リリカ・フォン・ロレーヌ
まるで映画の映像を見ているようだった。
美しく華やかな色鮮やかな花が咲き誇る庭園に優しい私の父と母の姿があった。
そして、一人の綺麗な男の子が花壇の間の通路で座って足を抱きかかえていた。
「初めまして、私はリリカ・フォン・ロレーヌです。ギルバート王子さま」
私の呼びかけに振り向いたのは幼いギルバート王子だった。
泣きはらした目をして直ぐに顔を背けた。
「寄るな! お前も俺を恐ろしいと思っているんだろ!」
ドキンとした。でも、泣きはらした顔を見てどうして怖いと思えるのか分からない。
「どうして? 全然恐ろしくないわ。それより、もし良かったら私の花壇も見てとっても綺麗なの。辛い時に花を見ると落ち着くわ」
「煩い!」
パンッと手を弾かれて、私も驚いた。
でも。
そういう気持ちはわかる。
私にもあったから。父も母も振り向いてくれなくて私の誕生日に何もなかった時に自分の部屋で泣いた。妹のまりの時はケーキや誕生日プレゼントがあった。なのに私の時は何もなかった。
叔父さんが私を気にしてプレゼントを持ってきてくれたけど弾いた。
「いらない!」
それで大泣きした。
私は夢の中なのにそれを思い出して小さく泣きながら笑った。叔父さんは優しい人だった。叔父さんだけだった。
「そうか、じゃあ落ち着いたら見なさい」
そう言って私の部屋を出ていった。叔父さんの優しさは本物だった。だけど悲しくてちゃんをその優しさを受け取れない時があった。その叔父さんも私が転生する前に亡くなったけれど叔父さんだけは優しかったのを覚えてる。
だから、ギルバート王子が手を弾いて驚いたけど、驚いただけだった。
「わかったわ、じゃあ。落ち着いたら一緒に花を見に行きましょ」
ギルバート王子がジッと私を見た。
「お前は俺が怖くないのか? 父を……王を呪い殺そうとした王妃の子供だって……みんな言ってる」
「怖くないわ。だって、ギルバート王子は泣いているんだもの。悲しくて泣いているんだもの、どうして怖いの?」
……それより花を見に来ましょ……
「わ、わかった。リリカ……その……俺のことはギルと呼んでくれ。嫌ならいいんだ。母は俺のことをそう呼んでくれていた。俺は母が父を呪い殺そうなんて絶対にしていないと……俺は思ってる」
「ギル……じゃあ、私も信じるわ」
ああ、思い出した。
そうだわ。
叔父さんがくれた誕生日プレゼントはお花だったわ。小さな鉢植えに植えられた愛らしい花。だから私は花が好きになった。
それからギルバート王子のことをお父さまとお母さまから聞いたんだわ。
ギルバート王子の母親であるエリザベート王妃に呪いの黒魔術を使ったという嫌疑が掛かって魔呪具が彼女の寝室から出て処刑された。
だけど。
ギルバート王子については王の計らいで疑惑なしとしてそのまま王位継承権が残った。
ただ貴族社会の常として人々の噂が絶えなかった。ロレーヌ公爵家はエリザベート王妃とも第二王子の母親であるマリベル王妃とも繋がりがなく中立だったのでギルバート王子を一時的に保護するように王に頼まれてきていたんだわ。
王自身も王妃の魔呪具については疑惑を持っていたから。
ただ王である以上は私見を交えれなかった。証拠や証言があった以上どうしようもなかった。
そうだわ、私は播磨るりだったけれど……本物のリリカ・フォン・ロレーヌでもあったんだわ。
全部、全部、思い出した。




