死の回避させてください、マジで本当に
「リリカ……俺に会いたくない? そう言ったのか?」
私は扉を開けた状態で固まったように目を細めるギルバート王子を見た。なんなの、このバッドタイミング。
と言うか、ここで殺されるとか?
「ギルバート王子、その」
私は俯いてどう言い繕うべきか計算した。播磨るりの頃も気まずい場面は多くあった。
大抵は同性の女性同士の時だったけど。
「播磨ね、あー、小倉君が可哀想だよね。家が隣だから仕方なしにでしょ?」
「播磨の家って金持ちじゃん。小倉君のお父さん播磨のお父さんの会社の社員だっていうじゃない?」
「あー、可哀想~~~あのデブの相手しないといけないなんて~」
偶々そこへ出くわせて味わった気まずさ。
本当は父も母も私をそれほど大切にはしてくれてなかった。ほっそりとして可愛らしい妹のまりを可愛がっていた。
小倉君は彼女たちの言う通り優しくしてくれるのは私の父に気を使ってだから、何を言われても仕方なかった。
「ほ、本当に小倉君可哀想だと思ってるわ。私、デブだし」
そう笑って答えるしかなかった。
小倉君にも正直そう言われてたからしょうがない。
「まりちゃんと同じ年だったら良かったんだけどな」
泣きたかったけど、笑うしかなかった。
「だよね」
私は思い出して胸がツキンと傷んだ。
しかし、それよりも今を乗り越えなければ。
ツカツカと近付いてくる怖い表情をしている美丈夫なギルバート王子を前に私は心で悲鳴を上げながら取りあえず口を開いた。
殺されたくない! 殺されたくない!
それには
それには
「婚約解消してください!」
全員が一瞬動きを止めた。
当のギルバート王子も目を見開いたまま立ち尽くしている。
私は顔を伏せたまま目を瞑り、叫んだ後の静寂に恐る恐る顔を上げた。
全員が凝視して時を止めている。
どうやら私はかなりの爆弾宣言をしたみたいである。
だって、ギルバート第一王子の不興を買って殺される一行ップとしては逃げるしか方法が思い浮かばなかった。よくある悪役令嬢もののような容姿端麗と言う訳でもなく『可愛くないぽっちゃり』なのだ。
巻き返し方法が思い浮かばない。
ならば婚約解消だ! となったのである。
「リリカ……本気で言っているのか……」
ドド低いギルバート王子の声が響き、私は頭の中で言い繕う言葉を探した。
まさか異世界転生ワーォと思った瞬間にお手打ちエンドになるなんて最悪だわ。
私は顔を上げてギルバート王子を見つめた。
「私はこんなぽっちゃりで可愛くないです。見目が良くないってことはこの先ギルバート王子が目を奪われる人が現れた時にきっとこの婚約が重荷になると思うんです。だからそうなる前に解消した方が王子の為に良いと思うんです」
もし私が綺麗だったら。
人が羨むような傾国の美女ほどの美しさを持っていたら。
もう少し『好かれようと努力』出来たかもしれない。
播磨るりの時もそうだった。可愛い妹には敵わなかった。誰も彼も私よりは妹だった。
だったら、勝負なんてしなくていい。
ヒッソリ世界の片隅で一人で暮らしたら傷つかないもの。
涙が溢れて止まらなくなった。
ずっと溜めていた思いが溢れて、溢れて、溢れて。
私は泣きながらギルバート王子に告げた。
「だから婚約解消してください」
「嫌だ」
涙の訴えはあっさりとギルバート王子に却下された。