二人の妃の家系
メアリ・フォン・フローレンスとカリナ・フォン・フェルミナがやってきて倒れて一週間が経った。
私は全ての記憶を取り戻して直ぐに父と母を驚かせた。
「え? ま、魔法をか?」
「リリカ、魔法の勉強は別に魔法学校に行ってからでも構わないのよ?」
そう、多くの令嬢は魔法や武力を求められたりはしない。だから普通は魔法学校に行って知識だけ得てその後は結婚して跡継ぎを生んで生活する。ただそれだけだ。
だけど、先のカリナ・フォン・フェルミナの魔呪具で心が犯されそうになったのを回避して気付いた。
恐らく14歳で死ぬ一行ップ状況は回避できたと思う。だけど、このままでは何れ私は何らかの方法で死ぬ可能性が高い。
それも魔呪具という魔法関係でだと思う。
それを退ける一つの方法として播磨るりの時に得た知識を更に磨く必要があると考えた。
同時にカリナ・フォン・フェルミナが魔呪具を使って私の心を黒魔術で乗っ取ろうとしたのにはそれを彼女にさせようとした人間がいる。そう、彼女が一人で考えて実行しているとは思えない。
私は更にもしかするとギルバードの母親であるエリザベート王妃の嫌疑もそれに関係していたのかもしれないと考えている。
「きっと相手は魔法を熟知しているはず。だったら私もそれに対抗するなら魔法を熟知する必要があるわ。それに私を消さなければならない理由が相手にある。その理由とその人物を突き止めることが出来れば私もギルも助かる」
絶対に一行ップとギルの死エンドを回避する。
私はそう思い魔法の勉強をすることにした。
魔法学校行ってからという両親に私は笑顔で返した。
「お父さま、お母さま、私も魔法は魔法学校に行ってからで十分だと思っていました。けれどフェルミナ伯爵家のお茶会で噴水に落ちたことで自分の身を守れる魔法を身に着けておくべきだと思ったんです。戦うための魔法ではなく身を守るための魔法をです」
最初に反応したのは母親だった。
「身を守るための魔法……ね。だったら良いかもしれないわ。リリカはギルバート王子の婚約者ですものわが身を守ることを覚えた方が良いかもしれないわ。お姉さまの嫁ぎ先のフェルミナ伯爵家でのお茶会で大事になったんですものね」
そう言った母親のアリア・フォン・ロレーヌに父親のハリー・フォン・ロレーヌが不思議そうに呟いた。
「そう言えば、エリーヌは見舞いも手紙もないな。彼女にしては珍しいな」
母のアリアは少し心配げに呟いた。
「そうなの。どういう経緯でリリカが溺れたのか聞こうと思ったんだけれど……あの日からお姉さまと連絡が取れなくなって」
私は少し考えた。恐らく伯母さまが私を殺そうとするとは思えない。リリカとしての記憶の中でも彼女は母と一緒で穏やかな性格だった。
だけど。
だけど。
カリナ・フォン・フェルミナが誰かに命令されて私を黒魔術で操ろうとしていたと考えるときっとフェルミナ伯爵家の誰か。
「ね、お母さま。ギルがエリザベート王妃の時にロレーヌ公爵家に来たのはどうしてなの?」
リリカの記憶ではエリザベート王妃とロレーヌ公爵家は姻戚関係がない。つまり王はギルとは全く関係のない公爵家に彼を預けたことになる。
ギルが噂を例えば信じた父や母に酷い扱いを受けるとか考えなかったのかしら?
それには父のハリーが小さく息を吐き出して応えてくれた。
「王とロレーヌ公爵家は代々の信頼関係があるからな。最も最大の理由はロレーヌ家がエリザベート王妃とも側室のマリベル妃ともどちらとも当時は姻戚関係になかったからだな。その後にフェルミナ伯爵家がエレーヌとの婚姻を申し込んできたからな」
私は初めての話に目を見開いた。
「え? そうなの?」
父は頷いて言葉を続けた。
「まあ、リリカももう14歳だ。少し早いがギルバート王子の妻になるなら知っておいた方が良いかもしれないな。15歳の魔法学校へ行ってからと考えていたが」
そう言って言葉を続けた。
「エリザベート王妃は騎士系のアームストロング家とキャンベル家の血筋だ。マリベル妃はハミルトン家とフェルミナ家の血筋だ。我々はそのどちらの血筋にもふれていないので王は私ならギルバート王子の命を守りつつ、まあ、王子を利用することもないだろうと信用されたということだ」
私は父の言葉に息を飲み込んだ。
もしも、エリザベート王妃が死に、ギルバートが王の計らいがなく死んでいたら次の王はマリベル妃の子供であるアレクサンダー王子になる。
それこそ『クリスタルキングダム』の私が一行ップで死にギルバート王子がラスボス化してアレクサンダー王子が簒奪した公式ストーリーで得する一族にフェルミナ伯爵家が入ってくる。
だけど。
だけど。
私は少し考えて『クリスタルキングダム』の内容を思い出した。
アレクサンダー王子が王位簒奪した頃にはマリベル妃もフェルミナ伯爵家もハミルトン男爵家も断絶していた気がする。
まあ、あのお話は国がボロボロになった後にアレクサンダー王子とメアリ・フォン・フローレンスが立ち上がるところからだったら、その頃には国も貴族もボロボロだったわね。
だけど、もしもそれ以前にギルバート王子が反逆、若しくは死んでいたらフェルミナ伯爵家とハミルトン男爵家の血を引くアレクサンダー王子が王について両家の勢力はかなり増すわ。
まさか。
まさか。
う~むと悩む私に母が心配そうに唇を開いた。
「貴方はショックで何もかも忘れているみたいだったけれど……もしかして溺れた時のことも思い出したの?」
私は慌てて首を振った。
「それがやっぱり噴水に嵌る前後のことは覚えていなくて……だから防御魔法をいま学びたいの」
本当は思い出していた。私はやっぱり溺れさせられていた。それはフェルミナ伯爵家のカリナ・フォン・フェルミナじゃない。暗い目をした無表情の『フェルミナ伯爵家の騎士』にだった。
彼は黒魔術に操られていたのかもしれない。だからきっと記憶はないと私は思ってる。
「お願い、お父さま、お母さま」
私の願いに父が笑みを浮かべた。
「よし、お前の気持ちはわかった。リリカ。家庭教師をつけよう」
「ありがとう、お父さまにお母さま」
私は二人がちゃんと私の話を聞いて聞き入れてくれたことが嬉しかった。播磨るりの両親は私の言葉を聞き入れることがなかったから。
ただ私が想像していたよりも遥かに早く魔法の勉強に取り掛かることになった。同時に私は先生から運動をすることも勧められた。
「魔法力があったとしても体力が無ければ役に立ちません。身体を鍛えるのと知識とを両輪として熟していきましょう」
私は「はい」と答えてチラリと横を見た。
静かに笑みを浮かべるギルバートが立っていた。
私が防御魔法を勉強したいという話を両親から聞いたギルバートが共にと彼が学んでいる魔法の教師とロレーヌ家へやってくることが決まったのだ。
ギルバートは私を見ると笑みを浮かべた。
「リリカが共に勉強してくれるようになって俺は嬉しい」
私は柔らかく優しく微笑みギルバートを見てドキンと胸を高鳴らせた。
が、これが恐ろしい事態を生むとは思っていなかった。




