魔法の勉強
由々しき事態だった。
大問題だった。
私はギルバートと共に懸命に私の大好きな花壇の道を走った。所謂マラソンだ。
ぽっちゃりではなくかなり太った私の身体を動かすのは体力がいる。
しんどい。
しんどい。
マジでしんど―――い。
これまで運動らしい運動をした記憶がないから仕方ないんだけどね。
ギルバートは帝王教育と母方が騎士家系だったので運動や剣技は高かった。
汗だくになった私を見てギルバートは微笑んで励ましてくれる。
優しい。
本当にどうして『クリスタルキングダム』ではあんな鬼畜王になってしまっていたのか。
私が知っている理由の一つは母親である王妃エリザベートの汚名と処刑。リリカについてはギルバート自身がお手打ちしていたから違うと思うけど他に理由が思い浮かばない。
私は花壇の中にあるお茶を楽しむための空間を私の為に広場にしてくれた場所でゼーハーゼーハーと息を吐き出しながらチラリとギルバートを見た。
私の体力づくりにも魔法の勉強にもギルバートは付き合ってくれている。
ついでに剣の訓練もしてくれるようになった。物理的にもいざという時は身を守れる方が良いという話になったのだ。
スラリとした上に美形のギルバートは手盾を手に向かいあって立った。
こう言っては何だけどキマッている。
私は短刀を手に向かいあった。
最初は怖くてドキドキしたけれど、ギルバートは私より遥かに反応が良かったし実力に雲泥の差があったので安心して練習できた。
「じゃあ、やろうか。リリカ」
「うん、いつもありがとう。ギル」
互いに笑みを交わし合ってから私は短刀を手に踏み込んだ。
その後に魔法の勉強だった。
毎日そのサイクル。
最初の3か月は地獄だった。
どうして魔法を勉強したいなんて言ったんだろ、過去の自分を殴りたいなんて思ったけど3か月経つと不思議なほど身体が軽くなって動くようになった。
同時に魔法にも磨きがかかった。
先生は私が幾つかの魔法陣を知っていたことに驚き、私がゲームで覚えた幾つかの魔法陣は高級魔法者でないと知らないモノだと言っていた。
これもゲームをやり込んだお陰だけどね。
ギルバートの剣の先生はアームストロング家のミュラー・フォン・アームストロングという何処かギルバートに似ている落ち着いた中年の男性だった。今は王家直属の騎士団を退いているけれど当時は騎士団の副団長にまで上り詰めた人物だった。
魔法の先生は何故かハミルトン家のフレデリック・フォン・ハミルトンという男性だった。ハミルトン家もフェミルナ家も魔法系の家系だったそうで不思議なことにエリザベート王妃がフレデリック・フォン・ハミルトンに願い出たという話だった。
そういう経緯から王としてはギルバートの両側に両妃の家系の人間がついているので許可をしたという話である。
私は魔法の授業を受けながらフレデリック・フォン・ハミルトンの人柄には安心感を抱いていた。
メガネをかけて長いはちみつ色の髪を束ねた姿はちょっと頼りない雰囲気であった。しかし、性格は穏やかで勉強を受けていて彼がちゃんと公平な人間であることが分かったのだ。
そして何処か……叔父を思い出した。
「王子は魔法よりは剣技の方が得意みたいですが、リリカさんは魔力がかなり高いですね。ロレーヌ公爵家としては珍しいと思いますよ。なので、私がトコトンお教えしましょう! 才能も使わなければ無能ですからね」
にっこりと言われて私は「はい!」と答えた。
そして、5か月ほど過ぎ去り私もギルも15歳を無事に迎えることが出来た。
そんな魔法学校の入学手前で母のアリアが姉のエレーヌ・フォン・フェルミナからお茶会に誘われたのである。
その話が出たのは花壇の花がポツリポツリと咲き始めた季節の夜であった。
母が父に言っていたのだ。
「これまで全く連絡が取れなかったお姉さまの手紙がフェルミナ伯爵家の侍女からお茶会に来て欲しいって。是非って書いてあったの」
私は思わず食事の手を止めて母を見つめた。




