第10話 王都の陰謀
王都の陰謀
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第10話「王都の陰謀 ― 神熊と脱出の夜 ―」
牢での目覚めから数日後、リクは心の中で神熊の加護と森の魂を反芻していた。王都の陰湿な石造りの建物、見張る兵士の視線、そして陰謀に満ちた空気――どれもが彼を押し潰そうとする。しかし、あの夢の森の温もりが、彼の心に冷静さと勇気をもたらす。
牢の鉄格子の隙間から見える月明かりは、ただの光ではなかった。それは森の光――加護の象徴であり、脱出の合図でもあった。リクは神熊と目を合わせる。熊の瞳は暗闇でも光を宿し、まるで「進め」と言っているかのようだった。
牢の外では王都の兵士たちが夜の警備を強化していた。王家の陰謀によってリクの存在は秘密裏に監視され、ただ力ある加護者としてだけでなく、神熊の力を狙う者たちの手駒とされていたのだ。
「夜の闇に紛れれば、逃げられる……かもしれない」リクは囁き、神熊の体温を感じながら心を決める。熊の加護が全身を駆け巡り、壁や鎖を一瞬で感知する感覚が彼に備わる。神熊の体を通じて、加護の力は物理的な力だけでなく、直感と洞察力も強化していた。
脱出計画は緻密に立てる必要があった。牢の見張りの間隔、巡回の時間、兵士の習性――すべてを神熊の感覚を通じて読み取る。加護の一部がリクの体に宿ると、夜の闇でも物音や足音の変化を感じ取れるようになった。
夜が深まる。見張りが最も少ない時間帯――その瞬間、リクは鉄格子の前に立つ。神熊の力で格子の鎖がわずかに緩み、微かな金属音だけが響く。心臓が高鳴るが、熊の存在が冷静さを保たせる。
「行くぞ」リクの声に応えるかのように、神熊が低く唸る。その唸りは力を解放する合図でもあり、牢の扉に加護の力が集中する。金属が軋む音、床の振動、外の風が微かに流れ込む。脱出の瞬間が訪れた。
牢を出た先には、王都の石造りの廊下が続く。灯りは少なく、影が濃い。しかし、神熊の加護が進むべき方向を示す。廊下の隅々まで加護の力が届き、罠や隠された兵士の存在を察知することができた。
廊下の角を曲がると、突然、影が動く。王家直属の精鋭兵士だ。彼らはリクを捕らえるべく動き、剣を構える。しかし、神熊の力を借りたリクは影を読み取り、動きを先読みする。神熊が放つ低い唸りが空気を震わせ、加護の波動が兵士の動きを鈍らせる。
リクは一瞬の隙を突き、影をかわして奥へ進む。神熊の存在が彼の体を半透明の壁のように守り、剣の刃は届かない。廊下を抜け、王都の外に続く下水路へと進む。水の臭いと湿気が漂う闇の中、リクは森の記憶を思い出す。光と風、樹木の匂い――あの感覚が彼を勇気づける。
下水路を抜けると、夜の王都の外郭が広がる。屋根の上に上がり、月明かりに照らされる街並みを見下ろす。遠くに森の影が見える――故郷ではない、だが加護の力が宿る森が、彼を待っているのだ。
「まだ終わりじゃない……これからだ」リクは囁き、神熊の背に乗る。森の風が彼らを迎え、加護の波動が夜空に広がる。王都に囚われた者の陰謀を、今こそ打ち破るときが来たのだ。
リクの心に、初めて明確な覚悟が宿る。仲間と再会し、王都の陰謀に立ち向かう――神熊と共に歩む未来が、静かに幕を開けた。
加護が熊…??




