第11話 黎明の誓約
燃え落ちた王都から遠く離れた森の奥――
死の淵から生還したリクは、かつての仲間たちと再び巡り合う。
神熊の声、古き誓い、そして失われた“王の血”の記憶。
彼の加護は、ただの呪いではなく、森と世界を繋ぐ“黎明”そのものであった。
だが、安息は長くは続かない。
封印王の残滓が王都を覆い、再び戦火が近づいていた――。
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第11話 黎明の誓約 ― 森の焔再び ―
暗闇の底から、声がした。
それは風のようで、焔のようでもあった。
――「立て、リク。森はまだ、燃えていない。」
瞼を開けると、そこは深い森の奥。
樹々は夜露をまとい、星々の光が枝葉の隙間から零れ落ちていた。
身体の奥で、まだ“神熊”の残滓がうなっている。
夢の中で見た光景――太古の森、滅びた神々、そして封印された王。
それはすべて、リクの加護の中に眠る“記憶”だった。
重い頭を上げると、かすかに火の粉が見えた。
焚き火のそばで誰かが座っている。
長い金髪を乱した少女が、膝を抱えていた。
――イリヤだった。
「……目、覚めたのね」
「イリヤ……生きてたのか」
声が震えた。
彼女は泣き笑いを浮かべ、頷いた。
「何度も、もう駄目かと思った。でも……神熊が、あなたを包んだの。森の奥まで運んでくれたのよ」
そこへ、もう二つの影が現れる。
筋骨たくましいカイと、白髪混じりのミナだった。
二人とも満身創痍、服は焼け、腕には傷が走っていた。
だが、生きていた。
「リク、お前が最後に放った“咆哮”……あれがなければ、俺たちは全員死んでた」
「森の神々が動いたのよ。あなたの中に眠る力が、森全体を包んだの」
ミナが火に手をかざす。焔がゆらぎ、淡い熊の影を描いた。
リクは拳を握る。
夢の中で見た神熊は、ただの守護ではなかった。
――王を護る“神の鎧”、王権の象徴そのものだった。
その時、森の奥から杖をつく老女が現れた。
緑の衣をまとい、瞳に星の光を宿している。
森の民の長老――セラであった。
「森が呼んだのじゃ、神熊の子よ」
彼女は静かにリクを見つめる。
「お前の血は、古き王のもの。神と契り、森を守った“黎明王”の血脈じゃ」
「俺が……王の血?」
「そう。お前が倒した“封印王”とは、元をただせば同じ系譜。だが、お前は人として生きた。だから神熊が選んだのじゃ。」
焚き火の火が、ぱち、と音を立てた。
空には赤い月が昇りはじめている。
その光の下、仲間たちはひとりずつ、膝をついた。
「リク。もう逃げねえ。俺はあの王都をぶっ壊す。お前と一緒にな」
「わたしも行くわ。神熊の力、確かめなきゃ」
イリヤが剣を握り、カイが槍を立て、ミナが魔導符を掲げる。
それぞれが傷だらけの手で、焔の前に誓いを立てた。
リクは森の奥を見た。
そこには古代の石碑があり、苔むした表面に熊の紋章が刻まれていた。
リクはゆっくりと手をかざす。
掌の奥で、熱が走る。
――“森の焔よ、再び我らに力を貸せ。”
風が鳴り、森全体が震えた。
熊の咆哮が空に響き、星々が軌跡を描いて集まっていく。
森が、再び彼らの味方になった。
遠く、王都の方角に黒煙が上がっている。
王の血族がなお暴走を続け、神々の封印を解こうとしているのだ。
リクはその光景を見つめながら、静かに言った。
「……帰ろう。俺たちの戦いは、まだ終わってない。」
森の風が、仲間たちの髪を揺らす。
そしてその風の中に、確かに“神熊”の声が混じっていた。
――“黎明を、取り戻せ。”
リクは仲間たちを見渡し、頷いた。
夜明け前の森の中、彼らは新たな誓いを立てる。
それは、滅びの王国を超えて――
神と人との約束を取り戻す、反撃の始まりであった。
森での再会、仲間たちの誓い、そして神熊の“真なる使命”。
第11話では、リクの「人としての選択」が鮮明に描かれました。
神の加護とは祝福か、それとも宿命か――その問いが次章へと繋がります。




