疑惑の発端
夢の中で全てを思い出した。
そして、私はその夢の中で目を見開いた。
「何?」
黒い手が伸びて私を取り巻こうとする。いいえ、私の中へ入ろうとしている。
黒い手が触れた瞬間に私は思い出した。
「この熱さ」
フェミルナ伯爵令嬢のカリナ・フォン・フェルミナと手を握った時に彼女がしていた指輪に触れた瞬間に感じた熱さ。同時に忌避感も覚えた。
気持ち悪い。
嫌な感じ。
もし、乙女ゲームや異世界転生ファンタジーを熟読しまくった播磨るりの知識がこの世界でもあり得るのならこれは呪いや黒魔術系の可能性がある。
私はその手を弾いた。
「言っておくけど、私は本物のリリカ・フォン・ロレーヌだったことを思い出したの。つまり、この世界のルールを思い出したってことよ」
日本の播磨るりなら魔法や様々なファンタジー要素を『夢物語』としか受け入れられなかったけれど、リリカ・フォン・ロレーヌとして思い出した以上は魔法が使える世界だって事がわかってる。
それにもう一つ。今の私には武器がある。『クリスタルキングダム』をゲームした時に手に入れた魔法陣が記憶に残ってる。
もちろん、リリカとして使えるかどうかは分からない。
魔力があるかどうかが分からないからだけど……なにも試さずに黒いこの手に同化するのはいや!
私は指先を伸ばして覚えている魔法陣を描いた。魔法陣は淡く金色に輝き私は手の平を翳した。
「消えなさい!」
眩い光が魔法陣から噴き出して黒い手を粉砕した。
そして。
私は本当に目を開けると心配そうに見ている両親とギルバート王子に目を向けた。
「ギル……」
そうリリカ・フォン・ロレーヌはギルバート王子のことを『ギル』と呼んでいた。
ギルバート王子は目を見開くと綺麗に微笑んだ。
「リリカ、本当にリリカだな。思い出したのか?」
私は頷いた。
「噴水で溺れた時に記憶が曖昧になってて……でも、今思い出したの」
同時にもっと恐ろしいことにも気付いた。
リリカ・フォン・ロレーヌ。私がもしかしたら殺される理由になったのは……ギルバート王子の母親と同じ呪いの黒魔術のせいなのかもしれないってこと。
恐らくあの時にフェルミナ伯爵の娘であるカリナ・フォン・フェルミナが手にしていた指輪は魔呪具に違いない。あの夢の中で黒い手に取り込まれていたらリリカ・フォン・ロレーヌがどうなっていたか分からない。
それにフェルミナ伯爵家とロレーヌ公爵家は所謂姻戚関係。お母さまの姉が嫁いだ先で信頼関係が深い。
だけど。
だけど。
今、私の中で最も危険な存在となった。
ただ同じ時にフェルミナ伯爵家で異変があったことを私は知らなかった。
カリナ・フォン・フェルミナが部屋の中で悲鳴を上げて指輪を外して投げ捨ててていたのだ。指輪をしていた中指は焼けただれて顔を歪めながらドレッサーの鏡を見つめていた。
「何故……リリカが? 魔法を使えないはずなのに……」
彼女の後ろに一つの影が現れた。
「カリナ、お粗末ね。自らの力を過信した結果よ。リリカ・フォン・ロレーヌが魔法を使えないことは調べ済みよ。恐らく貴方の魔力以上の力を指輪が望んだ結果よ」
カリナ・フォン・フェルミナは焼けただれた手を抑えながら顔を歪めた。
「ち、違う……叔母さま……本当にリリカが魔法を使ったのよ」
「あの愚かしい貴方の母親が言っていたでしょ? ロレーヌ公爵家では15歳で魔法学校へ入り勉強するまで魔法を知らないって。我がフェルミナ伯爵家は違うわ。魔法家系ですもの」
「おばさま」
「まあいいわ、次こそ成功させるのよ。この腕輪でギルバート王子をリリカ・フォン・ロレーヌに殺させるのよ」
「でもメアリが……リリカに王子を必ず共にするようになって助言を」
「それをどうするかが貴方の役目よ!! アレクサンダー王子が王につけば我が伯爵家は力を得る。今はまだ側室だけれどアレクサンダー王子の母親のマリベル妃の母はフェルミナ伯爵家の人間なんですから」
……そうよ、アレクサンダー王子が王になればロレーヌ家の上にいける……
フェルミナ伯爵家が蠢動を始めていることなど私はつゆとも知らなかった。
けれど、魔法を覚えようと決めたのだ。
黒魔法が私のお手打ちに繋がっていると感じたから。
運命を変えるために動く必要があったのだ。




