第2話 森の声と熊の目覚め
転生――それは、別の世界で新たな人生を歩むこと。
ユウが42歳で迎えた二度目の人生は、静かな田舎の小さな村で始まった。
だが、神から授けられた加護は、常人には理解できない“熊の加護”。
祝福か、呪いか――それを知るのは、まだ先の話である。
村人は、目に見えぬ加護を恐れ、異質な存在を警戒する。
ユウ自身も、加護の力を完全に制御できるわけではない。
夜の森から聞こえる微かな唸り声は、静かに、しかし確実に彼を呼んでいた。
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第2話 森の声と熊の目覚め
日の光が傾き、村の家々に長い影を落とす頃、ユウは静かに家を出た。
村人の視線は冷たく、心の中の不安が胸を押し潰す。
「化け物め」
誰も言葉には出さないが、聞こえてくるような視線。
幼い子供たちは泣き、母親たちはそっと目をそらす。
老齢の鍛冶屋だけは違った。眉間に深い皺を寄せ、唾を吐くように呟く。
「加護を持つ者は災いをもたらす……」
ユウはそれを聞き流すことにした。
否定しても無駄だ。村人の心は、恐怖によって固まってしまっている。
歩きながら、彼は背中の熊の紋章に触れる。
微かな温かさが指先に伝わった。
――この力があれば、森で待つものにも立ち向かえる。
森の入り口に近づくと、昼間には気づかなかった光景が広がっていた。
落ち葉に光が差し込み、微細な霧が立ち込める。
まるで森自体が呼吸しているかのようだ。
足元に目を落とすと、倒木の間に小さな光が揺れている。
妖精か、幻覚か――いや、熊の加護の反応だ。
加護は生き物のようにユウの心に働きかける。
森の声は彼を呼び、導く――この力を理解するのは、まだ早い。
村を出て最初の数歩で、ユウは思い出す。
村人に背を向けるのは簡単だが、逃げるだけでは加護の本当の力は引き出せない。
そして、森の奥には、まだ誰も見たことのない何かが潜んでいる。
突然、森の影がざわめき、視界の端で大きな影が動いた。
熊の姿――だが、巨大で、光を帯び、圧倒的な存在感を放つ。
ユウは息を呑み、拳を握った。
――加護が、目覚める時だ。
「我が加護を恐れるな」
熊の声がユウの心に直接響いた。
「力はお前のものだ。使い方次第で、この村も、この世界も救える」
ユウの体を包む光が強まる。
森の木々が揺れ、枝が空中に舞った。
加護は自然を操る力ではない。
それは、森や生き物、そして彼自身の心を映す鏡のようなものだった。
最初の試練は、森の影に潜む“野生の化け物”だった。
目を光らせ、牙を剥き出しにする影は、森の外来者を排除する力を持つ。
ユウは呼吸を整え、加護を信じて踏み込む。
光と影が交錯する中、ユウの手が熊の加護と共鳴する。
紋章の光が激しく揺れ、手のひらから火花のような光線が放たれた。
影は後退し、森の奥深くに消える。
恐怖と緊張が解け、ユウは深く息をつく。
その瞬間、遠くで小さな声が聞こえた。
「ユウ様……」
森の精霊たちが姿を現す。加護を持つ者には見える存在だ。
ユウは一歩前に進む。孤独ではない。熊の加護と、森の声が共にある。
しかし、村では事情が変わらなかった。
加護の痕跡を見た村人たちは恐怖を増し、長老たちは追放を決定する。
ユウは静かに村を後にする。
背中の熊の紋章が温かく輝き、未来への希望を照らす光となった。
森の声は、ユウに加護の真価を教えた。
しかし、それは単なる始まりに過ぎない。
熊の加護は力であり、孤独であり、試練でもある。
次回、「森の影と未知の襲撃」。
ユウの加護が初めて戦闘で試され、森の秘密が徐々に明らかになる。
孤独な戦いの中、ユウは真の力を目覚めさせる――熊と共に。




