第13話 風の祈り
王都の炎が沈み、夜の静寂が訪れる――。
失われた仲間の声、燃え尽きぬ想い。
第13話では、セリアが“風の精霊”としてリクの中に蘇る奇跡と、
神々の失われた世界〈アーク・エリュシオン〉への第一歩を描きます。
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第13話 風の祈り ― 精霊の契約 ―
夜の帳が下りた。
焦げた王都の空に、灰の匂いと冷たい風が漂っている。
リクは瓦礫の丘に座り込み、血に濡れた手を握りしめていた。
仲間たちは散り、セリアは――風に消えた。
あの瞬間、彼女の身体は光に包まれ、声だけが残った。
“リク、あなたの願いが、本当なら――私の魂を、呼んで”。
それが最期の言葉だった。
だが、風は確かに生きていた。
夜気を震わせるように、淡い緑の粒子が周囲を舞い、彼の頬をなぞる。
リクは拳をほどき、かすれた声で呟く。
「……セリア、聞こえるか。俺はまだ……終われないんだ」
返事はなかった。
けれど、風の流れが一瞬だけ彼の肩を撫で、まるで肯定するように温かくなった。
そのとき、背後で焚き火の灯が揺れた。
森の方から、鎧のきしむ音が近づく。
ルシア、レイン、ミラ――王都脱出の仲間たちだ。
彼らはリクを見つけ、息を呑んだ。
「リク……セリアは……?」
「いない。けど――」
リクは立ち上がり、風を感じる方向を見つめた。
「まだ、ここにいる気がする」
ミラが唇を噛む。「まさか、魂だけが……?」
「いや、違う」リクは静かに首を振る。「彼女は風そのものになったんだ」
その言葉を裏付けるように、淡い光が彼らを包み込んだ。
風が円を描き、リクの胸元に流れ込む。
心臓が熱くなる。鼓動が重なる。
そして――声が聞こえた。
“リク、あなたの中に、吹いてもいい?”
それは懐かしく、優しく、けれど少し寂しい声だった。
リクは微笑んで答える。「もちろんだ、セリア」
瞬間、世界が色づいた。
風が歌い、草木が揺れ、遠くで雷鳴が響く。
セリアの魂は完全にリクの中に宿った。
彼女はもはや肉体を持たぬが、風の加護を得た精霊として存在する。
ルシアたちはその光景を見守り、静かに膝をついた。
「……リク。神を討ち、精霊と契る者……あなたはもはや人ではない」
「それでも構わない」リクは風をまとい、前を向く。「俺は行く。神々の消えた世界の真実を探る」
セリアの声が再び響く。
“行こう、リク。私たちの旅は、まだ始まったばかり”
そして、彼らは歩き出す。
焼けた王都の影を背に、未知なる大地――失われた神界〈アーク・エリュシオン〉を目指して。
風は優しく、しかし確かに導いていた。
その流れの中で、リクの瞳には新しい決意が宿る。
愛と戦、喪失と再生。
彼の旅は、神をも越える物語へと変わり始めていた。
人と神の境界を越えた絆、それは愛か、呪いか。
リクとセリアの旅は、新たな段階へ。




