表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ライフ加護が熊 〜転生したら神の熊がついてきた〜  作者: マーたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/51

第27話 融合覚醒

第27話 融合覚醒 ― 紅き風、天を裂く ―


影王の咆哮が森を揺らし、黒い衝撃波が地面を抉った。

リクとセリアは同時に吹き飛ばされ、土煙の中でどうにか体勢を立て直す。


「リクっ、大丈夫!?」

「かろうじてな……クソ、あいつ、さっきより力が上がってる」


影王の足元には、三つの影獣の残骸。

つまり――やつは三体を喰らい、さらに強くなった。


「雑魚が何を足掻こうと同じことよ」

影王は爛々と瞳を光らせ、二人を見下ろす。


セリアは唇を噛んだ。

(私……足手纏いじゃない。絶対に……!)


その時だった。


リクの胸の奥で、赤い脈動が鳴る。

セリアの背後では、風と雷の精霊光が震え始める。


二人の視線がぶつかる。


「セリア……お前、今の……」

「リクも、光ってる……!」


赤と蒼の光が激しく脈打つ。

二人の力が、呼び合っていた。


まるで――最初から重なるべきものだったように。


 


◆紅熊の声


『リク……その少女の魂、風の精霊は……おぬしの魂と“相性”が良い』

低く、神々しく、それでいて優しい声が響く。


「紅熊……俺たち、何が起きてるんだ!?」


『二つの魂の“同期”。

 それは神獣が選んだ相方とだけ起こる現象――融合覚醒じゃ』


セリアも風精の声が聞こえていた。


『セリア……恐れるな。

 リクの魂はおまえを拒まぬ。寄るのだ、彼の中心へ』


セリアは息を呑んだ。


そして、迷いを捨てて叫ぶ。


「リク、手を!!」


「……ああ!!」


二人が互いの手を取った瞬間――


 


◆融合


森の空気が一変した。


赤と蒼の魔力が絡み合い、渦を作り、光柱となって天へ伸びる。


影王は思わず後退した。


「な、なんだ……この力は……!?」


リクの背後に、巨大な紅熊の幻影が立ち上がる。

セリアの背には、風の女神のような光の翼が広がる。


二つが重なると――


紅の熊に、蒼の風翼が生まれた。


地鳴りが止まり、森の風が逆流し、あらゆる影が怯えて縮みあがる。


「これが……俺とセリアの力……!」


「行こう、リク。今なら……勝てる!」


 


◆紅き風・天裂


影王が咆哮し、黒雷の塊を投げ放つ。


「滅べ――!!」


リクとセリアは同時に動いた。


リクの拳に熊の牙のような赤光が集まり、

セリアの風が渦を作り、それを包む。


二つの魔力が重なり――

世界が一閃するほどの輝きが生まれた。


「――紅き風・天裂くれないきかぜ・てんさく!!!」


拳が振り下ろされた瞬間、風が唸り、光が爆ぜ、

影王の攻撃は粉砕され、その巨体が地面に叩きつけられる。


黒い霧が散り、影王は驚愕に目を見開いた。


「馬鹿な……この私が……押されている……!?」


リクとセリアは、まだ力の上昇を止めていなかった。


「セリア、まだいけるか!?」

「いけるよ……! リクとなら!」


二人の手は離れない。

魔力も離れない。


影王は悟った。


この二人は――“運命の対”だと。


そして、ここからが本当の戦いだと。


闇に沈む王の瞳が、怒りに燃えた。


「ならば……本気を見せてやろう!!

 融合ごときで勝てると思うな――雑魚ども!!!」


森が震え、影王の真形が立ち上がる。


リクとセリアは一歩も引かず、ただ前を見据えた。


次の瞬間――


光と闇がぶつかり合う音が、大地を揺らした。



― 二つの魂、ひとつの光 ―


 リクの胸の奥で、激しく脈打つ何かがあった。

 怒りでも、憎悪でもない。

 それは――セリアの気配。

 風の匂い、草木のささやき、小さな祈り。どれもが確かな声となって、リクの心に重なっていく。


「……セリア、聞こえるか?」


 返事はなかったが、暖かい風が彼の頬を撫でた。

 それだけで十分だった。


 対峙する影王の眷属たち――“三つ首の影犬シャドウハウンド”が、低く唸り声を上げながら円を描くようにリクを囲む。

 闇の瘴気が地面を侵し、森の色が奪われていく。


「ふぅん……ひとりで立っていられるのかい、紅熊。

 セリアがいないと、何もできない男だと思っていたよ?」


 影の使いの嘲笑が響く。


 だがリクは微動だにしなかった。

 逆に落ち着いていた。

 自分の中心に“もう一人”の呼吸を感じているからだ。


――リク、わたしはここにいる。


 風が囁いた。


「……やっと、声が届いた」


――あなたひとりを置いていくはずがないでしょう?


 胸が締めつけられるほどの安堵。

 だがその奥には、今まで以上の強い光が宿っていた。


「行くか、セリア」


――ええ、いっしょに。


 次の瞬間――

 風と紅が爆ぜた。


 リクの身体を包む“赤い獣のオーラ”が揺らめき、同時にセリアの“蒼白の風の光”が重なっていく。

 火と風の属性は本来相性が悪い。

 だが二人の魂は反発するどころか、溶け合うように結びつき、ひとつの輝きを生み出した。


 その輝きは――紅でも蒼でもなく、金色だった。


「なっ……!?

 融合、だと……?

 人間と精霊が……!」


 影の使いが後ずさる。


 金の風が吹き荒れ、紅熊のシルエットが揺らめく。

 そしてリクの背後に、羽ばたく光の残響が現れた。


 “スパーキング・バード”――

 火と風が生み出す、黄金の幻鳥。


 巨大な影犬が突進してくる。

 その牙は黒い霧をまとい、触れれば魂すら裂けると恐れられる。


「セリア……!」


――任せて、リク!


 二人の声はひとつになった。


 リクが地面を蹴りつける。

 金色の光が爆発し、その勢いのまま影犬の懐へ飛び込む。


「“風火連斬ふうかれんざん”!!」


 腕が振り抜かれる。

 刃ではない。

 炎と風が合わさり、千の羽のように影を切り刻む。


 影犬の巨体が、音もなく霧散した。


「……嘘だろ……

 一撃、だと……?」


 影の使いが震えた。

 リクの、いや“二人の力”を見誤っていた。


 リクは金色の光を引きながら、静かに影の使いへ歩み寄る。


「次はお前だ。覚悟はできてるか?」


「ひっ……!」


――リク、やりすぎはだめ。

 怒りで壊すのは、あなたらしくないわ。


「……わかってるよ。

 セリアが一緒なら、俺は道を踏み外さない」


 風が笑った。

 その一瞬の優しい空気に、影の使いは震えながら後退る。


 リクのまわりに、金の羽がふわりと舞い落ちた。


「もう一度聞く。

 影王はどこにいる?」


「……し、知らない! 少なくともこの森にはいない!

 だが……“欠片”が揃えば、影王は必ず姿を現す!!」


 叫ぶと同時に、影の使いは霧となって消えた。


 金の光も、ゆっくりと収束していく。

 風の気配が身体から抜けていくと、リクはそっと息を吐いた。


「セリア……まだ、そこにいるか?」


――ええ。

 でも……わたし、少しだけ眠らなきゃ。

 融合はあなたの負担が大きいから……


「無理すんなよ。

 戻ってくるって、信じてる」


――ありがとう、リク。

 ……おやすみ。風の中で、また会いましょう。


 風が静かに消えた。


 リクは拳を握りしめる。


「……絶対に守る。

 この世界も、セリアも、全部」


 金色の羽が最後の一枚、地面に落ちた。

… …

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ