フェルミナ伯爵家のお茶会
フェルミナ伯爵家のお茶会ということで私と母は出向いた。
私も数か月前に出向いたけれどその時は数名の同じ年の令嬢が参加して庭園で料理やデザートが振舞われた賑やかなものだった。
しかし。
私はフェルミナ伯爵家の門を潜って館で出迎えに出ていた母の姉のエレーヌ・フォン・フェルミナの顔を見た瞬間にイヤな予感を脳裏に走らせた。
恐らく。
ううん、予想していたと言った方が良いかもしれない。
髪は結われ身なりは整えられていたが顔色は悪く目が濁っていた。母もそれに気付いたようで心配そうに彼女の手を握りしめた。
「お姉さま」
その瞬間であった。母のブローチが輝き同時に伯母が悲鳴を上げると手を振り払って震える右手を左手で抑えた。白い手袋の右手の中指のところにボコりとした凹凸がある。
まさか。
私がそう思った瞬間に慌ててカリナ・フォン・フェルミナが戸を開けて現れた。
「何をしたの!! 溺れた腹いせにまさか呪いをかけてきたんじゃないでしょうね!」
私も母も驚いて顔を見合わせたが、私は咄嗟にカリナ・フォン・フェルミナの手を見て意を決すると伯母の右手を掴み手袋ごと嵌められていた指輪を掴み無理やり引き抜いた。
「お母さま、伯母さまを連れて戻りましょう」
ちょうど後ろで馬車が止まっている。今なら逃げれる。
母は頷くとぐったりとした伯母を抱きかかえながら馬車に乗り込もうとした。
カリナ・フォン・フェルミナは慌てて私の腕を掴んだ。
「誘拐するつもり!?」
「誘拐!? カリナ・フォン・フェルミナ……貴方のその手の包帯の下は焼けただれているんでしょう? あの日、この指輪と同じ魔呪具をつけていた。そして私を乗っ取ろうとした!」
それに彼女は蒼褪めた。
「な、なにを」
「この指輪を調べてもらうわ! そうすればわかるはずよ!」
瞬間に屋敷から騎士がバラバラと姿を見せた。
まずい。
まずい。
やっぱり、私は魔法学校前に死ぬ運命なのかもしれない。
だけど。
「お母さま、逃げて!! 馬車を早く出して!!」
母はそれに伯母を乗せたまま降り立った。
「何を言ってるの!! アルバ、馬車を出してハリーに知らせて!! お姉さまを無事にハリーに!!」
早く!!
御者のアルバは慌てて馬を走らせて立ち去った。
カリナ・フォン・フェルミナは舌打ちした。やはり私たち三人を罠に嵌めるか、始末するかを考えていたんだわ。
私は母と騎士に囲まれて周囲を見回した。騎士の誰もが剣を抜き一触即発状態だった。
もしかしたら。
一行ップの運命は変わらないかも知れないけれど……二行ップくらいにはなっているかもしれない。
私はそんなことを考えながら対抗する手段を、この場を切り抜ける手段を探していた。
私の死にこの母を道連れにするわけにはいかない。リリカの母は播磨るりの母とは違って大切にしてくれていた。
だから、私も母を大切にしたいと思っている。
心には心が返るのだ。
それにギルバートに死エンドを迎えさせるわけにはいかない。だから、私はここで死ぬわけにはいかない。
「お母さま、私頑張ります」
「リリカ、貴方に言っておくことがあるわ。貴方が貴方の信じるモノのために、それが間違いでないと私が思った時は貴方からどんな不利益を被っても私は受け入れることができるわ。貴方の母ですもの」
私の心は決まった。
私は指を前に出して魔法陣を描いた。
それだけの力が私にあるか、ないか、分からないけれど……いまやらなければ意味がない。
死んでしまっては意味がない。
魔法陣を見てカリナ・フォン・フェルミナが目を見開いた。
「や、やっぱり……魔法が使えないはずなのに……いや、いや……叔母さま」
私は目を見開いた。
「カリナ・フォン・フェルミナ。思っていた通りに貴方は命令されていたのね」
そう言った途端に騎士の一人が剣を振り上げて私たちに切りかかってきた。同時に騎士の一人がカリナ・フォン・フェルミナを斬りつけた。
私は目を見開き振り上げられた剣のきらめきを見つめた。




