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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

冬眠

作者: やすい

最後の木を過ぎると日の当たるところに出た。あたり一面には膝ほどの草が生え、風の通り抜ける様子を示すように穏やかに波打っていた。


「おい、サキ此処に何の用があるんだ?」

一人の少年が聞いた。薄汚れた灰色の服を着ていて、ダボっと袖が余っている。彼の為に用意された大きさには見えなかった。


サキと呼ばれた少女は「ほら丁度パンがなくなってきただろう。この先に川と山が一緒にある。山菜をとるか、釣りでもしよう。」


つばの大きい潰れた帽子をかぶっている。自分よりも少し小さいバックを背負っていて、


腰のベルトには拳銃を備えたホルスターがついていた


彼らの進む先にはまばらに木が生えた麓が見えていた。






川がある麓にたどり着いた。


「春先とはいえ動物がいないのは変じゃないか?」


「そうだね。もしかしたら此処の動物はみんなお寝坊なのかもしれない。」


上を見るとそこの木に実がなっているを見つけた。淡い黄色で下半分に真ん中を通る割れ目がある。


「これはなんだ?小さいモモに見える。」


「それはアプリコット、杏だね。食べれる実だよ」


 少年は木に手を置き爪先立ちで背伸びをしてみせた


「届かねぇぞ」


手こずってる少年を見てサキは木に近寄り両手の間隔を置いて木に手を付け、思いっきり揺らした。そうすると必死にしがみついていた杏達が落ちてきた。


「うん、食えるな」


「味は?」


「普通、甘酸っぱい」


少年は大きなシャツの端を掴み自分の方に折り曲げて落ちた実を拾い集めた。


「僕は川のほうに行ってくる。そこの川には鮭がいるはずだから」


「鮭は冬か秋じゃないか?」


「普通のはね、麓の川には春を告げる鮭が流れるんだ。」








「鮭を探しているのかい?」


二人が話してると突然サキの肩にずっしりと重い手が乗った。


「うわぁ!」


振り返るとそこには自分よりも二まわりほど大きい白い毛の生えた熊がいた。


「ああ、ごめん脅かすつもりはなかったんだ。ただ話がしたくて」


白い熊は両手を背中の方に隠し、地面の方を見た。


「ああ、それならいいんだ。」


「なんのようだ?」


少年が熊の顔を覗き込むように聞いた。


大きな熊は少し黙って考えて、もじもじしながら


「僕の名前はボブ。よろしく」


「よろしくボブ、私はサキ。こっちはダンくん」


「突然話しかけてきて一体なんのようだ?」






「つまりきみは熊の群れの中で冬眠からみんなを起こす当番をしていて」


「これからそこの山に登らないといけないけど一人で登る勇気がねえってことだな?」


「そうなんだよ、あそこの山は「恐ろしの山」と呼ばれていて一人じゃ怖くて」


手の中に埋まっている先端だけの爪で山を指した


「大きな体に合わない、小心者だな、なんかカッコ悪い」


サキが肩に手を置いて首を横に振った。


「それは違うよ、体が大きいからって強いふりを続けなきゃいけないわけじゃない。そして怖がりなのは痛みがわかるからだ。痛みがわかるひとは他人に優しくできるんだ。この場合はクマだけどね」


「そんなもんかよ…」


話を断ち切って急かすように聞いてきた


「ふ、二人とも着いてきてくれる?きっとみんなお腹を空かせているよ。早く起こしてあげないと」


「うん、それでもいいけど僕たちも食い扶持がなくてね、」


「それなら大丈夫!頂上にはりんごの木がたくさんあるんだ。金色でとっても美味しいはずだよ!君たちが言ってた鮭も」


「春をつげる鮭に金色のリンゴか心躍るな」


「うん。それに熊の寝ぼけ姿も見れるんだこんなの滅多にないことだよ」




一行は歩き出した。道がないから川沿いを上流の方へ登る。


ボブが先頭その後ろを二人がくっ付いてった


ポツポツと木が生えていてその間の露出する地面を隠すように草が生えている。


傾斜に生えるつたをはしごにして登ることもあれば、川を跨ぐために大きく足を広げることもあった。


恐ろし山の怖さなんて三人いるとほとんど感じなかった。


道中ボブの話を聞いた。ボブには優しいお母さんとお父さんがいること、ボブの群れはここらへんに何十年も住んでいること、白いクマは自分だけ寒さに強いからみんなの目覚まし役をしていること。


目を細めて頬を持ち上げて笑っていた。特にご飯と友だちの話は大きな体躯を思わせない、爽やかな顔をして笑っていた。


「ついたよ、二人ともお疲れ様。」


「あー疲れた。もう一歩も歩けね」


「日が暮れる前にりんごだけでもとっておこう。どこにあるんだい?」


「ん?りんご?ああそうだった、そうだね、りんごなら向こうのほうにたくさんなっていると思うよ。サキちゃんは行っておいで、僕は疲れたからここでダンくんと待っておくよ」


「いや、ダンも一緒に行くよ、よければボブも、僕一人じゃ迷子になるかもしれないからね」


「いや、うん、僕らは一緒にここで休んでおくよ、無理するのも良くないし僕ならサキちゃんのことも探しに行けるよ」


ボブが肘より下を前に出して早口で説得するように言った。


「俺はどっちでもいいんだけど」


「それなら一緒に行こう僕だって恐ろし山を一人きりなんてごめんだ。」


「いやいや…でも、うん、そっか…もう」


ボブが下を向きながら指先を遊び始めた。


「どうした?ボブ調子悪いのか?」


そう言って覗こうとしたダンの顔が一瞬にして酷く青ざめた。


熊の大きな鋭い爪がダンたるところに出た。あたり一面には膝ほどの草が生え、風の通り抜ける様子を示すように穏やかに波打っていた。


「おい、サキ此処に何の用があるんだ?」

一人の少年が聞いた。薄汚れた灰色の服を着ていて、ダボっと袖が余っている。彼の為に用意された大きさには見えなかった。


サキと呼ばれた少女は「ほら丁度パンがなくなってきただろう。この先に川と山が一緒にある。山菜をとるか、釣りでもしよう。」


つばの大きい潰れた帽子をかぶっている。自分よりも少し小さいバックを背負っていて、


腰のベルトには拳銃を備えたホルスターがついていた


彼らの進む先にはまばらに木が生えた麓が見えていた。






川がある麓にたどり着いた。


「春先とはいえ動物がいないのは変じゃないか?」


「そうだね。もしかしたら此処の動物はみんなお寝坊なのかもしれない。」


上を見るとそこの木に実がなっているを見つけた。淡い黄色で下半分に真ん中を通る割れ目がある。


「これはなんだ?小さいモモに見える。」


「それはアプリコット、杏だね。食べれる実だよ」


 少年は木に手を置き爪先立ちで背伸びをしてみせた


「届かねぇぞ」


手こずってる少年を見てサキは木に近寄り両手の間隔を置いて木に手を付け、思いっきり揺らした。そうすると必死にしがみついていた杏達が落ちてきた。


「うん、食えるな」


「味は?」


「普通、甘酸っぱい」


少年は大きなシャツの端を掴み自分の方に折り曲げて落ちた実を拾い集めた。


「僕は川のほうに行ってくる。そこの川には鮭がいるはずだから」


「鮭は冬か秋じゃないか?」


「普通のはね、麓の川には春を告げる鮭が流れるんだ。」








「鮭を探しているのかい?」


二人が話してると突然サキの肩にずっしりと重い手が乗った。


「うわぁ!」


振り返るとそこには自分よりも二まわりほど大きい白い毛の生えた熊がいた。


「ああ、ごめん脅かすつもりはなかったんだ。ただ話がしたくて」


白い熊は両手を背中の方に隠し、地面の方を見た。


「ああ、それならいいんだ。」


「なんのようだ?」


少年が熊の顔を覗き込むように聞いた。


大きな熊は少し黙って考えて、もじもじしながら


「僕の名前はボブ。よろしく」


「よろしくボブ、私はサキ。こっちはダンくん」


「突然話しかけてきて一体なんのようだ?」






「つまりきみは熊の群れの中で冬眠からみんなを起こす当番をしていて」


「これからそこの山に登らないといけないけど一人で登る勇気がねえってことだな?」


「そうなんだよ、あそこの山は「恐ろしの山」と呼ばれていて一人じゃ怖くて」


手の中に埋まっている先端だけの爪で山を指した


「大きな体に合わない、小心者だな、なんかカッコ悪い」


サキが肩に手を置いて首を横に振った。


「それは違うよ、体が大きいからって強いふりを続けなきゃいけないわけじゃない。そして怖がりなのは痛みがわかるからだ。痛みがわかるひとは他人に優しくできるんだ。この場合はクマだけどね」


「そんなもんかよ…」


話を断ち切って急かすように聞いてきた


「ふ、二人とも着いてきてくれる?きっとみんなお腹を空かせているよ。早く起こしてあげないと」


「うん、それでもいいけど僕たちも食い扶持がなくてね、」


「それなら大丈夫!頂上にはりんごの木がたくさんあるんだ。金色でとっても美味しいはずだよ!君たちが言ってた鮭も」


「春をつげる鮭に金色のリンゴか心躍るな」


「うん。それに熊の寝ぼけ姿も見れるんだこんなの滅多にないことだよ」




一行は歩き出した。道がないから川沿いを上流の方へ登る。


ボブが先頭その後ろを二人がくっ付いてった


ポツポツと木が生えていてその間の露出する地面を隠すように草が生えている。


傾斜に生えるつたをはしごにして登ることもあれば、川を跨ぐために大きく足を広げることもあった。


恐ろし山の怖さなんて三人いるとほとんど感じなかった。


道中ボブの話を聞いた。ボブには優しいお母さんとお父さんがいること、ボブの群れはここらへんに何十年も住んでいること、白いクマは自分だけ寒さに強いからみんなの目覚まし役をしていること。


目を細めて頬を持ち上げて笑っていた。特にご飯と友だちの話は大きな体躯を思わせない、爽やかな顔をして笑っていた。


「ついたよ、二人ともお疲れ様。」


「あー疲れた。もう一歩も歩けね」


「日が暮れる前にりんごだけでもとっておこう。どこにあるんだい?」


「ん?りんご?ああそうだった、そうだね、りんごなら向こうのほうにたくさんなっていると思うよ。サキちゃんは行っておいで、僕は疲れたからここでダンくんと待っておくよ」


「いや、ダンも一緒に行くよ、よければボブも、僕一人じゃ迷子になるかもしれないからね」


「いや、うん、僕らは一緒にここで休んでおくよ、無理するのも良くないし僕ならサキちゃんのことも探しに行けるよ」


ボブが肘より下を前に出して早口で説得するように言った。


「俺はどっちでもいいんだけど」


「それなら一緒に行こう僕だって恐ろし山を一人きりなんてごめんだ。」


「いやいや…でも、うん、そっか…もう」


ボブが下を向きながら指先を遊び始めた。


「どうした?ボブ調子悪いのか?」


そう言って覗こうとしたダンの顔が一瞬にして酷く青ざめた。


熊の大きな鋭い爪がダンの腹を貫いていた。


内臓も二つ突き通しており一つはビクビク振動して、もう一つは紐のようにだらんと垂れていた。熊が腕を下ろすとそれは床にペチャリと落ちる。それと同時に少年は膝を地面につけすぐに頭も落とした。


サキは剥き出しになった爪と牙を見た瞬間ホルスターへ手をかけた。


「ごめんなんて言わないよ。仕方がないんだ…冬眠から覚めた熊はたくさんお腹が減るんだ、木のみや野草じゃ補いきれないほど、」


サキは特に驚くでもなく普通に言い返した。


「君の家族は?」


「全部嘘だ。しゃけも金のリンゴも家族は、初めて冬を越す時に僕が食べてしまった。残酷なやつだとか思わないでくれよ。君たちだって他の血の流れる生物を食べるだろう。僕もそうだ、生きるためには仕方ないんだ」


言い終わったと同時にサキはホルスターから拳銃を抜いた。


ぱぱぱん!と乾いた破裂音が三つ続いた。


熊の額に弾丸が命中し箇所から血が吹き出した。


破裂音と同時に熊がこっちに走ってきた。少女の頭が三つ入るほど口を大きく開け牙を見せつけている。腕を高く持ち上げこっちに振り下ろしていた。


さきは右足を軸に素早く振り向き走り出した。ドタドタと音を立てながら走る熊とサキの距離は縮まらず。ある程度走ると出血がひどくなった熊はどさりと鈍い音を立てて倒れた。


離れたとこに来たらしく、そこにはたくさんの腐敗した死体と骨塚があった。


鼻をつんとさす強烈な黒ずんだ赤色の匂いが漂ってきた。


サキはそこで長い間立ち尽くした。








簡易な二つの墓の前で追悼を終えるとさきは立ち上がった。


そして夜明けと共に降り始めた。

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