**第32話 作ろうトモ村ターミナル
リクトモ村に新しい風が吹きます。
長い戦いを越え、ついにリクとセリア、そしてゴブリン族をはじめとした仲間たちが「つながり」を形にする瞬間がやってきました。
今回は、村の未来を開くターミナルの開通式、そして三者の同盟を象徴する“盃”の儀式を中心に描きました。
同盟ってただの協力じゃないんですよね。
文化・種族・歴史の違いを越えて「互いに背を預ける」という覚悟。
リクたちがそれを選んだ日でもあります。
式典の喧騒の裏で、そっと寄り添うリクとセリアの距離感――
物語は戦いの章を越え、少しずつ“日常の幸せ”と“新しい時代”を描く方向へと進み始めました。
ターミナル開通式は、まさにその始まりです。
**第32話
作ろうトモ村ターミナル ― 村をつなぐ、新しい風 ―**
⸻
リクトモ村に吹く風が、どこか変わったように感じられた。
朝日が山の端からのぞく頃、リクは村の広場に立っていた。まだ誰もいない。だが今日、この場所は“大きな分岐点”になる。
――村を、外の世界と結ぶ。
その第一歩となる計画が、いよいよ動き出すのだ。
「……“トモ村ターミナル”、か」
リクは出来かけの図面を見下ろした。木製の転送装置、貨物置き場、旅人の宿泊所、ゴブリン族と獣人族の共同運営所。
隣の国へ通じる道を整えることで、村はただの山間の集落ではなく、“交流の拠点”へと生まれ変わる。
「ふふ、相変わらず、壮大なことを考えますね」
背後から、風に乗るように声がした。
リクが振り返ると、セリアが立っていた。髪を風に揺らし、相変わらずどこか幻想的で――だが、今は“村の住民”としての温かさも宿している。
「おはよう、セリア。今日も手伝ってくれるのか」
「もちろん。あなたと作る村ですもの。放っておけるわけがないでしょう?」
少し頬を染めたセリアの言葉に、リクは照れをごまかすように咳払いをした。
■ 村人会議 ― 新時代のはじまり
やがて村人たちが集まり、小さな会議が始まった。
リクは村長選候補として前に立ち、図面を広げる。
「ここに“ターミナル”を作れば、物資の流れが安定します。ゴブリン族との同盟で護衛も確保できる。
それに――」
「うちの作った干し肉、もっと売れるかもだな!」
「うちの娘も商売を学びたいって言っとる!」
「村が栄えたら、道も明るうなる!」
村人たちは目を輝かせた。
以前なら考えられなかった光景だ。
争いや孤立から逃れ、村は“未来”を語れるほどに変わってきている。
「リク……あなた、本当に変わりましたね」
少し離れたところで、セリアが優しくつぶやいた。
「昔のあなたなら、自分一人で世界を背負い込んでいた。
でも今は――みんなと一緒に未来を作ろうとしている」
「……仲間がいるからな。セリア、君も」
その言葉に、セリアはそっとまぶたを伏せた。風が舞い、ふたりの距離が自然と近づく。
■ ゴブリン代表の来訪
突然、会議の場にバタバタとした足音が響いた。
「リク! 来たぞ!」
赤茶の肌に大きな牙をもつゴブリン族の代表・グラントが、誇らしげに胸を張って現れた。
背後には、荷物を運ぶゴブリンたちがずらり。
「これが、我々が約束した建材だ! 石材も木材も、全部持ってきた!」
「すごい……本当にこんなに……」
村人たちから感嘆の声が上がる。
「ふふん、我らゴブリン族を甘く見るなよ。
リク、お前は俺たちの“戦友”だからな!」
豪快な笑いとともにグラントはリクの肩を叩いた。
「ありがとう。お前らがいてくれると心強いよ」
「当然だ! ――ところでセリア、お前らの“風魔法”で乾燥作業を手伝ってくれるか?」
「ええ、任せてください」
セリアが軽く指を振ると、空気が一斉に流れ、木材がみるみる乾いていく。
「おおおお!! 風の娘、すげぇ!!」
「惚れ直したぜ!」
「惚れられても困りますけど!?」
村人たちの笑いが広がり、空気は一瞬で明るくなった。
■ ターミナル建設開始
その後、作業が本格的に始まった。
杭を打つ音、木材を運ぶ声、魔法による補強。
セリアは風、リクは炎で金属部品を加工し、ゴブリン族は重労働を引き受けた。
「リク、そっちの角度少し違います!」
「あ、まじか。悪い!」
「まったく……昔のあなたなら炎で全部吹き飛ばしてましたよ?」
「やめろ。それは黒歴史だ」
セリアはくすっと笑って、風で木枠を支える。
――こんな日が来るとは思わなかった。
リクは胸の奥で静かに思う。
戦って、奪って、守って、喪って。
その果てに辿り着いたのが、この“穏やかな未来”だった。
「……セリア」
「はい?」
「いつか、このターミナルを完成させたら……村をもっと大きくしたい。
旅人が来て、商人が集まって、みんなの笑顔が増えるような村に」
「ええ。あなたならできます。いえ……」
風がふわりと流れ、セリアの髪が揺れた。
「――あなたと“わたし”なら、きっと」
その言葉にリクの胸が温かくなる。
■ 夜 ― 村を見下ろす丘にて
作業を終え、村が夕日に染まる頃。
リクとセリアは丘に立ち、建設途中のターミナルを眺めていた。
「……本当に形になってきたな」
「ええ。ここから始まるんです。
あなたの“村長としての物語”が」
「村長って……なんか照れるな」
「ふふ……でも、似合いますよ?」
セリアは懐かしむように微笑んだ。
「強さだけじゃない、優しさと責任を持つあなたを……ずっと見てきましたから」
「セリア……」
リクが言葉を探していると、セリアがそっと彼の袖をつまんだ。
「……あの、リク。
ターミナルが完成したら、わたし――あなたの“正式な隣”にいてもいいですか?」
それは村長補佐か、村の護り手か。
それとも――もっと近い存在か。
リクは小さく息を吸い、彼女の手をやさしく握った。
「当たり前だ。……ずっと隣にいてくれ」
セリアの頬が赤く染まり、風が優しく2人を包んだ。
こうして、
トモ村ターミナル計画は大きく動きはじめる。
新しい世界への扉が、いま開かれようとしていた――。
ターミナル開通式 ― 風と赤の新時代 ―
⸻
朝靄の向こうから光が差し込み、トモ村ターミナルの木造アーチが黄金色に輝いた。
ついに、この日が来た。
村人、ゴブリン族、獣人族、そして旅の商人たちまで集まり、ターミナル前はまさに“祭り”の熱気に包まれていた。
風見鳥の旗が翻り、風鈴が澄んだ音を響かせる。
「リク、準備はいいですか?」
セリアが白い装束に身を包み、柔らかく微笑んだ。
普段の風の娘としての姿とは違い、今日は“創設者の一人”としての誇りが漂っている。
「ああ。……この日を迎えられたのは、お前のおかげだ」
「いえ、みんなのおかげです。あなたの……村長の力ですよ」
その言葉に、リクはわずかに照れながらも胸を張った。
■ 開通式、開幕
やがてグラント率いるゴブリン族が太鼓を鳴らし、式典の合図が響く。
「静まれーっ! 今から、トモ村ターミナル開通式を始めるぞ!」
村の代表老人が大きな声で宣言すると、ざわめきがぴたりと止んだ。
リクは前に出て、集まった数百人の前に立つ。
胸の奥が、熱い。
「今日、俺たちは一つの“扉”を開きます。
このターミナルは、村を外の世界とつなぎ、命と物資の流れを守る場所だ。
ここに集まってくれたみんなの力で、この村は……新しい時代へ進めます」
言葉が風に乗り、広場いっぱいに広がった。
「争いの時代を終わらせるのは、剣じゃない。
――つながりだ。
俺たちはその第一歩を、今日踏み出す!」
すると観衆から大きな歓声が起こった。
「リク様ー!!」
「村長候補ばんざい!!」
「セリア様きれいー!!」
「ゴブリン族ばんざーい!!」
グラントは牙を見せて笑い、リクの背中をどんと叩いた。
「さあ、締めの儀式をやるぞ!」
■ 盃を交わす ― 風と赤の契り
広場中央に置かれた石台には、木彫りの盃が三つ並んでいる。
ひとつはリク。
ひとつはセリア。
ひとつはゴブリン族代表・グラント。
それは「風と炎と大地」の契りを象徴するものだった。
「リク、あなたが先に」
セリアが静かに盃を手渡す。
リクは盃を掲げ、堂々と宣言した。
「この盃に風と炎、そして大地の加護を!
――俺たちはここに、“新時代の同盟”を結ぶ!」
盃の中の酒は、特製の紅樹酒。
陽光を受けて深紅に光り、セリアの瞳にまでその色が映る。
グラントが豪快に笑って盃を高く掲げた。
「風の娘セリア、そして我らの赤き戦友リク!
これからも一緒に進もうぜ!」
「ええ。あなたたちは……大切な仲間です」
セリアも盃を掲げると、風がふわりと吹き、三人の盃が自然と近づいた。
――カンッ。
軽い衝撃音とともに、三つの盃が触れ合った。
その瞬間、観衆からどよめきが起きる。
「これで……正式に同盟成立だ!」
「よっ! 村長!!」
「風と赤の時代だぁー!!」
人々の歓喜の声が空へ昇り、ターミナルの真新しい屋根がそれを受け止め、響かせた。
■ ターミナル、稼働開始
続いて、ターミナルの転送門が開かれた。
魔法陣が淡く光り、風の奔流が空間を歪ませる。
「すごい……これが、村をつなぐ力……」
「初便は王都行きだってよ!」
「いよいよ、リクトモ村が地図に載るぞ!」
子どもたちは歓声を上げ、旅人は目を輝かせ、商人たちは期待に胸を膨らませる。
■ そして、二人の静かな時間
式典が一段落すると、リクとセリアは少し離れた木陰に座った。
「……本当に始まったな」
「ええ。リクの言った通り、“つながり”の始まりです」
セリアは盃の残りを口に運び、ほのかに頬を赤く染めた。
「ちょっとだけ……酔っちゃいました」
「珍しいな。セリアが酔うなんて」
「だって……今日は特別ですから。
あなたと、未来のための盃を交わせた日です」
リクは少し照れながら、そっとセリアの手に触れた。
「これからも……一緒に進んでくれるか?」
「もちろん。
――あなたが行くところなら、どこへでも」
風が静かにふたりを包み、ターミナルの開通を祝うように鳴った。
こうして、
トモ村の新時代 “風と赤の時代” が始まった。
村は、世界をつなぐ拠点となり、リクとセリアの未来もまた確かに動き出したのだった。
風と赤の契り、盃を交わし、新しい時代を切り開くという本章は、村の発展だけでなくリクとセリア、そしてゴブリン族の関係の成熟を象徴する章でもあります。
物語はここから新章へ。
日常、政治、外交、そして再び訪れる“影”。
リクトモ村の運命はますます大きく動き始めます。
いかがでしたでしょうか?




