本当にあった異世界転生
私、播磨るりは愕然としていた。
ベッドの上からヨロリと降り立ち、戸惑いながら声を掛けてくるメイドたちを押し退けて豪華な部屋の一角にある鏡の前に立ち目を見開いた。
澄んだ碧い瞳に金糸の長い髪。肌は白く……肌は白く……。
かーなーり、ぽっちゃりしていた。
「わ、私に似ているけど……顔立ちと目や髪の色が違うわ」
正直に言って太っていること以外は別人。
そう言った私に背後で蒼褪めながらメイドが告げた。
「リリカさま……?」
「え? だれ? リリカって?」
私はキョロキョロして自分を指さしオウム返しに聞いた。
メイドは顔を引きつらせると「おおお」と声を零して叫んだ。
「直ぐに旦那様にお知らせを!! リリカ様がぁ!!」
私はメイドの悲鳴の方に慄きながら鏡に背をつけた。
慌てて部屋に飛び込んでくる医療魔法師と多くのメイドたちに無理やりベッドに押し込められて恐ろしい事実を告げられた。
「貴方様はリリカ・フォン・ロレーヌさまでございます。何も、何も覚えておられないのですか?」
おーいおーい、と泣かれ、私の方が泣きたかった。
播磨るいは私の名前。
ぽっちゃりとしたというには余りにぽっちゃりしすぎて『デブ』と陰口を言われて一度も誰からも愛されたことのない少々可哀想なJKだった。
私はベッドの上で目をパッチリと開けながら心で呟いた。
「確か、気を失う前に車のハイビームで目が眩んだのよね? それってまさか」
私は思わず気付いてしまった現実に声を上げた。
「異世界転生―――――!?」
そう、私は死んでリリカ・フォン・ロレーヌという人物に転生してしまったようである。
リリカ・フォン・ロレーヌ。
私は同時にもう一つの事実に気付いてしまった。
リリカ・フォン・ロレーヌという名前は私が生前していた乙女ゲームの『クリスタルキングダム』に『一度だけ』名前が出てきたロレーヌ公爵の娘。
「確か、ゲームが始まる前に『第一王子に切り捨てごめん』されて死んでいた気がする。第一王子の非道さを訴えるエピソードで出てたわよね?」
私はハッと目を見開くと恐ろしい事実に気付いた。
「待って! 転生に気付いた途端殺されるの―――!?」
思わず叫んで「正気に!!」「おいたわしや、お嬢さま!」と叫ぶメイドたちを押し退けて起き上がると私は今すぐ確かめなければならないことを聞いた。
「私、今何歳!?」
「14歳でございます」
私は思わずギュっと拳を握りしめた。
「14歳……確か第一王子に殺された年齢も14歳。15歳の魔法学校入学前だったわね」
このままじゃ死ぬ。
しかも一年もないじゃん。
マジか、と蒼褪める私にメイドたちはしがみ付いて泣き続けた。
「お嬢さま~」
「お気を確かに」
お気を確かにって場合じゃない。
このままじゃ殺される。しかも、普通の異世界転生のようにエンディングでやられる悪役令嬢ですらない。
始まる前に死んでいて、悪役王子の非道さエピソードの一部にしか参加していていないモブどころか一行ップ(←一行だけモブ)。
あんまり。
あんまりすぎる。
取りあえず第一王子対策を立てるために情報が必要だわ。
私はゼーハーゼーハーと肩で息をしながらメイドに聞いた。
「第一王子……ギルバート王子を知っている?」
メイドは笑みを浮かべると頷いた。
「ギルバート王子のことは覚えておられるのですね! もちろんでございます。もうすぐギルバート王子が来られますよ。リリカさまが噴水で溺れて意識がなかったことをお知らせいたしましたから」
……婚約者であるお嬢さまの大事ですから……
私はそれに悲鳴を上げた。
「いや―――! もっと大事になるじゃない!! 直ぐに私は無事だったので来なくて良いと言って!!」
マジ頼む!
瞬間にバーンと扉が開き険しい表情の第一王子ギルバートが姿を見せた。
私は整った美形王子の険しい表情に全てを悟った。
「あ、始まる前に終わった」
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