この人が何故リリカを?
そもそもリリカ・フォン・ロレーヌとギルバート・キングス・クリスタルの結婚は政略結婚だった。
それは乙女ゲーム『クリスタルキングダム』の一行ップでも説明があった。
もちろん
『家同士の婚約相手でしたがリリカ様をギルバート王子はお手打ちにしたのです』
と本当の一行だったけれど。
それを読んだ時は何の感慨もなかった。
「なるほど、ギルバート王はやっぱりラスボス酷い奴だったんだ」と無意識に感じて終わっていた。
しかし。
しかし。
当の殺される方の人間になって初めて気づいた。
「私、リリカ・フォン・ロレーヌがどうして切り捨て御免にされたのかしら?」
理由が何処にも記されていなかったことが分かった。
理由があって殺されたのなら、それこそ、播磨るりの時に読み漁ったテンプレ系逆転悪役令嬢死エンド回避ストーリーのように回避すればいいのだ。
私はそう考えてギルバート王子に探りを入れることにした。
「私が殺される夢だったんです。その相手が王子だったかもしれない……だから私が王子に執着しすぎてそんなことになったのかもしれないと思ったんです」
ギルバート王子は驚いて私を見つめた。
まさか、今お手打ちエンドを迎える訳じゃないよね? と思って身体が小さく震えているけれど考えれば今か先かの違いなのだ。
ギルバート王子は息を吐き出すと腰に手を当てて唇を開いた。
「そんなあり得ない夢を見るなんて、俺は何度も言っているがリリカ、俺はお前の容姿など気にしていないしお前以外に大切な人を作ったりはしない。だから安心しろ」
……ただし……
「お前が何も言わず消え去ろうとしたら俺は地獄の果てまで追いかけて捕まえる」
強い意志を含んだ目で見られて私は身体が凍り付くのを覚えた。
本気の目。
だけど、だとすればこの一年以内に私がお手打ちエンドを迎えると考えると理由はリリカ・フォン・ロレーヌが何も言わずにギルバート王子の元を去ろうとするか、裏切って他の誰かの元へ行こうとするか、の可能性もある。
今の私にはそう言うのはないわね。
そもそも、私が今分かっているのはゲームに出てきた登場人物のアレクサンダー第二王子とヒロインであるメアリ・フォン・フローレンスとその他の攻略対象たちだけだわ。
しかも、今この時点では誰とも接触していないモノね。
私がウダウダ考えているとフワリと温かい手が私の手に重なった。
「俺を怖がるな。リリカ、お前は俺を救ってくれた女神だ」
甘い韻を含んだ声と優しい瞳。思わずキュンする。
いやいやいや、いま私が王子に攻略されている気分だわ。
つまり、私がギルバート王子を裏切ることなく仲良くなればお手打ち断罪ダブル死エンドは免れる可能性が高いって事ね。
反対に婚約解消ルートは死エンドが高いって事だわ。
私は微笑んでギルバート王子に頷いた。
「ギルバート王子、ありがとうございます。王子の良き婚約者になります」
そう答えた。
途端に周囲から安堵の息が溢れ返り、全員が動き出した。それまで人形のように止まっていた……みたいね。
ギルバート王子もニコリと綺麗に笑むと私の手にキスをした。
「俺もリリカ、お前の良き夫になる」
優しい。穏やかな微笑。
その彼がラスボスになるの?
私の中で疑問が芽生えた。
数日後……その疑問が少し解き明かされる事件が勃発した。
一年以内に死エンドを迎えるリリカ・フォン・ロレーヌの理由が明らかになる事件だった。




