第1話 熊の加護を授かりし男
神の加護を受けて生まれる――それはこの世界では“生き方の定め”とされている。
だが、誰もが望む加護を授かるわけではない。
ある者は光の加護を得て王に仕え、
ある者は風の加護を得て旅人となる。
そして、ユウは――“熊の加護”を授かってしまった。
それは、破壊と孤独をもたらす忌み加護。
けれど、この加護が後に“神々の秩序”を揺るがすものになるとは、
まだ誰も知らなかった。
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第1話 熊の加護を授かりし男
眩しい朝日が差し込む、木造の小屋。
干したハーブの匂いと、鳥のさえずりが混ざっていた。
――ユウはゆっくりと目を覚ます。
枕元に置かれた木のコップには、昨日の井戸水がまだ残っている。
この村に来て十七年。
彼は“異世界の男”としてではなく、“村の外れのユウ”として知られていた。
だが、村人たちは誰も彼の加護を口にしない。
いや、口にできない。
それはこの世界において――**熊の加護(アルベアの祝福)**が“不吉”とされているからだった。
熊は神々の中でも荒ぶる象徴。
怒りと破壊を司る存在であり、
かつて山を崩し、国を一つ滅ぼしたと伝わる。
だから、ユウが十歳の頃、加護の儀式で“熊”の紋章を授かったとき、
村の空気は一変した。
彼を祝福する者は誰もいなかった。
ただ、老神官だけがぽつりと告げた。
> 「恐れることはない。
> 熊は災いと共に“再生”をもたらす。
> それを受け入れる者こそ、真に強き者だ。」
そうしてユウは、静かに村で生きてきた。
山を整え、薪を割り、時にケガ人を助ける。
だが、彼の背に刻まれた熊の紋章は、いまも夜な夜な微かに光を放つ。
――そして、その夜。
森の奥から、もう一頭の熊の咆哮が響いた。
まるで「加護を継ぐ者」を呼ぶかのように。
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このように、
“忌まれた加護”を持つ転生者として始めると、
後に熊の神との対話や、加護の真の意味の覚醒にも繋げられます。
異世界に転生してから十七年。
ユウの人生は静かだったが、穏やかではなかった。
“熊の加護”は、彼に力を与えると同時に孤独を強いた。
しかし、森の奥から響いた咆哮――
それは、ただの獣の声ではない。
ユウの中で眠る“もう一つの力”が、いま目を覚まそうとしていた。
次回、「森の声と熊の目覚め」。
ユウの加護の真価が、ついに試される。




