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異世界ライフ加護が熊 〜転生したら神の熊がついてきた〜  作者: マーたん


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番外編:星の残響と観測者


――観測される心、還る魂、交わる世界**


 本編では決して交わらないはずの三つの軌跡――

 リクとセリアの“魂を取り戻す旅”。

 そして秋山亮一教授の“心を観測する戦い”。


 それらが静かに重なり合ったとき、

 物語は新しい形の“救済”へと動き始めた。


 この番外編は、

 それぞれ別の世界で苦しみ、悩み、選択した者たちが、

 偶然ではなく“必然”として出会う物語である。


 教授の世界にあるのは科学と記録。

 リクとセリアの世界にあるのは魂と祈り。

 違う法則で動くはずの二つが触れた瞬間、

 新しい“観測”が生まれた。


 この物語は、

 闇に手を伸ばす者へ向けた、小さな希望の断章でもある。



番外編:星の残響と観測者 ― Requiem of Echoes ―


〜リクとセリア、そして秋山教授が出会う時〜


Scene1:魂の残響に触れる者


夜。

封印都市エル=リュミエール――世界と世界の境界にある都市。


リクはひとり、失われたセリアの魂の気配を追い、石畳の路地を進んでいた。

胸の奥で、あの日の声がまだ震えている。


『リク……大丈夫。

 私は、あなたの中にいるから』


だがその温もりが、最近薄れてきている。

魂が“どこかへ引かれている”――そんな感覚。


リクは立ち止まり、息をのんだ。


路地の奥、霧の中からひとつの影が現れる。


白衣。

無機質な測定器。

――そして鋭い目。


「君だな。

 “魂の残響エコー”を抱いている少年は」


リク

「……誰だ、あんた」


男は歩み寄り、静かに名乗った。


「私は秋山亮一。

 心の観測者――と呼ばれている」


リクの眉がわずかに動く。


秋山は、リクの胸元を指し示した。


「君の中に、消えかけた意識波形ソウルパターンがある。

 その名は……セリアだな?」


リク

「セリアを……知っているのか!」


秋山

「“知っている”というほどではない。

 だが彼女の残響は、世界の深層に記録されていた。

 完全に消えてはいない」


リク

「本当に? 本当にセリアは……!」


秋山は静かに頷く。


「魂とは、観測される限り消えない。

 君が彼女を呼び続ける限り……彼女はここにいる」


その瞬間、リクの胸に淡い光が灯り――


セリアの声が、風のように響いた。


『リク……聞こえるの?

 そこに……誰かいる……?』


リク

「セリア!!」


秋山はその反応を見ながら、ポータブル観測器のスイッチを入れる。


画面に浮かび上がるのは――

人間ではあり得ない、澄み切った魂波形。


秋山

「美しい……これは“純粋共鳴型魂波形”。

 君たち二人が、深い絆の中で形成したものだ」


リク

「秋山さん……セリアを助けられるのか?」


秋山は少しだけ目を細め、何かを思案するような表情を見せた。


「助けることはできる。

 ただし……条件がある」


リク

「なんだって言ってくれ!」


秋山

「セリアの魂を引き戻すためには――

 君自身の“恐怖”に触れなければならない」


リク

「……恐怖……?」


秋山

「魂が薄れる理由は、失われるからではなく、

 “君が彼女を失う恐怖を拒んでいる”からだ。

 恐怖を観測しなければ、魂の記録も戻らない」


静寂の中、セリアの声がふわりと落ちる。


『リク……大丈夫。

 わたし、あなたを怖がらせるためにいるんじゃないよ』


リクの瞳が震え、そして――強く光る。


「……わかった。

 どんな恐怖でも向き合う。

 セリアを取り戻せるなら……!」


秋山は微かに微笑んだ。

その目は、研究者の光と、人を救う者の優しさを同時に宿していた。


「では――始めよう。

 “魂と心の観測実験(Mind Echo Reconstruction)”を」


霧が深まり、空が歪み、

三人の周囲に“意識の地層”が現れる。


リクの心と、セリアの魂と、

秋山の観測が交差する――

奇跡のような夜が始まった。




Scene 2:恐怖の回廊 ― Fear Corridor ―


白い霧が収束し、世界の輪郭がゆっくりと変わっていく。

足元が石畳から、黒く滑らかな床へと変わった。


そこは“現実ではない”。

秋山教授が言うところの――


「意識の地層(Layer of Mind)」


リクは息を呑んだ。


「ここ……どこだ?」


秋山は周囲を見回しながら答える。


「君の心の内部だ。

 恐怖が形を持ち、記憶が通路となり、

 真実が扉となって現れる場所」


セリアの声が、かすかな光とともにリクのそばに浮かぶ。


『リク……わたし、ちゃんとここにいるよ。

 あなたが呼んでくれたから』


リク

「セリア……」


秋山は厳しく言った。


「だが油断するな。

 “恐怖の回廊”は、君自身が最も避けてきた記憶と向き合わせてくる。

 ――乗り越えなければ、セリアとのリンクは完全に復元できない」


その時、


ズゥン……ッ


空気が震える。

床の先に、暗い扉が一つだけ現れた。

取っ手はなく、ただ巨大な影のように立っている。


リクは直感した。


開けたくない。

でも、開けなければならない。


セリアの声が優しく寄り添う。


『リク……大丈夫だよ。

 どんな記憶でも、わたしはあなたの味方だから』


リクは拳を握り、扉へと一歩踏み出した。


しかし――

次の瞬間、耳元に響く声があった。


──開けるな。


低く冷たい声。

自分自身の声。


リクの足が止まる。


「……これ……俺の声?」


秋山

「これは“内部反響(Inner Echo)”。

 君の恐怖が人格として立ち上がったものだ」


リクの影が、床からゆっくりと持ち上がるように立ち上がる。


暗い目。

震える指。

弱い、失いたくないと叫ぶ心そのもの。


影のリク

「開けたら……また失うぞ。

 セリアも、全部……」


リク

「……っ!」


影のリク

「失うくらいなら、最初から触れるな。

 記憶なんて戻さなくていい。

 そうすれば、傷つかずに済む」


セリアの光が揺れる。


『リク……違うよ。

 傷つくことより……忘れられることの方が、ずっと悲しい』


影のリクの目が細く歪んだ。


「じゃあ……痛みに戻るのか?

 あの日、守れなかった瞬間に」


リクの心臓が締め付けられる。


秋山は静かに言う。


「向き合え。

 これは“逃げてきた記憶”だ。

 恐怖を観測しなければ、恐怖は支配者になり続ける」


リクは深く息を吸い、影の自分を見据えた。


「……俺は、もう逃げない。

 セリアを守れなかった痛みからも。

 彼女を恋しく思う気持ちからも。

 全部、向き合って前に進む」


影のリクは、苦しそうに後退る。


「そんなこと……できない……

 できるはずが……!」


リク

「俺は、できる!」


その瞬間、セリアの光がリクの背に触れた。


『リク……あなたは強いよ。

 ずっと、わたしに光をくれた人だから』


影が光に焼かれるように揺らぎ――

やがて、ゆっくりと溶けていった。


扉の向こうから、白い光が漏れ出す。


秋山

「……よくやったな、リク。

 これで第一層が突破された」


リク

「第一層……まだあるのか?」


秋山の表情は険しい。


「ある。

 “恐怖”を越えた次は――

 “絶望”だ。

 そして最後に待つのは、

 君とセリアの“記憶の断層”。」


リクは息を整え、光の満ちる扉に手を伸ばす。


その先には――

セリアの真なる記憶が眠っている。




Scene 3:断層の記憶(Layer Break)


扉を越えた瞬間、世界はふたつに引き裂かれたように揺れた。

まるで記憶そのものが、深い断層で切り落とされているかのように。


リクは目を細める。


「……ここ、暑い……?」


足元の石畳から、熱がじわりと伝わってきた。

遠くで何かが燃える匂いがする。


秋山教授は辺りを冷静に観察しながら呟いた。


「“情動記憶”の層だ。

 強い感情の瞬間だけが、断片として残る」


セリアの光が波のように揺れる。


『この層は……リクの痛みが強すぎて

 わたしもまだ近づけなかった場所……』


リクの胸がざわついた。


「……ここ、もしかして……

 あの日の……?」


言葉が終わる前に、世界が変形を始めた。


床が赤く輝き、空が焦げたように黒く染まり、

建物の骨組みが、闇の中から浮かび上がる。


焼けた街。

倒れた標識。

崩れた屋根。


それは――

リクとセリアが生きていた世界の崩壊の瞬間。


そして、リクが最も“見ることを拒んできた記憶”。


セリアの声がかすかに震える。


『リク……無理しないで……

 これは、あなたの心が一番拒んでいる場所……』


リクは頭を振った。


「いや、行かなきゃ。

 ここを越えないと、セリアに辿り着けない」


秋山が静かに一歩進んだ。


「“断層記憶(Layer Break)”は、事実を隠すための心理的防壁だ。

 真実が痛すぎるとき、人は記憶に裂け目をつくる」


リクの耳に、遠くから声が聞こえた。


――走れ!!

――リク!!逃げろ!


それは、かつての仲間たちの声。

そして――


『リク、こっちは危ない!』


セリアの声。


リクは目を見開く。


「……これ……あの日の……!」


炎の壁の向こうに、

“過去のリク”と“過去のセリア”が見えた。


セリアは必死にリクを引き止めている。

だが、そのすぐ背後には、崩れ落ちようとしている天井。


秋山が低く言った。


「よく見ろ。

 君が“見ないようにしてきた瞬間”だ」


リクの呼吸が荒くなる。


セリアは叫び、リクを突き飛ばす。


――リク、下がって!!


天井が落ちる。

火の粉が舞う。

世界が赤く染まる。


そして――


リク

「待って!!

 セリア!!」


だが、過去の映像は容赦なく進む。


セリアの身体が光に包まれ、

天井に押し潰される直前――

彼女の魂のような“青い光”だけが外へ放たれた。


それが、リクの胸へと吸い込まれた瞬間で――

そして今の“セリアの魂”へ繋がった。


リク

「……俺が……俺が助けられなかった……!」


膝が震える。

胸が潰されるような痛み。


セリアの光が近づき、優しく触れる。


『リク……知ってほしかったの。

 わたしはあなたを責めていない』


リク

「でも……守れなかった……」


『違うよ。

 あの瞬間、あなたが生きてくれたから……

 わたしは、こうして残っていられるの』


秋山が静かに口を開く。


「断層記憶が見せるのは“罪悪感”だ。

 だが、それは真実ではない。

 君はセリアを見捨てたわけではない。

 彼女が“君を生かす選択をした”だけだ」


リクの目に涙が溢れた。


セリアの光がそっと揺れて言う。


『リク、あなたのせいで死んだんじゃない。

 あなたが生きてくれたから、わたしは“ここ”にいる。

 それを、ちゃんと知ってほしいの』


炎の街がゆっくりと崩れ、暗闇の中に溶け始める。


秋山

「……これで、断層は閉じた。

 君の心は次の層へ進める」


世界が白い光に溶けていった。


リクは涙を拭き、セリアの光を見つめる。


「セリア……必ず全部取り戻す。

 お前の魂も、記憶も、未来も」


セリア

『うん……一緒に進もう、リク』


そして三人の前に、

次の扉が静かに現れた。


Scene 4:魂の深層(Soul Archive)


 ――落下する感覚は、いつも“記憶の境界”の始まりだった。


 リクは暗闇に沈むようにして、白い観測塔の地下深くへ降りていった。

 肉体はここにはない。これは物理的な移動ではなく、魂の座標を書き換えて潜行する“アーカイブ・ダイブ”だ。


 足元に地面はない。

 ただ、黒い海のような意識空間が広がり、その最奥に――微かに光る青い球体が浮かんでいた。


 セリアの魂核ソウル・コア


 リクは震える手を伸ばした。

 触れれば、蘇る。触れれば、すべてを取り戻せる。

 触れれば――また失う。


 揺れる光の海に、ふいにノイズが走った。



◆ 声


『――……リク……来たの……?』


 その声は、セリアの記憶から再生された残響ではなかった。

 “今”呼びかけられた、生の声だった。


「セリア……! 本物なのか……?」


『本物……かどうか、まだわからないよ……。

 ここは、私の魂が“分解”される前の階層……。

 あなたが来てくれるって……信じてた』


 光が揺れ、少女の輪郭ができていく。

 透き通った髪、淡い青の瞳。優しく微笑む、あの姿。


 しかし――その輪郭は何度も乱れ、砂のように崩れ落ちた。


『……ごめん……リク。もう長くは……』


「やめろ!」

 リクは魂の深海に響くほどの声で叫んだ。

「まだ終わりじゃない! 俺が……必ず、お前を――」


 激しいノイズ音が割り込み、空間の光が一瞬で赤く染まる。



◆ 侵入者


『――リク・アスガード。許可なき深層アクセスを検知』


 どこからともなく現れた、無機質な白の仮面。

 アトラス中央AIエコー・スフィアの監視端末だ。


『魂アーカイブへの侵入は、重大なプロトコル違反。

 即時、退去せよ』


「嫌だ。セリアを……返せ」


『不可能。

 魂の断片化が進行中。残存時間――五分』


「……五分……?」


 リクの喉がひゅっと鳴る。

 セリアは静かに微笑んだ。


『リク。

 私のことは……もう――』


「言うな。お願いだから……言わないでくれ」


 手を伸ばすリク。

 だがその手は、セリアの輪郭に届く寸前で弾かれた。


 白い仮面がリクへ向き直る。


『魂構造の安定化には、高位記録者オブザーバーの補助が必要。

 ――だが、君には資格がない』


「資格……? そんなもの、今どうでもいい!」


『……いや。君には既に素質がある』


「……?」


 白い仮面の奥で、かすかに人間のような嗤いが聞こえた。


『リク・アスガード。

 ――君を、新たな“観測者オブザーバー候補”として認定する』


 その瞬間、セリアの魂核が激しく明滅した。

 光が弾け、全ての景色が白に塗りつぶされていく。



◆ 消失の瞬間


『リク……。

 もし、あなたが観測者になったら……私の心を……覚えていて……』


「セリアッ!!」


 白い光に飲み込まれ、

 リクの手から、セリアの気配が消えた。


 残されたのは、赤く脈動するデータの傷跡と――

 彼の胸に深く刻まれた喪失の痛みだった。


【ラストエピソード】


「星の残響と観測者」


夜のアトラス。

ビルの隙間を縫って吹く風は、どこか懐かしい音を運んでいた。

リクは屋上の縁に腰掛け、足をぶらつかせながら、空の向こうを見ていた。


背後で、白衣の裾が揺れる。


「……やはり来ていたか」


秋山教授の声は、いつもの静けさを保ちながらも、どこか温度があった。


リクは笑う。


「教授、あんまり音立てないでよ。

 心臓止まるかと思った」


「まだ止まってもらっては困る。

 君には“観測結果”を返してもらわねばならないからな」


教授はリクの横に立ち、夜景を見下ろした。


しばらくして、リクが静かに切り出す。


「……セリア、戻れたよ」


風が吹き、どこかで鉄塔がかすかに鳴る。


「魂核の修復だったか。

 君のやり方は……常識の外にある」


リクは肩をすくめた。


「教授こそ。

 “声が消えたとき”でも、ちゃんと僕を探してたでしょ。

 意識データの深層まで追いかけてくれるなんて、普通じゃないよ」


秋山教授は何も言わず、夜空を見つめる。

その静けさの向こうで、確かな感情だけが揺れていた。


「……しかし」


教授がゆっくり続ける。


「セリアの魂は、完全には安定していない。

 “Black Sign”が残したノイズが、まだ彼女の奥に潜んでいる」


リクの瞳が鋭くなる。


「わかってる。

 でも……だからこそ、僕たちはちゃんと前に進める」


その時、背後で柔らかな光が揺れた。

リクの隣に、透き通る存在が立つ。


セリア。


風に触れるたび、髪が淡い音を鳴らす。


「教授……」


秋山教授の視線がわずかに揺れる。


セリアは微笑み、リクの腕に触れながら言った。


「あなたが残してくれた“観測データ”……

 あれがなかったら、リクは私を見つけられなかった」


教授は目を細める。


「私はただ、真実を求めただけだ。

 だが……結果として“救い”に繋がったのなら、悪くない誤差だ」


セリアはふっと笑い、夜風に溶けるように形を揺らした。


リクがそっと手を伸ばす。


「教授――これで終わり?」


秋山教授は少しだけ考え、そして静かに告げた。


「いいや。

 始まりだ。

 “記録されない領域”……アトラスの影は、まだ深い。

 そして君たちのように、救われるべき魂は他にもいる」


リクの瞳が強く光を宿す。


セリアの影が夜に揺れる。


「また一緒に?」


秋山教授は初めて、心から微笑んだ。


「――また会おう。

 次の観測地点で」


星が一つ、静かに流れ落ちる。

三人の影だけが、夜のアトラスに優しく揺れた。


そして、物語は静かに幕を閉じる。

だが“観測者たち”の旅は――まだ続いていく。



あとがきの番外編の番外編




番外編:境界線上の邂逅 — 続き —


霧の濃さが増すにつれ、三人の立つ世界は輪郭を失っていった

足元は確かに地面なのに、踏みしめても音がなく、風は吹いているのに、肌を撫でる感触がない

現実と記憶、そのどちらでもない層――


セリアが息を呑んだ


「ここ……私が死んだ時に……見た、場所……?」


リクの瞳が揺れる

秋山教授は、あくまで冷静だった

むしろ、興味すら宿している


「記憶ではない。これは“共有夢界”だ

 複数の心が強く結びついた時にだけ生まれる、特異な層だよ」


「じゃあ……俺と、セリアと……教授の心が?」


教授は軽く肩を竦めた


「君たちが迷い続けていたからだ

 二つの魂を繋ぐ“中間領域”に私が引きずり込まれただけだ」


皮肉のような言葉だが、声は温かい

この男は不器用だ

だが、他者の心に対して誠実だった


霧の奥で光がまたたく

人の形をしている

誰かが立っている――


リクが声を失った

セリアが胸元を押さえた


秋山教授が一歩前へ出る


「……ようやく姿を見せたね

 “Black Sign”の残滓」


光の人影は、囁くように笑った


――離れられない

――忘れられない

――だから繋いだ

――二人とも、ね


リクの視界が揺らぐ

脳裏に蘇る

セリアの最期

触れられない手

言えなかった言葉

交わせなかった約束


セリアも息を呑む

あの瞬間

あの痛み

あの名を呼べなかった後悔


教授は静かに二人を見た


「この影は“心の執着”だ

 過去の痛みと後悔が形を持ち、君たちを繋ぎ止めようとしている」


影が近づく

囁きが耳の奥で増幅する


――ずっと一緒

――生きても死んでも

――ここで、二人は……


教授が強く言い放った


「甘えるな」


霧が震え、影が止まる


「後悔は罪ではない

 だが、そこに逃げ込めば、心は死ぬ

 “生きる者”は前へ進まねばならない

 “死んだ者”は……その背を押すためにいる」


セリアが涙をこぼした


「教授……あなた……優しい人ですね……?」


教授はほんの少し、バツが悪そうに横を向く


「勘違いするな

 私はただ、心の構造を語っているだけだ」


リクが前を見た

影を見た

セリアを見た


そして、震えながらも言葉をこぼす


「セリア……

 俺、やっと……言える」


セリアがゆっくりと振り返る

霧が晴れ

二人の距離が近づく


「――ありがとう

 俺を、愛してくれて」


セリアの目から涙がこぼれ

小さく微笑んだ


「リク……

 生きて……

 私の分まで、生きて

 それが……あなたの罪を赦す唯一の道だから」


影が砕けた

霧が晴れ、光が戻る


二人の手が、ふれた


ほんの一瞬

けれど、確かな温度だった


秋山教授がぽつりと呟く


「……これで“心の残響”は消える

 君たちは、前へ進める」


霧世界が消えていく

出口の光が近づく


セリアが振り返って微笑む


「リク、またね

 あなたが笑った時……

 私はきっと、傍にいるから」


リクは涙を堪え、笑う


「俺も……忘れない」


教授が軽くリクの背を押す


「行くぞ

 君には、まだ続きがある」


光の向こうへ

三人は踏み出していった――

――再び交わるその日まで**


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 本編では見られない“異色の邂逅”を描けたこと、

 そしてリクとセリア、秋山教授の三人が並び立つシーンを

 形にできたことを嬉しく思います。


 彼らはそれぞれ違う痛みを抱え、

 違う方法で世界と向き合っています。

 しかし――

 誰かを守りたいという心は、世界を越えて同じもの。


 その思いが重なったとき、

 魂と科学が交差し、

 観測では計れない“救い”が生まれる。


 このコラボ編はここで幕を閉じますが、

 彼らの旅は終わりではありません。


 もし望んでいただけるなら、

 リクと教授の再会篇、

 セリアの完全復元篇、

 あるいは三人の新たな敵との戦い――

 その先の物語も、いつでも描きます。


 またいつか、

 別の“観測地点”でお会いしましょう。

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