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モブどころかゲームが始まる前に死ぬ一行ップですが私を殺す第一王子に溺愛されてます  作者: 如月いさみ


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6/15

思わぬ来客

 暫くは屋敷の中で身体を静養させた。

 その間に私はリリカ・フォン・ロレーヌについて……つまり今の私について調べることにした。


 私の知っていることはゲームでの一行だけ。

 ギルバート王子の婚約者で14歳で彼によって殺されるということ。


「ちゃんとした理由の記述がないのがね」


 さすがは一行ップ(一行モブ)だわ。

 私はベッドから降り立ちメイドたちが開けたカーテンから入り込む朝の陽光の中で身体を伸ばした。


「う~ん、良い気持ち」


 そう言って用意された洗顔用の水で顔を洗い豪華な姿鏡の前に座った。部屋の中にはベッドの他にドレスが収納されたワードロープがあり、播磨るりの部屋もそれなりに広かったけれどそれとは比にならない豪華さと広さがあった。


「そのうえ勉強部屋は別にあるのよね」


 私はふひぃと息を吐き出して「貴族生活凄い」と心で呟くしかなかった。

 ただ私の周りにリリカの日記も何もなくてこれまでリリカ・フォン・フローレンスがどう過ごしてきたのか分からなかった。


 なので、噴水に落ちたショックということで出来るだけ人に会わずに来た。ただ、両親は一人娘のリリカの顔を毎日見に来た。


 特に母親のアリア・フォン・ロレーヌはずっと私の側について、播磨るりの母親からは考えられないくらい優しく接してくれた。


 播磨るりの母親である播磨ゆりは綺麗で可愛い妹のまりをとにかく可愛がった。綺麗な服や綺麗な靴、そして、身なりを整えるのも最初は妹だった。

 私はいつも「貴方はお父さんと行きなさい」と言われた。父は父で「お前ももう一人で行けるだろ」とお小遣いの中でやりくりするしかなかった。


 可愛いが全てなのだと私は思った。

 可愛くない私は世界の片隅でひっそりするのが良いのだと思った。


 だから、私は可愛がってくれるリリカの両親と時々現れるギルバート王子の三人でいるだけの世界で私はいいかもしれないと思っていた。


 のに!


 私は朝食の席で思わず目を見開いた。

「え? メアリ・フォン・フローレンスがお見舞いに?」


 ……。

 ……。

 メアリ・フォン・フローレンスとリリカ・フォン・ロレーヌがお知り合いだったとは知らなかった。


 いやいや、待って。

 確かにギルバート王子が私をお手打ち御免にしたことを話したのはメアリだったわ。


 でも、どんなお知り合いだったのか分からない。

 やばい!


 私は心配過ぎてその後に口に入れた甘いはずのフレンチトーストの味が全く分からなった。

 

 メアリ・フォン・フローレンスがやってきたのは青い空が広がる爽やかな正午前だった。

 彼女はヒロインらしくほっそりとして肌も白く、長い白銀の髪と赤い目が綺麗だった。

 彼女と共に想定外の人間が姿を見せた。


「お身体はいかがでしょうか? リリカさま」


 私が噴水に落ちた時に出ていたお茶会を催していたフェルミナ伯爵家の一人娘のカリナ・フォン・フェルミナであった。

 栗色の髪に同じ色の瞳をした同じ年の令嬢であった。


 私は笑みを浮かべかけて理由は分からないがチリリと胸が痛むのを覚えた。


「はい、今はもう大分良くなりました。お見舞いありがとうございます」


 胸が。何か胸が痛む。

 カリナ・フォン・フェルミナと共に訪れたメアリ・フォン・フローレンスが私を心配そうに見て唇を開いた。


「リリカ、本当に大丈夫? まだ顔色が悪いみたいだけど」

「え、ええ。それがその時もそれ以前のことも記憶が曖昧で」


 私はそう答えた。

 それは事実。それどころかそれ以前の記憶がなくて……私と彼女、メアリ・フォン・フローレンスがどういう知人だったのかすら分からない。

 それこそフェルミナ伯爵家で溺れたことも覚えていない。


 だけど。

 今何かが……カリナ・フォン・フェルミナを見たら何かが胸を酷く軋ませた。


 メアリは私の言葉に少し考えるように俯き、そっとカリナ・フォン・フェルミナを見た。

 そして、私に笑みを浮かべた。


「そうよね、死にかけたんですもの……ごめんなさい。伯爵令嬢が貴方の様子が心配だというお話だったし私も心配だったから」


 私は笑みを作って首を振った。


「私は大丈夫よ」


 そう答えた私にメアリは手を握りしめて唇を開いた。


「そうだわ! リリカ、これは友として忠告するわ。これからお茶会に出席する時は必ず『ギルバート王子』と一緒して、貴方の為に忠告するわ」


「え!?」


 私は目を見開いた。

 メアリは心配そうに私に笑みを見せた。


「リリカ、やはり顔色が悪いわ。ごめんなさいね。私とフェミルナ伯爵と帰るわ。もっと元気になってからまた来るわ」


 カリナ・フォン・フェルミナは驚いたようにメアリを見たものの私の方を見ると私の手を握りしめた。


「そうね、ごめんなさい。また」


 私は彼女の手が触れた瞬間に右手に大きな熱を感じた。

 いえ、何かが心に入り込もうとしたのが分かった。


 瞬間に私は何処からか聞こえてくる悲鳴に目の前が真っ暗になるのを覚えた。

 深い。

 深い。


 意識の中へと私は落ちて行った。

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