣人族、そして旅の商人たちまで集まり、ターミナル前はまさに“祭り”の熱気に包まれていた。

 風見鳥の旗が翻り、風鈴が澄んだ音を響かせる。


「リク、準備はいいですか?」


 セリアが白い装束に身を包み、柔らかく微笑んだ。

 普段の風の娘としての姿とは違い、今日は“創設者の一人”としての誇りが漂っている。


「ああ。……この日を迎えられたのは、お前のおかげだ」


「いえ、みんなのおかげです。あなたの……村長の力ですよ」


 その言葉に、リクはわずかに照れながらも胸を張った。


 


■ 開通式、開幕


 やがてグラント率いるゴブリン族が太鼓を鳴らし、式典の合図が響く。


「静まれーっ! 今から、トモ村ターミナル開通式を始めるぞ!」


 村の代表老人が大きな声で宣言すると、ざわめきがぴたりと止んだ。


 リクは前に出て、集まった数百人の前に立つ。

 胸の奥が、熱い。


「今日、俺たちは一つの“扉”を開きます。

 このターミナルは、村を外の世界とつなぎ、命と物資の流れを守る場所だ。

 ここに集まってくれたみんなの力で、この村は……新しい時代へ進めます」


 言葉が風に乗り、広場いっぱいに広がった。


「争いの時代を終わらせるのは、剣じゃない。

 ――つながりだ。

 俺たちはその第一歩を、今日踏み出す!」


 すると観衆から大きな歓声が起こった。


「リク様ー!!」


「村長候補ばんざい!!」


「セリア様きれいー!!」


「ゴブリン族ばんざーい!!」


 グラントは牙を見せて笑い、リクの背中をどんと叩いた。


「さあ、締めの儀式をやるぞ!」


 


さかずきを交わす ― 風と赤の契り


 広場中央に置かれた石台には、木彫りの盃が三つ並んでいる。

 ひとつはリク。

 ひとつはセリア。

ひとつはゴブリン族代表・グラント。


 それは「風と炎と大地」の契りを象徴するものだった。


「リク、あなたが先に」


 セリアが静かに盃を手渡す。

 リクは盃を掲げ、堂々と宣言した。


「この盃に風と炎、そして大地の加護を!

 ――俺たちはここに、“新時代の同盟”を結ぶ!」


 盃の中の酒は、特製の紅樹酒。

 陽光を受けて深紅に光り、セリアの瞳にまでその色が映る。


 グラントが豪快に笑って盃を高く掲げた。


「風の娘セリア、そして我らの赤き戦友リク!

 これからも一緒に進もうぜ!」


「ええ。あなたたちは……大切な仲間です」


 セリアも盃を掲げると、風がふわりと吹き、三人の盃が自然と近づいた。


 ――カンッ。


 軽い衝撃音とともに、三つの盃が触れ合った。


 その瞬間、観衆からどよめきが起きる。


「これで……正式に同盟成立だ!」


「よっ! 村長!!」


「風と赤の時代だぁー!!」


 人々の歓喜の声が空へ昇り、ターミナルの真新しい屋根がそれを受け止め、響かせた。


 


■ ターミナル、稼働開始


 続いて、ターミナルの転送門が開かれた。

 魔法陣が淡く光り、風の奔流が空間を歪ませる。


「すごい……これが、村をつなぐ力……」


「初便は王都行きだってよ!」


「いよいよ、リクトモ村が地図に載るぞ!」


 子どもたちは歓声を上げ、旅人は目を輝かせ、商人たちは期待に胸を膨らませる。


 


■ そして、二人の静かな時間


 式典が一段落すると、リクとセリアは少し離れた木陰に座った。


「……本当に始まったな」


「ええ。リクの言った通り、“つながり”の始まりです」


 セリアは盃の残りを口に運び、ほのかに頬を赤く染めた。


「ちょっとだけ……酔っちゃいました」


「珍しいな。セリアが酔うなんて」


「だって……今日は特別ですから。

 あなたと、未来のための盃を交わせた日です」


 リクは少し照れながら、そっとセリアの手に触れた。


「これからも……一緒に進んでくれるか?」


「もちろん。

 ――あなたが行くところなら、どこへでも」


 風が静かにふたりを包み、ターミナルの開通を祝うように鳴った。


 こうして、

 トモ村の新時代 “風と赤の時代” が始まった。


 村は、世界をつなぐ拠点となり、リクとセリアの未来もまた確かに動き出したのだった。

風と赤の契り、盃を交わし、新しい時代を切り開くという本章は、村の発展だけでなくリクとセリア、そしてゴブリン族の関係の成熟を象徴する章でもあります。


 物語はここから新章へ。

 日常、政治、外交、そして再び訪れる“影”。

 リクトモ村の運命はますます大きく動き始めます。


いかがでしたでしょうか?

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