第3話 王都と化け物の学院
ここでは…。
第3話 王都と化け物の学院
長い旅の果て、ユウは王都の大門をくぐった。
村での孤独や村人の視線を思い出す。だが、ここはそれ以上に複雑な場所だった。
城壁の向こうには、きらびやかな屋根と石畳の通りが広がり、人々は忙しそうに行き交う。
露店では香辛料や染物が並び、馬車の車輪の音が響く。
だが、ユウには落ち着きはなかった。
村で授かった“熊の加護”の力は、王都でも異質なものとみなされる。
彼の背中の紋章は光を帯び、周囲の空気を微かに震わせている。
「君か……」
城門の衛兵が小声で囁く。
「加護持ちだな。すぐに学院に連れて行け」
ユウは問う余地もなく、王都の中心にある化け物学院へ連れて行かれた。
ここは、加護や異能を持つ者だけが入学を許される場所。
人々は“化け物”と呼ぶが、正確には“異能者専門教育機関”だ。
学院の門前に立つと、高い石造りの建物と、尖塔の屋根が空を突き刺すようにそびえていた。
門番の青年が冷たい目でユウを見下ろす。
「ここでは、力の無い者に居場所はない」
その声には皮肉が混じる。
学内に入ると、広大な中庭に様々な生徒たちが集まっていた。
人間の少年少女だけでなく、獣耳を持つ者や小柄な竜人、翼のある存在などもいる。
視線はすべてユウに向けられた。
「化け物……」
誰かが囁き、次第にざわめきが広がる。
ユウは背中の紋章を意識した。
熊の加護は静かに彼の心に語りかける。
「恐れるな。力はお前自身のものだ」
学院の教室は、古代の石造りで、天井には魔法の紋章が光を放っていた。
入学手続きの間も、教員たちは加護の力を確認するために目を光らせる。
体力測定、魔力反応、加護の安定度……すべてが試験であり、容赦のない評価が待っていた。
最初の授業は「加護の基礎制御」。
教室内に置かれた魔法陣に立つユウは、熊の加護を制御する感覚を探る。
紋章が光るたびに小さな振動が体を包む。
力を抑えようとすれば緊張で息が詰まる。
しかし、放っておけば小さな火花が散り、魔法陣の端が焦げる。
教員の声が厳しい。
「加護の制御は力だけではない。心が安定していなければ、学院では生き残れない」
周囲の生徒たちは、ユウの挙動をじっと観察する。
化け物扱いされるのは、力があるからではなく、未知ゆえの恐怖からだ。
小さな竜人が囁く。
「化け物にしては意外と大人しいな……」
しかし、夜の宿舎での独り時間、ユウは焦りを覚える。
熊の加護は強力だが、制御できなければ自分自身も危険にさらされる。
村での孤独よりも、学院の試練は冷酷で、次々と課題が押し寄せる。
翌日、初めての実地訓練が行われた。
森に似せた訓練場で、加護の反応を試される。
倒木や岩、動く魔物の影を前に、ユウは加護を用いて進む。
熊の加護は、物理的な力だけでなく、森の気配を感じ取る力を与える。
小さな獣の動き、木々のざわめき、風の流れ――すべてが彼の感覚に反映される。
しかし、周囲の生徒たちはその力を恐れ、距離を取る。
「やっぱり化け物だ……」
囁きが聞こえ、ユウは孤独を再び感じる。
それでも熊の加護は言った。
「この孤独こそ、お前を強くする」
そして、訓練が終わる頃、ユウは初めて自覚した。
――加護は、ただ守る力ではない。敵を制し、生き抜くための知恵と直感を与える。
力を使うたびに心が引き締まり、村で味わった恐怖と不安が、少しずつ糧に変わる感覚。
夜、宿舎の窓から王都の街を見下ろす。
光に照らされた街並みは美しく、しかし未知の危険が満ちている。
ユウは拳を握る。
「化け物でも、俺はここで生き抜く」
背中の熊の紋章が微かに光り、まるで承認するかのように温かく震えた。
王都の学院は、力を持つ者にとって希望の場であり、同時に孤独の場でもある。
ユウは村での孤立を経験したが、今度は力ゆえに孤立する。
それでも、熊の加護と共に歩む決意は揺るがない。
次回、「初めての実戦試験」。
学院での試練が本格化し、ユウは熊の加護を用いて初めての戦闘に挑む。
力と知恵、そして心の強さ――すべてが試される戦いが、すぐそこまで迫っている。




