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異世界ライフ加護が熊 〜転生したら神の熊がついてきた〜  作者: マーたん


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第22話 欠片狩り

「……俺は、このままこの世界でしか生きられないのか?」

第22話 欠片狩り ― 森に潜む三つの影 ―




 影王との激突で空が裂け、王都全域が震えたその裏側で――

 “森”は静かに、しかし確実に異変を孕んでいた。


 闇の霧が木々の間を這い、獣たちは怯えて走り去る。

 風は音を失い、空気そのものが固くなるような圧が漂っていた。


 その中心へ、三つの影が歩みを進めていた。


 黒衣の男、面を付けた女、そして無言の巨躯。


 影王の直属配下、“欠片狩り(ピースハンター)”と呼ばれる存在である。


「……神熊の核とやら、ついに動き出したか」

 黒衣の男が呟く。

 その声には、人間のものとは違う“空洞”の響きがあった。


「影王様の復活には“欠片”があと二つ必要。

 リクの核だけでは足りないわ」

 面の女が笑う。


「我らが使命――

 森に散った“神の欠片かけら”をすべて回収すること」


 巨躯は答えず、ただ大地を震わせながら歩く。

 その足跡は黒く焦げ、草木が枯れていく。


 三つの影が侵入したのは、誰も知らぬ“神々の墳墓”。

 リクが幼い頃に遊び、セリアの魂がかつて宿っていた、あの森の深奥だった。




 その頃――

 リクは王都の外れにある古井戸の上に腰を下ろし、深く息を吐いていた。


 影王との戦いは膠着していた。

 共に決定打を欠いたまま、互いに傷を測り合うように距離を置いている。


 だが、リクの胸には別の重荷があった。


「……俺は、このままこの世界でしか生きられないのか?」


 小さな呟きは風に紛れて消えていく。


 セリアがそっと隣に寄り添った。

 淡い風の粒子となり、リクの肩にひらりと落ちる。


「帰りたいの……?

 元の世界に」


 リクはしばらく黙っていた。


「――わからない。

 こっちの世界で生きるのは、もう当たり前になった。

 村で追放されて、学院で戦って、みんなと出会って……セリアと……」


 言うほどに胸が苦しくなる。


「でも時々思うんだ。

 向こうの世界での俺は……まだ、生きているのか?

 誰か探してたり、悲しんだりしてないか……って」


 セリアは静かに目を細めた。


「あなたの“魂”が呼ばれて転生したのなら、

 前の世界でのあなたは、もう……」


「死んでいる、か」


 リクは苦笑した。


「そうだよな。

 俺はこっちで新しく生きてる。それだけの話だ」


 だが、心は簡単に割り切れない。


 恋も友情も戦いも、全部この世界にある。

 なのに――

 ときおり浮かぶのだ。

 “もう一つの生”の影が。




 セリアはその葛藤を感じ取り、優しく囁いた。


「……どちらを選んでも、私はあなたの側に居るよ。

 それが“風の加護の精霊”としての私の誓い」


「ありがとう、セリア」


 リクが微笑んだその瞬間だった。


 森の方角から、赤黒い魔力が噴き上がった。


「……ッ!? この気配……影王の部下か!?」


「違う! これは――欠片狩り!

 リク、急がないと。森にある“神の欠片”が狙われてる!」


 リクの胸が強く脈打った。


 神熊の核とは別に、この世界には“神々の欠片”が散らばっている。

 その一部が、リクの故郷の森に残されていることを彼は知っていた。


「行こう、セリア」


 リクの全身に紅のオーラが巻きつく。

 それはまるで、熊の背中に羽根が生えたような猛々しさだった。


紅熊戦走グレイザ・ラッシュ!」


 地面が弾け、リクは一直線に森へ駆け出した。




 森の中心――

 そこに、かつてリクが幼い頃に出会った“光る石”があった。


 今はそれが淡い青色の光を放ち、脈動している。


 面の女がそれに手を伸ばす。


「これが“風神の欠片”の一部……。セリアちゃんの生まれた場所ね」


 その指先が触れた瞬間――


 バキンッ!!


 リクの拳が女の腕を弾き飛ばした。


「お前ら……それ以上、手を出すな」


 森の入口に、紅い光が爆発する。

 熊の咆哮のような重低音が響いた。


 黒衣の男が唇を釣り上げた。


「来たか――“紅熊の核”。

 ここからが本番だ」


 三つの影が同時にリクへ向き直る。


 リクは拳を握り、セリアは風の翼を広げた。


 そして影王配下との、

 “欠片を巡る本格的な戦い”が始まろうとしていた。

「帰りたいの……?…元の世界に…」

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