寂れた聖堂で彼女は祈る
死にたくない『勇者様』の少年、
死にたい『寂れた聖女』の聖女、
普通に生きるための恋の話。
「勇者様だ!」「ああ、この村に勇者様が」「ここから世界の平和がはじまる」
僕の姿を目にすると、皆がひざまずく。
呪文のように呟かれ、崇拝される。
異世界から召喚された、特別な能力を持った『勇者様』だから。
「ははは」
僕は微笑んで通り過ぎる。
そして、微笑んだまま、聖堂に入る。
寂れた聖堂、誰もいなさそうな。
「…はあ」
聖堂に入り扉を閉めると、僕はため息を吐く。
「死にたくない」
ボソリ、と。
この村に来た時点で気付いてほしい。小さな村だぞ? 情報が入らないような、本当に小さな村。
そこに、勇者様? 有り得ないって思えないのか?
「死なないと、いけないのかな」
特別な能力はない。召喚に不備があったらしい。『何でもできる勇者様』が召喚されたはずだったのに『ただの少年の勇者様』が召喚されてしまった。
それで城から出ていけって言われるのもアレだけどさ。
これなら、普通の人間と扱われる方がマシだった。
死にたくない、魔物に殺されたくない、危険な所に行きたくない。
けど『勇者様』だから、戦わないといけない。死なないといけない。
「戦って死んで、僕の死で国が変わるのなら、それでもいいか」
国のために死のう、前例を作ろう、もう僕みたいな人が現れないようにするんだ。
「よし、死のう」
扉を開けようとすると、
「誰か、いるのですか」
少女の声がする。
幽霊? 聖堂に? てか何で今? 入ったときじゃない? 寂れた聖堂に?
「ああ、すみません、お祈りに必死でした。気付くのが遅れましたね。
神に祈ってくれるのですか?」
その人は、歩いて僕に近付いてくる。
きちんとした格好をしていれば、きっと可愛いのだろうな。
その人、その少女を見たら、すぐに僕は思った。
シスターの格好はしている。けど、汚いし、ボロボロだ。顔も、汚れている。
本来は、清楚で、可愛いのだろうけど。
高校生だった僕より少し下なのかもしれない。背は、少し低い。
「営業中?」
「はい?」
いや、営業中は失礼か。
「こんな寂れてるのに、やってるの?」
もっと失礼なことを言ってしまった。
しかし、少女は怒ったりせず、
「はい。
私は村の皆から嫌われ、信仰も、私がシスターだから、ありませんけど」
「なんで君が嫌われるの? 悪魔でもないのに」
シスターが悪魔でした、なら嫌われても変じゃないと思うけど。エクソシストみたいな。
「私は悪魔です」
聖女は言う。
「不老不死ですから」
「ふ、不老不死」
うなずき、
「気付いたら不老不死でした。
村の人たちは、老いないし死なないのは悪魔だと、魔物を従える悪い存在だと。
無視されるから、今はありがたいです」
少女は悲しそうに微笑む。
そして、
「私は死にたいのです。
必死に祈れば、届くはずだと。
もう、施しはさせてもらえません。
それでも、この村で生きている人たちの幸せを願って祈れば、亡くなった人たちの安らかな眠りを祈れば、この村だけじゃなく、世界中の生きている人たちと亡くなった人たちのことを必死に祈れば。
赦してもらって、私は普通の人に戻れ、死ねるのではないか。そう、思うのです」
「神に祈りませんか?
貴方にも加護を」
「君を赦さない神にか?」
「私の祈りが足りないのです」
「もう十分にボロボロじゃないか! 服も、顔も、髪も! 教会も、こんな感じで誰も味方になってくれない! なのに、それでも君は神を信じてる。まだ足りないのか!?」
「はい、まだ足りません、足りないのでしょう。足りないから赦して頂けないのです」
この女の子は…!
よし、決めた。
「僕は君のために死ぬよ。
君を守る。好きでもない人たちのために、勝てるはずのない魔物と戦って死ぬのなんて、馬鹿らしい。君のために生きる、そして、君を普通の聖女にする。
普通に生きて、普通に信者がいて、普通の格好でいることができて、そして普通に死ぬ。僕は誓うよ、君を普通にする」
「それは、神の決めることです。
なぜ、私のためなんかに、そこまで」
「放っておけないから。
それに、死ぬなら、好きな人のために死にたい」
「は、はい? 好き? 私なんかが?」
確認されて、僕も照れてしまう。
好きだ。
死にたくはない。
けど、死ぬなら、この聖女のために死にたい。
放っておけない、危なっかしいくらいに、真っ直ぐな女の子のために。
勇者なんてクソくらえだ。元々、特別な力なんて持っていないんだし。
決めた、僕は決めた。
読んでいただきありがとうございました。




